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第29回UV/EB研究会 聴講記
(平成17年5月20日  住友クラブ)

1.EBキュアリングによる高機能フィルムの製造(会員ページ)

シーアイ化成(株)研究所

機能性フィルムプロジェクト 桝田義勝

最初はシーアイ化成株式会社の桝田氏にEBキュアリングによる高機能フィルムの製造について話して頂いた。この会社は特に合成樹脂素材の加工・複合・融合などに優れた技術を発揮されており、フィルムの製造もその一つである。

話はまずフィルム製造工程の種類の紹介から始まった。EB法を古くからある方法と比べると表1のようになる。圧延、押出しなどの場合、成膜過程の前後に規模の大きい設備と複雑な工程が必要なため、装置の価格は10億〜数10億の規模となるが、EB法はそれらが不要な上に、大幅な加熱・冷却なども不要なため比較的シンプルで予想されるほど高価ではない。一方、寸法の対応性では、押出し法が金型に大きく依存するため非常に狭いのに比べ、EB法は塗工機械の厚みや幅に依存したワイドな対応が出来る。機能の対応性も、引き剥がしの可能性に縛られて種類が限られる圧延法に対し、意外に広い。これらのことを総合するとEBキュアリング法は十分に現実性のあるものと結論付けられ、シーアイ社では5〜6年前から本格的な製品の製造を始めた。EB法では一般に既製のベースフィルム上へ塗工製膜するのが普通だが、シーアイ社では独自にエンドレスベルトやキャリアーフィルム上へ塗工し、成膜するなどの技術を開発し、キュアリング用素材だけからなるフィルムを製造するのが自慢ということである。

問題はフィルムの機能、性能であるが、一例として選んだ現在発売中のベルビュートという製品を挙げると、これには段階的に硬さの違う3タイプがある。これらをMMAやポリカーボネイトと比較して見ると、比重、屈折率、光透過などの物理的特性が硬さによってほとんど変わらない結果が得られており、化学的にも、とくに耐溶剤性、耐汚染性がいずれの場合にも優れている。これらの性能の高温(高湿)経時変化についてPVCやPETと比較したところでは、常に最善の結果が得られ、さらにフッ素系のフィルムにも遜色ないことが示された。耐候性試験についても光沢、明度、赤味・黄味変化などで優れた結果が得られている。光沢で言えばフロリダや宮古島の南面での5年間相当の暴露で変化が見られず、いわゆる、有機物特有のマイクロクラックが生じない。これらの物理的、化学的特性と耐久性、耐候性をもとに、今後、このEBフィルムは、装飾的なビル壁やガラス主体の壁などに張るとか、石油タンクの外装などに塗装の替わりに利用するなど、広い用途が考えられている。

一方、鋼板、プラスチック、木などの材料に張った後で二次元に折り曲げたり、三次元に成型され、加工されるケースにも、さまざまな例が試みられており、極端な折り曲げ部分や内曲げ、外曲げなどの冷間プレスに対して、いずれも亀裂による白化や光沢の変化などを起こさないことが示された。この点はさまざまな部材の塗料代替が目指せると期待される。

結びとして、これまではEBの特性として無溶剤性を追及してきたが、溶剤の利用も含めればさらに機能の幅が広げられ、新しい材料の開発が可能であろう。今後はさらに耐熱性・強靭性を高めるために原料メーカーとも協同して、より高い耐熱性・強靭性など、新しい原料開発を進めて行きたい希望が述べられた。

新宿三丁目で見られるという斬新なビルの昼と夜の写真は建物の概念を全く新しくさせる印象を受けた。

 

 

2.フロンティアカーボン社の最近の用途開発状況

─フラーレンの開発状況について─(会員ページ)

フロンティアカーボン株式会社 友納茂樹

次はカーボンのナノテク技術がいよいよ産業規模で展開を始めたという話である。フロンティアカーボン社はフラーレンを低コストで大量に供給し始めたことで注目されているが、今回は同社の社長直々のお話を伺うことが出来た。

フラーレンは周知のように分子式C60、サッカーボールのような分子構造を持つ不思議な物質である。1985年に発見されたが、実はその15年も前に日本人がその存在を予言していたのだが・・・、その後、C70、C82、などの同属体がつぎつぎに見つかり、今ではこれらを総称してフラーレンと呼んでいる。いずれも無機物質でありながら有機の性質も併せ持つことや、その特異な構造に由来する性質などからさまざまな応用が期待され、発見後15年で、その研究報告や特許申請などが3万件にも達するといわれる。

ただ、これまで実用化という意味ではあまり進んでいなかったが、それはKg当たりの単価が500〜1000万円という高価だったためで、友納氏は「これほどの研究があるのだから値段さえ安ければ事業として面白いのではないか」と考え、この事業を初められたと言う。フロンティアカーボン社は三菱化学等が出資している三菱系の企業だが、たまたま、フラーレンの物質特許が三菱商事の関連会社にあったことが幸いして、その特許がexclusiveに使えるのだそうである。

合成法だが、一般にはアーク放電法と言われる方法で作られるが、それはバッチ法なので生産性が上がらない。そこで三菱化学が得意とするカーボンブラックの製法技術をもとに真空中、低酸素状態で燃焼させることによって、収率20%という高い技術が開発された。これにより価格は2003年の段階で、40トン規模でKg当たり50万円と一挙に一桁下がった。量が多ければ数万円も可能な範囲にあると言う。

さて、フラーレンは図1のように実にさまざまな特徴があるためその応用もいろいろと期待される。電気を通さないのでカーボンナノチューブなどともまた違った用途が期待されるが、多くの先端材料がそうであったように、まず、スポーツ用品に応用された。その最初はボーリングのボールだそうである。表面のウレタン部分に混ぜておくと水も油もはじく性質が得られるため、レーンのピン直前、オイルが塗られていない部分に来た時に効果的な動きをしてくれるのだ。もっとも、備え付けのボールが主に使われるこのスポーツでは金額は知れているのだが、実用対象として使われたインパクトが大きかったという。

その後、チタンの強度を上げて軽くするゴルフヘッド、美白効果を狙った化粧品、その他、スキーのワックス、燃料電池の電解質膜、電気二重層型コンデンサーのキャパシターなどが実際に日の目を見ており、また、これから先の話として、メガネのフレームやゴルフのシャフト、さらにはレジストに混入して耐久性と解像度を上げ、エッチング特性を向上させるなど、いよいよ、工業製品にも新しい視野が開けて来たとか。まさに用途は多彩で楽しみに満ちた話であった。

 

 

3.カーボンナノチューブのナノエンジニアリング(会員ページ)

大阪府立大学大学院工学研究科 中山喜萬

最後に、現在カーボンナノチューブ(CNT)の分野でナノエンジニアリングを標榜し、意欲的に研究を進めておられる中山先生にお忙しい中をご登場頂いた。先生のお話は微小世界の対象を、目で見るように自由に操る、まさにナノサイズ・エンジニアリングにふさわしい技術の連続であった。

それらの技術を展開するに当たって必要な直線性の良いCNT作成には、この研究室が開発した、放電領域を水冷するアーク放電法を採用している。この手法により、まず、5000K以上のアーク放電によって比較的不純物の少ないCNTを作成し、さらに独自の高周波電場による電気泳動法を適用すると、より精製されると同時にナイフエッジの法線方向に位置制御されたCNTが作れるのだそうだ。これをカートリッジにして走査顕微鏡に組み込み、プローブとして使用すると、シリコンの5倍以上の力にも折れない探針として使用出来るということである。それを使ってマイカ上に分散したDNAの捩れのピッチを測ったところ、35nmの値を得たそうだ。

ちなみに、CNTは直径03mmの太さで1tの重さを支えられるという。以下、紹介されたナノエンジニアリングの手法を列記した。

ナノピンセットの作成 二つ並んだシリコンのカンチレバーに電極配線し、それぞれの電極の先にCNTをつけたもので、かける電圧を上げて行くと静電気による力が働いて閉じる。閉じた部分はそのままだと電流が流れ、加熱されて蒸発してしまうので、水素の混じった炭素膜で表面を覆い、絶縁性を持たせて壊れないように仕上げる。これはすでに外部からピンセットとして使用出来る制御システムが出来上がっているそうである。

炭素原子50個の重さ測定への挑戦 圧電素子に取り付けたCNTの先に錘をつけて、素子に交流電圧を加えると振動が起きる。(図2) その共振周波数とCNTのサイズなどいくつかの物理定数を使えば、錘の重さが計算できる。錘は走査型電子顕微鏡(SEM)の中で電子線によって炭素を堆積させて作る。実際に05から53MHzの間に共振現象が見られ、重さとの間に予想される式にしたがったきれいな直線が得られた。計測している重さは1fg(10−15)以下であった。条件を調整することにより、炭素原子50個に相当する1zg(zept, 10−21)の計測も視野に入ったという。

CNTを加工する CNTは普通、何層かが同心円状に重なっているので、両端に電極をつけて電流を流すと熱によって表面部分から蒸発が起き、電流量が階段状に減少していく様子が見られる。これを利用して中心部で一層ずつ皮をむくような加工が出来た。切断まで行けば先端がシャープに尖った針が得られ、顕微鏡のプローブなどに利用できる。これに関連してCNTの蒸発温度は太さによらず2300Kで、グラファイトの昇華温度よりはかなり高いことや、層間の電気抵抗が600オームμmと、意外に小さくないことなどがわかった。

加工技術のもう一つの手段として塑性変形の利用が考えられる。一定の力を加えて弾性変形させながら、電流を流して蒸発しない程度に温度を上げ、後に電流を切ると、温度が下がった時、力を取り去ってもその時の形が保持されることが実証された。

すべり抵抗の測定 CNTの内層と外層がどの程度動けるのかは興味深い。硬、軟、二つのカンチレバーの間にCNTを橋渡し状に固定し、上記のように電流を流して中心部が一層になるまで表面を剥ぎ取った状態でカンチレバーを左右に引くと、層間で滑りながら抜けて来る。この状態をSEMで観察すると、柔らかい方のカンチレバーが動摩擦抵抗の分だけ力を受けて曲がる様子が見られた。内層が完全に抜ける直前までの曲がり角度は一定で(図3)、その値からすべり抵抗が計算された。

などなど、いずれも、恰も手を使い、目で見ながらの工作を思わせる手法の連続に感嘆させられたが、そのいくつかはイギリスの専門誌など世界の有名学会誌の表紙を飾ったと言うことである。まとめとしては、今後さらにこれらの技術を駆使して、電子顕微鏡の中、室温で動くモーターを作ったり、超小型のセンサーやバッテリーなど、さまざまな展開を考えておられるとのことであった。              (藤田記)

図3.滑り力を二つのカンチレバー間の距離の初期値からの変化量に対してプロットしたグラフ

 

 

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