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第35回UV/EB研究会(聴講記)

 表記研究会は平成1968日(金)13:30から17:00まで住友クラブ(大阪市西区)において開催された。今回の講師は畑 宏則氏((株)アーテック)、松井真二氏(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所)および永倉邦男氏(()イービーム技研)であった。

 


.電子線照射技術  −2,3の塗装例について−(会員ページ)

株式会社アーテック 取締役技術部長   畑  宏則

代表取締役  浅井 勇詞

講演は雪が降りしきるDVDビデオの画像から始まった。北海道恵庭市の街頭風景で、滑雪性試験の様子を図1写したものである。パネルを傾斜角45度で設置し、雪が積もり滑落する際に一度に塊となって落ちるか、あるいは小刻みに滑ってパネルからはみ出した部分がサラサラと落ちるかで評価される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 高速道路横の滑雪性試験施設

 

もちろんサラサラと落下するのが優れている。雪の多い地域では電柱、信号機、道路標識など高いところに積もった雪が氷塊の状態で落下し、通行中の人や自動車に危害を加えることがあるので、滑雪性能の良い塗膜の開発が待たれている。

塗膜は基材にモノマーあるいはオリゴマーを溶剤なしで塗り、電子線(EB)で硬化させている。UVによる硬化は重合開始剤を必要とし、またエネルギーが低いため長時間の照射を要する。このため硬化後も揮発性有機化合物(VOC)が残り、大気汚染の原因となる。UV照射では光開始剤が必要であり、硬化後は分解生成物が不純物として残るため耐久性が悪くなる。無溶剤であることはPRTR(Pollutant Release and Transfer Register 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)に指定された化学物質の使用を削減するメリットがあるなど、UV照射に比べて電子線照射は優位にあると言える。電子線照射の経済性を考慮すると設備投資として電子線照射装置が必要であるが、硬化時間が0.1秒以下と短いので、生産性が向上しランニングコストは安くなる。さらに着色された塗膜にも対応できるなど電子線照射の利点を存分に享受しておられるようでした。ただ、酸素があると硬化しないので不活性ガスを流しながら照射しなければならないというのが難点である。

EBを使うさらなるメリットとして、加速電圧を変えることにより、硬化深度を変えられることにある。これは塗膜が無色透明であっても、真っ黒に着色していても変わらない。もう一つの特徴は架橋間分子量がUV照射に比べて小さく、塗膜が緻密になることである。

図2塗膜の滑雪性能に影響を与える因子として撥水性、着氷力を検討した。撥水性を定量化するため、水滴による接触角を測定したところ曝露試験前は110度であり、耐候試験機(W.O.M3000時間曝露でも変わらず、同社近くの愛知県弥富市海岸付近で4年間、屋外曝露すると105度になった。塗膜の光沢保持率はW.O.M.でも屋外曝露であっても 90%以上であった。着氷力は-3℃の試験ではモノマー依存性が見られたが、−10℃の試験では依存性は無くなり、しかも着氷力が大きくなった。低温での性能を良くするため引き続き検討しているとのことであった。

他の塗装例として景観サインと蓄光パネルがあり、東京都内某所の地図を印刷したものに塗装した見本と高輝度蓄光誘導版の見本が会場で回覧された。景観サインは愛知万博で採用されるなど、世界遺産である吉野山・金峯山寺蔵王堂(図2)、大分県高崎山、南極にまで設置した写真が披露された。今度出掛けたら景観サインも良く見なければと思います。ただし、南極までは行くことはないでしょうが、良い宣伝になりますね。

高輝度蓄光誘導板は韓国の地下鉄火災事件の教訓もあり、全国の地下鉄、地下街、劇場などに早く設置されるよう期待する。

 

 

図2 景観サイン設置例 吉野山蔵王堂

 

 

2.集束イオンビームによる立体ナノ構造形成とその応用(会員ページ)

兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 教授

CREST JST 松井 真二

集束イオンビームによる化学気相成長(FIB- CVD: Focused Ion Beam - Chemical Vapor Deposition)を用いて、これまで達成されていなかった100nm以下の任意の3次元立体構造体を実現する世界初のオリジナル技術についてお話いただいた。この技術の特長は1)集束イオンビームのビーム径が5nmまで集束可能であるので、3次元CADデータを用いて、数10nmレベルの立体ナノ構造形成が可能である。2)ソースガスを変えることにより、金属、半導体、絶縁体等、多種の材料で、3次元ナノ構造形成が可能である。構造形成に使うアモルファスカーボンはソースガスとしてフェナントレンとGa+集束イオンビーム装置を用いて得られる。30keVGa+イオンの場合飛程は約20nm程度であるから、この範囲に1次イオンが散乱され、散乱領域から放出される2次電子は比較的にエネルギーが低く、その反応断面積が大きいためすぐに吸着ガス分子に捕捉され、ガス分子を分解することでアモルファスカーボンが成長する。照射位置をわずかに動かすことによりカーボンを成長させている。基板上に照射するイオンビームの滞留時間、ビーム電流量や描画間隔を変えることで堆積量の制御をする。立体構造の表面粗さは、描画間隔によってnmレベルに制御できる。この操作の繰り返しによって、実際のワイングラスの2万分の1のサイズでシリコン基板上と毛髪上に世界最小のワイングラスを作製した(図3)。他にもテレビなどでお馴染みの、スタートレック宇宙船エンタープライズNCC-1701Dの1億分の1の大きさで全長8.8μmのマイクロモデルも製作し、オーバーハング構造および逆テーパ構造を造形できることを示している。

ワイングラス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 (a)シリコン基板上、および(b)毛髪上に作製されたナノワイングラス

 外径:2.75μm、高さ:12μm

 

照射条件を変えることにより、ナノスケールの空間内にデバイス間を相互接続できる3次元ナノ配線を作製するため線径0.1μmの空中配線を試み、LCR立体回路構造を作製した(図図44)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図4 LCR空中配線作製例

 

フェナントレンをソースガスとした場合、配線の抵抗率は100Ωcmであるのに対して、タングステンカルボニル(W(CO)6)ガスを同時供給した場合0.02Ωcmまで下げることが出来る。(W(CO)6)ガスのみで作製すると抵抗率は4×10-4Ωcmで金属Wの約100倍の抵抗率である。これらを選択することによりインダクションコイル、コンデンサー、抵抗器を作成できる。コイルを応用すると、電圧印加のON/OFFを行い、20V前後で動作するナノメカニカルスイッチの機能が現れることを確かめている。

自然生物の持つナノ構造として良く知られているモルフォ蝶の羽の色(光沢のある眩いブルー)は色素の色ではなく、燐粉の微細構造が回折格子となり、

反射された光の色、つまり構造色である。これを再現しようとすると平面的な回折格子であれば反射光は特定の角度でしか見られないから、どの角度からでも見られるようにするためには3次元的な回折格子が必要である。モルフォ蝶の場合、高さが2μm、幅が0.7μm、襞ピッチは0.2μmの切れ切れになった多層膜構造をしている。この反射スペクトルのピーク波長は430450nmで、FIB-CVDによる類似構造では長波長側にシフトした、480530nmであり、バンド幅も広い。

実際のモルフォ蝶に近い光学特性を得るためには、擬似燐粉構造作製の改善を行わなければならない。自然生物の自己集積化による高度な機能の科学的探索を進めれば、FIB-CVDを用いて様々な3次元フォトニック材料の作製が可能であることを示している。また4本爪のナノマニピュレーターを作製し、静電反発力を利用して爪を開閉し、1μm径のポリスチレンビーズを掴むことが出来た。これを細胞内で使用できるようにすればバイオテクノロジーに応用できるなど、広い範囲にわたるナノテクノロジー中核技術を紹介された。

 

 

3.タイのガンマ線照射施設(会員ページ)

()イービーム技研 代表 永倉邦男

タイにガンマ線照射施設を建設し、試運転とISOの認証を受け開業するまでの体験を話して頂いた。バンコクから57km東にあるアマタナコン工業団地はスワンナブーム新空港や積出港にも近く400社ほどの企業が活動している。そのうち230社が日本企業である。タイ国産車もトヨタ、スズキ、ホンダなど日本の自動車メーカーが進出し年間120万台を生産している。そSSS85%を輸出しているものの、走っている車の約9割を日本車が占めている。タイ語が分からなくても日本企業がたくさんあるので営業できると言う冗談も聞かれた。ただし、交通標識はタイ文字で書かれているので全く読めないそうである。

日本の医療器具製造会社も進出しているので、放射線滅菌の市場があり、食料品の滅菌には従来からガス滅菌が使われてきたが、最近は放射線滅菌が増加しつつある。海外で認められている食品照射が日本で違法になるための弊害が現れ始めているのは残念ですとの言葉には共感しました。

 

 

 

 

 

 

   図5 Siam Steri Services社の正門横

 

Siam Steri Servicesは特殊ガス(滅菌用ガスも含む)を販売している巴商会が資本を出し、日本国内に4ヶ所と海外でもガス滅菌を実施しているジャパンガス関連の滅菌施設として建設された。放射線滅菌の利用が拡大したことと素材によっては放射線を使えない場合(塩ビなど)もあるので、タイにガス滅菌と放射線滅菌の両施設を持った工場を建設することになった。照射対象は医療用製品が主で、食品照射にも対応できる。タイにおけるガンマ線照射は1984年から始まり、1999年頃からは食品照射もするようになり、現在は6施設でガンマ線照射をしている。

電子線照射施設は3箇所で、そのうち1施設が滅菌用で他は宝石の改質を目的とするもの及びクロスリンクポリエチレンの発泡に使われている。電子線による滅菌はガーゼや脱脂綿のように薄く折りたためるもの等、形状が限られてしまう。放射線滅菌の最大のメリットは完全密封の状態で滅菌できるので滅菌効果が持続し、棚置き期間の滅菌性を保障していることにある。ガンマ線滅菌と電子線滅菌の差はガンマ線滅菌の場合、透過力は良いが利用率が悪い。一方電子線滅菌は透過力が小さいが生産性が高いことにある。

細菌制御のレベルとして除菌、制菌、消毒、殺菌、滅菌があることを筆者は始めて知った。殺菌が一番レベルが高いと思っていたのだが滅菌が一番であることを肝に銘じたい。

Siam Steri Servicesが受託するサービス分野は放射線滅菌、ガス滅菌、コンサルティング、滅菌に関する検査・試験、輸送と幅広く、滅菌に関する総合商社といえる。医療の普及、高度化、高齢者の増加により、必要とする医療器材も変化し、カテーテル類、使い捨て用品、人工骨など体内に埋め込む材料などへの照射が増えてきた。さらに食品の賞味期限を延ばすため、食品そのものに照射できないので、包装材料の滅菌をしている。化粧品の容器や医薬品の容器(特に点眼薬用容器)、錠剤・カプセル剤のPTP包装材など放射線滅菌の市場は増加している。また、製品を輸出する場合、輸入国が定める基準をクリアしなければならない。特に日本では薬事法により海外における製造場は日本政府により認定を受けなければならず、品質管理についてもISO認証が必要になっている。Siam Steri Servicesは放射線滅菌についてISO11137を、ガス滅菌に対してはISO11135の認証を得るなどの技術力を持っているので、滅菌依頼者へのコンサルティングが可能となる。ガス滅菌における品質管理で必要とされる各種試験項目をクリアするための無菌室、クリーンルームなどの施設と技術を持っているので各種試験検査の依頼に対応できる。輸送に関しては専用車を使ったドア ツー ドアは勿論のこと、中間保管サービス、海外輸出手続きに対する書類作成なども代行できるシステムになっており、どんな依頼が来ても対応できると胸を張っておられた。照射容器であるトートボックス中の線量分布測定は多数の線量計を貼り付けた適当な大きさの箱を敷き詰める方法を紹介された。

 図6 開所式での飾りつけ

 

タイの人々は国王、僧侶、年長者を敬う穏やかな性格であり、日本企業が多いため日本食のレストランも多く、物価が安いので快適に滞在できたと言うことであるが、一方では国民の所得は高くはないので、一般のタイ人にとって日本食はとても高い料理のひとつであると言われたのが印象に残った。

(阿部記)

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