HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト

 

 

 


21回放射線利用総合シンポジウム聴講記

(平成24116日 於:大阪大学中之島センター)

今回のシンポジウムでは、福島関連の放射線計測の実情、低線量被ばくの問題、事故の詳細や今後の展望などのタイムリーなテーマを多くとりあげました。エネルギー自給率の低い我国で原子力発電所再稼働の見通しが不透明の中、現在の産油国である中東の国々が原子力発電所の建設に積極的に取り組んでいるとの報告が印象的でした。復活しました(社)大阪ニュークリアサイエンス協会賞には、京都大学原子炉実験所の瀬戸誠教授が受賞され、その記念講演が行われました。その他、最新の技術情報に加えて、宇宙放射線のバリアである地球磁場に関して講演がありました。今年度は、一般の方々からの申し込みも多く、参加者からは多岐にわたる大変興味ある講演を聴講出来て良かったという感想を多くいただきました。

 


1.低線量・低線量率放射線の健康影響を考える(会員ページ )

大阪府立大学大学院理学系研究科 児玉 靖司

昨年3月11日に発生した東日本大震災の津波による福島第一原子力発電所の事故は、放射性核反応生成物を環境中に放出し、それによる健康影響について大きな議論を巻き起こした。その後の調査で放射線による急性影響が現れるほど大線量を被ばくした人はおらず、懸念される健康影響は低線量・低線量率の放射線被ばくによる発がんだけである。

しかしメディアにおいては「専門家」とされた研究者が、あらゆるコメントを勝手に言い放ち、日本国民を混乱に陥れた。児玉先生は長年にわたり日本放射線影響学会で活躍されて背景知識を豊富に持たれ、このたびの原発事故放射線の健康影響について、科学に基づいた客観的な解説をされた。

世界で最も信頼される放射線影響の疫学研究は、日本の原爆被爆者の調査によるものであるが、それでも低線量・低線量率放射線の健康影響の理解は不十分である。低線量放射線被ばくによるがん死亡率は、高線量被ばくによるがん死亡率から直線的に外挿して求められる「LNTモデル」によって評価される(国際放射線防護委員会(ICRP))。実際には100 mSv以下では統計的に有意ながん死亡率の増加は見られていない。そのため原発事故放射線の被ばく線量管理は、安全か危険かの二者択一ではなく、リスクに基づいた「目標値」を決めてそれに応じた対応がなされている。原爆被爆者における発がん(固形がん)リスクを図1に示す。

1 原爆被爆者における発がんリスク

そのようにして外部被ばくについては年間被ばく線量が20 mSv以上に達する地域を計画的避難地域とし、内部被ばくについては個人の生涯の総被ばく線量が100 mSv以下になるよう、種々の食品の放射能の規制値が決められた。ICRP勧告によれば、実効線量100 mSv被ばくによる生涯がん死亡リスクは0.5%とされる。

福島県による子供のヨウ素131甲状腺被ばく線量調査、福島県と放医研による計画的避難区域住民の個々の外部被ばく線量推定、一般家庭の食事に含まれる放射性セシウム含有量の調査などから、規制値を超える事例は見つかっておらず、将来、原発事故放射線によるがん死亡率は増加しないと考えられる。

2 世界の高自然放射線地域

このことは我が国の原爆被ばく者の調査のみならず、チェルノブイリ原発事故の放射線被ばく住民の追跡調査、インドケララ地方の高バックグランド地域住民の被ばく線量とがん死亡率の調査などからも支持される。

児玉講師

低線量・低線量率放射線の健康影響は、危険か安全かという白黒ではなく、リスクという概念が必要なために、一般市民にはわかりにくい。そのため、「真の専門家」は科学的に客観的に放射線の健康影響を一般市民にわかりやすく伝える必要がある。児玉先生は、福島第一原発事故はリスクコミュニケーションの実践の場であり、日本の「善良な科学者」の社会貢献が試される試練の場であるとも言われる。

2.KURAMAによる福島県の放射線量測定(会員ページ )

京都大学原子炉実験所 谷垣 実

福島第一原発事故では放射性物質による深刻な汚染が発生した。被災地域での迅速かつ広範囲の空間線量率測定は、住民の被ばく管理や汚染状況の把握、環境修復に極めて重要である。国の空間線量率調査においては航空機による広範囲なサーベイが行われているが、その精度は1〜4km2程度であるといわれる。これを補完する詳細な空

間線量率測定マップを迅速に作成できるのが、谷垣先生ら京大原子炉実験所が開発したKURAMA (Kyoto University RAdiation MApping system)である。

KURAMAはガンマ線サーベイメーター、サーベイメーターの出力をPC用に変換するインターフェースボックス、測位のためのGPS、データを処理しネットワーク上で共有するためのPC、移動中のネットワークを構成するための3Gモバイルルーターから構成され、乗用車に搭載される。乗用車の走行中に測定された線量値と位置情報は3G回線を通してインターネットに接続され、どこからでも見ることができる。Google Earthがインストールされたパソコンでは3D地形図上に測定値と場所が示される。KURAMAの構成を図3に、Google Earthでの表示例を図4に示す。

3 KURAMAの構成

 

4 Google Earthでの表示例

KURAMAを搭載した車で被災地域をくまなく走ることにより、生活地域の詳細な空間線量率マップを迅速に作成することができる。このシステムは試験的な運用のあと改良が重ねられKURAMAUとなり、現在では、福島県、文部科学省、日本原子力研究開発機構に導入され、路線バス、バイク、手押し車などにまで搭載され、様々な目的で活用されている。測定結果は文部科学省の震災対応ホームページで公開されている。

谷垣講師

 このような原発事故後の迅速な技術開発は、自由度があり個々の知識・技術レベルの高い大学ならではの仕事といえる。放射線に関する様々な領域の高度な知識や技術を持つ人が集まった京大原子炉実験所の原発事故に対する迅速な対応は賞賛に値する。

3.福島第一原子力発電所事故と今後の我が国のエネルギー(会員ページ )

三菱重工業(株)特別顧問 金氏 顕

金氏先生は東日本大震災によって福島第1原子力発電所1〜3号機が炉心溶融にまで至った原因を、原発開発技術者としての立場で冷静に分析し、事故は何故起きたか、何が想定外であったか、そして事故の教訓を解説された。さらに今後の安全性強化、体制改革、そして今後の我が国のエネルギー確保のあり方まで意見を述べられた。

今回の地震の大きさは発電所の設計想定を超えたが、東北地方のいずれの発電所も安全上重要な損傷はなく、外部電源を喪失したがいずれの発電所においても制御棒が炉心に緊急挿入され核反応は停止し、非常用発電機が起動した。しかし1時間後に襲来した大津波により福島第一原発1〜4号機のみ非常用発電機が運転停止し、以後長時間にわたり冷却用電源喪失の状態が続いた。なぜこのような状態になったかは、他の発電所との比較、また海外の発電所との比較から答えを得ることができる。

まずは1000年前の貞観地震でもこのような大津波は来襲せず、基本的に津波に対する備えが不十分であったことに尽きる。福島第一原発5、6号機は敷地が1〜4号機より2メートル高かった。女川原発では5メートル、福島第二では2メートル高かった。東海2号機では防潮堤を増設し終わったところであった。この差が津波被害の明暗を分けた。さらに、たとえ全電源が喪失しても、福島第一の沸騰水型ではなく、加圧水型原子炉(PWR)であれば放射性物質を環境に放出しないで収束できる可能性があった。図5PWRプラントでの全電源喪失が起きた場合の対応を示す。欧州では万一の放射性気体のベントに備えてフィルターを全原発に備えている。水素が発生しても爆発を避けるための水素再結合装置も設置している。台湾では全4カ所の原発の高い位置にガスタービン発電所を併設して万一の全電源喪失に備えている。更に高い位置に大容量の淡水を貯水している。

5 PWRプラントで全電源喪失が起きた場合の対応

 

教訓としては、過酷事故の防止対策、長時間の全電源喪失に対する対策、放射線影響緩和策を実施すること、緊急時責任/指揮体制/情報集約体制などを確立することである。原子力規制と推進機関の分離、原子力安全保安院と原子力安全委員会の一元化と独立性確保などの行政改革、国際支援・協力体制への柔軟な対応なども必要である。

金氏講師拡大

日本はGDPあたりのエネルギー使用量では、すでに世界最高水準の省エネルギー国であり、温暖化ガス排出を抑制してさらなる省エネルギーを実践するためには電気を使用するほかない。経済活動を維持するために、エネルギーの量、コスト、質(安全性、対環境性、低い出力変動)を確保するのは、原子力の他には見当たらない。今後も安全性を強化した原子力を基幹エネルギーとして、化石燃料エネルギー、再生可能エネルギーとのベストミックスを追求していくことが肝要であるとのことである。国民一人一人が、日本の近い将来・遠い将来の姿を考えてエネルギーをどのように求めるのか確固たる意見を持つことが重要であると思った。             (八木 記)

4.海外諸国の原子力開発動向(会員ページ )

()日本原子力産業協会 国際部マネージャー 小林雅治

2011311日の東日本大震災に伴って起きた福島第一原発事故は、日本だけでなく諸外国の原子力政策に大きな影響を与えた。我が国では脱原発の声が高らかに叫ばれる中、今後のエネルギー政策を考えるに当たり、「福島」以後における諸外国の原子力開発動向を客観的・冷静に見ておくことが重要であり、その意味で本講演は大変ためになるものであった。以下、講演の概要について記す。

「福島」以後の主要国の原発政策は、各国首脳の発言や同年5月のド―ビルサミットでの議論を見ればよくわかる。

小林講師

米英仏露中といった核保有国では、概して原発推進の立場を堅持している。たとえば、オバマ大統領やサルコジ大統領が震災直後に、原発を今後も重要なエネルギー源の1つであると位置づける発言をしている。韓国、インドなども原子力推進の立場をとる。これに対して、イタリア、ドイツは明らかに脱原発路線に舵を切った。ここから国別における原子力開発動向が詳細に紹介された。まずドイツである。ドイツはこの25年間、チェルノブイリ原発事故と「福島」を挟んで、その原子力政策は大きく揺れている。チェルノブイリ事故後に誕生した緑の党を含む左派連立政権は、原発を段階的に廃止する政策をとった。その後メルケルを首相に仰ぐキリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、自由民主党の中道右派連立政権が200910月に発足するに伴い、原発の運転延長をおりこんだ新エネルギー戦略を閣議決定するなど、脱・脱原子力へと方向を転換した。しかし、「福島」以後は、2022年までに全原発17基の廃止を閣議決定し、連邦上院も脱原発法案を承認している。しかし、これらの政策に対し、独産業界からは産業競争力の低下を懸念するなど批判も多く挙がっている。ドイツと同じく、「福島」以後に脱原発に転換した国がイタリアである。イタリアではチェルノブイリ事故以後、国民投票での結果により国内の全原発、全サイクル施設の閉鎖を決めたが、その後、電力不足が顕在化し、ベルルスコーニ政権は原発再開へ再始動した。しかし、「福島」を受けて再び行われた国民投票では、なんと原発凍結賛成票が95%を占め、首相は、「イタリアは原発にさよならを言わねばならない」という名言(迷言?)を残したのである。これらに対して、米国は、オバマ大統領の「原子力発電は再生可能エネルギーとともに、我々のエネルギーの将来にとって重要である」との声明を受け、ワッツバー原発建設の再開や、小型炉開発、2020年までに48基の新規運転開始を予定するなど、積極的な原子力政策を打ち出している。次に、原子力大国であるフランスの動向について解説があった。「福島」直後、サルコジ大統領は「脱原発は論外」という声明を出し、原子力推進を堅持するとともに、原発の安全性向上に関する国際協力に向けて積極的役割を演ずることとなった。具体的には、サルコジ大統領自らが来日し、福島事故対策で協力を表明したり、G8サミット、IAEA原子力安全閣僚会議など、原子力に関する国際会議で主導的な役割を担っている。ロシア、中国、韓国も、原発の安全性に留意するものの、原子力推進と言う従来からの基本姿勢は変わらないようである。講演では、日頃、報道されることの少ない、スイス、台湾、フィンランド、ポーランドといった国々における原子力政策に対し、「福島」がどのような影響を与えたかについても詳しく述べられた。以上のように、世界各国の現在の原子力事情に加え、原子力国際展開に関する最近の動きや日本の2国間原子力協力枠組みについても触れ、最後に以下のようなまとめで講演が締めくくられた。「持続可能な将来に向けての低炭素社会の実現には特効薬はないが、原子力なしの解決もあり得ない。日本は、これまでに蓄積した高い技術と福島事故の教訓を活かし、より安全な原子力開発に貢献することこそが、日本の責務である」。

6 将来に向けて

瀬戸氏オンサ賞講演
 

 

 


ONSA賞受賞講演)

 

 

 

 大阪ニュークリアサイエンス協会賞(略称:オンサ賞)は、協会の重要な事業として1985年から1996年まで12年間にわたって、放射線・放射性同位元素関連の分野で功績のあった満50歳以下の研究者・技術者の顕彰を行っておりましたが、資金難で中断せざるを得なくなっておりました。平成10年に会員関係者からオンサ賞復活のためのご寄附をいただき、平成11年度からの再開後第一回授賞者に京都大学原子炉実験所の瀬戸誠教授が推挙されました。

5.[22年度オンサ賞受賞]
放射光メスバウアー吸収分光法の研究(会員ページ )

京都大学原子炉実験所 瀬戸 誠

講演者は、線源としてRIでなく放射光を用いて、すべてのメスバウアー核種に対するエネルギー領域における吸収スペクトルを測定する方法を開発した。本講演では、メスバウアー分光の基礎から、最近のSPring-8における研究成果までのわかりやすい解説が行われた。以下、その概要を示す。まず、一般的なメスバウアー効果の説明から講演は始まった。メスバウアー効果とは、γ線が、固体内の原子核によって無反跳で共鳴吸収される現象のことで、ドイツの物理学者メスバウアーが発見した。その後、固体内の電子状態や磁気的状態を詳細に測定する手段として広く利用されている。通常のメスバウアー分光法では、放射性同位体(RI)をガンマ線源として用いる。RI線源からのガンマ線を、エネルギーをドップラーシフトによって変化させながら測定試料に照射する。測定試料の原子核における共鳴エネルギーが照射ガンマ線のエネルギーと一致した場合にのみ吸収が生ずる。この吸収スペクトルを測定することにより、試料原子核の内部磁場による分裂準位が特定されることから、固体内の元素選択的な磁性や電子状態の詳細を評価できる。

これまでに、45種類の元素でメスバウアー効果が観測されているが、Fe-57以外の核種では線源の寿命が短いことなど、実際に実験に使用するのは困難であることから、元素選択性というメスバウアー分光法の特徴を十分活かし切れていなかった。そこで、高輝度性、高指向性、集光性、およびエネルギー可変といった優れた特徴を持つ放射光X線をRI線源の代わりに使用することが考えられた。この方法の概略が、図式などを用いてわかりやすく示された。

7に放射光吸収メスバウアー分光法測定概念を示す。速度トランスデューサーによってドップラー駆動させた基準試料のエネルギーが測定試料のエネルギーと異なる場合()、一致した場合()。それぞれの場合に対応した検出器からのカウントを反映した吸収スペクトル()。共鳴エネルギーの違いを小枠のスペクトルで示す。測定試料を通過させた放射光を基準試料に照射し、この基準試料において共鳴吸収された原子核が基底状態へと脱励起する過程で放出されるガンマ線を、基準試料の速度の関数として測定する。基準試料におけるエネルギーをドップラーシフトで変えながら測定することによって得られる吸収スペクトルがRI線源を用いた場合に得られるメスバウアースペクトルに相当するものである。

7放射光吸収メスバウアー分光法測定概念

この方法を用いることによって、まず、メスバウアー測定用のRI線源の作製が困難であったGe-73の吸収スペクトルの測定に成功したことが示された。放射光メスバウアー法は、すでに様々な分野においての利用が開始されている。その1つの例として、水素貯蔵合金に関する研究成果が示された。希土類は大量の水素を吸蔵することから、水素燃料を基軸とするクリーンエネルギー社会において重要な役割を果たすと考えられる。そこで、Euの水素化物の高圧下におけるふるまいに関して、放射光メスバウアー分光を用いて調べた。高圧にするためにダイアモンドアンビルを使用しての実験では、試料のサイズが100μm程度に限られるが、このようなサイズでの実験は通常のメスバウアー測定では困難である。放射光メスバウアー分光測定の結果、Eu水素化物の価数が2GPa付近までの圧力では2価であったが、14GPaという高圧下になると、3価に変化することが初めて明らかとなった。

以上のような研究成果が示されたあと、以下のようなコメントを持って、本講演を終えられた。「本方法は、まだ開発されて間がないが、メスバウアー分光の元素選択性という特徴を十分に活かした方法であり、超高圧、超高温、超低温、超強磁場といった複合極限環境下での測定、さらには、きわめて小さい試料の測定も可能になることから、今後様々な研究分野で有効に利用されることを願っている」                 (岩瀬 記)

 

6.高コントラストXCTの利用(会員ページ )

京都工芸繊維大学 西川幸宏

XCTは病院など医療機関で広く利用され、得られた人体の輪切り像による診断および治療用ツールとして馴染みのある装置であるが、今回の西川講師の講演はずっとコンパクトで価格も安く産業用としての開発を念頭においたものである。

現在のように実用化が急速に進んだのはコンピューターの性能が飛躍的にあがったことにより、元画像データから計算機による再構成が短時間で行えるようになったことが大きいことを指摘した。

西川講師

まず、XCTの開発の歴史についていくつかの興味ある話題を紹介した。XCTの基本原理は1917年に数学者のラドンによって示された「二次元あるいは三次元の物体はその投影像の無限データから一義的に再生できる」に基づいているが、難解であったために長らく理解されずにいた。1960年代になってラドンの論文と内容は同じであるが米国の物理学者コーマックが発表した論文が基となり、英国EMI社中央研究所のコンピューター技師であったハウンズフィールドが1968年に製品化に着手し1972年に最初の製品が完成した。

製品化には大量の計算機データ処理が必要であったが、EMI社ではそれが可能であった。EMI社はレコード会社で、当時ビートルズが所属していたおかげで、ビートルズによる多額の収益の多くがXCTの開発にあてられたとの話があるそうである。この功績によりハウンズフィールドとコーマックはノーベル生理学・医学賞を受賞することになるが、両者とも医学関係者でなく、新しい製品が世に出るには分野横断型が必要であることの一例である。受賞には至らなかったが、CT技術に欠かせない画像フィルタリング技術でインドの物理学者ラマチャンドラン氏もノーベル賞に値する多大の功績がある。現在の画像再構成には同氏の理論が役立っているそうである。

XCTが世に出てから、短期間の間に計算機の性能が飛躍的に上昇し、価格はそれに伴って著しく下降したことから、従来は病院等での病理診断に主として使用されていたXCT2000年頃から産業用にも次第に使われるようになってきた。診断用のXCTでは被験者はベッドに寝た状態でX線発生装置とその検出器がその周りを回転する構造で装置も大型であり、分解能も1mm程度である。一方、産業用は検査試料が回転するタイプで小型化が可能であり、その分価格も安くなり、分解能も3μm程度にまであがってきて、従来の走査型電子顕微鏡に肩を並べることが出来るレベルになっている。分解能は線源の構造などの改良によりさらに向上できる可能性がある。

講師は自らの研究歴紹介で最初は異なる樹脂を混合した際の相分離などの現象を共焦点顕微鏡で観察していたことを述べた。共焦点顕微鏡は光学顕微鏡であるが、焦点深度が極めて浅く、まさに焦点の合った位置の情報しか得られない。この弱点とも思える特徴を活かして、異なる焦点位置画像を重ねることにより三次元情報を再構成により得ることが出来る。この技術を進化させたのが、現在のXCTである。講演では研究室レベルでの画像再構成の例を動画で示しながら、自らの専門である高分子物理への応用やその他の分野への応用について丁寧に紹介した。もともとXCTは物質のX線の吸収コントラストを利用するものであるから、軽い元素で構成されている高分子の場合は、高エネルギーのX線ではコントラストがつかない。しかしながら、吸収係数はX線エネルギーの関数であるから、材料の構成元素に適したエネルギーを選択することにより、正確な情報を抽出できる。ただし、低エネルギーでは吸収が大きすぎて、うまくコントラストがつかないことになるが、適当なエネルギーの選択により例えば酸素の含有量に依存した高分子の情報が得られる。

講演では本来混合しにくい二種類あるいは三種類の樹脂をブレンドした場合に形成されるネットワーク構造の知見から相分離や配向の情報を示す鮮明な画像の例を示した。スポンジの空隙が圧縮によりつぶれていく様子は直観的で興味深い。最近は炭素繊維強化材も重要な検査対象となっている(図8)。

さらに、講演者自身も製品情報を知らされていない電子部品への応用例や一般の人々にアピールするようなだんご虫や桜の小枝、節分の豆などの多くの興味ある画像を見せていただいた。桜の小枝に観察される多くの白いコントラストの本

8 高分子材料中に分散した炭素繊維のXCT

性はまだ明らかになっていないようである。昨年夏のオンサの見学会では奈良の橿原考古学研究所を訪問したが、たまたま縄文時代のクワガタが発掘されて、そのCT画像がマスコミで話題になっていた時期であった。見学時にその実物は展示されておらず、大変残念であったが、その画像は講師らによって撮影されたそうである。

近年、携帯電話などの電子部品は小型化や多層化が進み、このような製品検査には三次元構造の知見が得られるXCTの適用は欠かせないそうである。走査型電子顕微鏡に比して内部構造まで視覚化出来るという点で将来はインライン用検査装置として、一般的になる予感を抱かせる講演であった。なお、本講演のハード面で重要なサポートをしている馬場末喜博士((株)ビームセンス)は協会の放射線科学研究会で講演していただいたことがあったので大変興味深く聞くことが出来た。

7.加速器による放射線/量子ビーム利用研究の現状と将来展望(会員ページ )

(独)日本原子力研究開発機構 南波秀樹

日本が昭和31年に原子力の研究開発を開始した当時から原子力開発利用長期計画の方針として、原子力の研究開発及び利用を進めるにあたり、動力(エネルギー)としての利用面と放射線の利用面を平行的に促進すると明記されていた。放射線の利用は原子力利用よりもはるかに早く、レントゲンのX線の発見直後から始まり、その後、自然界に存在する放射性物質からα線、β線、γ線が出ていることが明らかになり、さらに中性子、陽電子が発見された。現在では放射線利用はこれらの天然の放射性物質からではなく、多くの場合、加速器からの人工の放射線源を利用するようになっている。これらに加えて核破砕中性子源からのミューオンやニュートリノを含め、「量子ビームテクノロジー」という新規の技術領域が形成されている。

南波講師はまず簡単に放射線の性質を概観したあと、一般的な利用の原理と応用例の例示から講演を始め、身近なところに放射線の技術が多用されていることを示した。

南波講師

内閣府が平成19年に発表した平成17年度の放射線利用の経済規模は41千億円であり、これはエネルギー利用の47千億円と肩を並べており、総額は当時の国内GDP2%に近い。その詳細に関してはすでに第19回の当シンポジウムでとりあげている。

続いて講師の所属する日本原子力研究開発機構の最近の研究開発の成果について紹介した。同機構は全国に多くの施設を有しており、これらを複合的に活用すべく量子ビームプラットフォームを構築し、供用施設として大学、民間との産学連携による研究開発を推進している。放射線利用は端的に言えば「視る・創る・治す」の機能を活用することにある。「視る」の好例として、まずタンパク質の構造解析をあげた。タンパク質は生命活動に欠かせない物質であり、世界中でその構造解析にしのぎがけずられている。現在、世界で構造解析がなされた48個のタンパク質のうち三分の一の16個が我が国のJRR-3の中性子回折とSPring-8X線を使って決められた。最近ではHIVウイルスの構造知見から、治療薬の開発を目指した研究が進んでいる。また、宇宙空間を模擬した研究として、中性子回折より水素原子が特定の方向に配列した強誘電性氷の存在を明らかにし、太陽系のなかで-200℃以下の天王星などの惑星の表面はそのような氷で覆われている可能性を提案した。この構造はメモリー効果を有し、木星あたりの温度の高い所でも見つかる可能性がある。

これらの成果は宇宙の起源においてなぜ宇宙塵がそれほど早く凝集できたかについての疑問を解く鍵になるかもしれない。自動車の排気ガス処理に必須の触媒では機能が劣化しにくい触媒機構を解明してインテリジェント触媒の開発に多大な貢献をした。さらに以前から社会問題となっている肺中のアスベストの検査に数mgの試料で検査可能な陽子線を用いたマイクロピクシーの技術を開発した。グラフト技術では、傷を治す医療機関用絆創膏として、傷口を湿潤に保つビューゲルの開発に寄与し、国内の医療機関で広く使用されている。一般の人には靴擦れなどに効果のある同種の小型絆創膏が市販されている。その他、群馬・草津温泉からScを回収する技術や、1ppbレベルの浄化が要求される半導体製造用の水の精製に欠かせない材料も開発した。

イオンビームの応用では菊やカーネーションの新品種の開発を挙げた。ヨーロッパではカーネーションやバラが人気であるが、我が国では冠婚葬祭用として一輪咲の白菊が欠かせない。無駄な枝葉を除くために栽培農家はこれまでに多くの労働力を要したが、イオンビーム照射により新種の開発に成功し、さらに低温開花性の高い新品種の開発も行った(図9)。この技術は環境浄化用樹木や清酒醸造用酵母の開発にも適用されている。

医療関係としては従来からガン早期発見に使用されているフッ素18を使用するPET薬品では検査出来ない腫瘍について効果の高いBrを含むPET薬剤を開発し、マウスでその有用性が確認された。脳腫瘍治療に有効な中性子捕捉療法では、現在原子炉などの大型中性子源が必要なため、小型の中性子源の開発を行っている。ガン治療には

9 イオンビーム照射によって開発された新種のキクの変遷

粒子線治療の効果が高いことから、これまでに陽子線施設として6か所、重粒子線施設として3か所が開所しているが、さらに装置を小型化してテーブルトップに近いサイズのレーザーを使用した新規の線源を開発する研究も進んでいる。加速した高エネルギー電子にレーザーを照射し、任意のエネルギーのγ線を得るための研究も行われており、近い将来非破壊検査に応用可能であろう。講演の最後には先の東日本大震災で大きな被害を受けたJ-PARCについて触れ、宇宙起源を探るニュートリノなどの素粒子研究と多様な中性子源としての活用について将来展望を行った。

今回の東日本大震災で南波講師が紹介された多くの先端的な施設も大きな被害を受け、研究自体も中断せざるを得なくなったテーマも多々あるように伺った。一日も早い復旧を祈念したい。

 

8.地磁気の逆転−生命・環境への影響はなかったのか(会員ページ )

神戸大学自然科学系先端融合研究環 兵頭政幸

昨年のシンポジウムでは宮原ひろ子氏(東京大学・宇宙線研究所)に太陽活動(黒点数)と太陽磁場の変動について講演していただいたが、今回は地磁気の変動に関する話題を取り上げた。地磁気は宇宙からの強力な放射線の地球への侵入を防ぐ重要なバリアであり、その挙動は生命活動と密接に関係すると考えられるが、その実態に関して兵頭講師から興味深いまさにグローバルな話題を提供していただいた。

兵頭講師

講演ではまず地磁気の基本に関して、ベクトルである地磁気のパラメータは、真北からのずれを示す偏角、地球中心を向く伏角、磁力の大きさで表せ、地磁気の向きは絶えず変動していることを示した。伊能忠敬が日本地図の測量を行っていた1800年当時の江戸の偏角は0度であったが、現在は西に7度近く偏っており、200年の間に7度ほど反時計回りに変化したことになるが、強さも絶えず変動しており併せて永年変化と呼ぶ。ただし40度をこえるような大きな変化はexcursionと呼ぶ。過去の地磁気の向きは堆積物中に閉じ込められた微細なミクロンオーダーの磁性物質の磁化の方向や、火山噴火で噴出した溶岩の凝固時の磁鉄鉱などに記録されており、その調査から過去には30度近く偏角した時期のみならず、磁化の逆転もあったことが示される。

関連性は定かでないが、旧法隆寺の若草伽藍の発掘調査では、建物の向きが当時の偏角に極めて近い現在の北から20度近く西へ偏り、磁石の存在を知っていた可能性を示唆している。ハイキングなどに用いるコンパスは指針が水平になるように伏角補正の重りがとりつけてあり、北半球用は南半球では使用出来ないそうである。

過去に地磁気の逆転があったことを示したのはフランスのBrunhes1906)と日本の松山基範(1929)である。松山は兵庫県北部の玄武洞と近くの京都府福知山の夜久野溶岩の磁気が逆向きであることに気づき、日本から東アジアまでの広範囲の岩石磁化の方向の調査から、古地磁気には二つの極性があり、第四期前期の地磁気は現在とは逆向きであったことを提唱した。これらの学説は長らく認められなかったが、1960年代になってようやく認められ、地磁気極性表の中にBrunhes期、Matuyama期としてその名が刻まれた。地磁気の逆転の機構として双極子が強さを保持したまま逆転するのか、徐々に強度が落ちた後に逆向きに成長するかは解明されていない。

一つとして地球中心の主双極子の強度が大幅に減少した際に、外核対流による副双極子が頻繁に反転を繰り返す折に、主双極子が反対方向に成長するモデルが提唱されている。講師らは大阪湾の深さ1700mまでの堆積土壌中の調査から、Brunhes期とMatuyama期における地磁気の向きの逆転を確認したのみならず、期間数百年の短期間の磁場反転が4回繰り返されたことも明らかにしたが、このデータはそのモデルを支持している。逆転は数千年前から20から30%までの地磁気の減少という形で現れ、中間極性は観測されずに逆転が起こり、数千年で回復していた。逆転期に火山の噴火があれば、当時の事象が記録されている可能性があるが、それはハワイ、タヒチ、カナリー島、チリーに限られている。

講師らの調査で、78万年前のジャワ島ギランの岩石から採取した試料に逆転時の地磁気が記録されていることが明らかになり、同様の箇所はハワイのマウイ島とカナリーのラパルマ島だけに観察される。地磁気の逆転の確証後、その生命現象との関わりに関する議論が盛んとなり、この分野の研究が進んだ。逆転直前には地磁気の大きさは1/5程度まで下がり、宇宙線量は80%程度増大したと見積もられるが、年間被ばく線量は0.38mSvから0.84mSvに増大した程度で直接の影響はなかったであろう。しかし、この時期には地球寒冷化の証拠が見つかっている。温暖な地域に生育するアカガシ亜属と冷涼な気候で生育するブナの植生に着目した大阪湾堆積土壌の花粉の分析から、神戸周辺でもブナが数千年に亘って繁茂した証拠があり、当時の気候が冷涼であったことを示しているが、南極の氷床などに異常はなく、冷涼化は低緯度に限定していたようである。注目すべきは間氷期の当時の海面は高かったにも関わらず寒冷化していたことである。他の間氷期ではそのような寒冷化は見られない。

10 スベンスマルク効果の説明

 

その説明としてSvensmarkらは銀河宇宙線の増大により大気圏高層のイオン化が大きくなり、下層雲を発達させて、太陽光の地上への到達量が減少するというスベンスマルク効果を提唱した(1997年)(図10)。この効果は日傘効果による低温化で、-9.5W/m2と見積もられ、二酸化炭素による温暖化の+1.7W/m2よりも遥かに大きな値である。この低温化は中・低緯度では大きく作用するが、高緯度地域は元来低温のため、むしろ雲は温暖効果に作用したと思われる。地磁気逆転時には生物の絶滅があったのではないかとの研究が多々なされているが、最も影響を受けたであろう走磁性バクテリアやハト、サケ、ウミガメなどの種族は現存しているので、大きな変化はなかったであろうと考えている。

講演の締めくくりには、人類の祖先について興味あるお話しを伺った。ジャワ島サンギラン地区は原人ピテカントロプスの化石が出土した所で、これまでに100個をこえる人類化石が見つかっており、世界遺産としても登録されている。アフリカで誕生した最初の人類がいつ頃ジャワに辿り着いたかについてはAr-40/Ar-39の同位体分析年代法による150170万年前という説とそれに古地磁気層序法を加えて約110万年前を唱える説と激しい論争になっている。講師らは古い年代説はサンプリングに問題があるとの結果を得ている。興味あるのは最も新しい原人(6号)の出土した層は丁度地磁気逆転の時代と合致しており、それ以降の層では化石が見つかっていないことである。ジャワ島でサンギランよりも東部で次の原人化石が見つかったのは50万年も後の地層である。この間、アジア地区ではインドシナ半島に天体衝突イベントがあった証拠が残されていて、何らかの環境影響があったものと考えられている。

           (大嶋 記)

シンポジウム開催風景

豊松会長開会挨拶

 

奥田教授閉会挨拶4

 


 

HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト