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第37回UV/EB研究会報告(聴講記)

今回の研究会では、まずEBによるキュアリングについて、EB装置のメーカーの立場からその原理および最近の利用例に関してご後援いただき、さらにユーザーの立場から繊維加工への利用例について最新の話題を提供していただきました。また、文部科学省が推進する先端研究施設共用イノベーション創出事業の拠点である「阪大複合機能ナノファウンダリ」(産業科学研究所と超高圧電子顕微鏡センター)についてご紹介いただきました。(平成191116日 於:住友クラブ)

1.低エネルギーEB装置と応用製品開発(会員ページ)

株式会社 NHVコーポレーション EB加工事業部

京都EBセンター 寺澤隆裕

高分子の架橋、切断(崩壊)、グラフト重合及び塗料や印刷インキの硬化(キュアリング)などの放射線化学反応を工業利用するのにEB装置が使われている。EB照射加工の特徴は、@広い温度範囲で化学反応が可能であること、A触媒を必要としないので、生成物が触媒による汚染を受けることがない、B熱反応を利用するものに比べて極めて省エネルギー的である。また、電子線照射装置を用いると次のような利点がある。装置が小型で設置スペースが小さい。装置はスイッチのONOFFのみで起動と停止が可能。従来の熱、紫外線で得られなかった特性を付与しうる。

EB装置の原理はテレビのブラウン管と同じで加速電圧がブラウン管では2030kVであるのに対してEB装置ではその10100倍であり、電子線は照射窓から放出される。一方ブラウン管では蛍光面によって遮られ発光する。EB装置では加速電圧によって電子線の透過深さが変化するので用途によって使い分ける必要がある。一般的に300kV以上のものは単一のフィラメントから出る電子線をコイルで曲げる走査形EB装置が使われ、以下のものは複数のフィラメントから出る帯状の電子線を利用するエリア形EB装置が使われている。

テキスト ボックス: 図1 透過能力曲線

装置を選ぶ際には物質への透過深さ(加速電圧)、対象物への影響度、効果度(吸収線量)、処理量(搬送速度、照射幅、電子流)を考慮しなければならない。加速電圧(150kV-300kV)と透過能力(相対線量)の関係を図1に示す。加速電圧の選定に当たっては、塗膜の硬化などの場合、処理対象物の厚さに対して、図1に示す相対線量が80%程度以上となるような加速電圧を選定することが望ましい。例えば塗膜が100μm以下で塗布液が基材に染み込まない場合の硬化には、加速電圧は150kV200kVEB装置。塗膜が100μm200μmの場合、あるいは塗布液が染み込む場合の硬化には、加速電圧250kV300kVEB装置が必要となる。

実用化されているEB利用例を多数紹介していただいたので、転記する。

・ 架橋反応利用

自動車用電線等の耐熱性強化− 生産能力が高く、架橋度のコントロールが容易であるから工業ラインに適している。

自動車用内装材、マット、断熱材などに使う発泡シートの製造− 架橋と発泡過程を分けられるので粒の揃った発泡ができるなど付加価値の高い製品に適している。

タイヤゴムのプレ架橋− インナーライナーやカースプライをプレ架橋しておくことによってゴム原料を節約し、品質安定を図れるため、製造コストの低減やタイヤ重量を低減できる。

・ 殺菌

用途として、手術用手袋や注射器等の医療用具、シャーレ等の試験用検査器具、食品容器、化粧品容器や医薬品容器の滅殺菌。 特徴として、処理時間が瞬時〜数秒と極めて短い、薬品や水の残留がない、装置の取り扱いが簡単である。

・ グラフト反応

一般に高分子が放射線を吸収すると、イオン化や励起が起こり励起分子はさらにラジカル開裂やイオン開裂を起こし、ポリマーラジカルやイオンが生成する。モノマーの二重結合にポリマーラジカルが反応して重合することをグラフト重合といい、電池用セパレーターやフィルターは実用化されている。海水中や温泉中の希少金属捕集材は実用化に向けた研究が進められている。

・ 硬化

EB硬化の特徴を次にあげる。

1. 厚いコーティングや多重層ラミネートが可能である。

2. 大量処理が可能で、インライン化が容易である。

3. 照射雰囲気が常温であるため、熱に弱い基材の硬化が可能である。

4. 耐候性、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などに優れた塗膜が得られる。

5. UV硬化に用いられる反応開始剤が不要である。

6. 塗膜の色に制限がない。

7. 不揮発性塗膜の硬化を指向しており、低公害、省資源が期待できる。

8. 瞬時硬化なので、照射直後の積み重ねや巻取りができる。

このような特徴を生かした国内のEB硬化プロセスは1973年から始まり、種々の業種で採用され、EB装置も各工程に合わせたものが製作されている。

なお、株式会社NHVコーポレーションでは京都EBセンターに4台と前橋EBセンターに1台のデモ機を置いているので利用を検討されている方は是非ご相談くださいとのことであった。

 

 

2.電子線の繊維加工への応用(会員ページ)

京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科

先端ファイブロ科学部門 准教授 奥林里子

京都工芸繊維大学へは今年6月に赴任したばかりで、今日話すのは福井大学での研究成果ですと講演の初めに話された。繊維は福井県の地場産業であり、また15基の原子炉があることから国や県が繊維と電子線を結びつけた研究を奨励しています。当初研究用のEB装置がなかったのですが、福井テクノポートで発泡ポリエチレンを作る企業が持っていた電子線照射装置を使わせていただいたのがEBとの出会いでした。合成繊維は通常の高分子と異なり、細く引っ張って作るので配向性が高く、細くて表面積が大きいことが特徴であるが加工しにくいのが欠点です。

織物や編物も繊維加工の一種ですが、繊維に別の性質(導電性や抗菌性)を付与するには、紡糸する前に機能付与のための物質を練りこむ前加工がある。しかし、この手法は原糸メーカー(大手8社)だけが可能で、加工業者は後加工による染色や柔軟性の付与などを行っている。処理方法には繊維を叩いて柔らかくするような物理的処理と化学薬品を使う化学処理があり、化学処理には薬品を繊維上に物理吸着させるだけのものと化学反応によって繊維と薬品を結合させるものがある。反応には加熱や触媒を使わなければならないし、反応が不均一になり風合いを損ねる場合がある。反応効率が悪いため薬品を大量に使い、排水に未反応の染料や薬品が混じり環境負荷が高くなってしまう問題がある。

安い繊維製品の製造は海外移転しているのが現状で、国内で生き残るためには革新的技法による加工で高付加価値化することが重要である。加工法としてはコーティング、プラズマ照射、スパッタリング、インクジェット染色、超臨界流体利用、ゾルゲル法、放射線照射などがある。インクジェット染色では福井県の企業「セーレン」が従来20色程度であった色調を1677万色まで高め、世界中から注目されている。

放射線照射にはガンマ線、電子線、イオンビームがあり、それぞれ特徴があるがガンマ線とイオンビームは設備が大掛かりで専門家でないと使えないのに比べ、電子線は素人にとって使いやすいのが利点である。電子線照射の特徴は、@低温で反応を開始できる、A秒単位で処理が完了する、B照射の開始と停止を電源のONOFFでできる、C装置の建設・維持が比較的容易である、D多くの実績がすでにあるという長所を持っている。逆に短所として、@設備が高価である、A照射対象の形状が薄く平板状のものに限定されると言われているが、価格面では最近5000万円の設備は一般的になっており1億円の装置導入は可能である。また、薄い形状は繊維加工にとってなんら問題でない。

繊維に機能性を持たせるには、元の素材に機能を発現する官能基を持った分子を接木するグラフト重合の手法が用いられる。グラフト重合は表面改質であるから強度などの物性は変化せず、付着性能、電気的特性、濡れ性能や医療適合性に優れた繊維に加工できる。いくつかの実施例をご紹介いただいた。

疎水性の高いポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET)布帛に親水性のアクリル酸をグラフトし、これにポリイオンコンプレックス形成法で2鎖型カチオン界面活性剤を固定化し、さらにフッ素プラズマで疏水化することで表面は撥水性を有しながら、蒸気の水は吸収するという加工が可能となった。図2に温度30℃で相対湿度を95%から23%に変化させたときの吸湿と放湿の試験結果を示す。

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図2 フッ素/イオンコンプレックス/PET繊維の撥水・吸放出挙動

 

同じような方法で化学物質を分解できる繊維を作った。多量のカルボキシル基またはリン酸基を導入したPET布帛に交互浸漬法でハイドロキシアパタイトと酸化チタンを複合した層を形成させることで、繊維の脆化を起こすことなく、布帛表面で各種有害物質を分解できる機能の付与に成功した。

海水中には金が希薄な濃度で溶けている。これを回収できれば大金持ちになれると冗談を言いながら紹介されたのが金属吸着繊維である。OH基とSH基が隣り合った特殊なキレート剤を作り、金イオン希薄溶液中に浸漬したところ吸着するものの反応が遅く実用的でなかった。しかし、水銀イオンの場合は吸着が早く、排水中の水銀を除去できることが分かった。

ポリエステル繊維の撥水加工にはPFEA2-ペルフルオロオクチルエチル・アクリレート)をモノマーとしてグラフト重合を行った。300kGyの電子線量を用いると溶液濃度を変えることによってグラフト率を直線的に変えることができる。グラフト率が5%で良好な結果が得られた。この照射においてPET布帛を2枚のポリエステルフィルムで挟んで酸素を遮断する方法を選択した。この結果が良かったので、長尺の織物をポリエステルフィルムで挟んで連続処理できる装置を考案し「フィルムシール方式電子線グラフト照射装置」関連の特許を数件取得した。この装置は四国の企業で実際に採用された。

福井には「ふくい未来技術創造ネットワーク推進事業」があり、産業界、大学等、支援機関と行政が参加している。その中に、「原子力・エネルギー関連技術活用研究会」があって、@放射線利用材料開発分科会、Aグリーン資源・エネルギー開発分科会、B保守技術・廃止措置技術開発分科会、C海洋資源・生物資源活用分科会で構成されている。放射線利用材料開発分科会の研究テーマ例は、@高機能繊維開発研究(耐熱性、耐候性、抗菌性)、A資源回収・環境浄化開発研究(資源回収型繊維、汚染物質吸着繊維)、B(高熱・高圧利用)繊維加工開発研究(収縮防止、発泡繊維、高温・高圧染色、加工繊維)、C原子力用高機能繊維開発研究(被ばく量等に伴う色相変化作業着、柔軟性・耐候性保温材、防ばく繊維)である。

研究の進展によって電子線照射による繊維加工技術が普及することを願っています。

 

 

3.大阪大学“阪大複合機能ナノファウンダリの事業説明 <地域のナノ研究を支援>(会員ページ)

       大阪大学産業科学研究所

   阪大複合機能ナノファウンダリ特任研究員

                  村杉政一

地域のナノテク研究を支援するため、全国26機関の参画による13のチームが保有する「特徴ある先端的な研究施設・機器を共用させイノベーションを創出する」ことを趣旨として、文部科学省が前プロジェクト(2002年度〜2006年度)を継続発展させた『先端研究施設共用イノベーション創出事業』を20074月から20113月までの5年間新たに開始した。プログラムとして【ナノテクノロジー・ネットワーク】と【産業戦略利用】の2つあり阪大産研はナノテクノロジー・ネットワークに応募し採択された。ちなみに19件の応募のうち14件が採択されている。産業戦略利用は17件応募で11件が採択された。こちらでは阪大レーザー研が採択されている。採択の基準を次に示す。

【ナノテクノロジー・ネットワーク】はナノテクノロジー研究に相応しい機器を配し、研究環境として求められる研究機能(@ナノ計測・分析、A超微細加工、B分子合成、C極限環境)を有する機関(群)が採択され、全国の産学官研究者に最先端の研究環境を提供すること。

【産業戦略利用】は分野を限らず産業利用のポテンシャルの高い先端研究施設が採択され、産業界への共用を通じてイノベーションを創出することを目的として、具体的な技術解決のための研究環境を提供すること。

各プログラムに採択された機関のリストを示された。また、(独)物質・材料研究機構が製作したナノテクノロジー・ネットワーク紹介のパンフレット、阪大複合機能ナノファウンダリの冊子と2006年度研究成果報告書が配られた。

阪大複合機能ナノファウンダリの特徴を示す。

・ 多くの研究者や開発者がナノテクノロジーの研究開発で必要としながら容易に使用することが難しい@分子合成・薄膜合成(産研で対応)、A超微細加工(産研で対応)、Bナノ計測・分析(超高圧電子顕微鏡センターで対応)に関わるファシリティを共用可能とし、また支援を専らとするスタッフに相談あるいは共同での研究等を可能とする。

・ 施設を共有する研究者や開発者間での交流を育みながら、発展的に研究・開発のための連携創出やイノベーション創出の場とする。

・ 細部のテクニック習得のための実習の場を提供し、若手の研究者や開発者のための人材育成の場とする。

・ 他機関や地域との連携を推進し、広くナノテク振興を図りながら、イノベーション創出に繋げる。

主な装置群を示す。

○分子合成・薄膜合成(産研)

・ 超伝導NMR600MHz6台)

・ 質量分析装置(2重収束型他4台)

CHN微量元素分析

・ プロープ顕微鏡

・ 単結晶]線回折装置

・ レーザーMBE装置

・ 有機物蒸着装置

・ 電子ビーム蒸着装置

RFスパッタ装置

○超微細加工(産研)

30kV電子線描画装置

・ 電子ビーム露光装置

・ 集束イオンビーム装置

・ ナノプローバ

・ その他の微細加工に必要な一連の装置群

(反応性イオンエッチング装置、スピンコ一夕ー、

ホットプレート、現像装置等)

○ナノ計測・分析(超高圧電顕センター)

・ 超高圧電子顕微鏡(世界最高300万ボルト)

・ 高分解能電界放出形走査顕微鏡

・ 元素分析用電子顕微鏡

・ トモグラフィー用電子顕微鏡

これらの装置を複合的に使った標準プロセスによって効果的かつ能率的な支援が可能である。さらに詳細な計測・分析によって問題解決できるハイレベルな支援ができる。ナノファウンダリでは人材育成・地域連携・産学連携の機能も持っており、企業や他大学・研究所のアイデアを実現するため、従業員、研究員学生などを派遣し、帰還後アイデアを実現化することによってイノベーションを達成しうる。新人に対しては新人教育もできる。

利用申し込みは@ナノファウンダリのホームページ

http://foundry.osaka-u.ac.jp から申込書をダウンロードし、必要事項を記入の上提出する。A利用申し込み内容に基づいて申込者と支援スタッフとで相談後、「ナノファウンダリ運営委員会」に諮り支援事業形態が決定します。文科省委託支援事業と自主支援事業の違いを表1に示す。B支援形態決定後に利用覚書を取り交わします。C実際の利用を開始していただく前に、諸手続きや安全教育等のガイダンスと装置操作要領の説明等を実施します。D年度末に研究成果報告書(A4×2枚)を提出していただきます。

このように無料で利用できる場合もあるので、ご遠慮なく相談していただきたいとのことでした。

 

 

 

(阿部記)


 

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