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第48回UV/EB研究会より

表記研究会は平成23916日(金)14:00から18:30まで住友クラブ(大阪市西区江戸堀)において開催された。今回の講師は大島明博氏(大阪大学産業科学研究所)、前川康成氏(()日本原子力研究機構)、および伊藤敬人氏(三重大学大学院)であった。

 


. 量子ビームを用いたPEFC用電解質膜とその特性  〜ハイブリッド型電解質膜とナノ空間制御型電解質膜〜(会員ページ)

大阪大学 産業科学研究所 大島 明博

燃料電池の中でも電解質散逸の問題がなく、常温で作動し起動時間が短い、小形軽量化が可能などの利点から、イオン交換膜を電解質として使う固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell PEFC)の普及が進んでいる。図1PEFCの構造を示す。

電解質膜(Proton Exchange Membrane PEM )に求められるのは高いイオン伝導度、熱安定性、ガス不透過性、と低コストである。ちなみに現在一般的に用いられているナフィオン膜の価格は約50,000/mである。放射線グラフト重合でナフィオン膜より安価で優れた性能を持つ新規なPEMの作成についてご紹介いただいた。

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は崩壊性ポリマーとして有名であったが、融点付近で照射すると架橋することを発見された講演者は靱性に図1大島講師.gif

1 PEFCの構造

優れた架橋PTFEにスチレンをグラフト重合し、さらにスルホン化することによって、部分フッ素化イオン交換膜を作成した。この時、気を付けなければいけないのは、照射時には無酸素で、照射後は酸素曝露してパーオキシラジカルにすること、ラジカル密度をG値で12にすることと薄いフィルムに照射することである。このようにして作成した膜はイオン交換容量、耐熱性、水素ガスバリア性能がナフィオン膜よりも改善された。

発電性能も60℃以下ではナフィオン膜よりもよくなったが、80℃では白金触媒性能が良くなるはずなのに、60℃よりも60%も下がってしまう。この原因はナフィオンを分散させたバインダーとの接触面が剥離したためである。スチレンを含む電解質膜とナフィオンからなるバインダー層との化学的および物理的性質が異なるため、低い温度では剥離しないものが80℃の高温になると剥離すると考えられる。

高温における発電性能を高めるため、接着性の良いハイブリッド型電解質膜を開発した。

膜厚49μm、グラフト収率39%、イオン交換容量2.0meq/gの部分フッ素化イオン交換膜を平均径22μmに粉砕し、ナフィオン膜の粉末と混合したものをキャスト法により製膜した。混合比を種々変えてFN50w%(部分フッ素化電解質膜の重量が50% 以下同じ)、FN20w%FN10w%FN5w%を調整した。イオン交換容量は部分フッ素化電解質が増えるとわずかに増加する。含水率は最大で2倍になる。表面粗さは部分フッ素化電解質の比率が高くなると非常に高くなる。

図2大島講師.gif

2 ハイブリッド型電解質膜のI-P曲線

とりあえずFN50w%電解質膜の発電性能を見ると、部分フッ素化電解質膜では60℃に比べ、80℃では60%の減少を見ていたのが10%の減少にとどまっていた。これはイオン伝導度が60℃と80℃で部分フッ素化電解質膜では半分以下に減少するのに、ハイブリッド膜では変わらないことによって説明できる。図2に示すように最大発電量はFN10w%までは部分フッ素化電解膜の比率が増えると上昇するのに、それを超えると減少している。これは表面粗さに関係しているので、もっと部分フッ素化電解質の粒径を小さくしなければいけない。

固体高分子形燃料電池でのもう一つの問題点はカソードで発生したプロトンをアノードへプロトン移動する際、カソード側は乾燥し、アノード側に水が溜まることである。カソード側の問題は燃料の水素を加湿することで解決できるが、そのためにアノード側の水は増えてしまい発電効率が低下する。ナノ空間制御型の電解質膜によって解決するアイデアをご紹介いただいたが、未発表の成果であるので、割愛します。

 

 

2. 量子ビームを駆使した燃料電池用グラフト型電解質膜の開発(会員ページ)

日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門

 高性能高分子材料研究グループ 前川 康成

東電福島第一原子力発電所の事故後は原子力機構の職員は研究以外に福島貢献でモニタリング、文科省でのデータ整理、放射線に対する相談員としての仕事が増えてお忙しい中を講演していただいた。

燃料電池にはプロトン伝導形とアニオン伝導形がある。プロトン伝導形の燃料電池は電解質膜として使える製品が市販されているので、家庭用の燃料電池として1万台が普及しているが、電解質膜の耐久性に問題があり、水素をプロトンに変換するのに白金触媒が必要なためコストが高く、また水素燃料の貯蔵、運搬にも問題がある。高価な白金触媒を使わなくてもよいアニオン伝導燃料電池が注目されているが、アルカリ性で使える適当な電解質膜がない状態である。図3にプロトン伝導燃料電池とアニオン伝導燃料電池のしくみ示す。

3 プロトン/アニオン伝導燃料電池のしくみ

発電効率を上げるためには電解質膜のイオン伝導性と燃料バリア性を高める必要がある。耐久性においては基材である膜の機械強度と化学的安定性を高める必要がある。放射線グラフト重合法による電解質膜作成の特徴は前駆体を作っておけば後処理によって、プロトン型にもアニオン型にも容易に変換できることである。

現在は80℃以上の高温に耐える電解質膜として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やエチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体が使われている。芳香族高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が優れた高温での膜強度と燃料バリア性を備えているので、これを電解質膜として利用することを試みておられる。結晶化度32%の結晶性h-PEEK膜と11%の非晶性l-PEEK膜が市販されているが、100kGyのガンマ線を照射し、パラ位にスルホン酸エチル基を持つスチレンをグラフト重合させたところ、h-PEEKは全く反応しなかったが、l-PEEKはグラフト率が60%で、グラフト重合性は結晶化度に依存することを見つけた。

ジビニルベンゼンを最初に熱グラフトした後、スルホン化スチレンを放射線グラフトするとグラフト率が短時間で大幅に向上した。熱・放射線による2段グラフト重合を利用したPEEK/DVB膜は高い導電性と機械強度を両立し、95℃の高温下で1000時間以上安定作動するため、70~80℃で使用する家庭用には充分使えるそうです。

車載用燃料電池として研究が進められているアニオン伝導燃料電池の伝導イオンがOHであるため、電解質膜はアンモニウム塩を結合させなければいけない。基材のエチレンテトラフルオロエチレン共重合体にクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンをキシレン中でグラフト重合し、クロロメチル基を3級アミンで処理することで安定な塩化アンモニウムが得られる。水酸化カリ水溶液でClOHに変換できるが、空気中の炭酸ガスによって重炭酸塩に変化する。

重炭酸塩は水酸化物と類似の含水率と導電率である。含水率が高いことは機械特性と耐久性が低下する原因となる。耐久性向上のヒントなどをご紹介いただいた。

電解質膜の性能を上げるため、電解質膜の内部構造を調べた。導電性チャンネル(グラフト鎖)の構造は数十nmから数μmの領域を中性子小角散乱法(SANS)で、チャンネル内微細構造は数Åから数十nmの領域をX線小角散乱法(SAXS)で解析する。架橋PTFE、ナフィオン、およびPEEK電解質の結晶相相関長を求めると、45nm4nm13nmである。PEEK電解質膜のイオンチャンネル内の微細構造からスルホン酸基の平均間隔が1.8nm、微結晶(ラメラ)間隔が8.4nmである。模式図を図4に示す。この方法がナノレベルでの構造制御に応用できることを明らかにした。グラフト型電解質膜の分解メカニズムと放射線固相グラフト重合のメカニズムについてもご紹介いただいた。

 

4 中性子、X線小角散乱より求めたPEEK

電解質膜及びナフィオン膜の構造模式図

 

 

3. 高分子固体電解質材料の開発とポリマーリチウム二次電池への応用(会員ページ)

三重大学 大学院工学研究科     

  分子素材工学専攻 教授 伊藤 敬人

まず、電池の歴史からご紹介いただいた。ガルバニとかボルタという名前は高校の理科で習ったような気がするが、遠い昔なので定かではない。それより遥か昔の紀元前にワインを使ったバグダッド電池というものがあったそうです。実物はイラクの戦乱の中で消えてしまったということで残念ですね。

屋井乾電池というのをご存知ですか。屋井先蔵が電気時計の研究中に発明した乾電池で、世界初ということです。ただ、残念なことに論文発表もなく、特許もとっていなかったので、歴史上はガスナーが発明したことになっています。燃料電池の原理は鉛蓄電池の発明(1859)より前の1839年にグローブによって提案されています。リチウム一次電池は1973年に松下が実用化し、夜釣りの浮きの照明用に使った思い出がある。

リチウム二次電池はカーボン負極/有機電解質/コバルト酸リチウムの正極で1991年にソニーが実用化した。従来のニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池の起電力が1.2Vであるのに対して3.7Vあり、エネルギー密度も高く、小型化され軽くなった。

その反面小型化したために、漏液対策と樹状に析出した金属リチウム(デンドライト)が対極に接触する短絡によって有機電解質を溶かす有機溶媒が爆発的に燃えるという安全上の問題がある。現在はセパレーターの中に電解液を入れている。

 安全上の問題を解決するため、高分子固体電解質の研究が始まった。図5に高分子固体電解質の分類を示す。利点としては1)低引火性で液漏れが無いことから安全性が高い。2)大面積にできることから、軽量化と小型化が可能である。3)形状の自由度が大きい。4)電極との密着性が良好なので、劣化しにくい。5)加工性が良いので、低コスト化が期待できる。逆に問題点としてはa)イオン導電率σが低い。b)σの温度依存性が大であるため、

5 高分子固体電解質の分類

 

低温ではあまり電気が流れない。c)電極との界面接触抵抗が大きい。d)リチウムイオンの輸率Tが低いことである。利点を生かし、問題点を克服するための材料設計が必要である。

 ポリエチレンオキシド(PEO)中におけるイオン移動は運動性の高い非晶質領域のPEOのセグメント運動によっている。PEOの融点は50℃であるため、室温ではポリマーが動かないのでLiイオンが動かない。低温におけるイオン導電率改善の例を図6に示す。PEOでは導電率の低下が顕著であるが、単結合回転型の高分子では回転側鎖により低温でのリチウムイオン導電性低減を抑制している。

6 低温におけるイオン導電率の改善

 

 図6の例では側鎖に芳香族のエーテルを用いているが、エチレンオキシドのオリゴマーを側鎖に持つ櫛形ポリマー、多分岐ポリマー、すだれ状ポリマーや共重合体が研究されている。低温での導電率を上げるためチタニア、アルミナやシリカなどの無機フィラーを添加して結晶化を妨げる方法も有効である。添加したフィラーが酸―塩基相互作用によりリチウム塩の解離を促進し、かつPEO鎖の結晶化を抑制している。また、解離しやすいリチウム塩類の探索が行われ、高分子固体電解質用の新しいリチウム塩類が多数開発されている。

 一方、リチウムイオンの輸率の向上を目指した高分子固体電解質の検討がされている。たとえばアニオンをポリマーに固定する方法が提案されている。ポリマーに電子吸引性基を導入してアニオンの電子密度を低下させる方法やアニオンの近傍にt-Bu基のようなかさ高い置換基を導入するともっと効果的である。ボロキシン環をポリマー鎖中に導入するとスルホン酸など陰イオンの種類によっては輸率が高くなる。

 フィルム状の電解質ポリマーを作るためには機械的強度が要求される。紫外線を用いる架橋反応、トリアジン環を用いる架橋反応、ポリスチレンとのブロック共重合や星形ブロック共重合によって導電率を低下させずフィルムの強度を上げる研究を紹介していただいた。ゲル系高分子固体電解質においても、架橋型ポリマー電解質を用いると、溶媒分子が抱き込まれ、安全性が高まりフィルムの強度も高まる。

 紫外線照射による架橋は開始剤が不純物として残るので、今後は電子線照射による架橋を行うとのことであった。電池試作の工程と試験方法についても述べられ、性能向上に向けた研究方針をお話しいただいた。小さくて、軽くて長寿命の電池の開発が待たれる。

(阿部 記)


 

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