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第50回UV/EB研究会より (聴講記)

 表記研究会は、平成2461()13:30から19:00まで住友クラブ(大阪市西区江戸堀)において開催された。今回の講師は岡村晴之氏(大阪府立大学大学院)、東野誠司氏(株式会社トクヤマ)、有光晃二氏(東京理科大)、清水邦雄氏(ダイセル・サイテック株式会社)であった。

 


1. EUVリソグラフィー用非化学増幅型レジスト(会員ページ)

大阪府立大学大学院 工学研究科   

准教授 岡村 晴之

集積回路上のトランジスタ数は18か月ごとに2倍になるというムーアの法則がある。これを実現するためには、いかに小さなパターンをプリントするかという技術の進歩がかかわっている。最新の第3世代core iシリーズのパターンはArFエキシマレーザを使う露光装置を用いて線幅32nmのラインで描かれている。次の目標は22nmの線幅で、現在のArF193nmの光を複数回当てるマルチパターニングでも達成できるが、生産コストが高くなるめ、光の波長を一気に13.5nmと短波長化しようとするのがEUVリソグラフィーである。EUVは軟X線の極端紫外線である。

国際半導体ロードマップによると線幅20nmまではEUVの技術で対応できると考えられ、最新の研究データでは15nmのパターンが描かれている。EUVの問題点は光源のパワーが弱いことで、それをカバーするため感度の良いレジスト(感光性樹脂)を開発することが求められている。レジストに求められるのは感度以外に解像度とラインエッジラフネス(パターンのがたつき)があり、感度を上げるとラインエッジラフネスが悪くなるというトレードオフの関係にある。

現在使われているレジストは感度を上げるため、レジスト中に配合されている酸発生剤を加熱して強酸を発生させて酸触媒反応による化学増幅を行い、高感度と高解像度を得ている。しかし、化学増幅作用を制御できないという問題がある。化学増幅しなければラインエッジラフネスはよくなると期待されるものの、感度が悪いため、別の高感度化技術が必要になる。そこで、チオール基が連鎖的にチイルラジカルになるようなチオール・エン反応を利用すれば加熱することなく感度の向上が期待できる。実験に用いたレジスト、架橋剤、ラジカル発生剤、重合禁止剤を図1に示す。架橋剤は2級のチオール基を持った2官能性、3官能性および4官能性化合物を用いた。重合禁止剤は光が当たっていないのにラジカルが発生した場合に、ラジカルをトラップするために添加する。

レジストの合成はパラヒドロキシスチレン(PHS)にアリルブロマイド、5-ノルボルネン-2-カルボン酸無水物、あるいはメタクリル酸無水物と反応させた。各レジストについて分子量や組成比の異なるものを合成してネガ型レジストへの適応性を調べた。カルボルネン残基はチオール・エン反応の速度を速めるため導入したが、組成比を高めると、ネガ型レジストに必須な2.38wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)に溶解しないため対象外とした。またメタクリル酸エステル(MMA)も同じ理由で対象外とした。アリルエーテル型レジンでは組成比0.21のものが最適と判断された。分子量が大きいとラインエッジラフネスが悪くなる。一方、あまり小さくしすぎるとアリルエーテル残基が少なくなり、感度が悪くなってしまう。架橋剤であるチオールは2官能性のものがコントラストが良く、チオールの量を増やすと溶解促進作用がみられ、10mJ/cm2以下の高感度化が得られた。

1 実験に用いた化合物

 さらに高感度化を実現するため、1分子に2個の架橋点を持つチオール・イン反応を検討した。チオール・エン反応で合成したパラアリロキシスチレンの代わりにパラプロパルギロキシ基を導入したポリマーを合成してパタ−ンを描いたところ、チオール・エン反応で得た線幅よりも細い45nmの孤立ラインパターンが得られた。この系ではアウトガスの発生がなく、EUV露光機のミラーを汚すことがないので有力なEUV用レジン候補になると思われる。さらなる改善を努力しておられるとのことであった。

 

2. 電子線用高解像度ネガ型レジストTEBN-1の開発と特性(会員ページ)

株式会社トクヤマ ファインケミカル開発グループ 東野 誠司

半導体製造に用いられているリソグラフィーはArFエキシマレーザーで露光させるものであり、高価な露光装置を利用しなければならない。装置コストを安くできるのがナノインプリントの技術である。ナノインプリントというのは図2に示すようにモールド(原版)を使う一種のハンコのようなもので、モールドと同一のパターンを作成できる。またモールドは1回きりでなく何度も使うことができる。

2 ナノインプリントの模式図

 モールド作成に利用するのが電子線用高解像度ネガ型レジストTEBN-1 (Tokuyama Electron Beam Negative Resist)である。TEBN-1NECが開発したカリックス[6]アレーンの性能向上を共同で行ったのが契機で出来たものである。カリックスアレーンというのは図3に示すようにフェノール部位をメチレン鎖で連結した環状化合物で、ギリシャの聖杯(Calixcrater)と脂環式芳香族炭化水素(Arene)からなる造語である。[6]は構造式中のn6であることを示している。

3 カリックスアレーンとは…

 レジストに要求される性能は、安全性、操作性、パターン精度、塗膜性、ドライエッチ耐性、コントラスト等がある。解像度と感度はトレードオフの関係にあるがいずれも満たしたものが要求される。

 カリックス[6]アレーンのレジストは分子量が約1000である。分子量が小さいと分子サイズも小さくなりラインエッジラフネスが改善され解像度が良くなる。ただ分子量が小さいと架橋点を多くする必要があるため感度は悪くなる。このレジストでもライン幅が10nmのラインパターンを描くことができるが、現像処理する際一般に用いられている安全溶媒に溶けなかった。置換基を変えて溶解性を向上させる誘導体も検討されたが、熱安定性が悪くなることおよび結晶析出のため基板に対する塗膜性が悪くなった。

骨格をカリックス[4]アレーンにすると解像度は保たれたまま一般溶剤に対する溶解度が改善された。塗膜性能に関しても結晶が析出することなく、均一な塗膜が得られている。これはカリックス[4]アレーンの4つのベンゼン環の向きが図3に示したように同じ向きのコーン型だけでなくお互いに反転した4つの異性体の混合物として存在するためアモルファス性がでてきて結晶化が抑えられたと考えられる。異性体についてはNMRスペクトルの解析で確認している。このようにして高解像度でエッチング耐性が高く保存安定性も良く扱いやすいレジストTEBN-1が開発された。

 感度については現像液のイソプロピルアルコールを極性を増した自社開発の溶剤(TEBN-D01)に変えることにより、10倍に向上できた。まだ発表できないがTEBN-1よりも感度が良いレジストの開発にも成功したということで感度を100倍にすることができれば10nmよりも細いラインパターンの半導体がインプリント法でできるということであった。

 

3. 新規な光塩基発生剤の開発とアニオンUV硬化への応用(会員ページ)

東京理科大学理工学部工業化学科 有光 晃二

UV硬化技術は塗料、インキ、接着剤、エレクトロニクス関連部材、自動車関連部材などに利用され、現代産業に欠くことのできない技術となっている。表1にその分類と特徴を示す。

1 UV硬化剤の分類と特徴

 

活性種

長所

短所

ラジカルUV硬化

ラジカル

重合速度大、材料が安価

酸素阻害あり、体積収縮大、密着性悪い

カチオンUV硬化

酸素阻害なし、体積収縮小、密着性良い

金属基板の腐食あり、湿度の影響大

アニオンUV硬化

塩基

酸素阻害なし、体積収縮小、密着性良い、金属基板の腐食なし

低感度

 

 

 

 

 

 

現在はラジカルUV硬化が主流であるが、表1のような問題がある。カチオンUV硬化ではこれらの問題は解消されるものの、強酸が遊離するため新たな問題が発生する。一方、アニオンUV硬化は短所をすべて改善できるのに、低感度であるため実用的でないとされていた。講演者は高感度化を目指すため、@光塩基発生剤(PBG)の塩基発生効率の向上、A強塩基の発生、B塩基増殖反応の組み込みを研究されている。

 既知のPBGでは、弱塩基を生成するがCO2も生成していた。講演者は図4のようにヒドロキシ桂皮酸アミド(1)1級あるいは2級アミン生成と同時に残りのフラグメントが環化してCO2を発生しないことを見つけて注目されている。1級、2級アミンは弱塩基であるので硬化力が弱い。

4 二酸化炭素を副生しない光塩基発生剤

 強塩基であるアミジン、グアニジン、ホスファゼン塩基などを光化学的に発生させるためケトプロフェン(2)、キサントン誘導体(3)、テトラヒドロナフタレン誘導体(4)のアミン塩を用いた。

5 新規に合成した光塩基発生剤

5に示すように、2および3CO2を発生するものの、光分解によって塩基を発生し、4CO2を発生させることなく塩基を生成できる。アミド結合を必要としないので、念願の強塩基を発生できた。3のシクロヘキシルアミン塩(3a)では室温で硬化しないのに対し、強塩基であるグアニジン塩(3g)を用いることによって室温硬化が可能となったのは素晴らしいことである。

 

4. 現場施工型紫外線硬化性コーティング剤(会員ページ)

ダイセル・サイテック株式会社 開発企画部 

清水 邦雄

ダイセル・サイテック社の紹介のあと、コンクリート床コーティング剤についてご紹介いただいた。現在、コンクリート床コーティングの主流は熱硬化型で、エポキシ、ウレタン、ポリエステル系のものが使われている。コーティング材料の比較を図6に示す。熱硬化型は2液タイプのものが主流で、乾燥時間は2時間から6時間、完全硬化するまでに24時間必要な場合もある。MMA系のコーティング剤は均一な塗膜を得るため溶剤で薄めて塗布しているので、VOC(揮発性有機化合物)の問題もあり、局所排気が必要になって引火にも気を付けなければならない。この図からは最下段の紫外線硬化型が硬化速度および特性で優れているが、価格が高いのが難点である。熱硬化型でもMMA、ポリアスパラギン酸、あるいはイソシアネートとアミンのコーティング剤が発売されていて硬化時間は短くなるもののポットライフが短く、2液を混ぜたあとの貯蔵ができない。

図6 コンクリート床コーティング材料の比較

 紫外線硬化は1960年代に工業的に使われるようになり、パッケージ用の印刷インキや高光沢のコーティング剤として使われた。1990年代にはその用途が急速に拡大し、建築用木製品のコーティングや携帯電話などプラスチックのコーティング剤として使われている。2000年代に入って自動車の補修材料、フローリング材料、コンクリートや塩ビタイルの保護コーティング材料として現場で塗って現場で固める材料として使われ始めた。

 図7 コーティング剤の塗布

工場や倉庫のコンクリート床をコーティングする場合、トップコート剤を直接塗装すると、ポーラスなコンクリート基材に浸透して塗膜を作れないため、シーラーと呼ばれる水系の塗装膜を塗って目止し、硬化処理をさせずにその上からトップコート剤を塗って2層を一度に紫外線硬化させる方法がとられている。シーラーもトップコート剤もタックフリー(非粘着性)であるため作業しやすいのが特徴である。施工にあたっては事前準備としてコンクリートの洗浄や、前回塗装膜を除去する必要がある。床がきれいになったら図7および図8に示すようにコーティング剤を塗り、コーティング内のエアーを抜いたあと紫外線硬化させる。紫外線照射装置は輸入品であるため電源に200V が必要であったり、紫外線が漏れるためそれに対する防護が必要であるなど解決しなければならない問題がある。

コンクリート床コーティングに対する規格はヨーロッパで決められているが、米国や日本ではメーカーがガイドラインを作成している。評価方法は密着性、コインテスト、耐タイヤ跡性、などがあり、中でも耐汚染性に関しては赤色色素、ケチャップなどユニークなテスト項目がアメリカらしさを表している。紫外線硬化の特徴は塗装後すぐに使用可能、VOCおよび臭気の低減、耐久性に優れるなど多くの利点があるので、工場、オフィスビルのほか低温硬化できるため低温倉庫や低VOCであるので食糧貯蔵倉庫に適した塗装法であるからその方面に重点的にマーケティングしたいとのことであった。     (阿部 記)

8 コーティング剤の紫外線硬化

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