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第44回UV/EB研究会より(聴講記)

表記研究会は平成22611日(金)13:30から17:30まで大阪大学中之島センター(大阪市北区)において開催された。今回の講師は大島邦裕氏(倉敷紡績)、西義武氏(東海大学)、上坂充氏(東京大学)および斎藤恭一氏(千葉大学)であった。

 


.電子線グラフト重合による繊維機能化技術の開発(会員ページ)

倉敷紡績()技術研究所 大島 邦裕

近年繊維産業は、生産拠点の海外移転、国内の需要不振、コスト面の国際競争力の低下などで、苦境に立たされ、出荷額が20年前の12兆円から3兆円に減少している。これに歯止めをかけるため、クラボウでは革新的な技術によって繊維製品の高機能化・高付加価値化で海外製品と差別化する製品開発に取組んでいる。倉敷紡績から2年前に発売されている、高機能性繊維EBRIQについて紹介していただいた。

従来の繊維機能加工技術の問題点は、洗濯耐久性に乏しい、風合いが低下する、エネルギーおよび薬剤を多量に消費することである。これを解決する手段として、電子線グラフト重合法に着目し、連続処理が可能なグラフト重合装置の開発を始めた。

織物に電子線グラフト重合させる技術として、福井県工業技術センターと福井大学が共同開発した「フィルムシール式電子線グラフト重合法」がある。織物にモノマー液を付与して電子線照射するとき、空気雰囲気でオーブン加熱を行うと重合しにくいが、フィルムで挟んで照射するとグラフト重合しやすいというものである。同時照射ではホモポリマーの生成が多くグラフト効率が低いため、EB照射後、モノマー薬液に浸してフィルムシール法で後重合させた(前照射−後重合法)。

綿100%、ポリエステル/綿混紡、トリアセテート、ナイロンなどで実施したところ、照射線量の増加で、グラフト率およびモノマーの利用効率が上昇した。加速電圧の影響を図1に示す。グラフト状態を染色濃度であらわし、濃いほどグラフト率が高い。また、低い加速電圧では非照射面の濃度が薄いことから、裏面では反応が起こっていないことが分かる。ということは裏表で異なる加工が可能ということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 前照射−後重合法における加速電圧の影響

 装置設計のためのグラフト加工条件を検討した結果、素材によってラジカル減衰の程度が異なってはいるが、生成ラジカルの失活を抑制するためには電子線照射後少なくとも1分以内にモノマーに浸漬する必要があるので、加工速度が10m/min以上あれば、照射装置と薬液槽までの距離が3m以内にしなければいけないなど、基礎的なデータを詳しくとって製作した連続式グラフト重合装置を徳島工場に設置した。写真を図2に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 連続式グラフト重合装置の試作機

 

 実機加工布のグラフトの均一性は縦方向、横方向とも均一であり、物性変化、染色堅牢度の試験結果は未加工のものと実質的に変わらなかった。

発売当初は吸湿発熱、消臭、抗菌繊維だけであったが、その後、接触冷感、機能複合、防炎機能を持つ製品が追加されている。これらはいずれも図2 連続式グラフト重合装置の試作機を示した。

単なる物理的吸着でなくグラフト重合による化学結合を利用しているため、洗濯により機能が低下しないというのが最大の特徴である。

このブランド名EBRIQは電子線のEB、生地を表すFABRIC、インテリジェンスを表すIQから取っている。日本では放射線を使っていることを隠している製品がほとんどであることを考えると、電子線照射を利用していることを公表していただくのは我々放射線利用を推進する立場にあるものにとって非常に嬉しいことである。今夏の「第27回みんなのくらしと放射線展」に布地が展示されるので、ぜひご覧頂きたい。

 

2100kVEB照射処理によるCFRPの衝撃値改善(会員ページ)

東海大学大学院工学研究科

航空宇宙・先端材料研究室 教授 西 義武

 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)100kV級の電子線を照射すると衝撃値が改善され、強靭化されることを紹介していただきました。

 CFRPの衝撃値改善の方法は次のものが知られている。エポキシ樹脂を用いたCFRPは吸水することにより軟化するが、衝撃値は向上する。圧縮応力には強いが、引っ張り応力に弱いコンクリートを強化するため、予め引っ張り応力をかけた(プレ・ストレス)鉄筋を使って、コンクリート内部に圧縮応力を発生させ、強度を向上させるのを応用して、炭素繊維に引っ張り応力をかけながら樹脂を硬化させると、曲げ強度は少し低下するが、シャルピー衝撃値が増大する。

 最終成型後にも適用できる強化法である電子線照射処理についての研究を紹介していただいた。電子線照射の研究には岩崎電気(株)製の1号機を使っていたそうである。この装置は窒素雰囲気で電子線を照射でき、照射のパルスが短くて、均一処理でき、試料温度があまりあがらないということで、大変なお気に入りでした。

 医療機器の内視鏡は、以前は使用していると曇ってくるので、長時間の手術では何本も取り替えなければならなかったが、医療用ガラス材料の濡れ性をEB照射によって向上させ、内視鏡の窓を防曇処理することによって内視鏡の使用可能時間を長く出来た。曇り止め効果は時間とともに消えるので、再度EBを照射する際、滅菌も同時に出来る。

 液晶テレビ用薄板ガラスの基板はどんどん大きくなり、2007年では42インチ用液晶パネルが8枚取れる、2460mm×2160mmG8基板が生産されている。その厚みがTV用で0.7mm、中小型の携帯機器用で0.5mm以下となっているため、自重によるたわみで基板が破損し、歩留まりが悪かったのを、EB照射によって衝撃値を10%改良し、ガラスの硬さを1.8倍にすることによって、歩留まりが改善することを見出している。光ファイバーも電子線処理によって衝撃値が改善することから、グラスファイバー強化プラスチックを次期欧州旅客機に使うことが検討されている。

 高分子に電子線を照射するとC-C結合が切れてダングリングボンド(不対電子対)が生成し、その結果、体積固有抵抗率が減少する。異種高分子を積層してからEBを照射すると互いの高分子に出来たダングリングボンドが異種高分子の表面原子と結合することによって、異種高分子の接着が出来る。この技術は人工血管、人工靭帯、人工心肺などに応用できるのではないかと期待されている。電子線照射により、各種ポリマーの引張強度やその歪、衝撃値が限定した条件で向上する可能性があることを確認している。

 炭素繊維やC/C複合材を航空機や自動車の構造材として用いる際には機械的性質の信頼性が重要である。炭素繊維に電子線を照射すると引張強度と曲げ強度が向上する。これは、EB照射によって炭素繊維内に存在するダングリングボンドが消滅し、クラックの発生を抑制したためと考えられている。さらに再現性・信頼性の指標であるワイブル係数を向上させることを確認できた。電子線照射処理により、C/Cコンポジットばねのバネ定数が向上する。

 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は170kVの電子線を0.2秒間5回照射するとEBCFRPの表面0.1mmの深さまで到達し、シャルピー衝撃値は2.1倍向上するなど、引張破断応力、曲げ破壊応力、衝撃値の向上が確認できた。

 炭素繊維強化熱可塑性ポリマー(CFRTP)はCFRPに比べ、様々な成型法が適用でき、生産性が高く、大量生産に向いている。しかし、樹脂と繊維との濡れ性が悪いため、繊維−マトリックス間の接着界面が弱く、使用範囲が限定されている。熱可塑性ポリマーとしてPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を選び、CFRTPを作成したあと、電子線照射したときの線量とワイブル係数の関係を図3に示す。

3 PEEKCFRTPにおけるEB線量とワイブル係数の関係

 

0.13MGy以上のEB照射によって、再現性の指標となるワイブル係数が増加するのが分かる。

 それ以下の衝撃が加わっても破壊しないという下限衝撃値を計算によって求めることが出来、EB未照射では下限衝撃値が0であったものが、0.4MGy照射すると下限衝撃値があがることが予測された。照射線量と下限衝撃値の関係を図4に示す。

 

4 PEEKCFRTPにおける照射線量と下限衝撃値の関係

 

 電子線照射処理は高分子材料から無機材料まで幅広く応用できる処理法であり、CFRPCFRTPなどの複合材料に対しては最終成型後にも適用できる有用な強化法であることを示していただいた。カットはフランスで計画されている超音速旅客機である。

 

 

 

3. X線ピンポイントがん治療システム開発と医学物理(会員ページ)

東京大学工学研究科原子力専攻 教授 上坂充

日本人の二人に一人はガンで死ぬと言われている。ガンの治療法としては手術による摘出、化学療法、放射線治療があるが、その比率は欧米では1:1:1であるのに対して、日本では放射線治療の比率は非常に小さい。これは日本人の放射線アレルギーと、それを煽るマスコミの存在がある。食道ガンや顎のガンなどではクォリティ・オブ・ライフの観点から摘出手術をせずに放射線治療する場合が多くなっている。化学療法は現在のところ副作用が大きく大変な苦痛を伴うのに、劇的な効果が期待できないという。ただし、摘出後の治療には放射線治療と化学療法が行われているのが実情である。

治療には放射線があまり使われないのに、診療にはXCTが多用され、図5に示すように、1999年のOECDの統計では人口100万人当たりのCTの普及台数が諸外国に比べて群を抜いて多い。3年前のネイチャー誌で英国の研究者が、日本ではCTでガンを診ているのか作っているのかわからないと揶揄したほどである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5 各国の画像診断機器普及状況(台数/100万人)

 

ライナックを使った放射線治療が少ない理由は、過去に過剰照射事故があり、訴訟された。そのため、放射線治療を積極的にやろうという医師が少ないのです。しかし、装置や技術の向上もあり、医療スタッフの技術もあり、最近は認知度がやや上がっている。東芝など日本のライナックX線治療機器の大メーカーは撤退し、現在は三菱重工など数社が治療装置を作っていて、大部分は外国のベンチャー企業が開発したものを輸入して使っている。

これではいけない。なんとか国産の優れた電子線ライナック治療装置を作らなければならないということで、白坂先生はガン細胞をピンポイントで照射するための装置開発研究を続けておられ、X線の空間分解能を高めるための加速器技術、さらには薬品送達システムを利用して呼吸などによるガンの動きを追尾するシステム、薬剤をガン組織に集積させる技術について解説していただいた。

現在使われている電子線ライナック治療装置は空間分解能が5mmなので、3mmの肺ガンが見つかっても、すぐには治療できない。肺ガンであれば1年経つと4mm2年経つと5mmになって、治療できるようになったときにはフェイズ34になってしまって、治療が困難な場合もあるそうです。空間分解能が1mmであれば3mmのものでもガン組織だけに正確に当てることが出来、正常細胞への被ばくを減らすことが出来る。もし、それがガンでなくても、新たなガンを作らない線量までを正確に当てて、リスクを最低にすることが可能になる。電子を加速する電磁波の波長を短く(X-バンド化)することにより、装置のサイズを小型化することが出来、医療用だけでなく、高エネルギーのX線を非破壊検査にも利用可能な小型装置になる。

北大の白土先生は直径2mmの金のボールをガン組織に埋め込み、ゲーティングという技術で幹部を追尾して照射することに成功している。この技術を応用して、金をコロイドにして、静脈から注入し患部に集積させて、粒体解析コードを使って追尾することに成功しているが薬事法の認可はまだ取れていないそうである。

さらに、放射線治療と化学療法と組み合わせることにより、照射線量を減らそうという新しい治療法を提案されている。正常細胞とガン細胞では、繋がっている毛細血管の透過能力に差があり、正常細胞では小さいサイズの物質しか透過できないが、ガン細胞では大きいサイズの物質を透過できる。シスプラチンという白金錯体の抗ガン剤は分子のサイズが小さいため、ガン細胞だけでなく正常細胞にも集積されるため、効果が薄くなり、副作用の原因にもなる。シスプラチンを高分子で修飾してサイズを大きくすると、正常細胞には取り込まれず、ガン細胞に集積することがSPring8の蛍光X線分析法で確認されている。

放射線治療を推進するためには、放射線医だけでなく医学物理士とのチーム医療が必要であるが、アメリカの医学物理士は6000人を超えているのに日本では300人程度で、その大多数は放射線医と放射線技師で占められ、工学系の医学物理士は非常に少ない。工学系の医学物理士を増やすため、重点大学で養成コースを設けているが、まだまだ足りないということであった。

 

4. 電子線グラフト重合法による機能材料作製法の進化(会員ページ)

千葉大学大学院工学研究科 教授 斎藤恭一

原研高崎の時代からグラフト重合一筋の研究をされてきた成果をご講演いただいた。グラフト重合の最大の特徴は形状を問わないということであるが、用途に応じて使い分けることにより、様々な製品を実用化されてきた。グラフト重合の研究について初期の研究から現在までを3つの世代に分け、第1世代を量の時代(1980-1995)とされている。この時期には海水ウラン採取のため、官能基の高密度化と大量製造の研究がある。第2世代は形の時代(1990-2005)とし、多孔性中空糸膜にグラフト重合を試み、高吸着量で高透過流束を実現されている。第3世代は質の時代(2005-2020)を目指し、簡単な操作で精密な分離を可能にするため、グラフト鎖の解明と高機能化に取り組んでおられる。

海水からのウラン採取は非常に有名な話で、吸着材1kgあたり1gのウランが取れているが、国家プロジェクトとして取り組む時代が来ない限り実現されないであろうという話であった。しかし、さいとう・たかお氏の人気漫画ゴルゴ13にこの研究が原子養殖というストーリーで書かれていることを喜んでおられた。

多孔性中空糸膜は家庭用の浄水器にも使われているろ過膜で、代表的なものは厚さが1mmのポリエチレン膜の7割に0.1μmの孔が空いている。この小さな孔の壁に荷電をもったグラフト鎖をつくり、ブラシのように立ち上がらせることに成功した。これをポリマーブラシと呼んでいる。反対の電荷を持つタンパク質が流れてくるとポリマーブラシの間にタンパク質が多層に集積する。卵白中のリゾチームの場合、膜1gあたり0.42gのリゾチームが吸着される。この場合の多層集積度は38である。吸着されたリゾチームを溶出させると、高純度のリゾチームが得られ、医薬品の原料となる。

質の時代の研究はさらに華麗なもので、グラフト鎖の高機能化のため、興味深い分子設計をされた。一つはグラフト鎖の上部と下部に異なった官能基を入れて分離させるもので、例えば核爆発やテロなどで、内部被ばくが心配な場合、尿検査をするだけで診断できるというものです。グラフト鎖の上部は収縮させて、検査精度を悪くするタンパク質を排除し、放射性核種を選択的に吸着させることを目的としている。病気になるとタンパク質が尿中に出てくるが、猫の場合は健常時でもcauxinというタンパクが存在するので、尿検査が正確に行われていなかった。このグラフト膜を使うことによって、cauxinだけを選択的に除去でき、病気の診断に使えるので、猫好きには朗報です。

二つ目はグラフト重合ではあまりメリットが無いといわれていたビーズに対して、グラフト鎖内に流れを作ることによってタンパク質精製用のイオン交換粒子を開発した研究です。多孔性中空膜では流れを作るため、ポリマーブラシを用いましたが、ビーズについてもポリマーブラシを作ることによって流れを確保できた。多孔性粒子では細孔内を拡散によって移動するので、高速分離には不向きであるが、非多孔性粒子にポリマーブラシ加工した粒子では高速分離が可能である。抗体医薬は治療効果が高く、副作用が少ない薬剤として注目されているが、十分な効果を得るためには高純度な精製が不可欠とされている。現在製薬会社で使用されているクロマト充填剤は外国製で高価なうえ、低速で処理する必要があり、大量精製にはコストがかかっていた。安価に精製するためには高速分離が必要である。図6にαキモトリプシンA、チトクロムCおよびリゾチームの混合物を負荷させたときの、空間速度(=透過流量÷膜体積)360−1での溶出クロマトグラフの比較を示す。分離の良さが明らかである。図6では負荷率が1%であった。他の充填剤では考えられないような、負荷率30%でも分離できているので、工業的に有利なクロマト担体ということが出来る。

6 高空間速度での溶出クロマトグラムの比較

 

三つ目は食塩製造に適した電気透析膜の製造である。日本の塩はイオン交換膜を使った電気透析法で作られている。現在使用されているイオン交換膜はスチレンやジビニルベンゼンが使われているが、これをグラフト化したポリエチレンに置き換え、濃縮性能の向上に成功されている。10年後には今使用されている膜はグラフト重合で作った膜に入れ替わるであろうということでした。斎藤先生は実用化に繋がる研究を心がけておられ、産業界からニーズを教えてもらい、化学工学の立場から基材や官能基を選んで、世界一の吸着材料を放射線グラフト重合で作っておられます。

「グラフト重合のおいしいレシピ」(斎藤恭一、須郷高信共著、丸善株式会社、平成20年発行)に詳しい解説があります。興味のある方はご覧下さい。   (阿部記)

 

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