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第33回UV/EB研究会報告(聴講記)

今回は普段と少し趣を変え、毎年夏休み中に開催される「わたしたちのくらしと放射線展」に協賛する形で、その会期初日の8月11日に、同展が開かれた扇町キッズプラザ3階のサイエンスサテライト・多目的ホールをお借りして開催した。そのため、講演のタイトルも一般的な放射線利用に焦点を合わせたものに主体が置かれ、午前中に内閣府原子力委員会の町末男委員に、イベントに相応しい「放射線利用の国際的な広がり」のタイトルで話して頂き、さらに午後からは()環境科学技術研究所の小木曾洋一氏と大阪市立総合医療センターの福西康修氏に下記の標題で、それぞれ、約50分程度の時間で話して頂いた。

1.放射線利用の国際的な広がり(会員ページ)

内閣府原子力委員会委員 町 末男

放射線利用の話に入る前に、まず、原子力委員会が昨年10月に定めた新しい原子力政策大綱(以前は同長期計画といわれていたもの)の骨子が、関わった委員ご本人から直接聞くことが出来た。

@エネルギー省エネを心がけるとともに化石エネルギーの効率的利用に努め、新エネルギーと原子力、それぞれの特徴を生かしたベストミックスを追及しつつ、2030年以降も原子力を総発電電力量の30〜40%以上の水準に保てる方向で進める。高速増殖炉は研究開発を着実に進め、2050年頃から商業ベースの導入を目指す。そのために今後、人材を育成・確保する目的で、また、原子力と国民・地域社会の共生をはかるためにさまざまな効果的取り組みをする。

A放射線利用安全確保を前提に、より広汎な分野における利用を推進し、かつ、その効用と安全性についての理解を進めるために、医・農・工学等の分野間連携、事業者・国民・研究者間で相互交流ネットワークを整備すること、科学技術活動に効果の大きい先端的設備・施設を整備することなどの目標が示された。

以上が要約だが、筆者はこの講演会の前日に香辛料の照射滅菌について「ご意見を聞く会」に出席しており、この政策大綱がこれまで停滞して来た食品照射の進展にきっかけを与えたのであれば、今回策定の意義は大きいと思えた。

さて、本題だが、まず、国内では@新材料の開発、A環境にやさしい農業、B切らずにガンを治す先進医療などが特に目立っている。@では放射線架橋によって作られハイドロゲルが傷や火傷の治りを速くすると話題になっており、すでに商品化もしている。Aの一つは放射線によって不妊化された虫を放って薬品を使わずに害虫を根こそぎ退治する方法で、沖縄のウリミ蝿駆除により本土で苦瓜が食べられるようになった話は有名だが、その後、イモを食害するゾウムシなどにも試みられ、すでに70〜80%まで成功している。また、梨でよく知られる病気に強い植物品種の創生や食品包装材の無菌化なども含め、いずれも農薬の使用を減らせる、環境に優しい技術と言える。Bは重イオンの特性を利用した新しいピンポイント医療の技術である。最近はさらにMRI/PET診断が加わり、がん治療への放射線技術は急速に進んできた。さまざまな医療用具の殺菌・滅菌も今はほとんど放射線によっている。

発展途上国においても上記と同様な放射線の利用はいまや不可欠であり、それぞれ大きな経済効果をもたらしている。実際、地中海ミバエなどの害虫による食糧の損失が30%にも達するメキシコ、チリ、カリフォルニア、ペルー、アルゼンチンなど、これまで多量の殺虫剤が環境を汚染していた国々で、不妊虫による撲滅が成功している。ツエツエ蠅など病原菌を媒介する害虫の撲滅にも威力を発揮している。ジンバブエでは空気中の窒素を固定するバクテリアをアイソトープを利用して選別し、効果的なバイオ肥料を製造して収穫量を増やしている例もある。

先進国のアメリカでも食品照射が進んでおり、とくに最近ではハンバーグ用ひき肉まで食中毒対策として許可され、スーパーに並んでいる。香辛料をはじめとして食品照射はいまや世界中で利用されている。

この後、世界のエネルギー事情に話が移った。周知のように、CO増加による地球温暖化がもたらす各地の熱波や異常気象などの問題は現代社会に大きく影を落としつつあるが、世界的に著名な環境学者が「幻想的な新エネルギーを実験している時間はない」とし、原子力発電をその解決策として推奨し始めるなど、世界は今、原子力ルネッサンスともいえる状況にある。中国、インド、インドネシア、ベトナム、そしてアメリカでそれぞれの実情に応じて新しく開発または増設の動きが見られ、欧州でもフランス、イギリス、フィンランド、ベルギー、ポーランド

最後に、これらの放射線利用を発展途上国で実施したり、原子力の問題を国際的に論議する機関はIAEAであるが、こうした国際機関で活動する日本人が極めて少ないとの指摘があった。この問題の改善には、一つには英語教育の改革が必要であるが、さらに、今後の日本人社会では、これまで美徳とされて来た協調性に加えて個性の価値を高め、両者をバランスよく発揮できる社会を作って行くべきであると提言された。

 

2.低線量放射線の影響(会員ページ)

(財)環境科学技術研究所

生物影響研究部 小木曽洋一

次に、放射線施設などで常に問題となる低線量の放射線を持続的に受け続けた場合、寿命にどのような影響が見られるか、マウスを使ってこれまでに得られたデータをもとに話して頂いた。

標記の研究所は青森県六ヶ所村の核燃料再処理施設の近くにあり、低レベル放射線の生物影響については、正しい理解がまだ十分ではないとの観点から、実証的な研究を通して安全性を調査する目的で設立されており、現在、放射線の@分布と動態、A循環、B生物影響のテーマで研究を進められている。

放射線の人に対する影響については歴史的に原爆被爆者の高線量率、1回被曝のデータが多量に蓄積されている。それによれば白血病の発生が被曝の10年後にピークに達すること、それ以外の固形ガンは200mSv以上で増加すること、遺伝的な影響は見られない、ガン以外にも高血圧、脳梗塞、心筋梗塞、肝炎、白内障なども増加している、などの事実が認められている。

一方、米国科学アカデミーや仏・ガン国際研究所なども疫学的調査をもとに100mSvでガン死や白血病の増加があるとしているが、それが純粋に放射線によるものかは不確定である。つまり、それらは線量がどんなに少なくても、影響は被ばく線量に比例して現れるとの根拠によるが、実際には影響が出るまでに一定の閾値があるとの説もあり、特に低線量域ではその点が問題で単純な計算であてはめることは出来ない。実証的なデータを得ることによって理解を深めるのがこの研究の目的である。

具体的には表1を基にした線量・線量率の定義では低線量率の範囲にはいる1日あたり@0.05mGy、A1.0mGy、B20mGyの3通りの線量率を設定して、病原菌を持たない特殊なマウス500匹ずつに、それぞれのレベルで平均寿命の約半分にあたる400日間連続で照射した後、その後の寿命に与える影響を調べた。総線量で見ると、@は職業人の年限度に相当し、低線量の範囲にあるが、Aは原爆被爆者の平均被曝量で中線量、Bは一時に浴びた場合、30日以内に半数が死亡する高線量である。

図2はオスの結果で、メスではわずかに違いがあるが、まとめると、@の場合には影響が無く、Aではメスのみ20日、Bではオス、メス平均して100〜120日の寿命短縮が見られたということである。短命化の原因は悪性リンパ腫と、一部、腎炎、肺炎などの早期化と見られ、腫瘍の発生率には雌雄で差が見られた。一つ、興味深い点は、メスに特異な現象として、A、Bの場合に体重の増加が見られ、ストレスによる肥満が原因ではないかと考えられる。

ここで述べられた結果は平成7年から9年間にわたって行われた研究の成果で、それ以降も、子孫への影響、ガン発生の仕組みや対応する遺伝子の特定、染色体異常など生物学的指標を用いた被ばく線量の評価法の開発などの研究を進めているということだが、それにしてもこれだけ多量の生き物を落ち度無く飼育して、信頼性のあるデータを得る作業は大変なことだろうと思った。

 

 

 

3.人と医療と放射線

― レントゲン写真から三次元画像への発展 ―(会員ページ)  

大阪市立総合医療センター  福西康修

次は放射線の医療への応用が診断の分野でどのように進んで来たか、そして、最新の凄さについて話してもらった。

まず、レントゲン博士がX線を発見し、その透過力に着目して奥さんの手を撮影したのが約110年前。現在も残っている、指輪と一緒にはっきりと映し出された指の骨の写真は印象的である。その後、この技術は博士の特許放棄の決断も寄与し、胸部写真など多くの医療分野に応用され、技術の改良も経て来たが、その間、画像の記録は長い間、当時と同じ銀塩写真のフィルムであった。しかし、現在はそれがイメージングプレートに変わり、より精度の高い画像のデータがデジタル化されて取り出せるため、濃淡の調整やスムージング、反転などコンピュータによってさまざまな処理を施して観察することが出来る上に、ネットワークを通して多くの他の部署とデータを共有することが出来るようになった。メーンサーバーには胸部、腹部などの一般撮影画像のほか、透視、アンジオ、CT、MRIなどの装置からのデータもすべて蓄積されており、当医療センターの場合、約600台の端末が繋がっていて、これらを共有している。

今、病院でX線がもっとも活躍しているのはCT装置である。周知のようにCTは体の回りを取り巻くドーナツ状の円筒内で線源が回り、体内を輪切りにした断面画像のデータを取り出す装置で、日本では1975年に始めて導入された。最初は動きの無い脳の画像に応用されるだけであったが、その後、時間の短縮やマルチスライスなどの技術革新によって動きのある部分の撮影も可能になり、体中どこをとっても10秒以内、分解能も0.3mmというレベルに至っている。それによって一つの断面だけでなくたて、横、斜めの断面観察が可能となり、立体的な血管造影像の描出などへ応用が広がった。現在ではデータ取得のスピードアップにより心臓の動きを見ることも出来る。また、見る位置が選べるので外側からだけでなく血管などを内側から見る仮想内視鏡といわれる手法が使えるようになった。

放射線が活躍するのは他にも核医薬品がある。SPECTやPETなどがそれで、静脈から注入した放射性物質がそれぞれの特性に応じていろいろな部位に集まり、そこから出す放射線をCTと逆の原理で観測することによって、部位の形を造影したり、動的な生体機能や血流、代謝の診断を行うことが出来る。

今回は治療までは触れられなかったが、そのうちでもX線透視で確認しながらカテーテルを使って行うインターペンション治療は切開手術を伴わないので患者の負担も軽く、医療経費も節約できる方法として注目されている。

このように最近の医療の進歩を改めて聞いて見ると今や切らずに見る技術の応用はとどまるところを知らないように見える。データのデジタル化とコンピュータの進歩を考えると当然と頷ける話ではあるが、実際に血管の中を見ながら自由自在に走り回る動画を見たりするのは実に壮観でインパクトがあった。ただ、こうした画像はある意味作られた、いわゆるヴァーチャルなものなので、実体との違いも常に意識しておくべきだろうとは思う。        (藤田記)

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