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第34回UV/EB研究会報告(聴講記)

1.魅惑のソノケミストリー(会員ページ)

電源開発 技術開発センター 名久井 博之

電源開発株式会社(J POWER)は日本の各地で石炭をはじめ水力、風力、地熱など、さまざまな方法で発電した電気を電力会社に卸している会社で、青森県の大間では原子力発電所も建設中と言うことである。名久井氏はその環境科学研究室で超音波利用の研究をされており、最近は、大阪府立大学で博士取得を目指しておられる。

超音波は人間の聴覚能を超えた高い周波数の音波で、現在では広範な医療検査利用の他、身近にはメガネ洗浄器などもがあるが、発信機の出力が大きくなると、いろいろと面白い現象が見られる。その一つはソノルミネッセンスで、まわりを暗くして水の入ったフラスコの両側から超音波を照射し、位相を調整すると水中に小さな光の点滅が見られる。ある種の薬剤を使用すると水中全体にわたって光る反応野を見ることも出来る。高速度カメラを使うとキャビテーションとよばれる泡のような空洞が次第に大きくなって一気に潰れる様子が見られるが、これは音圧の変化に伴う空洞の振動現象によるもので、音圧が最大に達する直前の臨界状態で空洞の爆縮が起きているとされる。このホットスポット説によれば、この時、内部は、いわゆる断熱圧縮によって5000℃、2000気圧にも達しているとされる。一時、重水中でトリチウムや中性子が観測され、温度は106107Kに達するという論文も出たが、この核融合説はまだ懐疑的である。

化学的には水の高温加熱によって、H2O H + OH の反応が起こり、Hによる還元作用とOHによる酸化作用が期待される。この辺りは放射線化学の反応と極めて類似だが、それに加えて高温による直接の分解反応もある。

まず、酸化系ではOOHH2O2などの生成も考えられるが、鉄、銅などの金属イオンや塩素イオンなどの酸化反応が確認されている。一方、還元系では金属イオンの還元によって、金属のナノ微粒子が生成する反応が注目を集めている。高温分解では金属カルボニルからアモルファス材料を作る研究もされている。

有機化合物はOHラジカルによって一電子分、容易に酸化されるので、その繰り返しで最後にはCO2まで分解出来るので、環境汚染の観点から有機塩素化合物がよく研究されている。これまで、四塩化炭素、トリクロルエチレン、クロロベンゼンなどから電力会社として特に関心の高いPCBまで手がけ、いずれも分解の可能性を確認して来た。

面白いところでは、微生物による酸化反応が、ある条件で促進されること、酒類も種類や条件によって香気成分の増強が見られること、などがある。水のクラスターとアルコール分子の関係が変わるという話もあって、実際に超音波酒と言うのが市販されているとか・・・。

火力発電で石炭を使用するJ Power社は大量の石炭灰を廃出するが、この多孔質性に着目し、水に加えてフェノールを分解させたところ、明らかな促進効果が見られた。現在、そのメカニズムは多孔質表面の穴に残った微小空気が超音波のエネルギーによって引き出され、キャビテーションの核になるものと考えている。

この後、超音波洗浄器を使ってチョークを一瞬に砕く様子やビールの泡が柱のように吹き上がる様子を示す実験で講演は締めくくられた。

 

2.無機−有機ハイブリッド型UV硬化樹脂の紹介 (会員ページ)

アトミクス株式会社 コーティング開発 佐熊 範和

アトミクス社は中堅の塗料メーカーで一般建築・土木分野における塗装材料やアトムハウスペイントとして知られる家庭塗料を製造している会社で、塗装に関しては一つのエリアを深追いする専業メーカーといえる。

標題の商品は13年ほど前、もともと有機材料の技術しか持たなかったグループに、‘無機骨格を有する樹脂を自社技術で開発せよ’との至上命令が降りて、開発が始まったもので、無機材料の持つ欠点を有機材料で補い、両方の長所を併せ持つ優れた材料を目指している。議論の末、無機骨格にはシリコーンを採用し、そのままではアルカリに弱く、極めて薄い膜で無いとクラックが入ってしまうところを有機物質の導入によって、500μmの厚膜でも耐候性、耐酸・アルカリ性、耐熱性などを持つ材料に改質することが出来た。基本的技術の完成に対しては2005年の東京発明展で都知事賞ももらったが、さらにモニタリングを重ねた末に今年4月のペイントショー2006で公表したところである。

無機の骨格を作る最もポピュラーな反応はゾルゲル反応といわれるアルコキシシランの脱水重縮合であるが、その時、官能基をもった有機ポリマー材料を共存させ、両方の反応基をシランカップリング剤で共有結合させたものがハイブリッド体である。

有機の方では付加や重縮合、開環など多様な反応による多様な材料が考えられるので改質の可能性はそれだけ広く、アトムコンポブリッドの商品名で総称するこの分野の製品は、その型によって表1のような種類がある。

HCSはシリコーン樹脂を最も汎用的なアクリル樹脂で改質し、液状・無溶剤・常温硬化型で500μmの厚膜をつけてもクラックが生じない、弊社コンポブリッドの基本技術の1つである。典型的な熱衝撃テストによれば、図2のように無機の構成比が70%まで来た時、厚膜のクラックレスが実現している。

CSSは水性ナノシリカ−シラン架橋型ハイブリッド樹脂で、常温硬化型ハードコーティング剤である。CSS−Hはその熱硬化タイプ。SSUは高含有水性ナノシリカ−シラン−ウレタン型のハイブリッド樹脂である。ナノシリカ表面−SiOHと反応するシラン成分を登用し、最終的にナノシリカ−シラン−ウレタン成分がイソシアネート硬化剤で一体化する構造を有する。

HUVタイプでは有機サイトにラジカル重合型のアクリレートとポリマー成分、さらにグラフト成分が含まれ、このグラフト成分の選択によって有機と無機間の均質な一体化を完成させる。グラフト化された両成分はUV光によって同時に反応を開始し、無機サイトはシラノール重縮合、有機サイトはラジカルによる付加重合をしつつ、架橋によってネットワークを形成するため、無色透明で無機シロキサン特性と、使用した有機成分の特性をそのまま併有するコーティング被膜が実現する。

HUVタイプはナノシリカの配合比を幅広く変えられるなどの多くの特徴があり、環境対策問題などからも、他に比べてよりよい方法なので、出来れば今後、より多くのものをUVで纏めて行きたいと考えている。また、要望の多い耐候性などをより強化するために、さらにEBの方に展開して行けたらとも考えている。

以上、非常に多様で用途の広いハイブリッドの世界について熱演して頂いた。とても詳細は紹介出来ないが、カスタム志向で行きたい旨の話もあったので、新しいコーティングの技術を求めておられる向きには、ぜひ直接ご相談されることをお勧めしたい。

 

 

3.ゾルゲル法を利用した有機無機ハイブリッド (会員ページ)

荒川化学工業株式会社 合田 秀樹

荒川化学工業は創業130年の古い企業で、当初、ロジン、つまり松脂を主にした素材メーカーとして発展し、現在でもその基本方針を通されているとのことである。最近ではコンポセランの商標で一連の有機・無機ハイブリッド用の素剤を発売されているが、これは有機ポリマーからスタートして、そこに無機のセラミックを導入し、より良い材料を目指しているということである。

よく知られているように無機の薄膜は液状のアルコキシシランを縮重合させることで容易に出来るが、有機材料とハイブリッドさせるにはポリマー鎖の長さよりずっと小さい分子で架橋することが重要で、いわゆるナノシリカの程度に留めなければならない。その手法の一つはアルコキシシランを原料としてゾルゲル重合反応をさせる時に、水素結合的な相互作用をするポリマーを共存させて競合させ、重合を抑制する。

コンポセランはさらに位置選択的分子ハイブリッドを目指した製品で、このシランオリゴマーに競合させるポリマーの変わりに、あらかじめ、後に実際のハイブリッド対象となるポリマーの、本質的に弱く、シリカで補強したい特定の位置に共有結合するように分子設計した官能基をもつ分子を結合させたものである。その場合、他の部分はフリーなのでポリマーの長所である柔軟性を残すなど、無機、有機両者の長所の両立を図ることが出来る。

使用するアルコキシシランには第4図のように4官能型のSi(OCHと3官能型のCHSi(OCHの2種類があり、前者の場合、シラン部分は球形でシラノール部分を持っている。それが望ましくない時はそこにメチル基のついた後者を使うことになるが、その場合シリカは不定形である。両者は望まれる架橋密度、耐熱性、吸水性、硬度靭性等によって選択できる。いずれにしてもシリカの部分は極めて小さいので得られるハイブリッドは透明である。

コンポセランには熱分解しやすいエポキシ樹脂の熱に弱い部分にシリカを配置してTgをなくし、超耐熱性、高絶縁性を保つEシリーズ、エポキシの架橋点にフェノールを配置させて力学的な柔らかさを残しながら強靭性を保つPシリーズ、ウレタンゴムのもともと硬い部分にのみシリカを配置して柔らかさを残した超耐熱性のゴムにするUシリーズなどがある。また、Hシリーズによるはポリイミドシリカハイブリッドは寸法安定性が良く、無電解メッキによって薄い金属面が容易に造れるので、フレキシブルプリント基板などに適するが、銅などのマイグレーションが極めて少ない耐圧性の良いものが得られる。

その他、ゾルゲルの欠点で、厚膜時にクラックなどの原因となるアルコールの発生をなくすために硬化の完了したシルセスキオキサンを使い、エンチオール反応を利用した厚膜でUV硬化が可能な材料の開発も行っている。

コンポセランは素材なので例えばEシリーズの場合でもハイブリッドさせる高分子の種類を変えることでコーティング塗料、エレクトロニクス、ディスプレイ分野と非常に広範な用途に対応することが出来る点が特に有用であるとのことであったが、始終ユーモラスで肩のこらない講演を通して、化学の最先端技術が楽しめた。

 

 

4.低エネルギ電子線利用に向けた取り組み(会員ページ)

三菱重工業株式会社 神戸造船所 大野 幸彦

最後は三菱重工が最近発売している電子線照射装置の特長と、この種の装置のもう一つの応用分野であるエネルギー効果の利用技術について話して頂いた。

まず電子線照射装置は、周知のように中心部に直線状の熱陰極フィラメントがあり、それを中心にして小さな円筒状のグリッドと、さらに大きな外円筒が取り巻く構造になっていて、外円の内側は真空になっている。フィラメントで発生した熱電子はグリッドにかかる電圧によって制御されながら、陰極と外円の間にかかる最大値約300kVの電圧で引き出され、外円下部の窓を通して大気中に引き出される。窓は大気圧を支えるために強度が求められる一方、通過時のエネルギー損失が小さいことが必要なため、薄く丈夫なチタン膜が使われている。

この電子線装置を使って表2(次頁)に示すように、一般には高分子への照射で架橋、重合、グラフト重合などによる材料改質や機能向上の他、殺菌、排煙処理などが出来る。この方法は工作対象への形状制御性が良いこと、他の方法に比べて熱の損失が無いことなどの特色があることも周知の通りであるが、当社では、さらに生産性を向上させるために電子線の大出力化を図るとともに、窓の改善、運転監視システムの構築など、付加価値を高める努力をして来た。

大出力化と窓の改善は一体で、電流量が増加すると窓の過熱が激しくなるため、冷却のより効率化が必要となる。そのため、窓を二重にし、その空隙にガスを流すことによって、冷却効果を高めることが出来た。使用するガスには特に制約が無いことや、脱酸素が必要な場合でも、冷却とは別に効率よく使用することにより経済性を高めることが出来る。なお、窓のうち、大気圧側の方は気圧差がほとんど無いので安価な材料で宛てることが出来る。

一方、運転の監視システム改善は装置情報のネットワーク化を進めたもので、顧客の使用状況やメンテナンスのための情報が専用の回線で遠隔監視センターに送られ、工場で把握出来る。そのため故障時などの対応が速く、稼働率を飛躍的に高めることが出来た。一つの例では3年間、98%の実績も得られている。

次に、最近の新しい取り組みとして電子の高い運動エネルギーを直接金属に照射して精製に応用する、いわゆる電子ビーム溶解法を紹介したい。

金属の精製技術には帯融法、浮遊法と並んで電子ビーム法がある。帯融法は極めて高い純度が得られるが処理量が実験室オーダーで、もう少し大規模には浮遊法や電子ビーム溶解法が使われる。電子ビーム法は真空中で溶解させるので不純物は直接または活性ガスによる低沸点化で蒸発させることが出来、純度はるつぼに接している分、若干落ちるものの、5N弱程度は可能で、特に、1000℃を超す高い融点の金属に使えるのが特長である。

ここで紹介する装置は産業用に大きい金属材料の生産を目指して来たもので、インゴット底部の未溶融・未精製部分は、るつぼから引上げ後に加工、除去する方法を用い、実寸にして直径480mm、厚さ30mmが実現している。さらに径1,000mm以上、厚み数百mm程度までの拡張も比較的容易である。

鉄の場合、この方法による精製効果としてはMn、Cuが特によく除かれ、電磁特性が向上する他、錆びにくい、薄膜性が良い、SiCなどの研磨基盤として良好などの特性が得られる。

電子線にはこんな応用もあるのだと知り、技術の奥深さを感じさせられた。

(藤田記)


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