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第49回UV/EB研究会より

表記研究会は平成231111日(金)13:30から19:00まで住友クラブ(大阪市西区江戸堀)において開催された。今回の講師は岩田 稔氏(九州工業大学)、木村 敦氏(()日本原子力研究開発機構)、山田和志氏(京都工芸繊維大学)および立花 誠氏(荒川化学工業(株))であった。

 

.  宇宙材料の耐宇宙環境性評価と新規材料開発(会員ページ)

九州工業大学 工学研究科 岩田 稔

宇宙用材料には人工衛星を宇宙に運ぶためのロケットの材料と宇宙機である人工衛星の材料がある。人工衛星材料の新規材料開発の研究をご紹介いただいた。

宇宙機には衛星のボディを保護するために熱制御材料として特殊な高分子材料が、エネルギー供給源である太陽電池にはガラス、シリコーン接着剤、電力ケーブル、CFRP(炭素繊維複合材料)などが、衛星のボディにはCFRPやアルミニウムが使われている。

宇宙で使うためには機能を達成させるために必要な電気特性、機械特性、光学特性、熱特性など基本物性が最低限必要であり、さらに宇宙環境に耐えることが条件になる。打上げ時には振動や衝撃で壊れない、100℃からマイナス100℃の熱サイクルによって剥がれないことが要求される。

材料を劣化させる宇宙環境は地球からの高度によって異なり、静止軌道においては放射線と紫外線がある。宇宙ステーション(ISS)のような低地球軌道では原子状酸素も問題になる。そのほかにも放出されるガスによる汚染を避けなければならない。

例えば太陽電池パネルのカバーガラスに求められる特性は宇宙環境中の放射線によって光の透過性が落ちないことがもとめられる。衛星本体の温度変化を少なくするため、多層断熱材が使用されている。衛星の打ち上げ前にテレビ報道されると、金ピカに見えるのが印象的です。この多層断熱材が無いと、衛星は100℃からマイナス100℃までの厳しい温度変化を受ける。金色に見えるのはポリイミドフィルムにアルミを蒸着したもので、両面にアルミ蒸着したフィルムを何層か重ね、多層構造にしている。実物をカットしたものを回覧で見せていただいた。下に示す写真は60億キロの飛行のあと奇跡の帰還をはたした小惑星探査機はやぶさの模型で、本体は金メッキされ、太陽電池パネルも折りたたみできるものが売られている。しかし、実物は先の多層断熱材をマジックテープで本体に貼り付けている。原子状酸素はポリイミドフィルムを分解し断熱効果を失うため、酸化膜を作ることによって自己修復する機能をもたせている。断熱材のフィルムは耐熱性が求められ、ポリイミド以外にフッ素系樹脂を用いると銀色に見えるもの(ハッブル望遠鏡)や表面の電気伝導性を高めるため、カーボンを配合した黒いフィルムもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真1 小惑星探査機はやぶさの模型(Amazon HPより修正)

耐宇宙環境性を評価するには軌道上曝露試験をするのがベストであるが、実際には難しい問題があり、日本ではISSを利用して2回で数10個の試験しかできていない。一方米国は8回で2000個以上の試験をしているので日本の衛星を設計するとき米国のデータを使っていることもある。軌道上曝露試験ができない場合、地上模擬試験をしているが、実宇宙環境を再現するのは不可能である。地上模擬試験の利点はその場測定ができることで、軌道上でできた劣化が地球に持ち帰ることによって回復するのを防ぐことができる。学術研究としてデータを積み重ねることが必要だ。

新規材料開発の例として太陽の光の圧力を受けて宇宙空間を飛ぶ衛星(ソーラー電力実証機)イカロスのセイル(画像提供JAXA)に使うフィルムを紹介していただいた。

写真2 小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(JAXA提供)

セイルは対角が20mあるため、1枚のフィルムから作ることができないので熱によって融着されている。従来のポリイミドフィルムは耐放射線性が高いものの熱融着性がなかった。ポリイミドの分子鎖に結合エネルギーが小さいメチレン基を導入することによっても熱融着性が得られるが、耐放射線性が落ちてしまう。メチレン基を導入することなく融着性を持たせる絶妙の分子設計によってイカロスのセイルが実現できた。現在も金星に向けて順調に航行中ということである。次期のイカロスのセイルは数km四方ということなので、セイルの展開方法に注目したい。

 

2. 放射線照射法を用いた水中環境負荷物質の分解処理(会員ページ)

 (独)日本原子力研究開発機構 

量子ビーム応用研究部門    木村 敦

環境基本法によると人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものを環境負荷物質という。具体的には強い毒性のあるもの、環境ホルモンとも言われる内分泌かく乱物質、耐性菌が出来るおそれがある医薬品類である。PCBやダイオキシンは強い毒性のため、PCB1mg/L、ダイオキシンは1pg/Lに排出が規制されている。環境ホルモンや医薬品類は低濃度で環境水中に存在することが知られているが、適当な処理法がないため、規制対象外である。

日本の下水処理場の約70%は活性汚泥法を採用している。産業排水は処理場で砂ろ過や沈殿など物理的な処理をして、大きいサイズの有機物を除去して活性汚泥のエアレーションタンクで細菌のクエン酸回路による酸化を受け二酸化炭素と水に分解されている。この方法は高濃度の有機物を大量に処理する場合は適しているが、低濃度のものを処理できない。活性汚泥法では分解できない環境負荷物質を処理する高度排水処理法として、吸着処理、オゾン処理、紫外線処理、放電処理、放射線処理などが研究されている。放射線は反応活性種を高濃度で生成するので、低濃度の汚染物質を分解できる。(1)

1 活性種の種類とG

 環境ホルモンの放射線分解について詳しくご紹介いただいた。ホルモンのレセプターに反応することによって正常なホルモン作用を阻害する化学物質を環境ホルモンと呼んでいる。代表的な環境ホルモンを図2に示す。女性ホルモンの17-β-エストラジオール(E2)は低濃度(1ng/L)で内分泌かく乱作用があるが、人間や動物の排泄物や医薬品類が発生源であり、規制が困難であるため野放し状態になっている。

2 代表的な環境ホルモン

分析は液クロ−マス(LC- MS)で行うが、非常に低濃度なので、分解挙動を調べるためには、液クロによる濃縮の操作が必要である。1.8nME210Gyの照射で完全に分解するが、酵素免疫測定法によるとエストロジェン活性は残っている。LC-MSによってE2OH付加体が検出された。50Gyまで照射するとエストロジェン活性がなくなり、OH付加体が分解したことを示す。

 p-ノニルフェノール(NPs)はプラスチックの添加剤や界面活性剤の代謝生成物である。毒性はE2よりも低いので、より高感度な毒性評価法として酵素を用いた生理活性測定法を用いた。5000Gyの照射で毒性がなくなったが、この物質も放射線分解一次生成物がNPsより強い毒性を持っていた。毒性試験において、化学分析による濃度評価では処理線量を過小評価してしまうことを忘れてはならない。

 微量で生物活性を持ち、生分解性に乏しい医薬品類が水環境中に流出していると問題になっている。濃度は数μM程度であり、環境ホルモンの約1000倍存在することになる。慢性的な毒性を有するうえ、薬剤耐性菌の発生が心配されている。河川中濃度および生産量が高く、難分解性の8種の医薬品を選んで活性汚泥処理を行ったところ、一般的な曝気時間である8時間で芳香環を2つ以上有する医薬品と塩素原子を有する医薬品は80%以上が残留し、その他の医薬品は完全に分解した。いずれの難分解性医薬品も最大2kGyの照射で完全に分解する。

シミュレーションを行うと、例えば抗てんかん剤であるカルバマゼピンを5μM含んだ実排水を放射線照射だけで完全に分解するためには5kGyの照射が必要であるが、活性汚泥法で実排水中の夾雑有機物を処理したあとの排水は処理線量が5分の1になった。放射線の単独処理より活性汚泥法との併用処理がコストパフォーマンスが良いことが分かる。

 放射線処理の実現を妨げる最大の要因は初期コストが高いということである。しかし環境ホルモンE2では200Gyで処理が可能であるため、11万トン規模の処理をするのに5MeVの電子加速器を据え付け、耐久年数が15年、電気料金が22/kWhとすると1トンあたり17円の増加となる。活性汚泥の処理施設のそれが30-140円であることを考えると大きな負担とは言えない。韓国では実用化に向けた研究が進んでいるそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 活性汚泥法と放射線処理の併用システム

 

3. 可視光レーザーアブレーション法によるナノ加工技術(会員ページ)

京都工芸繊維大学 先端ファイブロ科学部門  山田和志

ナノ加工と言えば、量子デバイス製造のために高価な装置とクリーンルームなどの設備が必要な極短波長レーザーを用いた光リソグラフィーの研究があげられる。これは感光フィルムの極小範囲だけを露光させる技術である。

山田講師の研究は照射する光は可視光であり、照射範囲を絞ることなくナノ加工できるため、特に高価な装置や設備を必要としない。なぜなら、ターゲット部分にレーザーによって励起される物質のナノ粒子を配置しておけばよいからだ。概念図を図4に示す。

4 金ナノ粒子を用いたナノ加工

レーザー照射によって金粒子が加熱されプラズマ状になったため、高分子フィルムやガラス基板にナノサイズの穴ができたと考えられる。金の励起吸収断面積、散乱断面積、比熱、ナノ粒子の体積などから温度を試算すると、532nmYAGレーザーで照射光強度700mJ/cm2、粒子径20nmの場合、散乱やエネルギー移動がなければ12万度に達する。光の吸収効率が数%あれば金の沸点である2856Kを大きく超えると予想される。ちなみに金粒子を使わなければ、ガラス基板や高分子フィルムに穴が開くことはない。照射回数を増やしても薄膜基盤に穴はできなかった。

ターゲットはカバーグラスを疎水処理し、その基板を金ナノ粒子水溶液に浸漬させ、吸着、固定化する。その後、基板上にポリメタクリル酸(PMA)あるいはポリカーボネート(PC)等の超薄膜をスピンコート法により作製する。レーザーアブレーション法によってできた穴の形状を原子間力顕微鏡(AFM)によって観察した。

直径20nmの金ナノ粒子を用い、PMA20nmスピンコートし、レーザー強度700mJ/cm2で穴を開けた基板のAFM画像を図5に示す。

  

  

5 AFM画像

AFM画像の解析から穴の深さと直径がわかる。この条件では穴の深さは1030nm20nmを中心とするガウス分布をし、直径は3540nmであることが分かる。レーザー光の強度を増すと穴の深さも幅も大きくなった。金の粒子径を大きくすると穴の周りが少し高くなったドーナツ状のリングが現れる。このような実験を重ねた結果、任意の大きさの穴が得られる条件が分かってきた。

 これらの知見をもとにフィルターの機能をもった高分子薄膜を作ればウィルスを除去でき、薬剤だけを患部に届けられるような創傷被覆材や電池の隔膜の開発ができるのではないかと結ばれた。

 

4. UV硬化型ハードコート剤への機能性付与と高硬度化(会員ページ)

荒川化学工業株式会社 光電子材料事業部 研究開発部 立花 誠

ハードコート処理されている製品は身の回りに数多く存在する。例えばテレビ、パソコン、タブレットPCなどのモニターの反射防止コート、自動車等のガラス代替樹脂のコート、化粧品筐体への光沢処理、CD,DVD,ブルーレイディスクなどの光学記録媒体の保護層として利用されている。ハードコート剤に要求される物性は用途ごとに異なるが、代表的なものは基材との密着性、高透明性、傷つき防止性、溶剤、酸、アルカリなどへの耐薬品性、熱、湿度、低温などへの耐久性が求められる。面白いのは傷つき防止のための硬度測定に鉛筆硬度試験というのがあり、6Bから9Hの鉛筆を使いどの硬さで傷が付くかで判断するので、現場での試験法として定着している。

ハードコート処理の方法は樹脂を加熱硬化、アクリル系のオリゴマーをUV照射により硬化、ゾルゲル法による硬化、金属酸化物をスパッタリングする硬化がある。それぞれに特徴があり、欠点もあるが最近はUV硬化型コート剤の使用が広まっている。ゾルゲル法によるシリコーン樹脂と比較するとシリコーン樹脂は耐擦傷性、耐候性、耐薬品性に優れているが、硬化時間が30分近くかかり、UV硬化型では数秒で硬化する。可撓性(折り曲げ強度)と生産性に優れているUV硬化型ハードコート剤は溶剤を必要とせず、処理温度は室温でよいので環境にも優しく、大量生産に向いていると言える。UVコート剤は熱乾燥型のコート剤と比べ樹脂のコストが高く、硬化収縮のため密着性の低下、モノマーの変異原性や皮膚刺激性などに課題があるため新規材料の開発研究が行われている。

UV硬化性樹脂の分子設計をするのに構成成分ごとの検討が必要である。表1に構成成分の分類を示す。

 

1  UV硬化性樹脂の構成成分

モノマーの分類は分子内にアクリル基が何個あるか、オリゴマーの分類は主鎖の骨格構造による。光重合開始剤は開裂の機構や吸収波長によって使い分ける。モノマーの種類によって粘度、硬化性、安全性、密着性、硬度や柔軟性に特徴があるが、複数のモノマーを組み合わせることによってユーザーの要求する特性を満たすことができる。重合性オリゴマーの分類と特徴を表2に示す。

2 重合性オリゴマーの分類と特徴

官能基数や別の官能基を付けることで属性が変わることもあるので注意。複数のオリゴマーを組み合わせて欠点を補うようにしているとのことである。

時代の変化とともにハードコート剤への要求も変わってきている。例えばタッチパネルは携帯端末では標準装備されているが、帯電防止、耐指紋性、環境問題である揮発性有機物を使わないなど種々な問題を解決するため、開発研究が行われている。荒川化学での開発例を交えながら分かりやすくご講演いただいた。

(阿部 記)

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