HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト

 

国際シンポジウム「低線量防護の科学的根拠を求めて」放射線と健康2 参加記

 既報(ONSAニュースVo1.92)(平成1111)

「低線量放射線影響に関する公開シンポジウム”放射線と健康”」の内容を紹介した。

1.少しの放射線では”がん”にならない。2.ラドンと健康「ヨ-ロッパでの研究」。3.生物になくてはならない放射線。4.低線量全身照射併用”ガン”放射線療法。5.少しの放射線は免疫を活性化させる。6.放射線ホルミシス研究の紹介。7.少しの放射線は健康に有益。8.放射線「悪玉が善玉になる場合」。9.放射線はどんなに少なくても有害なのか。10.少しの放射線にはびくともしない人体。

 

 これを受けて(財)電力中央研究所では、「低線量放射線研究センタ一」が設立された。平成13516日、設立記念国際シンポジウム「低線量防護の科学的根拠を求めて」を開催。ここに招かれた、ICRP(国際放射線防護委員会)R.H.クラーク氏の講演「ICRPの基本理念の変化一防護倫理と原則の進展」及びパリ大学ベクレル研究所長 M.テュピアナ氏の講演「低線量放射線の発がん作用一しきい値無し直線仮説の位置づけ」の要旨を紹介する。

 

ICRPの基本理念の変化一防護倫理と原則の進展一

ICRP委員長 R.H.クラーク

 放射線が医学、産業に使用されるようになってから100年が経過した。この間を通して、被ばくによる障害から人々を防護する必要が唱えられてきた。明確な年代諸相を経て、防護基準がどのように進展してきたか。これらの各年代層は、被ばくの生物学影響の変遷を反映している。その結果、防護に用いられた原理は絶え間なく進展し、また、進化しつづけるであろう。1999年、国際放射線防護委員会の一連の勧告を形式にまとめた案が出版されたが、これは、これまでの勧告より簡素化され、個人の防護をよリ重視したものであった。つづいて,必要となる実用的な解釈に対応するために、この提案をどのように拡張するかについて広汎な議論が行われてきた。委員会は、問題となった点に着目し、次期勧告の策定へ向け、何が問題であるかにっいて合意に達したところである。

 

低線量放射線の発がん作用一しきい値無し直線仮説の位置づけ一

パリ大学ペクレル研究所長 M.テュビアナ

1.発がん効果が認められる最低線量はどれほどか?

 ウォーレントン会議において、lOOmSv以下の線量では発がん効果が認められていないことが合意された。この発表は検討に値する。70100mSvの線量で、女性の乳児や幼児では甲状腺がんと乳がんが発生することが報告されている。しかし、他のタイプの腫瘍は小児においてもlOOmSv程度の線量では誘発されないようだ。

 成人では、発がんおよび白血病の誘発は、高線量率で200mSv以下、低線量率では400mSv以下では報告がない。

 胎児では約30mSvの線量で照射後発がんをみた報告があるが、同じ線量を用いた動物実験では発がんが認められないので、まだ議論の余地がある。少量の放射線による発がんが報告されている乳児や幼児の甲状腺、幼児の乳房,胎児の組織は高い細胞増殖を有している。いくつかの組織では、発がん効果が認められる線量の下限は約1Svである。

 

2.しきい値なし直線(LNT)モデルの有効性

  このモデルの基本的仮定は、ひとつのDNA損傷ががんに発展する確立は、同じ細胞または周辺細胞に発生した他の損傷の数に関わりなく一定であるということである。それ故に、この仮定によれば、放射線の線量も線量率も発がん率に影響しないことになる。しかし,この仮定が実験データと一致しないことは明らかである。そこで、他の損傷の影響(したがって線量率の影響)を、発がん過程の各段階で調べることになる。

a)DNA、染色体の損傷の修復、および修復誤りの確率。

b)細胞増殖の発がん促進効果。

c)周辺細胞による抑制。

d)細胞に対する放射線ストレス効果。

 最近のデータは、放射線の生物効果がDNA損傷に限らないことを示している。ストレス応答などの機構が、例えば遺伝的不安定などにおいて重要な役割を果たしている。この場合、標的は細胞のゲノムや細胞核よりも大きく、さらに細胞よリも大きいときもあり、おそらく周囲の細胞を含むこともある。

e)長期的な刺激や炎症および組織の秩序の破壊は多くのがんで重要な役割を示しており、タバコや太陽光線(紫外線)により引起こされるヒ卜のがんでよく立証されている。

 基礎的な実験データは、発がん現象が少なくとも約10の遺伝子が関与する複雑な現象であることを裏付けておリ、単一の遺伝子の損傷が発がんのプロセスを開始するのに十分であるというモデルで発がんを説明することはできない。しかしながら、遺伝的素因の研究によって、特定の遺伝子の対立遺伝子上の突然変異や欠失が、ある種の(すベてではないため、単一のDNA損傷ががんを誘発する可能性は、非常に小さいがゼロではないと考えられる。放射線適応応答に関する研究は、この問題にどのような貢献をするだろうか?とくにジヨイナーの実験デ一夕と、P.デュポ一卜によってまとめられた動物実験についての総説、そして、その他のいくつかの実験は、少量の放射線量によってがんの発生が抑えられる可能性を見落としてはならないことを示す。

 疫学的データに関して、LNTモデルを支持する主な理由は、原爆被ばく生存者において,固形腫瘍の線量効果関係がLNTモデルに適合することである。しかし、適合することが,妥当性や,ましてや正当性を意味するわけではない。さらに,原爆被ばく生存者の白血病、アルファ(α)放射性核種によって、誘発される骨肉腫と肝腫瘍、放射性ヨウ素で治療を受けた患者の白血病、放射線地域でがんが増加しないことなど、LN Tモデルと相容れない疫学デ一タも多い。科学的に許容できるモデルは、一部のデータだけでなく、入手できる全デ一夕の面から検討しなければならない。

 以上まとめると、LNTモデルは放射線防護において管理の目的のためには便利な方法ではあるが、その科学的基盤は極めて弱い。リスク評価のために集団線量を用いてはならない。lOlOOmSv/yの線量範囲では、LNTモデルに基づく直線的な外挿は、リスクの上限を与えることができるが、l10mSv/yの線量範囲(自然のパックグランドの範囲内)では、直線的な外挿には細心の注意を払うべきであり、より高い放射線量で計算されたリスクと足し合わせてはならない。lmSv(あるいは0.3mSv)以下の放射線量は、リスク評価の際に考慮すべきでない。

 

 このように放射線の人への低線量放射線影響に関する議論は止まることがないが、さらに詳細は下記をご参考にしていただきたい。

 NPO安全安心科学アカデミー(仮認定NPOHP「放射線被ばくの健康影響に関する資料・議論

 

HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト