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55 UVEB研究会 聴講記

平成251115日 於 住友クラブ

1. 量子ビームを利用した金属ナノ粒子の生成とその応用(会員ページ)

山本 洋揮氏(大阪大学産業科学研究所量子ビーム物質科学研究分野)

 金属ナノ粒子は筆者も現職時代に手がけたことがあるので、今回の山本講師の講演は大変興味深く聞くことが出来た。講演ではまず講師が所属する阪大産研の量子ビーム物質科学研究分野と関連施設の紹介をした。この分野では量子ビームが物質に誘起する化学反応と反応場の研究を通して、新しい化学反応システムの構築を目指しているそうである。その後、本題である放射線誘起還元法による金属ナノ粒子の生成とその利用について講演した。初めに水溶液中での放射線誘起還元による金属ナノ粒子生成機構を説明し、続いて有機溶媒中での生成機構を紹介した。

ナノテクノロジーという言葉が盛んに聞かれるようになってから久しいが、その素材としてナノ粒子やナノクラスターは基本である。放射線誘起還元法で金属イオン前駆体から金属ナノ粒子を作る試みは多くなされてきた。放射線照射によって水分子は分解されて生成した還元性の強い水和電子eaq-やHラジカルは溶液中に金属イオンと共に均一に分布しているので、結合エネルギーの大きな金属原子は会合するとまず二量体となる。一方、生成した強い酸化作用を有するOHラジカルは、金属イオンの還元を妨げるため、通常はその作用を抑制するための添加剤を加える。会合プロセスの進行に伴い金属原子はクラスター化する。実際の系では添加剤の効果によりクラスター表面の分子の固定化やクラスターを次の会合から保護してさらなる合体を阻害するなどの作用によってクラスターサイズが決まる。

溶解性の大きいエーテルの一種であるテトラヒドラフラン(THF)中でのガンマ線照射による金及び銀ナノ粒子の合成を試みた。THFにポリメチルメタクリレート(PMMA)を溶かした溶液中で金属イオンとして過塩素酸銀(AgClO4)を加えたものをγ線照射した。照射に伴い銀の表面プラズモンに対応する光吸収のピークが増大した。図1は照射量に対する吸収量の変化である。照射量が1kJ/Lまでは吸収量はあまり変化しないが、これは初期に形成される銀原子やオリゴマーは還元ポテンシャルが低いために酸化されやすいことによる。その後はリニアーに増加しているが、5kJ/Lを超えると吸光度が下がり、溶液の色も透明となる。これは銀ナノ粒子が安定化されずに凝集して沈殿したためである。回収した粒子をTEM観察するとナノ粒子では銀結晶の格子縞が観察されるのに対して、沈殿粒子ではサイズが500nm程度のポリマーに埋め込まれた凝集体となっていた。講演ではそれぞれの段階での反応を詳細に議論した。

半導体産業の基幹技術では現在レーザー露光による32nm以下の微細加工技術が主流であるが、今後11nm以下のパターンを1nm以下の精度で加工することが要求されることが見込まれており、それに対応する技術革新が求められる。その手がかりの一つとして、微細加工技術を利用した金属ナノ粒子の位置制御と題して金属ナノ粒子の形成メカニズムの知見に基づいた新規微細加工技術の創製を目的に実験を行った結果を紹介した。その手法はトップダウン技法であるリソグラフィ技術で作成した微細パターン上に均一な金ナノ粒子の自己組織化単分子層を並べるボトムアップ技術を合成することである。ジチオール自己組織化した単分子層に今回の方法で作った金ナノ粒子を配列させることを試み、金ナノ粒子を固定化出来ることを確認した。

 最後のトピックスは量子サイズ効果を利用する新規の分野へのチャレンジであり、今後の進展を期待したい。

 

 

     

1 銀ナノ粒子の表面プラズモン吸光度の照射量に伴う変化

 

2.関西電子ビーム(株)における電子線加速器を利用した照射事業への取組みについて(会員ページ)

辻 朝治氏(関西電子ビーム(株))

 関西電子ビーム(株)は平成20年3月に関西電力()と原子燃料工業()との出資により設立された会社で、平成23年9月に福井県美浜町で操業を開始したばかりの新しい企業である。

原発立地県である福井県では、地域と原子力の自立的な連携を目指して、平成17年3月に「エネルギー研究開発拠点化計画」が策定され、「1.安全・安心の確保」、「2.研究開発機能の強化」、「3.人材の育成・交流」、「4.産業の創出・育成」の4つの観点から、さまざまな施策が展開されている。電子線照射施設の整備については、「4.産業の創出・育成」の取り組みの一つとして、関西電力鰍ェ主体となり進められてきた。講演では設立の経緯から現在行われている照射事例に関して公開可能な部分について紹介があった。

主たる事業は、電子線による滅菌処理および材料の改質処理及びそれらに関連する研究技術開発、その他顧客支援サービスであり、 医療機器製造業許可は平成231116日に取得している。納入された10MeV電子線加速器はベルギーIBA社のロードトロンであり、すでに原子燃料工業(株)で10年以上運転実績がある照射装置である。

研究開発の機能として、ふくい未来技術創造ネットワーク推進協議会に8つの研究分野があり、その一つが放射線利用・材料開発研究会で、繊維、材料産業を中心に計28社と地元を中心に大学、研究機関の計7機関(何れも平成24年3月現在)が参加している。それに加えて福井県内外の電子線照射による研究開発シーズ・ニーズを持つ企業・大学等がこの電子照射施設を利用しているそうである。

研究開発の内容としては敦賀市にある若狭湾エネルギー研究センターともタイアップして福井県の産業の特性を生かした繊維関連が多いという印象であった。興味ある話題としては一時期大発生で問題となったクラゲの利用法(図2)や若狭塗の箸の塗膜改質などがあった。今後重要となりそうなテーマとして医療現場で使用する繊維にID機能を付与したe−テキスタイルの導入の際に、電子線滅菌の可能性の検証があった。

外科手術の際のガーゼなどの体内への置き忘れのチェックなどにICチップの利用などの実現性は高いと思われる。

その他当施設では照射室に大型の実験設備の搬入が可能となる搬入扉を設置してあり、1.5×3×2m程度のサイズの試験装置の持ち込みが可能である。実際に、自社の実験装置を設置して実験を行っている有名企業もあるようである。

2 関西電子ビーム()における研究開発の一例 (クラゲの有効利用)

 

3.電子線グラフト重合法を用いた金属イオン吸着不織布の調製(会員ページ)

堀 照夫氏(福井大学産学連携本部)

最初に頂いたパワーポイント講演資料のスライド枚数が大変多かったので、少し減らしていただいたが、それでも80枚あり、講演時間内にまとめて頂けるかどうか心配したが、杞憂であった。

堀講師は繊維加工研究の第一人者であり、ご多忙の中、ご講演をお引き受けいただき、キーポイントを簡潔に迫力のあるお話しで紹介された。

まず繊維の後加工による従来の機能化法とそれらの問題点について概説した後、今後期待される様々な加工法について述べた。その代表例が放射線やプラズマを用いる加工技術である。とりわけ繊維工業への応用としてはグラフト技術による機能化が有望である。

しかしながら電子線照射技術は、フィルムなどの薄物の連続加工、マットのような厚物のバッチ加工などに利用されているが、繊維の連続量産加工に応用された例はないそうである。日本を始め、フランスやドイツ(溶剤系)で照射線技術を繊維に応用する研究が多少行われてきたが、実用化例は少ない。

最初に実験室スケールによる研究例として電子線による繊維加工を紹介した。

照射装置は福井県工業センターならびに福井大学に設置されている150250kVの電子線照射装置を使用した。例示されたものは各種繊維の水の吸放出挙動、撥水挙動、光触媒機能、耐熱性ポリ乳酸繊維、撥水性ポリエステル布帛、ケブラー(芳香族ポリアミド系樹脂)の染色性改善、PET布帛の難燃加工などである。

さらに実機スケールの研究例としてとりあげたのは今回の講演の表題である様々な金属の回収繊維の調製である。これは目的とする金属に対する吸着能を有する官能基を繊維に付与することによって可能となる。クラレからソフィスタの商品名で合成繊維でありながら、天然繊維の機能を併せ持つ繊維が出ている。これは芯の部分は合成繊維であり、その外側の鞘の部分に親水基を有する構造をもつ。

さらに、不織布を製造する技術にスティームジェットを利用する手法があり、クラレはソフィスタからスティームジェット法でクラフレクスという高い親水率と空隙率を有する不織布を創った。この繊維に電子線グラフト重合により金属イオン回収機能を付与することを試み、レアアース金属のサマリウム、テルビウムについての成果の紹介があった。

講演の内容は最後のスライドで以下のようにまとめられた。

1) 高い比表面積、高強度、軽量、高い通気性(通水性)、親水性

 2) グラフト率:〜400wt%まで可能

 3) 最大金属吸着量:200〜400g/kgの金属が吸着できる!

 4) 高い選択吸着性(イオン交換、キレート形成、共有結合などの組み合わせ)

★高い生産性

 1) 電子線照射(外部委託または実機の導入:250keVレベル:織物・糸加工(10〜500m/min)

  (クラボウ、住江織物ら)、他に10MeVも利用可(60cm厚さでも均一の電子線照射)

 2) 化学処理は染色・整理企業で可能(染色加工機の利用)

 3) 各種形態に対応(円筒状、平幕状、その他)

★実用化はこれから

 1) 海水や工場廃液からの有用金属の回収

 2) ターゲット金属の絞り込み

技術交流会では3名の講師の皆様にご参加いただき、研究会では詳しく聞くことが出来なかった内容について議論が弾んだ。堀先生は風邪気味のところをご無理されたようで、研究会後しばらく寝込まれたと伺い申し訳なく思う。                             (大嶋 記)

  図3 金属吸着性の付与の説明        

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