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第53回UV/EB研究会より(聴講記)

表記研究会は平成25517日(金)13:30から19:00まで住友クラブ(大阪市西区江戸堀)において開催された。今回の講師は大島明博氏(早稲田大学)、工藤宏人氏(関西大学)、足利一男氏(ヘレウス・ノーブルライト・フュージョン・ユーブイ)及び斉藤恭一氏(千葉大学)であった。

 

1. 量子ビームを用いたフッ素系高分子材料の表面改質と微細加工(会員ページ)

早稲田大学理工学術院総合研究所/大阪大学産業科学研究所 大島明博

 

通常テフロンと呼ばれているフッ素系高分子は、高電気絶縁性、耐薬品性、防汚性等に優れていることから、私達の身の回りにある多くの製品に利用されている。一方その優れた性質故に加工性や改質処理に難点があり、産業用途への展開を阻害してきた面もある。今回の大島講師の講演は代表的なフッ素系高分子であるPTFEに対する各種量子ビームの照射を利用した機能化、表面改質ならびに、電子線を用いたナノインプリントリソグラフィ技術による微細加工体作成技術についてであった。

 既述のようにフッ素系高分子は撥水・撥油性、耐薬品性などの特性を有するため、薬剤処理などによる機能性付与をはじめとする表面改質が困難で、通常はコロナ放電やプラズマ処理などによる表面処理が施されている。

しかしながらこの手法での改質は最表層に限られることから、機能や性能が持続せずに耐久性が低いという課題があった。最近、4080keVクラスの超低エネルギー電子線照射装置が国内のメーカーにより相次いで開発され、この電子線を用いるとフッ素系高分子の基材の機械的特性を損なうことなく表面から10μm程度までの深度に限定したエネルギー付与量を高くすることが可能である。この手法はフッ素系高分子に限らず、一般的な材料の表面改質や薄膜試料に対する大線量照射を可能としてそれらの改質が可能であることから、産業の応用への期待も高い。

実験では代表的なフッ素樹脂であるPTFE,PFA,ETFAに対して、照射中の酸素阻害を防ぐために窒素気流中で加速電圧を40110kVで電子線照射を行い、大気中に取り出した後、ESRで生成ラジカル量を評価し、さらにスチレンモノマーを60℃ならびに80℃の液相中でグラフト重合させた。

その後、クロロスルフォン基を用いて室温で24hr反応処理して、親水性を付与するためにスルフォン酸基を導入した。片面を処理後のPTFEフィルムを四塩化炭素液中に浸漬すると処理を行った表面は濡れるのに対して、未処理側では液をはじく。

このことから超低エネルギー電子線照射とグラフト重合法を組み合わせることにより薄膜材料に対しても片側のみへの表面機能付与が可能であることが示された。

 続いて表面に架橋処理を施したフッ素樹脂に対して放射光による放射線照射を利用した直接微細加工の紹介がされた。従来からLIGAと呼ばれた方法はX線リソグラフィ、電気メッキ、モールディングの組合せによりアスペクト比の大きな形のものを作る方法として利用されてきたが、フッ素系材料に対してはその材料の優れた特性のために適用できなかった。

住友重機工業ではPTFEに対して小型の放射光装置AURORAからの放射線を利用してPTFEを直接エッチングする技術を開発し、TIEGATeflon Induced Etching and Galbanic foriming)と命名した。ただ、この手法はX線を遮蔽する高精度のマスクを作成する必要があり、コストがかかる。マスクレスで直接パターンを製作する方法に集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam)法があり、高アスペクト比の微細加工が可能であることも実証できたが、時間がかかりすぎて量産向きではない。そこでTRaFプロセスと呼ぶ方法を開発した。

これは架橋とファブリケーションとを同時に行うことにより短時間かつ安価・高精度にフッ素系樹脂の微細加工体を作成するためのThermal and Radiation process for fabrication(TRaf)から名付けた方法である。

先ずモールド(金型)を作成する。Siを基板とした場合、基板上にレジスト原料をスピンコートし、電子線で文字・パターンを描画後、ドライエッチングして金型を得る。その金型にフッ素系樹脂分散液をスピンコートし、高温の窒素気流中にて電子線照射を行い架橋処理後に金型から剥離すると微細構造体が得られる。図1PTFE加工体の例である。EB照射量が低い場合にはEBの文字の形状が粗であるが、600kGyの照射では精度の高い転写体が得られ、更に照射量を上げると再びざらついてくることが分かる。

この方法は電子線ナノインプリントリソグラフィ技術を応用して新規の微細加工体作製技術であり、今後様々な分野で応用されそうな期待を抱かせる。(大嶋記)

1 TRafプロセスの例

 

.高解像性分子レジスト材料の開発(会員ページ)

関西大学化学生命工学部 化学・物質工学科 工藤宏人

工藤講師は有機合成が専門で、近年の半導体産業を支えるリソグラフィ技術の分野で重要な新規レジスト材料の開発を精力的に行っている新進気鋭の研究者である。露光の光源となるレーザーはKrF248nm)→ArF193nm)と変わってきた。次世代がArFの改良版でいくのかEB(電子線)でいくのかEUV(極端紫外)へいくのかは、明確にはなっていないが、それに対応してレジスト材料の開発も進化している。

当面のレジストパターンの解像度目標値は20nmとされているが、その開発にあたる大学の研究者がご自分以外に殆どいなくなったそうである。その大きな理由は世界でEUV露光可能な施設が極めて限られており、日本ではつくばのEIDEC((株)EUVL基盤開発センター)と兵庫県立大学の自前の装置しかなく、大学の研究者では材料を合成しても露光試験の段階までに辿り着けないからとのことである。

最近オランダのASML社がEUV露光機を販売するようになり、昨年度世界で10台程度販売されたとの情報があるが、光源強度の点から量産向きではなく、基礎研究用である。我国でどこかの機関がそれを導入して研究者に解放してもらえれば、研究もやりやすくなると思っていると冒頭で強調された。それでも価格は一基800から1000億円とのことで、容易に導入できるものではないことが明らかである。

講演の前半ではこれまでに開発されてきた様々な材料の特長を詳細に紹介し、後半は工藤講師らが近年行っているEUV光源を念頭においた新規レジスト材料の開発に関して苦労話をおりまぜながら講演された。ArF対応迄では今回紹介しただけでは足らないほど、多くの研究結果が報告されているそうであるが、EUV対応とする研究となると報告は一挙に減ってしまうとのことである。

レジスト材料として嘗ては高分子材料が主役であったが、近年は分子量の小さい分子レジストが注目されるようになった。当面の次世代レジストに要求されるスペックとしてはパターンの分解能が20nm以下、露光に対する感度は25J/cm2、パターン淵のぎざぎざの粗さが1.5nmだが、これらは互いにトレードオフの関係にあることに注意して材料設計する必要がある。

高分子材料では分子長が長く、粗さが大きくなることが避けられないが、分子レジストではそれが改善されるのみならず、分子骨格の精密な設計が可能で、官能基数や構造の僅かな差異によりレジスト特性を大幅に変化させることが出来る。幸いにEUV光の吸収は元素に依存し、多くの有機化合物の基盤構成元素であるC,N,Oは光吸収断面積が何れもあまり大きくないので、有機化合物の分子設計がやりやすいというメリットがある。

まずパターン淵の粗さに注目すれば、従来の高分子では分子の長さが大きく、必然的に端の凸凹が出てくるため、分子数の少ない分子レジストを開発せねばならない。その候補として製膜性と反応性に優れたcalixareneが注目され、多くの研究報告があることが紹介された。calixareneの中でも特にその4量体が有望視され、講師らもそれに注目して探索合成研究を行ってきた。なかなかうまくいかずテーマを与えられた学生が度々投げ出すこともあったが、最終的には動的共有結合化学反応によりラダー型環状オリゴマーを選択的に合成し、その形状が水車に似ていることからラテン語の水車を意味するNoriaと命名し、その水酸基に光脱保護反応基を導入し、22nmの高解像度のレジスト材料を得ることに成功した(図2)。

その他類似の様々な材料を合成して試験を重ねているが、Noriaを超えて感度、分解能の条件をすべて満たすような材料の合成には成功していないそうで、未だ開発段階とのことであった。最近、分子サイズと共に包含される空孔のサイズ・挙動が重要な手がかりとなることを確信されたそうである。

全体に大変興味深く聞かせていただいたが、有機化学を専門としない筆者にとって次々と出てくる有機化合物の名前や構造についていけなかったのは少々残念であった。(大嶋記)

2 Noriaの構造説明

.直流無電極ランプの特長と応用例(会員ページ)

ヘレウス・ノーブルライト・フュージョン・ユーブイ株式会社 足利一男

同社は米国系無電極紫外線光源メーカーとしてスタートし、UVランプ装置の販売とUV硬化プロセス技術の普及活動を行っているが、本年2月に株主の交替により社名が標記のような長い社名に変わった。

UV硬化プロセスにはUV光源が必要であることは言うまでもない。日頃私達に馴染みのあるUV光源はブラックランプと呼んでいる蛍光管式のものである。このタイプの小型光源は、当協会も主催メンバーの一員として夏休みに開催している「みんなのくらしと放射線」展で可視光では見えないような蛍光ペンで予め書き込んでおいた用紙を光らせたり、旅券(パスポート)の特定の部位を光らせたりするデモンストレーション用として馴染み深い。今回ご紹介いただいたのはタイトルにあるように、無電極で遥かに大型の工場のラインで用いられるランプである。

原理的には家庭用電子レンジと同様で、マグネトロンを用いて2.45GHzのマイクロ波を発生させ、それによって管に封入した水銀を励起し、プラズマを得る。特長はフィラメントがないので、劣化する部分がなく、しかも直流であるため安定したUV波が得られることである。小型のものは家庭用電子レンジの中へ入れて発光する様子が見えるそうである。短所は装置が大型にならざるを得ないことであるが、講演を聞いてその短所を十分にカバーするだけのメリットがあることが良く分かった。

講演では1. 無電極ランプの発光原理と特長をまとめて話されてから、2. 光源の発光状態と光開始ラジカル重合、3. アクリルモノマーの光開始重合、4. UV照射光源の硬化物特性に与える影響について紹介された。

当然のことながらUV硬化反応はUV照射に伴う光反応ラジカル生成とそれらの基材との反応に関係するものであるから、光源の性質が重合反応と密接に関係している。交流を電源とする有電極ランプでは必然的に発光はパルスであり、無電極ランプであっても交流を全波整流した電源を使用する場合にはやはりパルスである。それに対して直流電源を利用する無電極ランプでは発光は一定である。

この電源の性質が光化学プロセスに密接に関係する。UV光が必要なのは重合開始材からのラジカル形成時のみであり、硬化反応は時系列でみれば早期のミクロゲルの生成からマクロゲルへの成長、硬化と進む段階では光は不要である。この過程を図3に示す。ミクロ的に観察すればパルス照射ではマイクロゲルは断続的に形成されるのに対して、定常光照射ではラジカル形成は定常状態になるため架橋領域でのサイズ均一性が高くなると考えられる。そのことを実験により確認した。位相差顕微鏡及び共焦点顕微鏡によりパルス照射、定常光照射での硬化領域を観察すると定常光照射の方が均一性の高い効果膜構造が形成されていることが分かった。さらに耐候性試験ではパルス照射での硬化膜においては多くのマイクロクラックが発生していた。

このことから、UV照射によって形成した硬化物特性は照射光源の発光状態によって形成される膜のミクロ構造の差によって影響を受けていることが明確になった。話を伺っていて直観的にはパルス光照射と定常光照射では微細構造に差が出て当然という気はするが、それをきっちりと実証することは重要であることを認識させられた。時には正直にデータを提示して客筋とひと騒動あることも紹介され、大変参考になった。(大嶋記)

3 無電極UV発光ランプの構造説明図

 

 

4. 除染用吸着繊維の放射線クラフト重合法による作製(会員ページ)

千葉大学工学部共生応用化学科 斎藤恭一

東京電力福島第一原子力発電所事故により環境に放出されたセシウムやストロンチウムによって汚染された土壌や水の除染が社会的に大きな課題となっている。

斎藤講師は長年にわたって(独)日本原子力研究開発機構(以下 原研)高崎研究所の照射施設を利用して放射線グラフト重合の研究に従事され、今回の講演ではセシウムを吸着するナイロン繊維の開発について最新の研究成果を紹介された。4月の当協会主催の放射線科学研究会でも原研・松橋信平講師からゼオライト吸着材を利用したプールの水のセシウム除去についてお話しを伺ったばかりであるが、今回は異なる切り口の講演であった。

本題に入る前にまず斎藤講師が学生時代から関わってきたウランの海水からの回収についての紹介があった。地下資源に恵まれず、周囲を海に囲まれている日本にとって海水に含まれる多様な元素は貴重な資源である。

当時原研の須郷高信博士(現環境浄化研究所)と斎藤講師らは海水からウランを回収するプロジェクトを進め、まず福島でテストプラントによる吸収材の実験を行い、その成果からウラン吸着能のあるグラフト布を大量に生産し、それらを陸奥湾や沖縄の海中に浸漬して、1kgのウランを回収することに成功した。このウランはまだコスト的に海外からの輸入価格と比べて採算がとれないが、技術的には確立したと言える。その後もグラフト技術を駆使して様々な機能性材料の開発を行ってきたが、20年程前にある会社と共同開発したものがようやく最近になって市販され、タイミングが如何に大事かということを実感したと述懐された。

最近では卵白から高効率でリゾチームを取り出すことに成功したそうである。斯様な状況のもとで、福島原発事故に伴う放射性セシウム汚染に際して、研究仲間からこのような事態の下で「先生は何もされないのですか?」と問われたことに発奮して、セシウム回収を効率的に行うグラフト技術の開発にファイトが湧いたそうである。

ただし、海水中のウラン濃度(3μg/L)に比してセシウムは放射能を有するものの、通常の汚染水中濃度では0.3ng/L1000Bq/Lとして)とウラン濃度よりも3ケタ以上も低いため大変だろうということを推察されたようである。講演では結局研究室一丸となり、セシウム汚染水から放射性セシウムを回収できる繊維の開発の成功に至った経緯について、当事者ならではの迫力あるご講演をしていただいた。完成した緑色のナイロン繊維には、震災復興支援として2億4千万円を超える寄付を行った米国歌手ガガの来日の際の緑色の髪の毛に敬意を表してガガと名付けた。

Csの吸着材として従来の研究から不溶性フェロシアン化金属を利用する研究が行われており、例えば多孔性イオン交換樹脂ビーズに担持する方法、シリカゲルやゼオライトに担持する方法が我が国で提案されている。斎藤講師らは市販のナイロン繊維に電子線照射を行いグラフト重合によりアニオン交換繊維を作成した後、フェロシアン化カリウム溶液に浸し、グラフト鎖中のアニオン交換基にフェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)をイオン交換吸着させた。

さらに、塩化コバルト水溶液に浸漬し、フェロシアン化コバルトの微結晶を繊維表面に担持した。これらフェロシアン化コバルト微結晶は外部の液中へ漏れることなく、グラフト鎖内に収まっている。その理由としてフェロシアン化コバルト微結晶は負の電荷を持ち、一方グラフト鎖は正電価を有して互いにクーロン引力を有することと、微結晶が成長段階でグラフト鎖に絡まってしまうからだそうである。

最終的に千葉大学の斎藤研究室の学生らが震災後3か月で作り出したものを(株)環境浄化研究所(須郷高信社長)が群馬県の地場産業の染色技術を使った量産に成功した。成果は特許ならびに速報論文として公開された。

製品は組みひも、フィルター、ネット状など除染現場に対応した形状に加工出来る。福島地区の学校など一部の地区の汚染水からのCs回収に実績をあげている様子を何枚かの画像で示されたが、価格のこともあり、なかなか一般に使用してもらう段階までにはいっていないとのことで残念なことである。講演の最後では研究室の学生たちのがんばりに敬意を表するとしめくくられた。(大嶋記)

 

4 フェロシアン化コバルト担持機構の説明

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