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第31回UV/EB研究会聴講記
平成17年11月25日開催)

 :住友クラブ

1.電子線グラフト重合による繊維材料の機能化(会員ページ)

福井県産業労働部 産学官連携推進室長

宮崎孝司

まず、最初は長年にわたって福井県の地域産業育成に努力して来られた宮崎氏に、繊維にまつわる問題の解決に放射線グラフト重合の技術を応用して来られた経緯を話して貰った。

北陸等の繊維産業は在阪の合成会社から仕入れた糸を織って布にし、染色して、さらに付加価値を高める加工を行っているとのことだが、まず、糸と繊維についての詳しい解説に続いて、加工・改質の話に移った。改質の種類は撥水性、防水性、防汚性、形態安定性、清涼・快適性、抗菌・防ダニ、消臭・脱臭、生体適合性、吸水・吸湿・透湿、難燃・防炎、耐熱性、保温性、帯電防止性、導電性、超伝導、耐候性、紫外線遮蔽性、電磁波シールド性、吸音・遮音性など実に様々で、ここでは抗菌、消臭、難燃性について、最近の研究例が話された。通常、これらの加工では布を水になじみやすい樹脂液に浸した後、熱固着させるが、高温の湯での洗濯や摩擦の繰り返しなどで脱落し、初期の効果は低下し易い。耐久性を上げるためにバインダーなどを使用すると素材の持つ風合いが損なわれるなどの問題がある。また、熱処理工程が必要なこと、その際に発生するホルマリン対策、未使用薬品の廃棄処理などの問題もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これに対し、素材繊維の分子構造に切り目をつけ、そこに必要な機能剤分子の一端を直接化学結合させるグラフト重合法によれば、それらの問題点について大きな改善が期待される。グラフトとは「接ぎ木する」と言う意味で、鋏に相当する道具として紫外線、低温プラズマ、ガンマ線、電子線などが使われる。

宮崎氏らは小企業向けに小ロット対応とするため、すでに布になったものを後加工する方式を選び、処理時間が短く、連続工程化し易いなどの長所を持つ電子線を採用した。ここで特筆すべきことは、グラフト率を向上させるために新しくフィルムシール方式を考案したことである。通常、グラフト法では繊維表面に発生させた活性部分(ラジカル)の、酸素との反応による損失を防ぐために窒素ガスで覆うが、コストの上昇につながるので、フィルムシールによって反応空間を狭め、窒素ガスを使用せずに関与する酸素量を減少させた。これは電子線をあてた布を機能性材料に浸した直後に両面からポリエチレンフィルムで挟み込む方法で、その結果、グラフト率が大きく上昇したのである。(図1) このように低価格で連続処理可能な電子線グラフト重合技術が確立され、表裏異機能・多機能・高機能・高耐久性などの点で特徴的な布地が生産可能となった。(図2) ちなみに照射可能な幅は160cmである。

得られた繊維の物性評価では綿などでわずかに強度低下が認められたものの実用上の問題は無く、また、これまでは不可能とされていた、風合いの良さで優れたトリアセテート生地の抗菌・消臭も可能となった。このプロジェクトはNHKでも取り上げられ、放送されたと言うことで、一部が動画で紹介された。従来の樹脂加工では出来なかった難燃加工が施されたポリエステル/綿混紡品の燃焼実験も動画で紹介され、その効果が良く分かった。

これらの試験成果をもとに、17年度からは商業生産に向け、体制整備に取り組み中ということであった。

 

2.光硬化性におけるアクリル樹脂とエポキシ樹脂(会員ページ)

旭電化工業株式会社 情報化学品開発研究所

 光材料研究室 近岡里行

近岡氏には光硬化性樹脂の技術について解説してもらった。まず、光硬化性樹脂の重合方式にはカチオン重合系とラジカル重合系があり、カチオン系はほとんどが、エポキシ構造をテキスト ボックス: 表1. ラジカル系とカチオン系の光重合の特長比較
反応形態	カチオン重合	ラジカル重合
樹脂成分	エポキシ系	アクリル系	エン・チオール系
樹脂特性	シェルフライフ	◎	○	○
	重合反応への影響			
	UV感度	○〜◎	◎〜○	○
	酸素	◎	○〜△	○
	温度・湿度	△	○	○
	塩基性物質	×	○	△
	樹脂の臭気	○	○〜△	△
	皮膚の刺激性	○	○〜△	○
硬化物特性	密着性	○	○〜△	△
	耐熱性	◎	○	○〜△
	耐薬品性	◎	○	○〜△
	可とう性	○〜△	○〜△	◎
	耐候性	○〜△	○〜△	○〜△
	表面硬度	○〜△	◎〜○	△
	耐磨耗性	○〜△	◎〜○	◎〜○
	厚膜硬化	○〜△	◎〜○	◎
	薄膜硬化	◎	×	△
	硬化収縮	○	△	△
	塗膜臭気	◎	○〜△	△

持つ分子をモノマーとするエポキシ樹脂であり、ラジカル系はアクリル樹脂が主である。

光カチオン重合では、開始剤が光を吸収して励起されると一旦カチオンラジカルが生成し、それが中性の分子からH原子を引き抜いてカチオンとなった後、プロトンを放出する。これがモノマー分子のエポキシ構造に付加してオキソニウムイオンを生成し、以後、オキソニウムイオンがキャリアーとなって重合反応が進行する。エポキシ類似の環状エーテルである4員環のオキセタンやビニルエーテルも類似の反応で重合できる。

開始剤としては歴史的に芳香族ジアゾニウム塩に始まって、同イオドニウム塩、同スルホニウム塩と発展して来たが、現在は硫黄原子に三つの芳香族環がついたスルホニウムイオンが主として使われている。環への置換基によって有効な波長域を変えられるが、より長波長を利用するためには、別の分子を増感剤として加える手段もあり、450nm程度まで延ばされている例もある。カウンターイオンにはBF-、PF-、SbF-が使われるがこの順にソフトになり、その分、反応速度が速くなる。

一方、光ラジカル重合系のモノマーは主としてアクリルである。開始剤には光励起により開裂して二つのラジカルを生成する物質が利用されるが、比較的構造の選択肢が多く、波長域も広く、増感もしやすいので可視光でも使えるものがある。

カチオン重合は酸素存在下でも反応できるので、薄膜でも硬化が可能であり、成長末端がリビングのため、光照射が終わった後も徐々に反応が進行し、重合が完結すること、モノマーの皮膚刺激性が低いことなどに加えて、エポキシ化合物の重合では、開環と結合の反応が相殺するため、体積収縮率が小さいので接着剤に使用したとき、硬化後の応力が発生しないなどの特長がある。一方、ラジカル重合系では主鎖のバリエーションが広いので硬軟の幅が広く、また、硬化速度が速い。残留する酸が無いなどのほか、何より、比較的安価という特長がある。

旭電化()では光硬化樹脂としてエポキシ主体のアデカオプトマーKRシリーズとアクリル主体の同HRシリーズを発売している。たとえば、ポリエチレンチューブ、ICカードなど透明性や柔軟性、密着性が要求される場合にはKRシリーズ、硬さや帯電防止効果が求められる場合にはHRシリーズを利用することが出来る。他に、一時仮止めして後に完全硬化させるなどに適した、UV/熱両対応型のKSシリーズ、熱硬化性エポキシのKTシリーズもある。KTシリーズは一液系で、短時間に硬化でき、透明性にも優れている。KRシリーズの接着剤は、有機タイプが透明性が良く、有機、無機ともに低収縮性で信頼度が高い。その他の応用として光造形用樹脂アデカラスキュアHSシリーズがある。これは液体の光硬化性樹脂に局部的に光を照射して選択的に硬化させることにより、3次元のモデルを作成する技術に活用出来る。3次元のCADデータがあれば、どんな形でも造形可能なので、デザイン評価用のモデルを作成して、形状確認、機能評価を行えば、少量多品種の実部品や最終製品の製造を可能にする。

以上より、光によるカチオンおよびラジカル両重合法は、それぞれのメリット、デメリットを理解して使い分ければ、目的に合った効果的な製品を得ることが出来る。

 

3.環境調和型産業システム構築のための基盤技術の開発(会員ページ)

滋賀県立大学工学部教授 山岡仁史

最後は現在、滋賀県が産学官を結集して取り組んでいる地域結集型共同研究事業について、研究統括をされている山岡先生に概要を話して頂いた。先生は京大にご在職中、草創期のONSAで研究会の企画委員としてお世話になった人でもある。

独立行政法人科学技術振興機構が執行を担当するこの事業は「科学技術基本計画」の趣旨を踏まえ、閣議決定にもとづいて平成9年度に創設されたもので、滋賀県グループが申請したこのプロジェクトは平成15年度から5年間、総予算25億円の規模で採択されたという。

滋賀県は琵琶湖があるため環境が重要な要素であるが、同時に産業の50パーセントが製造業なので、それらを絶妙に調和させるコンセプトが求められたが、それをここでは「シーケンシャル・ユース」に置いた。これは生産工程において、廃熱、廃水の利用は勿論、廃棄物も単なるリサイクルではなく、その未利用物性に着目して物質転換を図り、新たな製品や原料に再生するなど、より高度な循環システムを目指すものである。そのための要素技術を編み出す目的で、プロセス技術、材料技術と、さらにこれらと相補的なシステム構築・評価法の三本立ての研究グループを構築し、大学からそれぞれに設定したいくつかの研究テーマに相応しい業績を持つ教授を研究リーダーとして迎えると共に、多数の大学・企業が研究に参画している。

主として走っているテーマは、@工場から排出される廃棄物と廃熱を利用して製造した触媒を使用し、有機排水からエネルギーガス(水素、メタン)を製造する、A二酸化炭素の超臨界流体を利用して、高分子材料に新たな機能を付加し、再利用サイクルに乗せる、B廃凝集剤より多孔質水酸化鉄を作成し、その高い吸着性能で排水中の燐酸イオン、硝酸イオン等を回収する環境浄化プロセスを構築する、C温度、光、その他への刺激応答性ポリマーを開発して廃水中に含まれる有害物質を選択的に捕集・浄化するシステムを構築する、などの技術開発に加え、Dシーケンシャル・ユース・システム構築法の開発とE同、評価法の開発がある。講演ではその中からいくつかの詳細が紹介された。

まず、@では廃イオン交換樹脂に廃水中のNiイオンなどを吸着させて真空乾燥し、500℃で焼くとNiが炭素上に均質に分散した多孔性の塊状物質が得られるので、これを触媒にして、半導体工場の排水を念頭にした有機廃液を処理すると完全に可燃ガス化出来る。すでに模擬的な硫酸ニッケル・アンモニア水溶液による処理でメタンや水素が75%も含まれる結果を得ている。ただ、実廃水ではDMSOなどによる被毒のため耐久時間が2,000時間から150時間まで低下するので、反応を低温化し、生物処理と組み合わせるなどの対策を考慮中である。

Bは金属工場の廃液に含まれる余剰凝集剤についてで、現状では埋立て処理しているが、その中の水酸化鉄をハロゲン化し、最適条件で焼成すると、比表面積が2〜300m/gの高性能吸着剤が得られる。これは燐酸イオンに対して従来の100倍の吸着能を持ち、燐の再資源化や各種排水の浄化に応用出来るので、現在2塔式の交互運転で週一回程度の頻度で吸着・脱着を繰り返すシステムを工夫中である。

最後に紹介されたCの刺激応答性ポリマーは興味深いもので、ポリエチレングリコール分子の両端にペプチドを結合させたコポリマーである。これは温度変化に応じてゾル‐ゲル転移をする性質があり、ゾル状態で金属イオンなどを捕集した後、ゲル化によって沈殿させれば、容易に水溶液から取り出せるのがみそだ。これを使えば、選択的に金などの貴金属イオンが取り出せ(図3)、6価クロムなど有害金属イオンなども効果的に除けるそうで、また、水中の疎水性染料、環境ホルモンの捕捉にも成功しているなど、廃水処理技術への応用が期待される。

この4年間でこれらの研究からはすでに特許28件、国内外の論文発表60件他の成果が出されており、滋賀県も地域活性化の観点から、地域COE関連基盤として位置付けて、支援体制も確立している。(図4) 講演は、それに応えられるよう、今後は企業が実際に乗れるような質の内容に繋げて行きたいとの抱負をもって締め括られた。研究統括だけで無く、産学官全般にわたる人間関係の調整などは、気苦労の多い仕事と推測されるが、これまでの成果への評価は高く、予算の上乗せさえあったと言うこれまでの経過は山岡先生のお人柄によるところが大きいと言えるだろう。

                (藤田記)

 

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