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第42回UV/EB研究会 聴講記

 

今回の研究会では、国内で増えている粒子線治療施設を用いる粒子線がん治療研究、グラフト重合を利用した機能性高分子材料製品化の研究、種々の材料の表面処理に使われる大気圧プラズマ技術についてご紹介いただきました。研究会直前に講演順が変わりましたことをお知らせするのに手違いがあったことをお詫び申し上げます。

(平成21925日 於:住友クラブ)

1.粒子線がん治療の現状と展望(会員ページ)

若狭湾エネルギー研究センター 

粒子線医療研究室 山本 和高

がんの治療法としては外科的切除、放射線治療、化学療法、その他の免疫療法、遺伝子治療などが行われている。がん治療の大部分は外科手術によって行われているが、切除可能な範囲にあるがん病巣であることと、手術のための麻酔に耐える心機能、呼吸機能、腎機能であることが条件です。手術では組織の切除を行うため、機能低下や手術瘢痕が残る。最悪の場合、術後30日以内に死亡するケースもある。現在の化学療法は薬品が全身に届くため副作用などの問題がある。一方、放射線治療では切除しないため、機能や形態は温存される理想的な治療法といえます。放射線の種類は定位放射線治療やIMRTと呼ばれる強度変調照射法に用いる高圧X線と、陽子線や炭素イオン線(重粒子線)を用いる粒子線があります。

放射線の作用において、X線と粒子線の違いは、X線は電磁波であるため皮膚の近くで最大の作用をし、深部に行くに従って弱くなるので多方向から複雑に照射する必要があるのに対して、粒子線は浅いところでは作用が弱く、深部に到達して運動エネルギーを失う(飛程という)直前にブラッグピークと呼ばれる強い電離作用を示す。さらに深いところへは全く影響を与えない。したがって、エネルギーを選んで飛程をがんの位置に合わせることで、途中の正常組織への影響を少なくしながらがん細胞を効率よく損傷することが出来ます。図1にX線と粒子線の水中での深さと相対線量の比較を示します。

1 X線と粒子線の水中での深さと相対線量の比較

目的とするがん病巣の深さ、大きさに一致する照射野を作成するためには陽子線のエネルギーを適当な方法で調節しなければならない。最近では細い粒子線ビームをx-y方向に腫瘍の形状に合わせて走査し、深さ方向は粒子のエネルギーを変えることでがん病巣全体を二方向から照射しているそうです。

粒子線がん治療の有効ながんとしては、頭頚部腫瘍、非小細胞肺がん、肝細胞がん、前立腺がんがあり、1回の照射時間は2030分程度で、入院せず外来通院で治療できる。頭頚部腫瘍の場合、放射線を照射されたところから、がんが再発または再燃(再び悪くなること)もしない割合である局所制御率は2年後で80%を超えている。非小細胞肺がんのT期では2年後の局所制御率は95%を超えている。肝細胞がんの治療では5年後の局所制御率は87%で生存率は腫瘍が13cm以内であれば52%である。肺がんや肝細胞がんでは呼吸により、がん病巣が動くため、呼吸と同期した照射法でがん細胞以外のところに照射しない工夫が必要で、息を吸って次に吐くときまでの間に陽子線を当てている。局所制御率の結果を見ると同期法は完璧であると言えるのではないでしょうか。生存率が思わしくないのは、照射の段階ですでに転移しているからだそうです。肝細胞がんの治療前と後のCT写真を図2に示す。がん組織が完全になくなっているのが分かる。

肝細胞がん治療前

陽子線照射1ヵ月後

2 肝細胞がんの陽子線治療効果

 

前立腺がん、眼の網膜付近にある脈絡膜悪性黒色腫や骨肉腫などの治療にも使われているとの事である。特に骨肉腫では転移しやすいため、切断しても助かる例が少なかったのが、半数が助かるようになった。筆者の知人にも脳腫瘍、肺がん、頚部がん、骨肉腫で若くして他界した人がいるが、粒子線治療を受けていれば助かっていたかも分からないと思うと、残念でなりません。

粒子線治療は保険の適用外で、約300万円負担しなければならないそうですが、保険適用を申請中だそうで、近い将来には一部が保険適用されることも考えられます。がん保険で、高度先進医療特約というのが売り出されていますが、保険会社も健康保険適用が早く来ると予想しているのかもしれません。粒子線治療が出来る医療機関は未だ少なく2007年の段階で、6箇所の医療機関が1676件の治療を行いました。その後、南東北病院が民間の医療機関として初めて粒子線治療を行っています。来年には群馬大学で、再来年には福井県立病院でも治療が始まります。指宿や名古屋にも建設計画があるそうで、粒子線治療に対する認知度が高くなりそうです。

全てのがんが粒子線治療によって治るわけではありません。例えば、白血病や胃がんは粒子線治療に向かないがんです。照射部位にしか効果が無いわけですから、全身に転移したようながんは治せない。がんを早く見つけていただければ、早く簡単に治せますよと締めくくられました。

 

 

2.電子線グラフト重合プロセスを利用した機能性高分子材料の製品化(会員ページ)

()イー・シー・イー EPIX製品部 

技術課 課長 菅野淳一

(株)イー・シー・イーはEbara Clean Environmentの略で荏原製作所の関連会社として2000年に設立されました。荏原製作所では1985年から、放射線グラフト重合を原研高崎と共同で開始され、その成果を元に1992年には半導体製造用ケミカルフィルター(商品名:EPIX®フィルター)を実用化されています。EPIXというのはEbara Environmental Protection Filter by Ion Exchangeの略です。その後も海水中ウラン回収プロジェクトに参加するなど、技術開発に努められ、2000年には量産規模の電子線連続グラフト重合設備を完成し、新会社設立に至ったということです。藤沢事務所のラボからは富士山が見えるそうで、新幹線に乗るたび車窓から富士山を探している私にとってはうらやましい限りです。

放射線グラフト重合の原理などを説明していただく中で興味を引いたのは、官能基と高分子基材が強固に結合しているので、清浄な環境を作るためのフィルターから不純物が出ないということです。ポリエチレンのC-H結合は数百eVのエネルギーを与えると切れますが、2MeVの電子線を当てているため、ラジカルが容易に生成し、厚み方向にも深いところまでラジカルが生成します。照射温度や保存温度とラジカル濃度の関係、吸収線量とグラフト重合速度の関係、モノマー濃度とグラフト重合速度の関係、反応温度と時間に対するグラフト率の関係など、基礎データを押さえながら製品開発しておられることが良く分かりました。

イー・シー・イー社の製品の特徴は高分子基材として不織布を使っていることです。ビーズ型の素材であると、使用中に目詰まりを起こすことが多いそうです。ラジカルは繊維の内外に満遍なく出来ているはずですが、モノマーは外側から重合しているので、不織布に対するグラフトは繊維表面で蜜に分布しており、繊維内部は粗く分布していることをSEM像で確認しています。

3 荏原グループの製品群

 

従来のガンマ線照射工程とグラフト重合を分離したバッチ式処理法では、品質の安定した大量生産に課題が多くあったため、電子線照射工程とグラフト重合工程を結合した連続生産プロセスの開発を始め、処理幅1600mmの商用生産機を完成させ、2000年に電子線グラフト重合法による生産を開始しました。図3に放射線グラフト重合法を用いた製品群を示します。

半導体製造工場のクリーンルーム等では、空気中の微細な埃や微粒子を除去するためHEPAあるいはULPAフィルターが使われている。HEPAフィルターなどでは文字通り濾し取る操作によって浄化しているため、化学増殖レジスト法の大敵であるアンモニアなどガス状の汚れを取ることができません。ガス状の汚れは従来、活性炭フィルターで除去されましたが、ガス処理用のEPIXフィルターが登場し、変わってきました。EPIXフィルターの利点は、素材が不織布なので、軽く既存のクリーンルームへの取り付けが容易です。さらに、極低温のイオン性物質除去が出来ます。グラフト重合で生産しているため、下流側への不純物の放出が無い、活性炭と比較して捕まえたガスが再放出されにくい、不織布なので、焼却処分できるなどの特長があります。局所的なクリーン状態をつくるため、EPIXフィルターとファンを箱の中に内蔵した、ファンフィルターユニットも開発しています。

従来の純水製造装置は粒状のカチオン交換用とアニオン交換用のイオン交換樹脂を混ぜた混床式脱塩塔が使われていました。イオン交換樹脂は吸着が進むと性能が落ちるので、吸着したイオンを洗い流すため大量の薬品を使わなければならないので、最近は電気透析と組み合わせて、イオン交換樹脂を再生しながら脱塩するシステムが普及しています。

 

4 脱塩性能の比較

 

イオン交換不織布は繊維状であるため、粒状イオン交換樹脂と比べて510倍も比表面積が大きく、低濃度でも脱塩性能が良い。図410ppm食塩水の脱塩性能を比較します。イオン吸着速度が速い他に、各繊維が接点で融着しているため、イオンが繊維−繊維間、繊維−イオン交換膜間での移動が容易であることから電気透析にかかる消費電力が少なくてすむそうです。電気透析技術を応用すると希薄フッ酸を分離濃縮でき、メッキ廃液から銅イオンを分離回収できるので、資源問題や環境問題にも対応できる装置の開発もしています。

 半導体工場ではウェハ加工や洗浄工程で使用する純水や薬液には金属不純物を1ppb以下にしなければならない。金属不純物は金属イオン、小さな荷電粒子あるいは大きな微粒子として混入している。どの形態の不純物でも除去できるように、イオン交換不織布でイオン交換と静電吸着除去し、多孔質膜で機械的ろ過することにより、高流速で効率的に除去できる積層型フィルターを開発している。

 最近のヒット商品として、「イソジンうがい薬」の主成分を官能基に持ったヨウ素抗菌不織布を使ったマスク材料を生産している。不織布から徐々に放出されるヨウ素により抗菌性を発揮するもので、一般細菌やウィルスにも効果があることを確認している。これをきっかけとして、医療分野への用途展開を図っていきたいとの事であった。

 

3.大気圧プラズマの事例紹介と今後の展望(会員ページ)

日本プラズマトリート() 代表取締役 鶴本 康彦

オーロラ、稲妻、太陽などは自然界にあるプラズマとして有名です。人工プラズマでは1億度の高温高圧で核融合に利用されるものから、蛍光灯やネオンサインに用いられる低圧プラズマなどが良く知られている。プラズマディスプレイも低圧プラズマの応用である。いずれもガス状になった原子を電子とカチオンに解離させている。大気圧プラズマはガス化させなくても、もともと気体である物質にエネルギーを加えて気体中の分子を原子に解離し、原子をさらに電子とカチオンに電離させることによって得られる。大気圧プラズマを発生させるため、プラズマトリート社が開発したノズルを図5に示す。左のノズルでは電子がノズル出口に走るため、5000Kのプラズマは高温のままノズルに出てくるため溶接に使用する。右のノズルは外部電極にアースを取っているため、電子がノズル出口に達することはないので、アフターグロープラズマとして出てくる。そのため、15mm程離すだけで熱の影響がなくなる。

5 プラズマトリートノズル

 

接着面の表面改質(前処理)にはコロナ処理、火炎処理、低圧プラズマなどが用いられてきたが、コロナ処理では表面に荷電することとオゾンを発生すること、火炎処理では火災の危険があり、大量の二酸化炭素を発生し、ランニングコストが高い上に親水性が改善されないこと、低圧プラズマでは親水性が改善されオゾン発生が無いものの、希ガスを使わなくてはならず、初期投資もランニングコストも高くつくという欠点がある。それがプラズマトリート社の大気圧プラズマを用いると、親水性が良くなり水は完全に濡れ広がり、電荷なしでオゾン発生も無く、初期投資は少しかかるが低ランニングコストで保守点検が容易で安価であるといい事ずくめだそうです。さらにISO9000にも適合しているとの事でした。

表面に付着していた有機汚染物がプラズマ処理することによって、HOCOCO等となって、空気中に吹き飛ばされることもありますが、プラズマ処理することによって-OH-CO-などの親水基が接着面に出来ることをESCAによって確認されています。そのため、フッ素系の高分子でも接着可能ということです。ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体を2液型のエポキシ系強力接着剤で張り合わせたあとの耐久性を図6に示す。

6 アラルダイトで接着した難接着性素材の耐久性

 

各素材について左から未処理、プラズマトリート後直ちに接着、プラズマトリート後60℃、相対湿度50%で8週間保存後接着したもので、いずれも接着後80℃で2時間硬化させている。プラズマトリートにより驚異的に接着性が良くなったのが一目瞭然である。さらにプラズマトリートの効果は湿度を下げれば長持ちすることがわかった。

通常のストレートタイプのノズルでは10mm幅の処理が出来るが、高速に動かした場合は7mm、ゆっくり動かした場合には13mm幅の処理ができます。さらに幅広く処理したいという要求にこたえるため、ノズルを取り付けた台を回転させる方法で、30mmから60mm幅の処理が出来るようになっています。工場で組み立てロボットを使ってプラズマ処理する様子を動画で見せていただきましたが、非常に短時間で複雑な部品を接着できるのですね。変わったところではポリ容器にラベルを貼るとき、日本では粘着性の接着剤を使用しています。しかし、これはリサイクルするときにラベルを剥がしにくいのですが、ドイツでは何でも徹底的にリサイクルするので、ラベルを簡単に剥がせるよう、酢酸ビニルのエマルジョンで接着しています。このとき、ポリ容器にプラズマトリートをすれば接着できるそうです。

接着以外にも用途がいろいろあるということで、説明されたのが、ステンレスの溶接前処理にプラズマトリートを使うと溶接面が非常にきれいに仕上がるとか、ヘキサメチルジシロキサンを窒素ガスで送り込むと金属の腐食防止コーティングができるとか、用途はまだまだ開発の余地がありそうです。ヨーロッパでは冬季の凍結防止のために融雪剤を撒くため、自動車の鉄板が錆びるのですが、最近はプラズマトリートを使って鉄板に腐食防止コーティングしているメーカーもあるそうです。

ガスとして空気を使うと窒素酸化物ができますが、現在の濃度基準以下ということでした。しかし、時代が変われば問題になる可能性があるということで、設置する場合は局所排気装置をつけるようお願いしているとの事でした。また、電波管理局に設置の申請が必要であることも付け加えられました。

日本における利用例で住宅用断熱サッシの製造にプラズマトリートを使った企業が断熱サッシのシェアNo.1であると誇らしげに紹介されました。プラズマトリートに興味があれば試験片を持ってぜひ遊びに来ていただきたい。タクシーに乗ってもまともに着かない場合があるので、新大阪駅から電話していただければ、お迎えに上がりますとの事でした。

(阿部記)


 

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