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第45回UV/EB研究会より(聴講記)

表記研究会は平成2293日(金)13:30から17:30まで住友クラブ(大阪市西区)において開催された。今回の講師は川崎徳明氏(堺化学)、松川公洋氏(大阪市立工業研究所)、金澤進一氏(住友電気工業)および切畑光統氏(大阪府立大学)であった。

. エン/チオールUV硬化材料の特徴と物性(会員ページ)

堺化学工業株式会社 中央研究所 主任研究員 川崎 徳明

硬膜塗装技術には熱による硬化と光による硬化が知られている。熱によるものはポリマーを溶剤に溶かして塗布し、熱をかけて溶剤を蒸発させるため、最近ではVOC(揮発性有機化合物)規制もあり、有機溶剤を使わない光硬化が主流となっている。光硬化塗料としては、ラジカル重合を利用するアクリル系のものが95%を占め、残りの5%をカチオン重合系の塗料が占めている。今回ご紹介いただいたエン/チオール系の塗料はチオール由来のチイルラジカルによって重合と架橋を同時に行うタイプのもので、実際に利用されていた時代もあったそうです。しかし、硬化後は無臭になるものの、硬化前はチオール類特有の悪臭がするため、姿を消していたのですが、堺化学ではチオール臭がほとんどないチオールの合成に成功したということで、エン/チオール系の塗料に挑戦されたそうです。チオールというのはアルコールの官能基OHSHに変えたもので、メルカプタンともよばれます。エンは二重結合を意味していて、モノマー(単量体)やオリゴマー(高分子ほどは重合していないが、ある程度重合したもの)に存在する二重結合のことである。

あえてエン/チオール系の塗料を開発するのは、アクリル系の塗料は酸素で光重合が阻害される、硬化時の収縮が大きい、接着性が低い、ものによっては皮膚刺激性があるという短所があるためである。一方、カチオン系の塗料は硬化時の収縮が小さく、接着性も良いものの、酸による腐食があり、内部の硬化が遅いという短所がある。エン/チオール系にはそれらの短所がなく、既製品に十分に対抗できる可能性が大きいであろう。

図1-1

1 各種エン化合物のチオールとの反応性

 

チオール化合物は3官能型から6官能型の粘稠性で高屈折率の化合物を合成している。エン/チオール反応はチイルラジカルが求核的に二重結合に付加するため、二重結合上の電子が少ないものがよい。図1に示すように、アクリル酸エステルよりもビニルエーテルのほうが反応しやすいといえる。

実際に塗膜を作ってみると、塗膜物性は鉛筆硬度が3H4Hで、アクリル系塗膜の5Hよりも軟らかいものの、デュポン衝撃試験では3倍から4倍の高さを示し、体積収縮率も半分以下である。何よりも、酸素雰囲気化で硬化するのが特徴である。

エン/チオールの硬化フィルムは屈折率がほぼ均一である。アクリレート単独硬化の場合はポリマーが収縮して粒状になり、密度に差が出るが、エン/チオール硬化ではイオウ原子が介在し、均一に架橋していると考えられる。透明度が上がるのも、アクリレートでは粒状の重合物で入射光が散乱されているためと考えれば、合理的に説明できる。

このように、エン/チオール光重合は各種特性が優れたものであるが、コストが高くつくということで、特殊機能を生かした使い方を検討中とのことである。

余談になるが、堺化学は風邪薬の改源のメーカーでもあったのですね。筆者は酸化チタンの大メーカーであるという知識しかなかった。また、硫酸バリウムといえば、胃のX線写真を撮るとき飲むものとばかり思っていたが、化粧品にも使われているということを初めて知りました。

 

2.  光架橋反応による有機無機ハイブリッド材料の創成(会員ページ)

大阪市立工業研究所 研究主幹 松川 公洋

新しい先端機能材料として注目されている有機無機ハイブリッドについてご紹介いただいた。有機無機ハイブリッドというのは有機ポリマーとシリカ、チタニア等の無機物が分子サイズ、ナノサイズで分散した材料で、有機ポリマーとか無機物単独では見られない物性を発揮する。有機無機ハイブリッドを作るにはゾルゲル法が使われる。ケイ素の場合であればアルコキシシランを加水分解した後、縮合させるとシリカができる。シリカをポリマーに分散させればよいが、ただ混ぜるだけではだめで、有機分子と無機分子の間に何らかの相互作用が必要である。

 松川講師は光を使うゾルゲル反応と光ラジカル重合を同時に行って、ポリマーの中にシリカが分散した有機無機ハイブリッド合成を研究されている。特徴的なのは、光ラジカル開始剤にベンゾイン トシレートを使うことにある。これは光で、ベンゾインラジカルとパラトルエンスルホン酸に分解する。ベンゾインラジカルは重合反応に、スルホン酸はゾルゲル反応の酸触媒として働き、効率的に有機無機ハイブリッドができ、ハードコート材料やネガ型レジストとして利用可能である。

 ポリシランは主鎖がSi-Si結合で構成されている。ケイ素(Si)原子上にあるσ電子がσ共役を作っているため、強い吸収をもち、光で分解してラジカルを生成し、ラジカル開始剤として利用できる。ポリシランは高屈折率であるため、有機無機ハイブリッドも高屈折率が期待できる。ポリシランだけではゾルゲル反応できないため、ポリシランとメタアクリル酸トリエトキシシランの共重合体を作成し、光を用いてゾルゲル反応で薄膜を作っている。ポリシランが多く残っている薄膜は光分解すると、ナノポーラスな薄膜に加工できる。ポリシラン−シリカハイブリッドは高屈折率であるが、時間とともにポリシランが分解し、低屈折率になり、屈折率の差を用いたパターン作成もできる。しかし、実用上問題があるとのことであった。ゾルゲル法によるハイブリッド化の問題点は、大きな硬化収縮、厚膜作製が困難、アルコール等の有機化合物が発生(VOC)、反応完結に時間がかかる、シリカハイブリッドの屈折率が低いことである。これを解決するため、シルセスキオキサンの利用を検討された。シルセスキオキサン(シルはケイ素、セスキは1.5、オキサンは酸素)の構造と特徴を図2に示す。

 図2のキュービック型以外にラダー型もあり、化学式は(R-SiO1.5)n(n=8)である。置換基Rは光硬化反応の種類によって変わり、光ラジカル重合ではアクリレートやメタアクリレート基を、光カチオン重合ではエポキシやビニルエーテル基をエン−チオール反応にはメルカプト基を導入する。

光学材料に要求される特性は、透明性、屈折率、高アッベ数、低複屈折がある。高屈折率化のためには、芳香族化合物の導入、イオウ化合物の導入、フッ素以外のハロゲンの導入、高屈折率無機ナノ粒子の添加が有効である。ビスフェニルフルオレン誘導体では芳香族多環構造であるため、1.6以上の高屈折率で、耐熱性があり、芳香環が等方的であるため、低複屈折が実現され、優れた光学材料として期待できる。光カチオン重合で作成したハイブリッドは透明性がよく、屈折率も1.6以上となり、高強度でガラスへの接着性に優れたものが得られている。

エン−チオール反応による含イオウ有機無機ハイブリッドの作成にはメルカプト基を持ったシルセスキオキサンを合成して使っている。これは貯蔵安定性がよく、冷蔵庫で保存できる。これを多官能性アリル化合物と反応させてハイブリッドにした。このハイブリッドは透明性がよく、高屈折率で、高耐熱性、低収縮性に優れ、高屈折、厚膜、ハードコート等の機能性コーティング剤、軽量で薄型のプラスティックレンズ、透明基板、光硬化性接着剤、シール剤、導波路、封剤としての用途が考えられる。

 

3. 電子線架橋によるポリ乳酸ゲル(会員ページ)

住友電気工業() 金澤 進一

ポリ乳酸(PLA)はでんぷんを発酵して得られる乳酸を縮合させて得られるポリエステル系の高分子で、使った後捨てても、土に帰るということで、カーボンニュートラル(光合成による植物産生プラスチックは、燃やしても排出される炭酸ガスが同じ量の植物を生産するため、排出増加にはならない)なプラスチックとして、注目された。しかし、現在はでんぷん原料のとうもろこしがバイオエタノールの原料として使われているため、価格が上昇し、石油由来のプラスチックを凌駕できないでいる。

ポリ乳酸の特徴は高強度で、透明性が高く、生体適合性もあるため、環境適合性のプラスチックあるいは再生医療材料に使えるということで大きな期待がもたれた。しかし、60℃で非常に変形があったり、熱的に不安定であるため、熱処理で滅菌できないというのが問題であった。耐熱性を持たせるため、ポリ乳酸を架橋させる研究を始められたのが10年前である。当時は住友電工ファインポリマーの社員で、旧原研高崎へ外来研究員として派遣されていた。

 

 架橋はPLA単独では起こらず、アリル基やアクリル基をもった架橋助剤が必要である。架橋助剤としては3官能性のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)やトリメチロールプロパン トリアクリレート(TMPTA)が効果的である。PLATAICの構造式を図3に示す。

 架橋により、期待どおり耐熱性が改善され、架橋PLAフィルムは、PLAのガラス転移点(Tg)である60℃以上で引っ張っても切れず、90℃の湯に漬けても縮まなくなり、白化することもなく透明性を維持できた。ただし、生分解速度は約半分に落ちた。

 ポリ乳酸は非常に硬く、柔軟化しないと使えないということで、可塑剤を入れるのですが、単純に入れただけでは軟らかくなるものの、時間がたつと可塑剤が流れ出て、PLAが白化して硬化するので、方法を変えなくてはいけません。これはPLAが再結晶化するためなので、可塑剤を入れる前に電子線照射して、再結晶化を防いだ。架橋PLAに可塑剤を吸わせてゲル膨潤させると、軟らかくなりゴム糸状の弾性を待たせることができる。80℃で1週間おいても重量減少せず、軟らかさの保持能力も高い。

 これを製品化するには成形した後に電子線を当てなければならず、電子部品であっても海外の工場では処理できないとか、自動車部品ではサイズの大きいものは連続処理ができないという理由で、売り込みに成功しなかったそうです。ほかにも、いろいろと手を変えてトライされたことをご紹介いただきました。

 苦労の結果、ポリ乳酸の軟らかいものが射出成型で出来るようになったのであるが、これは強度が非常に弱く、10MPaぐらいの強度しかなかった。この原因は架橋点の分布が不均一で、粗いところと、密なところがあり、粗いところが低強度の原因であるので、これを高せん断2軸混練で破壊したところ、全体の強度が上がり100MPa以上の強度が出た。

 架橋ポリ乳酸には感熱応答性があり、90℃の水中では透明であったものが、常温に戻すと白く不透明になり、再度90℃に加熱すると透明になる。白くなるのは70℃付近であり、これは水分子の吸収と排出による色変化であることが解明され、色変化は繰り返し可逆的に起こることが確かめられた。

開発研究の成果が実際に応用されるためには非常に困難な難関があるということである。質疑応答では、単なるプラスチック代替品ではなく、ポリ乳酸でなければ使えないという需要があるはずなので、研究の継続を望む声が聞かれた。

 

 

4. がん−ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の最近の進歩(会員ページ)

大阪府立大学大学院生命環境科学科 切畑 光統

最近目覚しい進歩を見せているBNCTについて、ご紹介いただいた。外科的手術でがん細胞を完全に取り除くことのできない脳腫瘍に対するBNCT1950年代から米国MITで研究が始まった。初期にはがん細胞に選択的に取り込まれるホウ素薬剤がなかったため、普及していなかった。1968年には日本でも帝京大学の畠中先生が武蔵工業大学の原子炉を使って、BNCTによる治療研究を始められた。その後、関西の臨床医が京大原子炉を使って、脳腫瘍やメラノーマの治療研究をしていたが、国産のホウ素薬剤BPAが供給されるようになり、BNCTによる治験例が一気に増えたということである。現在では脳腫瘍の中でも最も治りにくいといわれる、グリオーマ(神経膠腫)にも有効とされていて、その他舌がん、耳下腺がんなどQOLを考えると切除しにくいがんをはじめ、乳がんや肝臓がんにまで治験例が報告されている。大阪湾ベイエリアには京都大学の原子炉があり、以前からBNCTによる治療の研究が行われていた。

BNCTには10Bが必要であるが、天然のホウ素は10B11Bの比が約1:4であるので、10Bを濃縮分離しなければいけない。大阪湾ベイエリア内の泉大津に10Bを純度99%以上で年間3トン生産できる工場がある。このホウ素を使って、大阪府立大学と製薬会社が共同でBNCT薬剤を合成し、京大原子炉を利用する臨床医に無償で供給されていたそうである。中性子捕捉療法になぜホウ素が使われるかについても詳しく説明していただいた。10Bの熱中性子による核反応断面積が大きいこと、核反応時に生成する4He7Liの飛程が9μm4μmと非常に短く、がん細胞内に止まり、隣の細胞を傷つけない、すなわち、正常細胞に何の影響も与えないこと、人体内にはホウ素原子が存在しないことが理由である。がん細胞選択性として薬剤に要求される特性は、選択的集積性(T/N比、Tはがん細胞、Nは正常細胞)3以上で、がん細胞内に2040ppm集積し、それ自身薬理作用がなく、低毒性である必要がある。このような条件に合致し、現在臨床に使われているのはパラボロノフェニルアラニン(L-BPA)とドデカボロンチオール(BSH)2種である。L-BPAT/N比に優れ、BSHは集積性が良い。L-BPABSHの構造式を図4に示す。

 

図4

 図4 L-BPABSHの構造式

 

治療効果を上げるため、さらなる薬剤の開発が進められており、がん細胞選択性を高めるための各種置換基導入や、がん細胞の毛細血管が、正常細胞の毛細血管が通過できないような大きな分子を通過させるという性質を利用して、ホウ素化合物の巨大分子化の研究がされている。

実際の治療は、かつては開頭して中性子を照射していたが、最近は開頭せずに照射できるようになっている。治療希望者はホウ素薬剤ががん細胞に集積するかどうか、18Fを置換したL-BPAを用いてPETで検査し、BNCT治験に適しているかどうかを調べている。実際の治療はホウ素薬剤を静脈注射したあと、開頭せずに中性子線を照射するので、入院の必要もなくそのまま帰宅できるとのことであった。

熱中性子線は体表から4cmから6cmまでしか届かないため、京大炉では熱外中性子線も利用できるよう改修されている。また、原子炉中性子を利用せず、加速器によって中性子を発生させ、これを利用するBNCTについても治験が始まっているとのことであった。原子炉中性子を用いる治療のデータが揃ってきたので、健康保険が適用される日が近いそうであるが、加速器利用BNCTの研究が進み、各都道府県に最低1ヶ所の治療施設ができるとがん治療の方法が大きく変わるであろうと期待される。

研究会会場の利用時間制限のため、ご用意いただいた話題の一部をお聞きすることができませんでした。切畑先生をはじめ、ご来場いただいた皆様には大変ご迷惑をおかけしました。お詫びいたします。

(阿部記)


 

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