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第39回UV/EB研究会聴講記

今回の研究会では、半導体製造における次世代リソグラフィに放射線を利用するための超微細加工材料の放射線化学と材料設計、放射線抵抗細菌のDNA修復機構と放射線応答機構、日本では産出しない金属を海水あるいは温泉水中から回収する技術についてご紹介いただきました。(平成20926日 於:住友クラブ)

1.最先端放射線用超微細加工材料の放射線化学と材料設計(会員ページ)

大阪大学産業科学研究所 古澤孝弘

インテルが1971年にマイクロプロセッサを作成して以来、その進展は目覚しく、2000年に発売されたペンチアム4は1.5センチ角に4200万個のトランジスタが作りこまれていた。これの最小加工サイズは180nmであった。その後もCPUの性能は年毎に向上している。2008年現在CPUの演算速度は昆虫の脳とネズミの脳の中間にあり、2030年ごろには人の脳と同等の速さになるといわれている。

回路パターンの作成はシリコンウェハの上にレジストと呼ばれる樹脂をコーティングし、その上にマスクを置いて縮小投影露光する。光の当った場所は光化学反応によって塗膜の性質が変わるので、除去することができる。その場所にエッチングあるいは金属の蒸着による加工をしています。演算速度を向上させるには、単位長さ当りの回路を増やす必要がある。そのためには加工の精度をあげなければならず、種々の試みがなされている。

よく知られているのは露光源の短波長化によるリソグラフィの微細化であるが、KrFのエキシマレーザーの波長は248nmで最小加工サイズは130nmであったが、次に登場したArFエキシマレーザーは波長が193nmで最小加工サイズが一気に90nmになった。液浸露光機が登場すると最小加工サイズは65nmまで小さくなり、現在は60nmをきっている。さらに改良が進めば、ArFエキシマレーザーを露光源とする場合の最小加工サイズはダブルパターニングの技術を使えば32nmまで小さくなるといわれている。

さらに短波長の光源としてはEUV(極端紫外)が研究されていて、最小加工幅は22nmになると予測されています。しかしながらEUVは軟X線の領域で、採集レンズが使えないので、反射方式で露光させます。これより短波長になると二次電子の飛程が非常に大きくなり、リソグラフィには使えないのでEUVが究極の縮小投影リソグラフィになるといわれています。EUVは電離放射線でもあり、開発に当っていろいろの問題点がある。マスクの精度、光源の強度、露光機の問題とレジスト材料の問題を解決しなければならない。この中でも特に重要なのは光源と材料の問題である。

大量生産を可能にするためには短時間で露光できる光源が必要で、現在のEUVの出力が38Wぐらいであるのを115180Wに上げなければならない。これは技術的に大変難しいと思われています。ただし、レジストの感度が良くなれば出力が低くても良いという相補的な関係にあるので、レジスト材料の開発も重要課題である。レジスト材料開発の課題は、解像度、感度、とLWR(表面の凹凸に関係)の三つですが、解像度を上げると感度が落ちるとか、感度を上げると表面が凸凹になるというトレードオフの関係にあり、開発が非常に難しいといえる。

感光性レジストに化学増幅型レジストが使われていて、これがEUVにも使えます。レジストポリマーの官能基を保護しておいて、感光すると酸が発生し、保護基をはずしてレジストポリマーが分解されやすくするものです。化学増幅型レジストの反応例を図1に示す。

光の場合は酸発生剤分子のエネルギー準位に相当するエネルギーを持った光が酸発生剤に吸収され酸が発生します。一方EUVの場合、基本的には二次電子が感光の役割を果たします。これは非選択的過程ですので、分子設計するときに化学反応の空間的な配置、放射線が当って出来る中間活性種が空間的にどのような配置をとるのか、あるいはどれぐらいの量できるのかといった観点が重要になる。

酸発生剤の放射線による分解過程を見ると、放射線による直接励起と二次電子との反応による分解に分けられる。二次電子により酸発生剤がイオン化されるときにエネルギーの低くなった電子が出てくる。この電子のエネルギーが酸発生剤のイオン化電位よりも高ければさらにイオン化をおこす。イオン化エネルギーよりも低いエネルギーの二次電子でも酸発生剤と結合するとアニオンを生成し、酸を発生する。これらの割合は直接励起が10%でイオン化による酸発生が90%である。酸はレジストのポリマーについた保護基を脱離させ、そのときに酸を副生するので酸触媒反応になり、少ない酸で多くの保護基を脱離させることが出来る。ポリマーに放射線が当たり、電子を一つ失ってカチオンラジカルになると、ヒドロキシル基が解離しやすくなってプロトンを生成します。

跳びだした電子がどれぐらいの距離離れた次の酸発生剤と反応するのかいうのは解像度にとって重要な問題です。EUVの二次電子のエネルギーは92.5eVなので一度酸発生剤をイオン化すると、そこから出てくる電子のエネルギーは80eVです。次のイオン化を起こす距離は大体0.7nmで、1nm以下ですから、解像度には問題ありません。

EUV用レジスト開発にはまだ多くの問題があるということですが、たゆまぬ研究によって一つ図1一つ解決されていくことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 化学増幅型レジンにおける化学反応

 
 

 

 

 


2.放射線抵抗性細菌のDNA修復機構の研究(会員ページ)

独立行政法人 日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門 バイオ応用技術研究ユニット

 量子ビーム遺伝子資源研究グループ 佐藤勝也

1 化学増幅型レジンにおける化学反応

 
 生物は常に遺伝情報の担い手であるDNAに損傷を被る環境に曝されている。したがって、生命維持はDNA損傷をどれだけ効率良く正確に修復するかに懸かっており、生命維持の根幹機能であるDNA修復能力を詳細に明らかにすることは、巧妙な生命現象を理解する上で非常に重要である。放射線はDNAに重篤な損傷を引き起こす原因の一つであるが、生物種全体では、放射線に対する感受性に大きな違いがある。これは、主にDNA修復能力の差によるものである。

 放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランスは、他の生物にとって致死的効果あるいは変異原性を示す電離放射線、紫外線あるいは薬剤に対して極めて抵抗性であり、これはこの菌が非常に高いDNA修復能力を持つことに起因している。特筆すべきは、ラジオデュランスがDNA損傷の中でも最も致死的効果の高いDNA2本鎖切断損傷に対しても、高い修復能力を持っている点である。1999年に米国ゲノム研究所によって、ラジオデュランスの全ゲノムシーケンスが公開された。ゲノム情報解析から、ラジオデュランスは他の生物が持つ既知のDNA修復タンパク質のほとんど全てを持っていることがわかった。しかし、半数を超える遺伝子が機能未知であり、ゲノム情報解析からだけではこの菌の持つ効率的なDNA修復能力を明らかにすることはできなかった。

 

図2−1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図2 PprAタンパク質のDNA結合能

 

ラジオデュランスのDNA修復能欠損変異株の解析から、優れたDNA修復機構に重要な役割を担う新規DNA修復促進タンパク質PprAを同定し、その機能解析を進めてきた。(図2)また、ラジオデュランスの優れたDNA修復機構には、放射線によってDNA損傷が生じた後に合成されるタンパク質が寄与しており、放射線誘導性のDNA修復タンパク質として、PprAタンパク質及び組換え修復タンパク質RecAが知られている。そこで、DNA損傷後にこれらタンパク質の誘導が起こらないDNA修復能欠損変異株を解析し、新規制御因子PprIを同定するなど、放射線応答ネットワーク機構についても研究を進めてきた。このように、ラジオデュランスのDNA修復機構と放射線応答ネットワーク機構に重要な役割を果たすタンパク質群の全体像が明らかになりつつある。

 PprAタンパク質は、遺伝子工学分野における試験管内ライゲーション促進試薬として、最近、実用化されている。また、PprAタンパク質は、放射線被曝を受けた哺乳動物細胞中のDNA損傷を可視化する技術の開発にも利用されている。このように、ラジオデュランスのDNA修復機構に関連するタンパク質は、優れたDNA修復機構の解明研究に重要なだけではなく、生命科学・バイオ技術分野において応用可能であり、ラジオデュランスは有用な遺伝子資源として今後の応用が非常に期待される。(ここまで演者による要約)

 続いて微生物のイオンビーム育種についてご講演いただいた。今まで花の育種について何度か聞いたことがあったが、微生物の育種、特に麹菌は食物に関係するので非常に興味深く聞くことが出来た。イオンビーム育種の特徴を図3に示す。

 

図2−2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図3 イオンビーム育種の特徴

 

 

3.放射線によるモノづくり−日本では産出しない金属資源を求めて−(会員ページ)

独立行政法人 日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 環境・産業応用研究開発ユニット 金属捕集・生分解性高分子

研究グループ 玉田正男

通常金属は地中の資源を掘り出し、地上に持ち出して精錬し金属にするのですが、海水や温泉水には低濃度ながら希少金属イオンが溶けています。海水中のウラン濃度は3.3ppbですが海水全体だと、45億トンあり、鉱山ウランの千倍である。燃料電池などに使われるスカンジウムはウクライナの地下1,000mから掘り出していて、酸化スカンジウム1キロあたり200万円する。この金属イオンは群馬県草津市にある万代鉱温泉に数10ppbの濃度で溶けている。有用な金属を選択的に捕集する材料を作成し、実際に海水や温泉水から捕集する技術について紹介された。

 海水中ウラン回収の試みは1960年代にイギリスで含水酸化チタンを用いて始められ、日本でも香川県三豊町で1973年に始められた。その後、キレート化剤を用いる方法が考えられ、共重合法で樹脂を作成したが、思わしい結果が得られなかった。むつ市で用いた方法はポリエチレンの不織布に電子線を当て、アクリロニトリルをグラフト重合して、ヒドロキシルアミンを用いて化学処理しアミドキシム基を導入したものです。この布を適当な大きさに切り、432個のカセットに加工し吸着礁に入れてむつ市の海中に係留し、海面下20m20日間吊るして回収実験を行った。12回の実験で1kgのウランを捕集できた。

 コストを下げるため、布状の捕集材をモール状に変えた実験を沖縄県恩納村で行った。基材を布から糸に替えグラフト重合させ、アミドキシム基を導入した糸をモール状に加工し、編み機でフロートを入れながら編んで60mのロープにした。これを水深100-200mのところへロープの一端に錘をつけて8m間隔で沈めます。30日後回収してウランをとり出すと、捕集材1kgあたり1.5gになった。むつ市のカセットを用いる実験では0.5gであったのが、沖縄では3倍になっている。この差は海水温度がむつ市では20℃であったのが沖縄では30℃と暖かいため1.5倍になり、捕集材の形状を布からモール状に変えたため海水との接触が良くなり2倍に、合計3倍になったのです。

 100kWの原子炉6基の燃料に相当する年間1200トンの規模で捕集コストを計算してみた。現状では捕集材の性能が2/kg-捕集材、捕集材の耐久性が6回ですので、キロあたり9万円弱になります。捕集性能が4g、6gと向上すれば安くなります。チャンピオンデータで4gに成功しているので、6gは可能と考えられる。繰り返し回数は実験室規模で10回後も性能が落ちないことを確かめている。6g10回の条件を当てはめると、キロあたり25,000円が可能と思われる。これは現在の国際価格と比較して決して高いものではなく、世界的に原子力発電へ移行する傾向があるので、国際価格が高騰する懸念があり、そうなると実現の可能性が出てきます。ただし、初期投資に1,000億円ほどかかるので、リスクも大きくなります。図4にウラン価格と捕集材の繰り返し使用回数との関係を示す。

スカンジウムはアルミニウムの高温における強度増強、メタルハライドランプの白色発光などに利用され、需要が増えている。草津・万代鉱温泉中のスカンジウム濃度は40ppbあり、海水中ウラン濃度と比べると10倍以上ですので、簡単にとれるのではないかと考えられます。源泉は95.4℃で毎分6,200リッター湧出していますが、浴用には水道水で熱交換し、54℃まで下げています。温泉排水は湯川に流れ込んでいて、スカンジウムの濃度は18ppbである。pH2の源泉でも使えるようにということで、基材に高密度ポリエチレンの不織布を選び、電子線250kGyを照射したグラフト重合でリン酸基を導入した。温泉水でどれぐらいスカンジウムがとれるかを調べると、高温で、濃度の高い源泉からは21日の浸漬で1,400-1,500mgkg捕集材回収され、湯川では200mg回収された。濃縮係数は源泉で3万倍、湯川では約1万倍であった。

温泉排水が流れる湯川に捕集試験装置を設置した。10Lのカラム2本に捕集材を詰め、ポンプ(37/分)で処理すると年間220gのスカンジウムを回収できる。湯川の排温泉水をすべて利用するため、1,000倍のスケールにすると年間220kgのスカンジウムが採れる計算になります。

図4(阿部記)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図4 モール状捕集材の繰り返し使用回数の回収ウランコストへの影響;
(○) 2g-U/kg−捕集材、(□)4g-U/kg-捕集材、(△) 6g-U/kg-捕集材

 

 

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