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第54回UV/EB研究会より(聴講記)

表記研究会は平成25年9月6日(金)13:30から19:00までサンエイビル(大阪市中央区南船場)において開催された。今回の講師は瀬古典明氏((独)日本原子力研究開発機構)、山崎 智氏(住友電気工業梶j、吉田耕二氏(ユニチカトレーディング梶j及び湯浅基和氏(積水化学工業梶jであった。                                   (大嶋隆一郎 記)

1. 電子線グラフト重合技術を活用した繊維状触媒材料の開発(会員ページ)

(独)日本原子力研究開発機構 瀬古 典明

高分子材料における放射線グラフト技術は様々な分野で利用されているが、今回の瀬古講師の講演は主にバイオディーゼル燃料(BDF:io-iesel uel)の生成のための繊維状触媒材料の開発と原発事故以来福島で対応を急がねばならない除染材料に関するものであった。

最初に講師の在籍する高崎の量子ビーム応用研究部門の紹介を簡潔にされた後本題に入った。

高分子材料は加工性、汎用性、価格の点から世の中で広く使用されており、それに新規の機能を付与する手法としてグラフト重合技術は大変優れている。今回取り上げたBDFは基本的に脂肪酸エステルであり、植物性油、動物性脂を原料としてアルコールと混合した後、触媒を利用してエステル交換反応を促進させ、分離、精製によりBDFを得る。ただし、超臨界アルコール法のような触媒を要しない製法もある。表1はBDFの製造法をまとめたものである。

液体処理の手法として反応容器内で粒子状吸着材と使用する場合と繊維状吸着材を使用した場合を比較すると繊維状では吸着面積を大きくとれるので、一般に吸着速度が液体の供給速度を上回り、高効率に吸着させられる。照射によるグラフト材は価格が割高になるため、性能向上が求められる。模擬試験の結果では繊維状グラフト吸着材では粒子状よりも2000倍高速に反応させることが出来たそうである。今回作成した触媒は基材としてPE製不織布を採用し、電子線照射によって表面に反応活性種を発生させてグラフト重合によりBDF製造用触媒を得た。

原料として標準物質の油脂について試験したところ、通常の粒子状触媒に比して2倍高速で転換が可能であった。転換効率の検討結果、転換基にはトリメチルアミンを選定した。また天然油脂を原料とした場合には90%以上の転換率を得ることが出来た。後半では原子力研究開発機構が行っている福島原発事故後の環境修復事業である放射性物質汚染処理のためのグラフト捕集材のフィールド評価について紹介した。

個々の材料に関しては詳細には触れなかったが、農業用水、農地土壌、除染除去物の減容化を初め井戸水に対するCs吸着試験などの結果をふまえて活性炭をグラフト捕集材からなるカートリッジを作製し、平成25年3月からモニター試験を開始している。

 

表1 バイオディーゼル燃料の製造方法と特徴

 

 

 

2. ナノコンポジット熱収縮チューブの開発(会員ページ)

住友電気工業株式会社エレクトロニクス・材料研究所 高分子材料技術研究部 山崎 智

 半田ゴテをあてれば直ちに収縮して、配線接続部を被覆してくれる熱収縮チューブは筆者が現職時代には研究室で大変重宝してきた。熱収縮チューブはこのような電気絶縁のみならず、耐熱保護、防食防水、機械的保護、結束以外にカラーによる識別、装飾などの分野で広く応用され、家電、電子機器、自動車、航空機などにとって不可欠の部品の一つである。

今回ご講演いただいた住友電気工業(株)は1964年からスミチューブの商品名で熱収縮チューブを製造、販売してきた。今ではメーカーの名前を知らなくてもインターネットで目的に適ったチューブを購入できるようになっている。材料の高分子材料に対して電子線照射による架橋反応が製品の加熱時の形状記憶効果付与として重要である。

多くの分野で利用されてきた熱収縮チューブであるが、近年の著しい電子機器、電子部品の小型化により低収縮温度で薄肉でも挿入・加工の容易な製品の開発が要請されるようになった。目標値は肉厚50μm、剛性値300MPaである。樹脂選定にあたっては低融点の観点からLDPE(低密度ポリエチレン)を採用し、ナノコンポジット化による高弾性率化を図った。樹脂の弾性率を上げる手法としてフィラーと呼ばれるタルクなどの微細粒子を分散させることが行われて来たが、薄肉化のためにはナノサイズのフィラーが要求される。

ナノフィラーとして層状に壊れやすい層状ケイ酸塩を選択し、二軸混合機でLDPEとフィラーを混合してコンパウンドを作成し、物性調査を行った。その結果、TEM観察では厚さ数nmのフィラーが分散しており、弾性率も400MPa以上と目標値を大幅に超える材料が得られることが分かった。

得られた試作品のデータを表2に示す。

フィラーとして容易に劈開するナノフィラーを添加することによりナノコンポジット材を得ることが出来、肉厚50μm、弾性率485MPaに達する熱収縮チューブの製造に成功し現行品と同等の温度で熱収縮することを確認した。

 

表2 試作熱収縮チューブ結果

 

 

3. 低温プラズマ加工技術を応用して繊維素材の展開(会員ページ)

ユニチカトレーディング株式会社技術開発部 吉田 耕二

ユニチカという名前を聞くと、つい東京オリンピックの折のニチボウ貝塚のバレーボールの活躍を思い出すのは筆者の歳のせいであろうか?折しもこの研究会の後、2020年のオリンピック開催が東京に決まったといるニュースが流れ、さらに東洋の魔女の中心にいた河西昌江さんの訃報を聞くことになった。

さて、市場には様々な機能性を付与した生地が登場しているが、それを支える技術の一つが今回ご講演いただいた低温プラズマ加工技術である。低温プラズマでは電子温度は高いものの、ガス温度は低くプラスティックや合成繊維などの融点よりも低い温度に設定できるので、熱により損傷を受けることなく処理が可能である。

さらにナノオーダーの表面のみの反応であるため、表面特性のみの改質が可能で繊維表面の親水化、疎水化や表面の清浄化などを行える。特に反応エネルギー自体は高いので、従来の化学反応では不可能な新規の表面改質が出来るという特徴を有する。会社では30年程前に低温プラズマ加工技術の研究を始めたそうである。講演では低温プラズマの作用と繊維高分子への応用例を詳細に紹介された。

作用として1.エッチング、2.化学修飾、3.架橋、4.プラズマ重合があり、導入するガス種を選択することにより各種繊維に対して様々な機能を付与することが出来る(表3)。グロー放電による低温プラズマを用いる装置にはバッチ式と連続式があるが、当会社ではそれぞれの特徴を勘案して、バッチ式グロー放電プラズマ装置を採用している。講演の後半ではこの技術から生み出された機能素材を紹介した。25年前から市場に出ているのはウールの防縮加工と撥水加工を施した「デュアルプラスW」、「デュアルプラスWP」である。

これらは保湿、保温などウール本来の性能を維持しながら、防縮性に優れまた疎水、撥水性能を有する。ただし、低温プラズマ処理のみでは風合いが硬くなることや防縮性能も実用域に届かないことから更に化学処理によって機能付与を図っているとのことであった。

一方ポリエステル繊維に対する低温プラズマ加工繊維には「デュアルプラスEM」がある。この材料をベースにして新たに開発されたのがナノフェイズ加工シリーズである。これには「DE」、「UF」、「AS」、「LF」の4種類があり、それぞれ洗濯耐久性に優れているのみならず、消臭性、抗菌性、制電性、汚れ除去性等に特化した性質を有している。

会社としてはウール、ポリエステル素材以外のセルロース繊維や衣料用途以外の資材用途への展開を考えているそうである。

 

表3 低温プラズマの作用と繊維高分子への応用例

作用

ガス種

応用例

エッチング

ArO

ポリエステル繊維の深色化5)、接着性の改善6)、減量加工7)、ポリエステル/綿混紡品の糊(PVA)の糊抜8)

化学修飾

NONH

ポリエステル繊維の親水化(ONH)・疎水化(H26)

ポリエチレンの疎水化(F29)

フッ素系ポリマーの親水化(N2O210)

架橋

高エネルギー粒子、プラズマ中で発生する紫外線等

PVCの可塑剤溶出防止11)

ポリエチレンの熱安定性の向上12)

プラズマ重合

(含むグラフト共重合)

有機物の気体

 

無機ガスとモノマーの複合

綿繊維とベンゼンのプラズマ重合による撥水性、乾防しわ性向上13)

ポリエステル繊維とモノマーのグラフ共重合による親水、防汚性付与(Ar14-15)

 

 

4. 大気圧プラズマ応用技術(会員ページ)

積水化学工業株式会社 P2事業推進部 湯浅 基和

社名から受けるイメージは化学製品のメーカーであるが、講演を拝聴して従来の積水化学に対する観方が一変した内容の講演であった。

積水化学では1993年から大気圧プラズマ技術の研究をスタートした。大きな特徴は当時の常識だったHeガスを使わない脱Heを目指したことである。液晶TVがまだ市場に出回っていなかった1997年頃はフラット型ブラウン管の時代であり、その反射防止フィルムやトヨタのプリウスが発表になり、その電池のセパレータフィルムに応用した。2000年頃からは液晶TVの急速な普及が進んだ。

当時の電子デバイス製造工程はバッチ式で真空下での取り扱いが必須であり、工程毎に真空装置からの出入が要求されるため、対象物の大型化により真空処理に要する時間が作業工程を律速するようになった。例えば液晶テレビのディスプレイは急速に大型となり、必然的に従来方式プラズマ処理装置も重厚長大にならざるを得ない。これに対して大気圧プラズマ処理では基盤をロール輸送することにより大気圧下での連続処理が可能となりスケールアップが容易となった。大気圧プラズマの特徴は

.連続生産に有利、2.高い生産性、3.真空チャンバーを要せず、スケールアップが容易、4.大気圧下ゆえに低温処理が可能、5.幅広い展開性を有する 

ことが挙げられる。

ただし、高周波の印加によるプラズマ発生ではグロー放電からアーク放電に至る過程があり、大気圧プラズマを安定に発生させるためにはアーク放電を抑制するために周波数のチューニングが必要である。この課題を積水化学ではスイッチング回路を巧みに利用してアーク放電以前に電源をオフすることにより解決し、安定したプラズマが得られるようにした。

応用として洗浄、デスカム、親水処理、撥水処理、エッチング、表面処理などの広範囲にわたり、液晶ディスプレイの一連の製造工程の川上から川下の全てで使われている。また方式には電極間に基材を挿入するダイレクト方式、電極間から外れて基材を通すリモート方式、局所的に処理するスポット方式などの何れにおいても積水化学は対応可能とのことである。講演ではその他フィルム製造工程での大気圧プラズマ処理装置についても詳しく紹介された。図1は表面処理装置とプラズマ重合装置の例である。

講演の最後にはビデオにより実際の稼働状況がいかなるものかを示され、理解の助けとなった。湯浅講師は大変ご多忙で当日も午前の東京での会議の後、当協会の研究会にお出でいただき、その後夕刻には得意先との打ち合わせがあるとのことで、技術交流会にはご参加いただけなかったのは心残りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 フィルム用大気圧プラズマ処理装置

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