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20回放射線利用総合シンポジウム聴講記

(平成23126日 於:大阪大学中ノ島センター)

 


1.   新時代を迎えた大型古墳測量(会員ページ )

〜レーザーを使った空からの観測〜

奈良県立橿原考古学研究所 埋蔵文化財部長 西藤 清秀 

大阪府立大学中百舌鳥キャンパスの周辺にはニサンザイ古墳や世界最大の墳墓である仁徳陵などの国内最大級の古墳が多数存在する。伊丹空港へ向かって降下態勢の航空機の窓から眺めると奈良県から大阪府にかけての大和川沿いには数え切れないほどの古墳が存在していることを実感する。2010年にはこれらの内、百舌鳥および古市古墳群がユネスコ世界遺産の暫定リストに登録され、地元関係者の熱もあがっているようである。

西藤講師は畿内に広がる3世紀から7世紀にかけての墳墓の形と5箇所の古墳群の変遷を簡潔に説明されてから、最近のレーザーを用いた古墳の測量技術の進展について講演した。

我が国の考古学研究上、墳墓の測量は大変重要なデータであるが、その多くが宮内庁の管轄下にある大型古墳は、学会といえどもみだりに立入調査は認められない。従来なされた測量は古墳の管理を目的として大正末年から昭和初期にかけて帝室林野局が行ったものだけで必ずしも精度の高いものではない。

航空機による考古学研究の最初の報告は英国のCrawfordによる土塁の発見である(1927年)。日本では末永雅雄博士(元橿原考古学研究所長)が1954年に空から古墳の観察を行い、墳形、濠、周堤などの施設の形状やその有無を明らかにすることが出来ることを示したのみならず、それまで気づかれなかった、古墳の周囲の周庭帯の施設の存在の確認など、航空機観察の有用性があらためて認識された。然しながら、一般に古墳は樹木に覆われ、航空写真のみでは測量は困難であった。近年の高出力レーザーの開発、計算機やデジタルカメラの高性能化、GPSの精度向上に伴い、空からの地形測量が可能となった。

1 航空機によるレーザー測量の原理

その原理は測量対象物の上空から毎秒20万発以上のパルスレーザーを発射し、地表からの反射波の時間測定より距離を算出するものである。膨大な反射波データに計算機フィルタリング処理を施して、構造物や樹相のデータを除外して、地形の情報を得る。この手法は広範囲の測定を短時間で精度よく行える特徴を有する。古墳の場合、樹木の葉の隙間を通り抜けて地表まで到達、反射する波を選択・抽出する。西藤講師が現在、共同研究を行っているアジア航測(株)が開発した「赤色立体地図」は計算機処理後の二次元画像表示から三次元的認識が可能となった。この技術の有用性は青木ヶ原樹海と羊蹄山火口での測定例から、写真では分らなかった溶岩の流れた跡や大きな穴、火口の存在が確認され、地上での測量結果と良く対応することにより実証されている。

講演ではコナベ古墳(小那辺陵墓参考地、奈良市)と御廟山古墳(堺市)のレーザー計測結果について報告した。宮内庁では管轄している御陵について、保守管理上、毎年一基ずつ環濠の水を抜いてその護岸調査を行っている。水を抜いた古墳の場合は古墳本体だけでなく、環濠に関する情報も得ることが可能である。コナベ古墳では2009年に宮内庁による墳丘裾護岸工事の事前調査が実施され、そのデータとレーザー測量の結果を対比する絶好の機会であった。コナベ古墳のレーザー計測はヘリコプターにより高度650mから井桁状に4方向から毎秒12万発のビームを発射して平方米あたり10点以上のデータを取得し、期待以上の墳丘と周辺の情報が得られたそうである。ただ、宮内庁の測量調査結果が公表される以前であったので、両者の比較は出来なかった。

一方、御廟山古墳に関しては2008年にすでに宮内庁(墳丘部)と堺市(濠及びその周辺)によって調査が行われて、その資料が公表されたので、両者の対比が可能と考え、レーザー計測を実施した。20102月の測定では高度500mより井桁状に飛行してレーザービームを18万発/秒で照射し、平方米当たり30点以上の地表面データを取得し、すでに公表されていた結果の対比では前方部と後円部での最高点の数値は数cm程度であり、等高線もよく重なった。

大きな差異は航空計測では墳丘2段目の一部に大きな高まりが観測されたが、これは地上での測量では、構造物ではなく、墳丘内で伐採あるいは台風などによる倒木を集積した箇所であった。今回の御廟山古墳での結果はレーザー計測が、地上での実測となんら遜色ないことを実証した。ただ、考古学の分野では未だに地上での測量結果を重視する傾向が強いそうである。

今回のレーザー計測の結果は様々な分野への応用が期待出来る。仁徳陵や履中陵の巨大墳墓は周辺の古墳群とは向きが異なっているが、その理由として当時朝鮮との往来が激しくなった時代に大阪湾から見た際の形が最も大きく見えるように築造したのではないかとの説がある。これは実測結果から得られた赤色立体地図画像を様々な方向から眺望した際にどのように見えるかをシミュレートすると一つの裏づけとなる。

レーザー計測の海外の応用例としてマヤ遺跡についてニューヨークタイムズに掲載された記事を紹介された。地形の表現は従来の手法が用いられているので、三次元的に描くには特定の方向からの表現となり、影の部分は表されない。この意味で今回用いている赤色立体地図画像は大変優れた表現であることを強調された。

 

2.レーザーピーニングによる応力腐食割れ

の予防と疲労強度の向上(会員ページ )

東芝電力・社会システム技術開発センター

技監 佐野 雄二

佐野講師はまず我が国のエネルギー事情や環境問題の観点から原子力の有用性を概観された。今日のエネルギー・環境問題の観点から、原子力発電は炭酸ガスを発しないエネルギー源として優れているが、原子力発電所の建設にはサイトの問題など克服すべき課題も多い。我が国で稼動している原子炉の多くは建設から15年以上経過したものが多く、今後も安全に運転を続けるには保守が不可欠である。特に課題となるのは、経年化に伴う部材の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking)であり、その対策としてピーニングが有効である。SCCは材料、環境,応力の3つの因子が関係することが知られている。

ピーニングは材料表面に圧縮応力場を導入して表面割れを防ぐ対策である。通常は鋼鉄等の微粒子を材料表面に空圧で高速照射して圧縮応力場を導入、機械的強度や疲労強度を向上させる。この方法は大量の微粉を照射するので、表面効果は統計的である。超音波照射なども行われるが、この場合も照射箇所は統計的となる。レーザービームの利用が、レーザーピーニング法であり、ビームを材料表面の設計通りにスキャンしつつ照射するので限定的である。

また、プロセスが一旦確立されるとそれらのパラメーターを用いた計算機シミュレーションと実験結果との比較が容易で再現性の観点から信頼性も向上する。実際に実験と計算機シミュレーションの結果とは良く対応することが示された。

1 ショットピーニングとレーザーピーニングとの比較

原子炉内では鋼鉄粉は使えないので、レーザービーム照射が有効となる。東芝では1990年代からレーザーピーニングの研究をスタートさせた。大気中で材料表面にレーザーを照射すると、材料表面には高圧プラズマが形成されて、圧力が印加されるが、その場で直ちに膨張して材料に対する効果は有効に働かない。一方、水中などの媒質中にレーザービーム照射を行うと媒質がプラズマの膨張を抑制し、大きな圧力が材料に作用する。

小型のレーザーでも数GPaの圧力がかかる。薄い材料では曲がってしまうが、厚い材料では全体が表面を支持するために、表面は塑性変形を起こさずに、圧縮応力が内部応力として保存されることになる。東芝では照射にはYAGレーザーの第2高調波を利用している。通常の機械的ピーニングでは導入される運動エネルギーが1mJ程度であるのに対してレーザーピーニングの場合には0.1Jから大きいものでは100J程度のエネルギーを投入できる。しかもショットピーニングでは効果が表面に限定されるが、レーザービームでは表面から1mm程度まで圧縮応力場を形成出来、大パワーでは5mm程度までも可能である。ただし、レーザーピーニングでは処理速度が遅いことと、設備が大型となる点が弱点であり、その改善にも取り組んでいる。講演では原子炉圧力容器底部のパイプ溶接部やシュラウドに関して動画も交えながら紹介した。原子炉圧力容器底部に対しては1998年に模擬試験を行い、翌年に実際の照射を行った。ビーム径は1mmで、装置は50m程度離れた箇所から操作する。当初は経路内空気によるビーム揺らぎが課題であったが、反射鏡でのビームモニターで解決した。後の光ファイバーによるビーム伝送試験の当初は大強度のビームにファイバーが耐えられなかったが、改良を重ねて2年後には50mの伝送を可能とした。

装置も燃料集合体1体分程度の大きさで作業可能となった。施工は原子炉内部の三次元のCADデータに基づいて、複雑な形状の物でも、照射が可能となり、パイプ内側に対しても鉛筆の先程度のサイズのヘッドと反射光を利用して照射が可能となった。パイプ内壁の応力分布はX線測定では困難であるので、中性子回折法で調査して確認を行った。

この手法は疲労強度の向上にも寄与する。疲労限が105程度の応力レベルのステンレスに対して、レーザービーム処理では108以上の寿命を示した。アルミ板のクラックの伝播についても、ビーム照射により、割れの進展が抑制されることが明らかとなった。クラックの調査は一般にはある程度クラックが進展した試料を割ってその破面を観察するが、ここではSPring-8において、屈折コントラストを利用したCT画像を撮影することによって材料を割ることなく観察する技術を適用した。SPring-8の大強度X線を利用して、クラックのCT画像を得られるようになった。

レーザービーム照射が疲労強度の向上にも有効であることが明らかとなったので、タービン翼の付け根部分に施工して疲労強度の向上を図った。タービン翼の他の部分については通常のショットピーニングを行っているが、付け根部は形状からその施工が困難で従来は行われていなかった。

世界的にも経年化の進んだ原子炉が増加していることから、東芝では、航空機にも搭載可能な装置の小型化を行い、すでに人の大きさ程度のサイズで部品も1/3程度に減らして信頼性を高めた製品を完成させて、傘下のウエスティング社のサービス網を活用して世界展開を図っているとのことであった。

疲労強度の向上の観点から、原子炉構造物以外にNASAと共同で宇宙分野への進出も考えてISSの構造物などへの応用も検討中とのことである。将来はレーザーポインタ程度のサイズで実際の施工を可能とすることを目標としている。その他、磁気的には優れているが、機械的強度に劣る電磁鋼板に対してレーザーピーニングを施し、回転部品など疲労強度を要求される部品の寿命向上を目論んでいる。          (大嶋 記)

 

3.もんじゅの運転再開と高速増殖炉実用化に向けた役割(会員ページ )

日本原子力研究開発機構 高速増殖炉    研究開発センター技術部長 弟子丸剛英

高速増殖炉もんじゅは、199512月にナトリウム漏洩事故を起こし、昨年15年ぶりに運転再開をした。その後、炉内中継装置の落下という事故が起こったが、5月下旬にそれの引き抜き作業を開始したとの報道があった。講演では、まず、天然ウランのほとんどを占めるウラン238に高速中性子をあてて、燃料に用いることのできるプルトニウムを生産するといった高速増殖炉の原理を詳しく説明し、軽水炉との比較などを行ったあと、エネルギー源の少ない日本における高速増殖炉による発電の重要性が述べられた。世界的な情勢については、近年復活の兆しがあり、ロシアではすでに長期運転が行われており、インド、中国でも実験炉の運転が開始されている。フランスでは原型炉の運転は停止になったが、次のステップに向かって新たな炉の建設が計画されているそうである。

その後、もんじゅの初臨界、ナトリウム事故から、その後の経緯についての説明があり、15年ぶりの臨界達成時の中央制御室の様子が動画で示された。特に、ナトリウム事故につながった温度計については、配管外からの温度測定を行う超音波温度計の開発も行われている。さらに情報公開という点でも、従来の経緯を踏まえて、非常に小さいことでも、起きたことはすべて公開し説明するという姿勢で臨んでいるということであった。次に説明のあったのは、2010年夏の燃料交換の後に起こった炉内中継装置落下事故についてである。装置を引き上げるときに使用したグリッパー(つめ)の部品不良のため2メートルほど引き上げた時に不具合が起き、原子炉容器内に落下した。重さ3トンのものが落下したためその一部が変形し、そのままでは抜けなくなった。

現在(講演時)修復作業の準備中で、2011年夏ごろまでには復旧したいということであった。今後の予定であるが、長期停止後の性能試験ののち、次のステップに進み、25年ごろには100%に持っていきたいとのことである。もんじゅは高速増殖炉の原型炉なので、次の実証炉、さらには実用炉につなげるための研究計画も進行中である。講演では、マイナーアクチノイドに関する国際プロジェクトにも触れたあと、燃えないウランをエネルギー源に変える高速増殖炉により、長期にわたるエネルギー資源の確保を目標に、2050年ごろからの実用化を目指していること、もんじゅでの経験を活かして、保全技術の蓄積を行い、次世代へつなげることが、巨額の予算への恩返しと思っている、ということを強調されて講演を締めくくられた。

2 「もんじゅ」運転再開スケジュール

この講演から2か月後には福島原発事故が起こったため、国の原子力政策そのものに対する議論が沸騰しているが、国家戦略としての今後のエネルギー生産のオプションの1つとして、高速増殖炉および核燃料サイクルに関する正しい知識は有しておくべきであり、そう意味からも、貴重な講演であった。

 

4.加速器が明らかにする素粒子の不思議な世界(会員ページ )

〜常識の通用しない素粒子の世界を紹介する〜

高エネルギー加速器研究機構 理事 高崎史彦

高エネルギー研究機構の高崎史彦理事は、Bファクトリーにおいて、小林・益川理論の検証実験に関し、その計画段階から指導的役割を果たされ、その成果は、2008年度の小林・益川両氏のノーベル賞受賞へ大きな貢献をした。本講演は、20105月に、平成基礎科学財団主催の「楽しむ科学教室」の一環として東大、小柴ホールで行われた高崎先生の講演を私(岩瀬)がNHK教育TVで拝聴し、非常に感銘を受けたため、ぜひONSAのシンポジウムでもお話しいただきたいとお願いして実現したものである。高崎氏も冒頭で、「小柴ホールでの3時間にわたるものであり、それを50分でしゃべるのはきつい」と述べていたように、たしかに時間切れの感はあったが、素粒子研究の面白さ、重要さは聴衆(特に若い学生たち)には十分伝わったと思う。

高崎講師.jpg

写真1 講演中の高崎先生

まずはじめに、素粒子研究は、仮説をたててそれを実証するという繰り返しにより、非常に長い時間をかけて徐々にいろんなことが分かってきたということを強調された。すぐ前の講演が、中長期的なエネルギー戦略に位置付けられる高速増殖炉もんじゅの話題だったこともあり、「巨額の予算を使っても直接生活に役に立たないので「何やってんだ」と言われるかもしれないが、こういう仕事は国民に多少でも夢を与える仕事である」、と述べられた。これは基礎科学の果たす役割として重要なことであると同感する。

以下、講演の内容を簡単にまとめる。この話題のキーワードは、普通の世界にはない不思議な存在である「反粒子」であり、これは、まず理論的に予言されたあと実験的に発見されたものとして、特異な例である。粒子と反粒子がぶつかるとそれらは消滅し、光のエネルギーとなる。それが物質に当たると別の粒子、反粒子が生成される。この過程を利用して素粒子の実験を行うのだが、このためには粒子のエネルギーを高くするための加速器という装置が必要である。

実は、JJトムソンは19世紀の終わりに最初の素粒子である電子を発見したが、それはいわば小型の電子線加速器を用いて実験した結果である。その後、様々な加速原理に基づく加速器が開発され、加速エネルギーも飛躍的に向上したが、その中で素粒子研究に大きな貢献をしたのは高周波による粒子加速方式である。これは電磁波の周期に同期して荷電粒子を加速する方法である。高エネルギー加速器研究機構(つくば、および東海地区)には、この加速原理に基づく多くの加速器があるが、ここで述べる研究に使用したのは、加速エネルギーが8GeVの電子シンクロトロンと加速エネルギーが3.5GeVの陽電子シンクロトロンを組み合わせたBファクトリーと呼ばれる加速器施設である。8GeVの電子と3.5GeVの陽電子との衝突によってB中間子と反B中間子の対生成を行い、B中間子の粒子・反粒子対称性の破れを観測した。

さて、小林・益川理論とは、中性K中間子の粒子状態と反粒子状態の崩壊のふるまいが同じでないこと{これを粒子・反粒子の対称性の破れ、あるいはCP対称性の破れという}を証明する理論である。小林・益川理論によれば、ダブレット構造を持つクオークが3世代以上ないといけないことになるが、小林・益川理論が提唱されたのち、u,d,sクオークに加え、c,b,tクオークが見つかり、理論の予言通り確かに3世代のダブレットが存在することが証明された。しかし、クオークが6種類あるだけでは小林・益川理論の証明にはならない。証明するためには、K中間子以外の粒子で同様な対称性の破れを観測することが必要であった。そこで、KEKBファクトリーを用いたB中間子による粒子・反粒子対称性の破れの実験が開始された。対称性の破れを検証するには、B中間子と反B中間子の崩壊点を髪の毛の太さ(50μm)程度の精度で観測するという困難さがあったが、1994年に施設の建設が認められ、1999年に実験を開始し、2001年にはB中間子における対称性の破れを小林・益川理論通り発見した。

そして最後に、次のように講演を締めくくられた。「このようにいろいろなことがわかりつつある素粒子の世界であるが、まだまだわからない不思議がいっぱいある。ビッグバンでは同じ数だけできたはずの粒子、反粒子であるが、なぜ一方だけが消えたのか、小林・益川理論だけではまだわからない。しかし宇宙の背景輻射にその痕跡を見出すことができる。さらに、重力はなにか、ヒッグス粒子など・・・わからないことばかりである。加速器の増強も認められたので、これからも新たな発見があると思う」

この講演の2ヶ月後には東日本大震災が起こり、筑波地区も震度6の地震に見舞われた。KEKの加速器にも大きな被害が出たと聞いているが、一日も早い復旧とそれを用いた素粒子物理のさらなる発展を祈るものである    (岩瀬 記)

 

5.太陽活動と宇宙放射線量(会員ページ )

東京大学宇宙線研究所 宮原ひろ子

太陽の活動が活発な時とそうでない時には宇宙放射線量に違いが生じる。またそのような現象が起こってきた太陽の歴史、その地球気候変動に及ぼす影響などについてお話していただいた。

図3 太陽黒点と宇宙線量の関係

 

太陽の活動は黒点の数によって知ることができ、11年単位で黒点数の極大期と極少期があることは以前から知っていた。昨年には太陽黒点がしばらく見られていないことがマスコミで報道されていた。宮原先生によると最近やっと黒点が現れ始め、これから増えていく時期に入るとのことである。黒点極大期には太陽のS極とN極が逆転するそうで、それが起こったのは2000年頃であるそうで、「目からうろこが落ちた」思いであった。つまり今年(2011年)は極少期である。太陽の黒点が少なくなると宇宙放射線が増大する。

図4 宇宙線量と雲量の関係

2010年初頭の宇宙放射線量は観測史上最高だったそうである。宇宙線量の増加は地球の雲量の増加と相関があるそうで、宇宙線量の多い時期の冬は寒冷になるらしい。どうりで今年の冬は寒かったはずである。ちなみにこれらの現象は1年ごとの変動幅が大きいので、平均するとこのような傾向が見られるわけで、さらに近年では大気中炭酸ガスの増加やラニーニャ現象などがあり、宇宙放射線量だけで地球温暖化や寒冷化を結論できるわけではない。

図5 太陽活動周期の変動予測

6.低線量率放射線の長期被ばくによる染色体異常生成に関する最近の知見(会員ページ )

(財)環境科学研究所生物影響研究部 田中公夫

低線量や低線量率放射線の生体影響はまだ未解明の領域である。ちなみに前者はガンマ線で200 mGy未満、後者は0.1 mGy/分未満と定義される。未解明である理由は動物個体を低線量率で長期間照射できる施設が限られているためである。環境研はこのような研究ができる貴重な施設である。

田中先生はこの施設で照射されたマウスの染色体異常の研究結果について報告された。田中先生らは0.05 mGy/日、1 mGy/日、20 mGy/日という低線量率ガンマ線照射下で400日間マウスを飼育し、マウス脾臓細胞の染色体異常(2動原体・環状染色体および転座)頻度を求めた。2動原体・環状染色体異常も転座型異常も、その頻度が1 mGy/日、20 mGy/日の線量率で、線量に比例して有意に上昇したとのことである。

図6 低線量域での線量と生物効果の関係

 

図7 染色体異常の分類

 

400 mGy/日と20 mGy/日照射での総線量100 mGyにおける線量率効果係数(DDREF)は、2動原体・環状染色体異常と転座型異常で、それぞれ4.52.3と求められた。これらのデータは、現実に私たちが浴びる低線量および低線量率放射線のリスクを求める上で大変重要である。これらデータを積み重ねることにより、高線量被ばくから外挿するLNTモデルに基づくリスク評価を、より正確な評価へと変えていくことができる。

図8 実験動物飼育環境

 

7.PETを利用した高精度陽子線治療技術の展望(会員ページ )

国立がん研究センター東病院臨床開発センター

粒子線医学開発部  西尾禎治

がんで死ぬ人は2015年には2人に1人となるそうである。現在日本ではがん患者のうち25%が放射線治療を受けている。放射線治療は治療後のQOL(クオリティ オブ ライフ)が高く、特に粒子線治療は腫瘍に選択的に照射ができるため、高い治療効果とQOLを得ることができる。

図9 がん放射線治療の特徴

その原理は「ブラッグのピーク」を利用して腫瘍に高い吸収線量を与えることである。腫瘍だけに確実に放射線を照射するためには、体内にある腫瘍の位置を正確に見る、さらに照射後に粒子線があたった部位を見ることである。腫瘍の位置を正確に見るためにはすでにCTやMRIという体内の可視化技術ができあがっているが、西尾先生はがん研究センターにある陽子線治療装置を用いて照射直後に陽子線があたった部位を可視化する技術を開発されている。陽子が細胞にあたったとき、いくつかの細胞構成元素の原子核が破壊されてポジトロン放出核ができる。中でも炭素1111C)は半減期が20分と長く、照射後に照射装置からPET装置に患者を移動させても、ポジトロンを観測することができる。これをCT画像と重ね合わせることにより、陽子線があたった部位を目で確認できる。

10 陽子線が照射された領域の可視化原理

図11 新型陽子線照射治療装置のプロトタイプ

 

今後は陽子線照射装置内にCTとPETを設置することにより、目視で陽子線を正確に腫瘍に照射できるように開発を進めるとのことである。がんの放射線治療は医学・生物学・物理学・工学の最先端を集約した技術といえ、今後の発展を大いに期待したい。しかしこのような最先端がん治療はどこででも受けられるものではなく、また高額な医療費の支払いが必要であり、誰もが平等に医療を受けられる社会の実現が私たちの今後の課題となろう。          (八木 記)

 

あとがき

 126日のシンポジウム開催のあと311日に東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所が被災して大事故になりました。関係者の皆様の必死の復旧作業にもかかわらず、いまだに収束できていません。被災者の皆様には心よりお見舞い申し上げるとともに一日も早い収束ができるよう願っています。

67日にNHK BSプレミアムの番組コズミック・フロントで太陽活動がとりあげられ、東大の宮原先生の研究が紹介されました。

   (阿部)


 

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