第33回放射線利用総合シンポジウム概要(シンポジウム案内)
開催日: 2025年1月24日 開催: Zoom、一部会場(サンエイビル3F会議室)
開会の挨拶 大阪ニュークリアサイエンス協会 会長 水田 仁
テーマ1「関西の放射線関連組織の現状と将来」
1.
ONSAの活動と新たな取組み
(一社)大阪ニュークリアサイエンス協会 専務理事 奥田 修一
大阪ニュークリアサイエンス協会(ONSA)は、放射線利用技術の向上と産業振興を目的として、関西を中心に40年にわたり活動を続けてきた。これまで主に連携してきた放射線利用施設の停止を受けて、2022年度より、多くの大学、研究機関や民間企業など個人や団体の放射線に関連する活動に幅広く貢献するために、新しい取り組みを開始した。この現状と将来について報告する。
2. 放射線治療技術の歴史・進歩と診療放射線技師の役割
(公社)大阪府診療放射線技師会 副会長 佐原 朋広
世間の人々の我々診療放射線技師に対するイメージは、X線胸部撮影ならびにCT撮影など、画像検査に関わるスタッフではないかと思われる。一方、診療放射線技師は、がん治療における3本柱の1つである「放射線治療」にも大きく関わり、照射の精度管理から放射線の品質管理まで、幅広く担っている。
今回、放射線治療技術の歴史・進歩を踏まえ、診療放射線技師が放射線治療の中でどのように関わり貢献しているのかについて講演する。
3.
日本のガンマ線照射受託機関の現状と、コーガアイソトープの特徴および将来展望
株式会社コーガアイソトープ 取締役 廣庭 隆行
日本のガンマ線照射研究は、大学や研究機関等で長年にわたり基礎研究のためのガンマ線照射が行われてきたが、維持管理の問題から利用を停止・縮小する動きがある。将来を支える基礎研究の実施が危ぶまれる一方で、民間の照射施設では、滅菌・改質などを中心とした利用が盛んに実施されている。これらの状況報告と、今後の民間施設を利用した将来展望について解説する。
テーマ2「最前線の研究報告(学生、若手研究者による)」
4.
BNCT臨床の現状と、関連する医学物理学研究について
呼 尚徳1, 2
1:大阪医科薬科大学 関西BNCT共同医療センター講師 2:京都大学複合原子力科学研究所
粒子線腫瘍学研究センター特定助教(クロスアポイントメント)
BNCTの臨床導入には多くの重要な段階があり、医療物理士は、BNCT治療システムが適切に校正され、保守され、最適化されて安全かつ効果的な治療を患者に提供する役割を果たしている。原子炉ベースから加速器ベースのBNCTへの移行は、BNCTが頭頸部がんの保険適用治療となる道を開いた画期的な時点であった。患者数は年々増加しているが、BNCTを標準治療法として進展させるためにはさらなる研究と開発が必要である。 関西BNCT共同医療センターではNeuCure? BNCT system(住友重機械工業)が導入され、2020年6月から再発頭頸部がんに対する BNCT保険診療が開始された。セットアップ及び治療中の負担を軽減するためのコリメータ形状の最適化や線量分布改善のための中性子フィルタなどを利用した研究を行っている。2022年3月には延長コリメータの承認が得られて、現在はすべての頭頸部の患者に使用している。このようなシステムを臨床に導入するには、物理・工学・医学の知識が重要となってくる。
本プレゼンテーションの目的は、医療物理士が臨床施設で果たす役割と、患者のために医学物理学の研究成果を臨床に導入するための手順を紹介する。
5.
1.5T MR-Linacにおける幾何学的歪みの評価
大阪公立大学医学部附属病院中央放射線部 診療放射線技師 柴田 祐希
MR LinacはLinacとMRIが統合された装置であり、MRIは従来画像誘導放射線治療で使用されていたCone Beam CT(CBCT)に比べると、軟部組織のコントラストに優れ、被ばくがないという特徴を持つ。しかしMRI画像は幾何学的な歪みの問題が生じ、放射線治療の画像照合およびコンツールに使用する場合の懸念事項である。 本講演では1.5T MR Linacを使用し、3つの異なる腫瘍部位におけるMRIシステムおよび患者に起因する幾何学的歪みを調査したので報告する。また基本的なMR
Linacを用いた治療についても概説する。
6.
高線量環境に対応する放射線検出器の開発 〜福島第一原発の廃炉作業にむけて〜
大阪大学大学院工学研究科 M1 川谷 晋太郎
福島第一原発(1F)の廃炉作業を円滑に進めるには、炉内の高線量環境での線量率測定が必要で、従来の放射線検出器は正常に動作しない。例えば、1F1号機のペデスタル内部でさえ1Sv/h以上の高線量率場となり、放射線計測は難しくなっている。特に、半導体素子を使った機器は、放射線に弱く、対策が必要となる。大阪大学の研究グループにおいても、いくつかの耐放射線性を有する測定システムの研究開発が進められており、本発表では、耐放射線性を有する放射線検出器を中心に報告する。
テーマ3「「新たな研究開発の動き」
7.
大阪大学における原子力工学分野での教育研究の新たな動き
大阪大学大学院工学研究科 教授 佐藤 文信
大阪大学では、1962年に工学部原子力工学科が設置され、70年近くの年月が経っている。その間、2005年には環境工学専攻と合流し、環境エネルギー工学専攻となりつつも、現在まで原子力分野の教育と研究を続けている。しかしながら、70年前の社会における原子力に対する要望と、現在のそれは大きく変化しており、大学における原子力の教育研究のあり方についても対応が求められているはずである。そのため、大阪大学でも新たな取り組みを進めており、現在、原子力規制人材育成事業や研究者ユニット・大阪大学東京電力福島第一原子力発電所事故調査チーム(1F-2050)などの活動がなされている。本発表では、大阪大学における原子力工学分野でのこれまでの教育研究とこれからの新たな取り組みについて紹介する。
8.
利用が開始された最先端放射光施設NanoTerasu
量子科学技術研究開発機構NanoTerasuセンター 高輝度放射光研究開発部 次長 西森 信行
放射光施設NanoTerasuは国内既存施設の100倍の高輝度軟X線供給を目指し、特にリチウム・炭素・硫黄など軽元素の挙動解明への貢献が期待される。2024年4月からユーザー運転を開始し、8月までに予定通り約1550時間の光供給を稼働率99.5%の高安定度で実施した。高コヒーレント性能を実証するデータが実験ホール装置で得られ始め、今後の本格的な成果が期待される。本講演ではNanoTerasu放射光施設の概要、光性能、利用研究の状況と展望などについて述べる。
9.
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を支えるホウ素薬剤研究の最前線
大阪公立大学研究推進機構BNCT研究センター長 切畑 光統
BNCTではホウ素薬剤の集積するがん細胞が、ホウ素と中性子間の物理反応の反応場となるため、がん細胞選択性(T/N比>3)と同時に、高集積性(ホウ素濃度:20〜30ppm)が2大要件としてホウ素薬剤開発に求められている。本講講演では、ホウ素薬剤に焦点を当てながら、BNCTの原理と歩み、新規薬剤の開発現状の動向と課題、展望等について解説する。
閉会の挨拶 大阪府立大学研究推進機構
第32回放射線利用総合シンポジウム概要(シンポジウム案内)
開催日: 2024年1月22日 開催: Zoom、一部会場(ONSA会議室)
開会の挨拶 大阪ニュークリアサイエンス協会 会長 水田 仁
テーマ1「放射線関連施設における活動の現状と将来展望」
【座長:大垣 英明 京都大学エネルギー理工学研究所 副所長】
10. QST関西光量子科学研究所における高強度レーザー科学研究 (予稿集)
・・・・・・量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 光量子ビーム科学研究部 部長 羽島 良一
量子科学技術研究開発機構(QST)関西光量子科学研究所では、ペタワット級高強度レーザー(J-KAREN-P)を独自に開発し、これを利用した高強度レーザー科学研究を進めている。レーザー電子加速では、エ
ネルギーの揃った電子を再現性良く得ることに成功し、レーザーイオン加速では、次世代の重粒子線が ん治療装置(量子メス)の入射器を開発中である。講演では、これら研究の現状と展望を報告する。
11. ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の現状と課題 (予稿集)
・・・・・・大阪医科薬科大学BNCT共同臨床研究所 所長 小野 公二
ホウ素-10原子核の中性子捕獲反応を用いたホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は細胞選択的照射と高い生
物効果の故に、従来のX線治療では制御困難な悪性腫瘍の治療での効果が期待され開発が進められてきた。 研究炉中性子に替わるBNCT専用の加速器中性子源が世界に先駆けて我が国で開発され、臨床試験を経て 2020年6月から再発/切除不能頭頸部癌の治療に用いられている。講演ではその現状と問題点、今後の展望
を述べる。
テーマ2「最前線の研究報告(学生、若手研究者による)」
【座長:川端祐司 京都大学名誉教授】
12. 廃炉プロセスにおけるロボティクス技術の導入と人材育成の取り組み (予稿集)
・・・・・・大阪公立大学工業高等専門学校 講師 安藤 太一
福島第一原子力発電所の2011年3月11日の事故から12年経過した今も廃炉作業は未だ継続中である。 完了までには30年以上かかると予測されており、燃料デブリの取り出しや廃棄物の処理と処分など、技 術的・社会的課題の解決が必要である。今後持続的な取り組みを行うためには適切な人材育成が不可欠
となってくる。本講演では、廃炉創造ロボコンへの参加を通じた人材育成の現状と、その取り組みが未来 の廃炉プロセスにどのように貢献するか発表する。
13. 医療現場(加速器施設)におけるリアルタイムγ線スペクトル・線量測定装置開発 (予稿集)
・・・・・・大阪大学大学院工学研究科 D2 Voulgaris Nikolaos
我々は、放射線医療従事者の被ばく量を低減するため、γ線のエネルギースペクトルと線量をリアル
タイムで同時表示する計測器の開発を進めている。本計測器はγ線の波高分布を計測し、逐次型ベイズ 推定法を改良したk-α法でエネルギースペクトルに変換、線量換算係数をかけて線量を導出している。こ
れまでγ線エネルギーの上限値を3 MeVとしていたが、BNCTでの使用を目指し、10 MeVまで拡張するこ とを目指している。
14. Microdosimetry - 放射線が人体にもたらす影響の調査とその応用 - (予稿集)
・・・・・・大阪大学大学院工学研究科 D1 藤原 悠
放射線治療や宇宙探査が積極的に行われている現代において、放射線が人体にもたらす影響を調べる ことは非常に重要である。Microdosimetry は、放射線がある物質に蓄積されるエネルギーの分布、線量を 測定するもので、人体への影響を評価する技術として期待されている。本発表では、米国のTexas A&M 大学にて実施した、Microdosimetry の医療応用の研究とその展望について発表する。
15. 放射性同位体を内包したフラーレンの赤外線レーザーによる生成実験 (予稿集)
・・・・・・京都大学複合原子力科学研究所
特定助教 稲垣 誠
炭素原子がサッカーボール状に結合した分子であるフラーレンは、その内部に他の原子を閉じ込める
(内包する)ことができる。本研究では、赤外線レーザーを用い、小さな密閉容器内でフラーレンを生成 する装置の開発を行った。また、開発した装置を用い、放射性の原子を内包したフラーレンの生成を試み
る実験を行った。このようなフラーレンは、放射性の原子を用いた治療や診断への応用が期待される。
テーマ3「「放射線に関する最新の話題」
【座長:児玉 靖司 大阪公立大学 大学院理学研究科】
16. 放射線滅菌、食品照射の現状と将来展望 (予稿集)
・・・・・・大阪公立大学大学院工学研究科
教授 古田 雅一
放射線は、長年にわたり殺菌、食品照射などに用いられ、世界の多くの国で活用されて、重要な産業 になっている。医療用品や医薬品の包材に対する放射線滅菌はすでに普及しており、最近のコロナ禍に
おいても院内の様々なディスポーザブル製品やマスクなどの滅菌に不可欠な技術となっている。一方食 品照射は、日本がその端緒を開いたにもかかわらず、現在は世界の動きから大きく後退している。一方照
射技術には低エネルギー電子線やX線の活用など革新の動きがあり今後の展開が期待される。
17. 中学学習指導要領の改訂に伴う新時代の放射線教育を目指した「みんなのくらしと放射線展」 (予稿集)
・・・・・大阪公立大学大学院工学研究科
准教授
「みんなのくらしと放射線」知識普及実行委員会 専門部会長 秋吉 優史
2021年から全面実施された中学校の新しい学習指導要領では、2年生の電流とその利用の単元で「真空放電と関連付けながら放射線の性質と利用にも触れること」と言う新しい内容が追加されており、全て
の生徒が放射線について学習する極めて大きな転換点を迎えている。「みんなのくらしと放射線展」では 現場の先生方との意見交換会を行うほか、子供達の後ろに居る保護者世代にも訴求できる放射線教育コ
ンテンツを追求している。
18. 放射線の生物影響に関する最も基本的な概念である「直線−しきい値無し(LNT)仮説」の起源につ
いて (予稿集)
・・・・・京都大学 名誉教授 内海
博司
放射線の規制の基準となるのは低線量での健康影響の基礎的な知見であるが、その研究結果が大きな影響を持つ一方で地道な研究が続けられている。その評価の基本となる概念について、根本的な問題提
起がなされており、重大な見直しにつながる可能性がある。
閉会の挨拶 大阪府立大学研究推進機構 放射線研究センター長 古田雅一
第31回放射線利用総合シンポジウム概要(シンポジウム案内)
開催日: 2023年1月16日 開催: Zoom、一部会場(ONSA会議室)
開会の挨拶 大阪ニュークリアサイエンス協会 会長 松村 孝夫
テーマ1「関西の放射線等利用施設の現状と将来展望」
【座長:岩瀬彰宏(いわせあきひろ)若狭湾エネルギー研究センター所長】
19.
ニュースバル放射光施設におけるEUVリソグラフィー技術開発の取組および今後の展開 〜日本の半導体復興に向けて〜 (予稿集)
・・・・・・兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 学長特別補佐 渡邊 健夫
先端半導体微細加工技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)技術は2019年および2020年よりそれぞれ7
nm世代および5 nm世代用のロジックデバイスの量産技術に適用され、2022年には3 nm世代の量産が開始される。IRDS国際半導体ロードマップによると今後もEUVLの進展が要求されている。講演ではニュースバル放射光施設に於けるEUVL開発の技術課題へ取り組み、今後の展開について紹介するとともに、日本の半導体復興に向けた必要な施策について論ずる。
20. 京都大学中赤外自由電子レーザー施設の現状と将来展望 (予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・京都大学エネルギー理工学研究所 副所長 大垣
英明
京都大学中赤外自由電子レーザー装置は、常伝導高周波電子リニアックを用いた共振器型自由電子レーザー装置であり、発振波長3.4〜26 μmで、この型では世界最高のレーザーの引き出し効率を記録している。これまで、共同利用・共同研究拠点活動により海外を含む学内外のユーザーに広く開放しており、光物性から生物・化学に渡る広範囲な共同研究に使用されてきている。講演では本施設の概要と利用研究の紹介と今後について発表を行う。
テーマ2「最先端研究報告(学生、若手研究者による)」
【座長:川端祐司(かわばたゆうじ)京都大学名誉教授】
21. 北陸冬季雷で発生する大気中での電子加速と光核反応(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・大阪大学大学院工学研究科 助教 和田 有希
近年の研究によって、雷雲あるいは雷の放電路に存在する強電場領域において、電子が大気中で高エネルギーまで加速され、制動放射で高エネルギー光子を放出することが知られてきた。特に10 MeVを超える光子が大気中で光核反応を引き起こし、中性子や陽電子を放出することも明らかとなった。 本講演では雷放電や雷雲で生じる高エネルギー現象について、特に北陸地方で発生する冬季雷での観測研究を中心に紹介する。
22. 放射線生体影響の数理モデルによる研究(予稿集)
・・・・・・大阪大学大学院工学研究科 D3 衣川 哲弘
放射線被ばくによる健康リスクの定量的評価は科学的・社会的に重要であり、発表者は数理モデルの観点からの評価が重要と考え、この課題に取り組んでいる。本発表では放射線による「がん発生」と「寿命短縮」を結ぶ数理モデル(寿命モデル)の紹介を通して、数理モデルを用いる本研究手法の特徴を説明する。また、寿命モデルの実験データへの応用例にも触れ、寿命モデルによる解析から得られる結果を紹介する。
23. 低速原子散乱分光法を用いた絶縁性材料の表面構造解析(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・大阪公立大学国際基幹教育機構 講師 譚 ゴオン
従来、電子線やイオンビームなどの荷電粒子線を用いた絶縁体表面解析は、チャージアップ現象(帯電現象)が生じるため実施困難であった。そこで、電気的に中性な原子ビームをプローブとする原子散乱分光法を用いることで、この問題を解決した。現在は、新たな固体表面分析方法として認識されつつある。講演では、絶縁体の酸化コバルト単結晶表面の解析例について述べ、この手法で得られた最表面原子層の原子配列について紹介する。
24. 太陽電池素子技術を応用した1F廃炉用センサの開発(予稿集)
・・・・・・京都大学複合原子力科学研究所 助教 奥野
泰希
近年、脱炭素社会に向けて太陽電池素子の研究開発が行われてきており、シリコン系をはじめ、V?X族およびU?Y族化合物太陽電池の社会実装も進んでいる。本講演では、高品質な太陽電池素子作製技術の特徴や、宇宙応用に関して紹介するとともに、放射線検出器として応用した場合における特性や、東京電力福島第1原子力発電所廃炉応用の可能性について発表する。
テーマ3「新たな研究開発の動き」
【座長:座長:北田孝典(きただたかのり)大阪大学大学院工学研究科教授】
25. もんじゅサイトの新試験研究炉 〜現状と福井大学の役割〜(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・福井大学附属国際原子力工学研究所 所長 宇埜
正美
「もんじゅ」の廃炉をうけて建設が決まったもんじゅサイトの新試験研究炉については、令和2年度より日本原子力研究開発機構、京都大学、福井大学が文科省の受託事業「もんじゅサイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計及び運営の在り方検討」を行っている。この事業の現状を紹介し、そこにおける福井大の役割と今後の計画について報告する。
26. 医療におけるRIの利用と製造供給 ー大阪大学のアルファ線核医学治療法開発を中心にー(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・大阪青山大学 学長 篠原
厚
医療分野において特に最近活発に利用が進んでいるRI利用を概観する。次に具体例として、大阪大学放射線科学基盤機構で進めているアルファ線核医学治療法開発の進捗状況、RI製造法開発、短寿命RI供給プラットフォームなどを中心に紹介する。最後に、原子力委員会から出された関連するアクションプランなども踏まえ、我が国のRI製造供給の現状と課題を考える。
27. 三菱重工の革新軽水炉・将来炉に向けた取り組み(予稿集)
・・・・・三菱重工業株式会社原子力セグメント原子力技術部 次長 西谷
順一
原子力は、カーボンフリーかつ大規模・安定電源として、エネルギーセキュリティーや技術自給率の観点からも非常に重要なベースロード電源であると考えており、将来にわたって原子力の活用は必須であると考えている。今回の講演では、弊社がその認識の下、短期から中・長期に至るまでの開発計画を策定し、取り組みを進めている革新軽水炉・将来炉(小型軽水炉・高温ガス炉・高速炉・マイクロ炉)の開発状況につき紹介する。
閉会の挨拶 大阪府立大学研究推進機構 放射線研究センター長 古田
雅一
28. 今後のONSAの活動について(資料)
第30回放射線利用総合シンポジウム概要(シンポジウム案内)
開催日 2022年1月17日 Zoom開催
開会の挨拶 大阪ニュークリアサイエンス協会 会長 松村 孝夫
【座長:北田 孝典(きただ たかのり) 阪大院工環境エネルギー工学専攻教授】
29. 阪大産研量子ビーム科学研究施設の研究活動紹介
(大阪大学産業科学研究所 量子ビーム科学研究施設)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・大阪大学産業科学研究所 施設長 教授 細貝 知直
阪大産研量子ビーム研究施設はLバンド電子ライナック、テラヘルツ自由電子レーザー、SバンドRF電子銃ライナック、Sバンド150MeV電子ライナック、コバルト60ガンマ線照射装置を有している。これらは大学内に加え海外を含む学外の多数の研究者にも利用されている。講演では、施設におけるこれら装置利用状況とその研究活動、近年JST未来社会創造事業のもとで推進している新奇加速器開発「レーザー加速研究」について紹介する。
30. 阪大核物理研究センターの現状と将来(大阪大学 核物理研究センター)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・大阪大学核物理研究センター 教授 福田
光宏
核物理研究センターは1971年に全国共同利用センターとして発足し,当初より外部委員が半数以上を占める運営委員会や研究計画検討専門委員会を組織して開かれた運営や研究計画・将来計画の策定が行われてきた。1976年からAVFサイクロトロンの共同利用が始まり,1991年にはリングサイクロトロンが完成して超精密原子核物理実験や学際的な利用が行われている。2018年には国際共同利用・共同研究拠点に認定された。
【座長:宇埜 正美(うの まさよし) 福井大附属国際原子力工学研究所所長】
31. 近畿大学1ワット原子炉の現状と将来展望(近畿大学 原子力研究所)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・近畿大学原子力研究所 所長 山西 弘城
今年の11月11日で臨界60周年を迎える。学生・院生が原子炉実習を行える原子炉施設は、京都大学KUCAとこの近大炉のみであるので、我が国の原子力人材育成の一翼を担っている。研究利用は、1988年から大阪大学工学部を窓口とした「原子炉利用共同研究」で毎年約20の研究課題が進められてきたが、大阪大学の都合で今年度で終了とされる。次年度から文部科学省の「共同利用・共同研究拠点」に認定されるように申請予定である。
32. 京大複合原子力科学研究所の近況(京都大学 複合原子力科学研究所)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・京都大学複合原子力科学研究所 所長 中島 健
京大複合原子力科学研究所は、原子炉実験所として1963年に設置されて以来、全国共同利用研究所として研究用原子炉KURを中心とする実験施設を全国の共同研究者に提供してきた。しかし、近年の原子力規制の強化や施設の高経年化への対応等により、原子力施設の維持管理が難しい状況になりつつある。本講演では、当研究所の近況を述べるとともに、今後の当研究所の在り方について、その検討状況を報告する。
【座長:大垣 英明(おおがき ひであき) 京大エネルギー理工学研究所副所長】
33. 京都大学工学研究科加速器施設の紹介
(京都大学大学院工学研究科
附属量子理工学教育研究センター(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・京都大学大学院工学研究科 准教授 土田 秀次
本加速器施設は京都大学宇治キャンパスにあり、半世紀にわたり共同利用施設として教育研究に活用されている。イオンや電子を光の速さの1/10から1/100程度まで加速できる加速器が複数台あり、加速器からのビームを用いて、原子、分子、液体、固体物質に照射した際に生じるミクロな反応を調べる研究を行っている。講演では、施設の紹介、共同利用の現状、及び生命・物質科学に関する最近の研究成果を紹介する。
<休憩>
34. 大阪府立大学研究推進機構放射線研究センターの活動状況
(大阪府立大学研究推進機構 放射線研究センター(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・大阪府立大学研究推進機構 センター長 古田
雅一
当センターは、大学の保有する教育施設であるとともに、学内外の共同研究、民間企業の研究利用に広く利用されている。当センターの前身は半世紀前に設立された大阪府立放射線中央研究所で、西日本最大クラスの密封放射線施設、非密封放射線施設、各種の放射線分析装置、加速器を引き継ぐとともに大阪府立大学に統合された後に設立された先端科学研究所に設置された日本有数の規模を誇るクリーンルーム施設も管理運営している。これらの設備の研究、教育における利用の状況と成果について発表する。
35. 若狭湾エネルギー研究センターにおける高エネルギービーム利用研究
(若狭湾エネルギー研究センター)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・・(公財)若狭湾エネルギー研究センター 所長 岩瀬彰宏
若狭湾エネルギー研究センターでは、3台のイオン加速器(シンクロトロン、タンデム加速器、イオン注入器)を用いて、陽子線がん治療、イオンビーム育種、イオンビーム材料分析・改質、宇宙機器や原子力材料の放射線耐性などの研究・開発を行っている。また、原子炉廃炉技術の一環として、高強度レーザーによる材料切断や表面除染の研究を行っている。本講演では、これら、高エネルギービームを利活用した研究開発を紹介する。
【座長:渡邊 健夫(わたなべ たけお) 兵庫県立大高度産業科学技術研究所所長】
36. SPring-8とSACLA(SPring-8大型放射光施設)(予稿集) <講演スライド(Down loadに時間が掛ります)>
・・・・・(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター センター長 石川 哲也
大型放射光施設SPring-8とX線自由電子レーザー施設SACLAは、ともに電子加速器を用いて強力なX線を発生し、それを利用する施設である。短波長の電磁波であるX線を使うと、波長と同程度のナノメートル以下の空間分解能での撮像が可能であり、物質の原子レベルでの構造決定に用いられてきた。非常に強力なX線を使うことによって、ナノの世界の形や動きを明らかにすることが可能で、グリーンイノベーションを牽引するツールとして期待されている。
閉会の挨拶 大阪府立大学研究推進機構 放射線研究センター長 古田
雅一
第29回放射線利用総合シンポジウム概要(シンポジウム案内)
開催日 2021年1月18日 於
大阪大学中之島センター
1. 同位体化学を応用した地球・惑星科学の研究(会員ページ )
大阪大学名誉教授 松田 准一
太陽系の中では、元素の同位体比は特別の理由がない限り一様である。これは、隕石や月の石、地球の石等の元素の同位体比測定からわかったことで、太陽系は昔高温のガス状態であったからとされている。ところが、この一様な同位体比から外れるものがあり、その原因を探ることから太陽系や地球の歴史を調べることができる。このような元素の同位体による宇宙惑星科学研究(大気や海洋の起源、太陽系形成以前の歴史等)を紹介する。
2. 炭素14年代測定によって明らかになった縄文・弥生時代の歴史(会員ページ )
国立歴史民俗博物館研究部 教授 藤尾
慎一郎
昭和世代の私たちが習った縄文・弥生時代の開始年代は、それぞれ紀元前1万年、紀元前3世紀であった。しかし21世紀に入って行われた炭素14年代測定によって、それぞれ紀元前1万4千年、紀元前10世紀には始まっていたことが明らかになった。
なぜ年代はさかのぼったのか、年代がさかのぼると縄文時代や弥生時代のイメージはどのように変わるのだろうか。最新科学が明らかにした日本の先史時代について講演する。
3. 世界初の加速器を用いたBNCT治療システムの実現(会員ページ )
京都大学複合原子力科学研究所 粒子線腫瘍学研究センター 准教授 田中
浩基
加速器を用いたホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用の治療システムは臨床試験を経て、医療機器の製造販売の承認を得た。これにより、医療機関において切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌を適応とした、世界初となるBNCTの保険診療が可能となった。将来は更により多くの疾患に対して適応されることが期待されている。本講演ではBNCTの原理、現状について述べる。
4. [ONSA賞授賞記念講演]
放射線損傷ヌクレオシドであるジヒドロチミジンを指標とした新規照射食品検知法の開発(会員ページ )
(地独)大阪府健康安全基盤研究所 主幹研究員 福井
直樹
食品の放射線照射(照射)は、その保存性を高める手法として有用である。食品の照射を適切に管理するためには、照射履歴の検知法が必須である。既存の各検知法における適用可能な食品は限局的である。我々は、食品に普遍的に含まれるDNAが照射された際に生成する放射線損傷ヌクレオシドであるジヒドロチミジンを指標とすることにより、多様な食品に適用可能な検知法を新たに開発したので、本講演で紹介する。
5. ONSAの放射線利用知識啓発活動を通して、見えてきた放射線教育の課題(会員ページ )
(一社)大阪ニュークリアサイエンス協会 参与 大嶋 隆一郎
演者はONSAの様々な研究会事業に、大阪府立大学在職中の1997年から関わってきた。今回のシンポジウムでは大学での教育や「みんなのくらしと放射線展」と併せて、ほぼ25年間にわたってONSAが主催してきた放射線科学研究会、UV/EB研究会、放射線利用総合シンポジウムなどを通して、明らかになってきた広い意味での放射線や原子力に関する知識啓発の課題について議論する。
6. 原子力用炭素材料(会員ページ )
東洋炭素株式会社生産本部 原子力室 室長 山地 雅俊
元素記号C、原子番号6。自然界に広く分布し紀元前の昔から利用されてきた、あらゆるものを構成する基本元素「炭素」。この「炭素」が原子炉の炉内部品として使われているのをご存じだろうか。
本講演では炭素材料、中でも「炭素」の同素体の一つである「黒鉛」の一般的な特徴、製造方法、用途の説明と、その「黒鉛」が使われている原子炉(高温ガス炉・核融合炉)の説明および採用理由等について紹介する。
7.新たな観点でのトリチウム分離方法の開発 および近畿大学原子炉の近況(会員ページ )
近畿大学原子力研究所所長 教授 山西
弘城
福島第1原発で発生する汚染水はALPS等の装置で放射性核種除去を行う。しかし、水素同位体のトリチウムだけは除去できず残存する。この汚染処理水の処理処分は大きな課題である。トリチウムの除去や濃縮の従来方法は電気分解や蒸留などであった。新たな方法として粒状のシリカや活性炭など多孔質の吸着材を用いた方法を検討している。それは、多孔質体細孔の内表面に吸着したHTOとH2Oの吸着/脱離エネルギー差を利用したものである。近畿大学原子炉の近況についても述べる。
8.原子力の役割に関する国際的議論の動向(会員ページ )
(一財)日本エネルギー経済研究所 主任研究員
木村 謙仁
近年、様々な要因から原子力事業への投資が困難な状況が続いているが、その一方で国際的な舞台では、低炭素化やエネルギーシステム全体への貢献といった観点から原子力の役割を再評価する動きもみられるようになってきている。そこで、本講演ではIEAによるレポートを中心に、そういった国際的議論の概要や、それに関連する諸外国の動向を解説する。
第28回放射線利用総合シンポジウム概要(開催報告)(シンポジウム案内) (資料集表紙) (企画委員会名簿)
開催日 2020年1月20日 於 大阪大学中之島センター
1.夏季の放射性セシウム再飛散−バイオエアロゾルの役割(会員ページ )
京都大学複合原子力科学研究所 教授 五十嵐康人
福島第一原発事故による放射性物質の大気環境影響評価のため、同県内の汚染地域で放射性Csの大気中濃度を観測してきた。その結果、事故後一定期間を経て大気中濃度の低下は緩やかとなり、季節変動を呈する濃度変化が観測されるようになった。汚染した地表面から何らかのエアロゾルが発生し、担われた放射性Csが大気へ再浮遊していると考えられる。その正体究明の結果、従来想定されなかったバイオエアロゾルが、夏季に大量に浮遊しCsを運んでいることがわかってきた。
2. 放射線DNA修復学と低線量放射線影響(会員ページ )
京都大学大学院生命科学研究科 特任教授 小松賢志
近年の放射線関連遺伝子のクローニングは、放射線生物学に飛躍的な発展をもたらした。この結果、放射線のターゲットはDNA二重鎖切断であり、その修復には誤りの少ない相同組換え修復と誤りの多い非相同末端再結合の二種類があることがわかった。しかも両者の比率が細胞や照射条件で変化することが、放射線生物効果を一層複雑にしているように見える。講演では、DNA修復学の立場から低線量放射線影響について考えてみる。
3.[ONSA賞受賞記念講演]
新規材料開発への放射線利用の開拓推進
-金属材料改質合成と高速陽電子装置開発-(授賞公開論文)
大阪府立大学大学院工学研究科 准教授 堀
史説
放射線と材料科学の関係は、以前はX線や電子顕微鏡などの評価法利用と原子力や宇宙環境等での照射劣化に関連するものが大半であった。近年、物質と放射線の相互作用を積極的に利用して、材料への特性制御や機能性付与、液体中での放射線還元による新機能材料も作成されるようになってきた。また評価法でも高速陽電子など新しい放射線利用形態を進めている。これら材料科学への放射線の新展開について紹介する。
4.「一家に1枚周期表」に込めた思い(会員ページ )
豊田理化学研究所 所長 玉尾皓平
人類の知の集積・至宝、そして科学者たちの知の源泉としての周期表。元素の発見・単離に取り組んできた科学者たち、そして元素の性質を解明し、少量であっても「未来物質」を創って人類社会に貢献してきた科学者・技術者たちへの尊敬・感謝の念をもつと共に、地球上の有限な元素資源の活用は科学技術で解決すべきことなどを伝えたい。
5.スーパーカミオカンデによるニュートリノ研究の最前線(会員ページ )
東京大学宇宙線研究所 教授 中畑雅行
岐阜県神岡鉱山に建設されたスーパーカミオカンデ(SK)は、大気中で宇宙線が作るニュートリノや太陽でうまれるニュートリノを使ってニュートリノが質量を持つことを発見した。その後も加速器ニュートリノを使った研究も進めており、また、超新星爆発からのニュートリノ観測も目指している。SKによるニュートリノ研究の最前線を紹介する。
6.宇宙用太陽電池の放射線劣化予測と照射試験の重要性(会員ページ )
宇宙航空研究開発機構研究開発部門 研究領域主幹 今泉
充
太陽電池を宇宙機に適用する場合、電源システムの設計上、そのミッション期間中に曝される放射線による出力劣化を予測することが必要である。このためには、放射線環境予測および太陽電池の耐放射線性確認試験が必要となる。本講演では、これらの実例および実際の劣化予測法について概説するほか、最新の宇宙用太陽電池および最近の動向に関する情報を交えて紹介する。
7.産業用X線CTのしくみと検査・測定,定量化の現状(会員ページ )
東芝ITコントロールシステム株式会社 シニアエキスパート 富澤雅美
X線CTは、病院では診断に、産業用では壊さずに内部を検査する非破壊検査に主に利用されている。検査対象各部のX線の透過しにくさを表す線減弱係数を画素値とする立体画像から、形状、および、元素組成・密度に関する情報を得られる。近年CT像の画質と精度の向上に伴い、産業用では「検査用」に加えて「計測用」としての利用が増えつつある。本講演では、産業用X線CTのしくみと検査・測定できること、定量化の現状を紹介したい。
8.放射線・原子力関連大学の現状とこれから(会員ページ )
大阪府立大学研究推進機構 教授 松浦寛人
放射線・原子力は21世紀の社会を支える基盤技術としての役割を期待されており、大学にはその為の正しい知識と安全取り扱い技術を習得した人材の教育が求められる。しかしながら、その教育に必要な放射線施設の維持管理は、大学法人化以降の評価政策では十分に評価されていない。講演では、大阪府立大学等の放射線施設の現状と、これからの施設の維持と活用を目指した大学間の連携事業の概要について紹介する。
第27回放射線利用総合シンポジウム概要(聴講記 ) (シンポジウム案内) (資料集表紙) (企画委員会名簿)
開催日 平成31年1月21日 於 大阪大学中之島センター
1.がん死ゼロ健康長寿社会実現に向けて 〜量研の戦略〜(会員ページ )
量子科学技術研究開発機構 理事長 平野俊夫
量子科学技術研究開発機構(量研/QST)では、次世代重粒子線治療装置である小型で高性能な「量子メス」の研究開発と臨床研究を進めており、標的アイソトープ治療などと組み合わせることによって、働きながらのがん治療が可能で、かつ安価ながん治療を世界中の人々に提供する「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現を目指した研究開発を行っている。
本講演では、量研の「がん死ゼロ健康長寿社会」実現に向けた取組について紹介する。
2.[ONSA賞受賞講演] 新しいガンマ線ビームを使った光核反応計測と核変換(授賞公開論文)
兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 教授 宮本修治
相対論的電子と磁場により高輝度なX線を発生する放射光施設は、世界中で広範囲な応用に使われている。この放射光施設を使った、高輝度なガンマ線ビーム光源の利用が広がっている。このガンマ線は、波長は原子の1/1000以下で、偏光とエネルギーを自由に制御ができるため、光核反応の精密なデータ取得に使われる。このガンマ線を使った、核変換応用や、発生する中性子・陽電子を用いた利用について紹介する。
3.素粒子ミュオンの原子力利用 (会員ページ )
高エネルギー加速器研究機構 名誉教授 ダイヤモンドフェロー 永嶺謙忠
広い応用・実用科学研究分野を持つ素粒子ミュオンは、低い強度でGeVのエネルギーで宇宙線として、高い強度でMeVのエネルギーで高エネルギー加速器を用いて得ることが出来る。原子力利用として、1)宇宙線ミュオンによる原子炉の透過像観測、2)大強度加速器ミュオンによる元素変換と放射性廃棄物の除去、3)大強度加速器ミュオンが触媒する核融合とエネルギー生産、等が可能になる。原理・可能性追求等を説明したい。
4. エネルギー社会の変革と高速炉サイクルの実力(会員ページ )
日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門 副部門長 上出英樹
再生可能エネルギーの利用が進む中で、先行する海外事例から原子力発電を含む安定な電力システムとの連携の有効性が示されている。そのような背景の下で軽水炉利用の持続可能性を考えるとき、ウラン資源の有効利用や環境負荷低減の可能性を有する高速炉サイクルの位置付けやその利用の意味を改めて確認する。さらに、これまで我が国が開発を進めてきたナトリウム冷却高速炉の技術の現状を世界の情勢を含めて紹介する。
5.原子力システム安全を理解するための教育と研究の取り組み(会員ページ )
長岡技術科学大学大学院 原子力システム安全工学専攻 特任教授 名誉教授 鈴木雅秀
長岡技術科学大学では、平成24年4月に大学院工学系研究科修士課程として原子力システム安全工学専攻を開設し、原子力・放射線に関連した研究・教育に取り組んでいる。平成28年度からは「システム安全と地域連携新潟モデルに基づく原子力規制人材育成」事業に取り組み、原子力発電プラントの規制体系の技術者の視点からの実践的理解,および安全性向上を行う技術力を有する実践的技術者を育成するカリキュラムの開発を行っている。ここでは、これらの研究・教育について紹介する。
6.ヨウ素同位体システムの話 -福島第一原子力発電所事故からメタンハイドレートまで (会員ページ )
東京大学 総合科学博物館 タンデム加速器研究施設 教授 松崎浩之
長半減期同位体ヨウ素129(半減期1570万年)を利用した二つの研究を紹介する。一つは,福島第一原子力発電所から漏洩した放射性ヨウ素131の拡散・沈着分布のヨウ素129の測定による再構築,もう一つは,ヨウ素129/127比を利用したメタンハイドレートの年代測定の試みである。また,これら全く異なる二つの研究を可能とする共通の測定技術である加速器質量分析についても合わせて紹介する。
7.放射性同位元素を用いたトレーサー拡散の物理(会員ページ )
若狭湾エネルギー研究センター 所長 中嶋英雄
固体結晶中の原子の動きー拡散―を知ることは、材料を作製したり物性を理解する上で極めて重要である。最近では、拡散測定にさまざまな元素分析機器が利用できるが、放射性同位元素をトレーサーに用いた測定法が最も優れている。ppbオーダーの微量分析、自己拡散(例、Cu中のCu原子の拡散)の測定、同位体効果(例、Cu中の64Cuおよび67Cu)の測定などの無二の利点を有する。拡散の知見がもたらす学術的、工業的意義についても解説する。
第26回放射線利用総合シンポジウム概要(聴講記) (シンポジウム案内) (企画委員会名簿)
開催日 平成30年1月22日 於 大阪大学中之島センター
1.[ONSA奨励賞(基礎研究部門)受賞講演]
粒子線照射が誘起する固相重合反応を活用した機能性ナノワイヤの開拓と粒子線の飛跡検出
― 1個の粒子が引き起こす化学反応 ― (授賞公開論文)
京都大学 大学院工学研究科 助教 櫻井庸明
加速器で加速された高エネルギー荷電粒子を有機材料薄膜に垂直照射すると、荷電粒子は薄膜表面から侵入し支持基板まで到達する。
この飛跡に沿ってエネルギーが材料に付与され、重合や架橋を主とした化学反応が引き起こされる。材料薄膜のうち粒子の未照射部位のみを有機溶媒に溶出あるいは昇華させることで、反応後の重合物のみをナノワイヤとして得ることが可能である。
このナノワイヤの性質や機能について最近の試みを紹介する。
2.[ONSA賞(応用研究・開発部門)受賞講演]
イオンビーム照射レジストの除去技術の確立とレジスト材料の開発
― 放射光を利用した感光性樹脂(レジスト)の開発 ― (授賞公開論文)
大阪市立大学 大学院工学研究科 教授 堀邊英夫
半導体、液晶デバイスの高密度化は著しい速度で進んでおり、より微細なパターンを短時間で加工するには、高解像度・高感度の感光性樹脂(レジスト)の開発が重要である。
具体的には、EUV用3成分レジストの開発について報告する。
また、デバイス製造ではレジスト除去工程に有害な薬液が使われており、これを、酸化力の強いオゾンや還元力の強い水素ラジカルを用いることにより、環境にやさしい安全で安心なレジスト除去プロセスを開発しており、このことについて報告する。
3.日本の電力事情 ―再稼働原発の安全性と安定したエネルギー源を考える― (会員ページ )
(株)原子力安全システム研究所 顧問 岸田哲二
地下資源がなく全て輸入に依っている日本人が、世界のトップレベルの生活を享受できるのは物やサービスを生産する高度な産業を維持しているからである。それを支えるに必要不可欠な要素の一つは電力である。現時点のことは云うに及ばず将来にわたり安定した電力を確保することが極めて重要である。
本講演では最近の電力事情と問題点を整理するとともに、解決策の一つが原発利用の促進であり、そのための前提となる安全性が飛躍的に向上している現状について述べる。
4. 未来のエネルギー源 核融合炉研究開発の現状と将来展望(会員ページ )
自然科学研究機構 核融合科学研究所 副所長・教授 室賀健夫
核融合炉は、核分裂炉とは異なり、軽い原子核同士の融合反応によって生じるエネルギーを用いるシステムであり、原理的に核暴走が無く、高レベル廃棄物を生じない、という安全上の優れた特徴を有する。
本講演では、重水素(D)と三重水素(トリチウム、T)反応を利用した磁場閉じ込め核融合炉に関して、高温プラズマの閉じ込め研究、及び耐照射性材料開発など炉開発に必要な工学研究、について現状と将来展望を報告する。
5.教科書の原子力・放射線等関連記述に関する原子力学会の調査と提言(会員ページ )
九州大学 名誉教授 工藤和彦
原子力学会では平成8年から中学校・高等学校の理科、社会科の教科書におけるエネルギー・環境・原子力・放射線に関連した記述を調査し、誤った記述や誤解を与えると思われる記述などの抽出を行い、調査結果とともに改善に係る提言書(これまでに10冊)を作成し、文部科学省、教育界・学会、教科書会社等に提出してきた。
文科省は平成20年に中学校、同21年に高等学校の新学習指導要領を公表し、現在これに基づいた検定済みの教科書が全国の中・高校で使用されている。これらの中学校の社会(歴史的分野、公民的分野)、理科、保健体育、技術・家庭、および高等学校の地理歴史科、公民科、理科(科学と人間生活、物理、化学、生物、地学)の教科書について、上記に関連した調査をおこなった結果を報告する。
6.7万枚の縞を数える ― もっとも正確な地質学の時計 ― (詳細ページ・水月湖年縞 ) (会員ページ )
立命館大学 古気候学研究センター センター長・教授 中川 毅
地質学は、通常の時計では測ることのできない長大な時間を対象にしている。何万年もの時間を正確に測るには、いったいどうすればいいのだろう。長さのメートル、重さのキログラムなど、人間が測定するすべての量には定義が存在する。そして精密なノギスが近代工業に不可欠であるように、地質学の時間も精密な定義を必要としている。
過去5万年の時間の正確な定義を追い求めた、20年におよぶ研究プロジェクトの歴史を振り返る。
7.ビッグバン宇宙創生のインフレーション理論 ― 観測的実証への期待 ―(会員ページ )
(独)日本学術振興会 学術システム研究センター 所長 佐藤勝彦
この疑問は私たち人類の歴史が始まったころからの問いかけである。世界のいろんな民族が創世神話をもっているように、かつてこれに答えるのは宗教であった。20世紀となって天文学的に私たちの宇宙は今、風船が膨らむように膨張していることが発見された。
これは時間を遡れば宇宙には始まりがあったことを示している。
アインシュタインの相対性理論を始めとする物理学の進歩によって、宇宙は「無」の状態から生まれインフレーションと呼ばれる急激な膨張の後、火の玉宇宙(ビッグバン)として宇宙は生まれた(ビッグバン)と考えられている。
近年数多くの人工衛星の観測や巨大望遠鏡の観測によって宇宙創生の理論が裏付けられつつある。ここでは宇宙論の研究の歴史を振り返りながら、インフレーション理論や最新の観測成果、また新たな重力波を用いた観測計画など紹介する。
第25回放射線利用総合シンポジウム概要(聴講記) (シンポジウム案内) (企画委員会名簿)
開催日 平成29年1月23日 於 大阪大学中之島センター
1.[ONSA奨励賞受賞講演]
放射化学アッセイ法を利用したチャバネアオカメムシにおける
光周性の神経内分泌機構に関する研究(授賞公開論文)
京都大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 研究員 松本圭司
チャバネアオカメムシのメス成虫は明瞭な光周性を示し、短日条件により卵巣発達を抑制し冬を越す。光周性の神経内分泌機構を解明するため、卵巣発達に必要な幼若ホルモン(JH)合成の調節機構に着目して研究をおこなってきた。JH合成器官を3H-メチオニン存在下で培養し、分泌されたJHに含まれる3H量を測定することでJH合成量を測定できる。本講演では、この放射化学アッセイ法を基軸とした研究成果について紹介する。
2.放射線の生体影響〜福島から何を学ぶ〜(会員ページ )
ルイ・パストゥール医学研究センター 基礎研究部 室長 宇野賀津子
東日本大震災以降6年近い月日が経過した。演者は2011年秋から日本学術振興会の産学協力研究事業に係わる説明会チームの一員として福島入りして以来、日赤、県や地域の学習会の講師を務め、また学振の「放射線の影響とクライシスコミュニケーション」の分科会主査を務めた。その中で感じた科学者の役割、クライシスコミュニケーションのあり方、事故後3年以上たって見えてきた原発事故の被害の実態、について報告する。
3.宇宙における長期滞在と放射線の防護(会員ページ )
宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部門
有人宇宙技術センター 技術領域主幹 永松愛子
宇宙放射線による人体深部への被ばく線量被ばくは、ISSの滞在日数を制約するのと同様に、有人惑星探査ミッション期間を定義するものになる。地磁気圏外を飛行する有人惑星探査ミッションでは、ISSよりもはるかに過酷な放射線環境であり、「宇宙放射線による被ばく」が最も大きなリスクおよびハザードのひとつとなる。
2030年以降の月面および火星表面を想定した将来有人探査の安全な実現に向け、宇宙放射線に対する遮蔽・防護技術の取組について紹介する。
4.[ONSA賞受賞講演]
放射光を利用したレジストの開発に関する研究(授賞公開論文)
兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 教授 渡邊健夫
2020年には10 nm幅半導体配線パタン形成が要求されている。半導体用リソグラフィ技術では、形成する線幅と同等程度の露光波長が必要であり、13.5 nmの極端紫外光を用いた極端紫外線リソグラフィ(EUVL)技術が最も期待されている。このため、我々はニュースバル放射光施設を用いてEUVL技術開発を進めており、この開発の状況と課題について報告する。
5.電子顕微鏡の照射効果研究への応用(会員ページ )
大阪大学名誉教授、大阪大学超高圧電子顕微鏡センター 特任教授 森 博太郎
はじめに、透過電子顕微鏡(TEM)法の最近の発展に触れる。次に、超高圧電子顕微鏡を含むTEMによる電子照射効果の研究例を紹介する。MeV電子照射下で引き起こされるCrFe系σ相のbcc相への変態や、keV電子照射下で誘起されるPt/SiOx界面におけるPt2Si化合物の形成(電子励起による固相反応)について議論する。
6.東電福島事故の発生要因と二度と重大事故を起こさないために(会員ページ )
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 特別顧問 齋藤伸三
2011年3月に発生した東電福島第一原子力発電所事故は、想定外の津波によりタービン建屋内に設置していた非常用発電設備が冠水使用不能となり崩壊熱を除去できなくなったことが根本的原因であるが、同事故の主な発生要因と二度とこのような重大事故を起こさないために何が必要か、どのような対策が取られているかを述べる。
7.ニホニウム発見
─森田浩介らはいかにして113番元素の命名権を獲得したか(会員ページ )
仁科記念財団 常務理事 矢野安重
このたび森田浩介氏(九州大学教授、理化学研究所仁科加速器研究センター・グループディレクター)の率いる研究グループが、「113番元素の発見者」として国際純正応用化学連合(IUPAC)によって認定され、同グループが提案した「ニホニウム Nh」が周期表に加わることになった。エピソードを交えその経緯を語る。
1.湯川博士と原子力(会員ページ)
法人あいんしゅたいん理事長 元日本物理学会会長 坂東昌子
20世紀は、原子の構造とそこに働く新しい力が解明され、科学の新展開の時代であった。一方で、原子核エネルギーの発見が、世界を席巻したファシズムの時代に始まったのは大変残念なことである。
こうした歴史の中で、物理学者たちが何を目指したのか、それを現在の問題とつなげて考えて見たい。
はじめに(抄)
ヨーロッパからはるかに離れたこの日本にも、この時代に新しい学問分野に挑戦した科学者がいました。その人たちは、大学の枠を超えて量子力学を勉強し、情報を交換しました。西欧からの情報をみんなで共有し、検討し、「追いつく」姿勢ではなく「追い越して追いつく」という意気込みだったのですね。
一方で、この20世紀初頭、原子力(原子核というほうが正しいのですが、通常の使われ方でこう書きます)エネルギーの発見が、世界を席巻したファシズムの時代に始まったために、科学の成果が戦争の具として最初に使われ、そのために人類に甚大な被害を与えました。
こうして、科学と社会の在り方に深刻な問題を提起した時代でもありました。
以上の2つのことを考えながら、現代の原子力の問題を考えてみたいと思います。
2.放射線計測と聞き取りを通して生徒達と学んだ広島・福島 (会員ページ)
奈良学園中学校・高等学校 教諭 工藤博幸
中高生が実際に広島や校内や福島で行った計測と聞き取りを報告したい。当初、私達自身が広島の現在の放射線量という自然科学的側面の誤認識をしていた。これがきっかけで、広島で9年続いた生徒の研究は福島に場所を移し、自然科学的側面に加え人々の心という社会的側面をあわせて研究対象として続いている様子を報告する。
研究の背景
私達のグループでは2002年から2010年までの9年間、卒業生達は継続して被曝地広島市内における現在の放射線量を現地で実際に計測し、被曝地の地表面の浄化メカニズムを校内で試作したモデル実験による計測とともに考えてきた。
被曝70年を迎える現在、広島の放射線量は他府県と変わらない。
卒業生達のこの広島研究では、この自然科学面での探究に加えて、人々の被曝地広島への偏見や誤解がどういう状況であるかという社会面での探求も併せて行われた。
結果として、広島の放射線量の現況と乖離した人々の被曝地への心、つまりまだ広島の放射線量が他府県よりも高いのではないかという誤認識や偏見があることも聞き取り調査から明らかにされた。
2011年3月の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故によって、不幸にして放射性物質による土壌汚染が見られた。これにより、福島県の物産への風評被害も生じた。
卒業生達が広島研究でしてきたように、福島においても放射線量の低減の状況や人々の心の現況について経年変化を調べ、その結果を私達の中高生の目線でも正しく情報発信することが必要だと考えている。
放射線の誤認識から生じる人々の心が二次的に被災地の皆さんを苦しめたり風評へとつながってしまわないかを継続して観察し、皆が正しく理解する必要があると思える。
3.放射線教育の現状と課題−放射線は魅力的な探究活動のテーマ−(会員ページ)
京都府立桃山高等学校
教諭 高橋信幸
高等学校での放射線教育について、勤務校での実践を例にとりあげて現状と課題を紹介する。なかでも桃山高校グローバルサイエンス部の部員達の活動をふりかえり、高校生が魅力を感じ積極的に放射線について探究する姿から見えてきた課題研究のテーマとしての放射線の可能性について考えてみたい。
はじめに
高等学校での放射線教育は、物理を学ぶ高校生のうちの一部の生徒が対象になっている現状がある。原子力発電に関する扱いは現代社会や世界史Aなどで見られるが、科学的知識を併せて学ぶものとはなっていない。
高等学校の教育課程全体としてみると、科学的知識に基づいて現代の原子力利用について主体的に思考o判断を行える市民に必要な教養教育としは心許ないのが現状である。
一方で、アクティブラーニングとして導入が進んでいる生徒の能動的な学びの場として、理科課題研究などの探究学習が広がりを見せている。
勤務校ではこの課題研究のテーマとして自然放射線量測定の結果から判明した地域差の原因を探る探究活動に取り組んできた。
なかでもグローバルサイエンス部の部員達はこの活動に魅力を感じ積極的に放射線について探究を深めていった。
なぜ、これほどまでに放射線に関する課題研究は高校生の心をとらえるのだろうか。ここでは、その要因の考察を通して課題研究のテーマとしての放射線の可能性について考えてみたい。
4.[ONSA賞受賞講演]
核融合プラズマおよび大気圧プラズマの熱流束計測(授賞公開論文)
大阪府立大学 地域連携研究機構 准教授 松浦寛人
核融合プラズマが運ぶ熱流束は太陽表面のそれをしのぐため、その軽減化は重要な工学的課題となっている。大気圧放電プラズマは熱に弱い食品や生体物質への適用も提唱され、その微小な熱流束の正確なモニタリング技術は欠かせない。本講演では、講演者が行って来たプラズマ熱流束の評価方法の紹介を通して、これらのプラズマを利用する工学的側面を概説したい。
核融合炉についての熱的評価(抄)
太陽は宇宙にあまた存在する核融合炉の一つで、地球が形成される前から膨大な量の原子力エネルギ一を供給している。
ここで、「原子力エネルギー」とは原子力基本法にも規程されている「原子核変換に伴うエネルギー」のことで、太陽以外の恒星が放出している物と同じである。
従って、「太陽エネルギ一」という用語はいわゆる「自然エネルギー」と同様にある意味では曖昧なものであると言わざるを得ない。
恒星ごと(正確にはその質量ごと)に起こっている原子核反応や発生エネルギーは異なり、太陽に限定しても時代ごとに異なっていることは最近の天文学から判って来ているが、今の太陽では原子核反応で原子力エネルギーが解放されている。
このうち、最初の反応は陽子の1つが弱い相互作用により中性子にベータ崩壊するため、極めてゆっくりとしか進行しない。(他の2つは強い相互作用による核子の組み替えのみであるため、急速に進行する。)太陽が何十億年もエネルギーを発生し続けるのはこの為である。
5.[ONSA奨励賞受賞講演]
小動物用マイクロCTを用いた生体微細構造評価と病態モデルへの応用(授賞公開論文)
大阪大学医学系研究科保健学専攻 医用工学講座 助教 齋藤茂芳
病理検査は脳や脊髄などの中枢神経系の微細構造よる病態評価が可能である。詳細な神経構造の観察が可能であるが、脳脊髄全体に渡る評価には多くの労力を要する。我々はマウスの脳および脊髄組織に対し、造影剤浸透下でのマイクロCT画像を取得し、高磁場11.7T-MRI画像との比較、免疫染色との比較、病態モデルへの応用を行った。
緒言(抄)
病理組織学検査は、脳や脊髄などの中枢神経系の微細構造、組織特異的な染色による病態評価が可能である。光学顕微鏡を用いることで染色後の組織における詳細な神経構造の観察が可能であるが、脳脊髄全体に渡る多断面での評価には多くの労力を要する。
Ex-vivoでの脳および脊髄組織の高分解能MRI画像を用いた評価が多く行われているが、その一方でIn-vivoで撮影した場合、マイクロ CTを用いた場合白質と灰白質のCT値の差はほとんどないため中枢神経系の評価には向かない。
6.認知症の分子イメージング研究(会員ページ)
放射線医学総合研究所
分子イメージング研究センター 主任研究員 島田斉
日本は世界一の高齢化率をほこっており, 人口高齢化を背景に増え続ける認知症は大きな社会問題となっている. 分子イメージングは生体内での分子プロセスを可視化する画像技術であるが, 認知症の病態解明や根本治療薬の開発に寄与することが期待されている. 本講演では, 認知症分子イメージング研究の最新の成果を紹介する。
7.東電福島第1原発の廃炉のための研究基盤創生(会員ページ)
日本原子力研究開発機構 福島研究開発部門 福島研究基盤創生センター 所長 河村弘
東電福島第1原発の廃炉作業では、遠隔機器・装置を用いた調査・作業と、サイト内の多量の放射性物質を放射性廃棄物として処理・処分することが必要不可欠である。これら廃炉作業を効果的かつ効率的に行うため、2つの研究施設を福島県の楢葉町及び大熊町に各々整備中である。これら施設の整備状況と関連研究開発の現状について報告する。
廃炉に向けた取り組みの経緯(抄)
2013年2月8日、原子力災害対策本部において、燃料デブリ取り出し等に向けた研究開発体制の強化を図るとともに、現場の作業と研究開発の進?管理を一体的に進めていく体制を構築することを目的として、1F廃炉対策推進会議(以降、「廃炉対策推進会議」と称す)が設置され、政府・東京電力中長斯対策会議は廃止された。
第1回廃炉対策推進会議が2013年3月7日に開催され、議長である茂木経済産業大臣からの指示により、中長斯ロードマップの改訂版が廃炉対策推進会議で6月27日に決定された。
さらに、第1回廃炉対策推進会議において、「遠隔操作機器o装置の開発o実証試験施設」と「放射性物質の分析o研究施設」の整備を日本原子力研究開発機構(以降、「原子力機構」と称す)に行わせるとともに、前者は檜葉町に設置されることが決定した。
後者は、2014年6月27日に開催された廃炉o汚染水対策チーム会合において、東京電力(株)福島第一原子力発電所の隣接地(大熊町)に設置することに問題がないことが確認された。
8.陽電子:身近で役に立つ反粒子(会員ページ)
高エネルギー加速器研究機構特定教授
東大名誉教授 兵頭俊夫
陽電子は、電子の反粒子で、電荷がプラスである以外は電子と同じ性質を持っている。電子と出会うと対消滅してγ線になる。そのγ線を検出して材料中の細孔のサイズを測ったり、がんの所在を見つけたり(PET)、また、結晶表面で全反射する陽電子を検出して表面の原子配置を決めること等に使われている。これらの使い方についてお話する。
はじめに
すべての素粒子には反粒子がある。電子は最も早く、1897年に発見された素粒子である。
陽子や中性子などが、今では物質の究極の素材という狭い意味の素粒子ではなくなり、その立場をクオークに取って代わられているのと違って、現代物理学においても狭い意味の素粒子である。この電子の反粒子が陽電子である。
反粒子だから、電荷が正であること以外は、電子と全く同じ性質をもっている。陽電子は、反粒子の中では最も早く発見され(1932年)、現代の我々にとって最も身近で役に立っている。その意味でも電子に似ている。
本講演では、陽電子がどのように身近で役に立っているのかを、例を挙げながら説明したい。
特に、がんの診断に使われるPET (Positron Emission Tomography,陽電子放出断層撮影法)、空孔型格子欠陥のプローブ、全反射陽電子回折法(TRHEPD)における使われ方を述べる。
開催日:平成27年1月26日 於 大阪大学中之島センター |
1.宇宙と放射線(会員ページ )
大阪府立大学 地域連携研究機構 放射線研究センター 教授 谷口良一
私たちは昔から放射線によって宇宙とつながりを持ってきた。自然放射線の3分の1は宇宙からのものである。オーロラをはじめ夜光雲、宇宙線シャワーなど、昔から私たちは経験してきた。何の役にも立たないと思われてきた自然放射線も技術の進歩によって、役立つのではないかと考えられるようになってきた。宇宙線を用いた透過検査法や分析技術などが話題になっている。これらの自然放射線の紹介と利用法について考えてみたい。
2.ホウ素中性子捕捉療法の将来展望
―加速器BNCTが切り拓く癌治療―(会員ページ )
京都大学 原子炉実験所 粒子線腫瘍学研究センター 教授 鈴木 実
ホウ素中性子捕捉療法(以下BNCT)の普及に向けて、既存の病院への併設可能であるコンパクトな加速器中性子源BNCT照射システムが開発され、現在治験を実施中である。本講演では、BNCTがその癌細胞選択重粒子線治療という特長を活かして、放射線治療として果たすべき役割を中心に、加速器BNCT時代を見据えた視点から解説する。
3.[ONSA賞受賞講演]
放射光その場観察を利用した新しい水素貯蔵合金開発(授賞公開論文 )
日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 研究副主幹 斎藤寛之
放射光その場観察と高温高圧合成法を組み合わせることで、アルミニウム系合金の侵入型水素化物など、これまで報告例の無い新しい水素貯蔵合金の合成に成功した。放射光その場観察により高温高圧下での合成条件を迅速に決定することが可能となる。講演ではこれらの技術と得られた最新の成果について紹介する。
4.次世代放射光XFELとERLの現状(会員ページ )
若狭湾エネルギー研究センター
研究開発部
レーザー除染チーム 嘱託研究員 峰原英介
現在、広い分野で利用が進んでいる放射光は、既に利用が始まっている次世代放射光技術であるXFELやERL放射光源において、更に重要なX線光源として利用が進むと考えられる。欧州や米国や我が国の現状を紹介する。また元々目標であった性能はどこまで実現したのかなどを紹介する。
5.研究用原子炉は何の役に立つのか?(会員ページ )
京都大学 名誉教授 代谷誠治
核分裂エネルギーを利用する発電用原子炉とは異なり、主に中性子を利用して理学、工学、農学、医学から考古学に亘る幅広い分野の研究教育等に使われている研究用原子炉。大阪府にある3基の原子炉の利用実績を、ガンの革新的治療法とも言えるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の成果を含めて紹介し、研究用原子炉の役割と将来を考える。
6.手元で使える中性子源RANSの取り組み(会員ページ )
理化学研究所
光量子工学研究領域
中性子ビーム技術開発チーム リーダー 大竹淑惠
理化学研究所では小型中性子源システムRANS(ランズ)の中性子利用を2013年4月より開始した。高い透過能と分析能を持つ中性子線は大型施設のみで利用可能なため、利用頻度が極端に少ない。RANSは、「手元で役に立つ中性子源」の実用化を目指している。塗膜下金属内部腐食の可視化成功、高速中性子線による橋梁内部非破壊健全性診断の取り組みをご紹介する。
7.ゲリラ豪雨や竜巻を瞬時に把握
―世界最高性能の気象レーダを開発―(会員ページ )
大阪大学 大学院工学研究科 電子電気情報工学専攻 准教授 牛尾知雄
夏季の夕方の突然の大雨,ゲリラ豪雨は,河川の氾濫,鉄砲水等をもたらし,都市の機能を麻痺させ,時には人命にも関わる。大阪大学が開発に成功した世界最高性能の気象レーダを中心に,背景となる地球環境問題から,最先端の試みまで紹介し,災害に強い未来の社会像を紹介する。
8.文化財と放射線・電磁波
―透視・修復・解析―(会員ページ )
東京工業大学 名誉教授 中條利一郎
物質的な豊かさが増えるにつれ、精神的な基盤としての文化財に対する国民の関心が増えて行く。それに伴うさまざまな問題点が生じ、その解決のための放射線や電磁波の役割が増えている。布に覆われた内部の文化財の非破壊的な透視、経年により劣化した文化財修復のための同程度に劣化させた修復材の調製、文化財の素材の組成、劣化状態などを知るための解析などその役割は多岐にわたる。その現状について紹介する。
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