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27UV/EB研究会報告聴講記

 平成16917日開催、於 住友クラブ

今回も、いずれも現在、正に旬のテーマ三点について、それぞれに最先端でご活躍中の講師に話していただいた。

1.紫外線硬化型水分散ポリマー

新中村化学工業(株)研究開発部 大城戸正治

最初は、新中村化学工業株式会社で新しく開発された水系のUV硬化樹脂について紹介された。有機溶剤を使わないことで環境に優しい点を強調した新しい素材である。この水分散型のエマルジョン製品は従来のモノマー、オリゴマータイプに比べて分子量のずっと大きいポリマー(数10万以上)であるため、溶液を塗布して乾燥させた状態で被膜が形成される点が特徴的である。また、このポリマーにはアクリロイル基が導入されているので、皮膜形成後、さらに紫外線を照射することによって架橋が起こり、耐水性、耐溶剤性、耐熱性等が付与される、あるいは向上するということである。製品としては主鎖の分子量に依存するガラス転移温度Tgをそれぞれ -45° +20°+80°に設定したRP-116ES、RP-116E、RP-116の3種類があると言うことである講演ではそれぞれのタイプについてPMMA、ポリカーボネート、PETを基材にして塗布、UV照射した場合のテスト結果が紹介された。

RP-116Eについてはいずれの基材に対しても密着性が良くUV照射で硬度が高くなった。RP-116EHは被膜形成をしないので全体比較をするのに造膜助剤を使用して調べたが、Tgが高いほど塗膜後の硬度が高くなる一方で密着性は悪くなるものの、UV照射により硬度が改善する点は同様であった。耐溶剤性では、メチルエチルケトン以外、環状炭化水素、イソプロピルアルコール、酢酸エチルなどについてUV照射の効果が見られている。これらの硬度の変化は二重結合の導入量が多いほど増加することから架橋によるものであることが明らかである。比較としてこれらの材料に化学的開始剤を加え、加熱による効果を調べた実験では硬度、耐溶剤性ともに良い結果は得られていない。

これらの樹脂液は乾燥後、表面タックフリーであり、体積収縮率が低いため、基材との密着性が良い点が特徴的で、用途として水現像型のレジスト、水系塗料、エマルジョン塗料などが挙げられた。

 

2.ポリシランのUV分解を利用した電子材料への応用

大阪大学大学院 工学研究科

物質・生命工学専攻  長山 智男

前回に続き、ポリシランの活用を目指した応用研究である。ポリシランは正孔移動度が高いなどの特長があるものの、珪素−珪素間の結合が弱いために機械的強度が低いことや主鎖がUV照射によって分解され易いなどの欠点があり、その利用は進んでいない。講演ではこの欠点を前向きに利用しようとの観点からポリシランの応用を目指したいくつかの試みが紹介されたポリシランとしてはポリメチルフェニルシラン(PMPS)が使われている。

ホール輸送能消失性を静電潜像作成に利用。

図1はUV分解による絶縁性化を利用して、一度の像露光で多数枚の複写が可能な電子写真原版を作るプロセスの原理である。(a)UV露光によって部分的に絶縁体を形成したのち、(b)コロナ放電によって荷電後、(c)可視光をあてて裏面に設置したキャリア発生層から正電荷を発生させる。その結果、導電性の破壊された部分にのみ電荷が残る(d)ので、これを潜像としてトナー現像に利用すれば多数枚の複写が可能となる。この場合、(c)の過程で可視光も画像化して露光すれば、情報の重ね書きが出来るので新しいタイプの乾式多数枚印写システムが可能となる。ここでキャリア発生層に仕事関数の小さい金属を使用すれば可視露光なしで静電画像を得るシステムも可能である。

・UV分解による非伝導性化のパターニング応用。

有機EL発光は導電性膜中に有機物を混在させ、それに対電極から注入される電子と正孔の再結合エネルギーを与えて励起発光させるものであるが、この導電性膜にポリシランを使用し、その膜にあらかじめパターニングしたUV照射をしておけば、照射を受けた部分は導電性を失って電荷の結合が起こらなくなるため、照射されない部分が逆のパターンで発光することになる。講演では図2のように、電子輸送材料としてキノリノールアルミ錯体(Alq349.5%)と発光材料としてDCM(赤色,0.5%)を混合した膜で作成した素子による発光パターンが写真で示された。この場合、UV照射時に生成するラジカルがPMPSのみならずAlq3DCMも相当に分解するため蛍光の減少が著しいが、それはパターン発光を際だたせる効果があると言うことであった。

分解に伴う膨潤性の活用。

SiSi結合がUVによって分解すると酸素や水と反応してSi-O-SiSiOHなどの親水性構造が生成する。その部分に水溶性でかつ導電性のポリマー(PEDOT-PSS)を浸透させると上記と逆にパターン化された電荷注入層を作成できる。したがって、その上にホール輸送層としてα-NPD、発光層としてAlq3を製膜し、陰電極(Mg/Ag)を蒸着したものはUV照射した部分が発光するEL素子となる。図3は実際に組立られた素子の構造とその発光パターンである。

これらの例の紹介のあと、他の材料で出来ることの置き換えでなく、ポリシランゆえに出来る応用展開を探索することが肝要であるとの姿勢で、近い中にかならず実用的な製品の開発をするとの力強い決意が述べられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.ナノカーボン材料の作製制御とデバイス応用

大阪大学大学院 工学研究科電子工学専攻

阪大ナノカーボンプロジェクト・リーダー

教授 尾浦憲治郎

カーボンナノチューブ(CNT)は分子構造そのものがチューブ構造を持った化合物で最近ポピュラーなナノテク技術の中では、いわゆる、ボトムアップの領域に属するもので、この分野では本命の一つと言える。

この特異な物質は、最初、炭素だけから成る六角形と五角形の組合わさったサッカーボール様の構造を持つフラーレン(C60)が注目を浴び、その研究の延長線上で1991年に日本の飯島澄男氏がNature誌で発表されたものだが、そんな関係から日本で最も研究が進んでいる技術の一つである。期待される応用の可能性として、ミクロ構造を利用したエネルギー貯蔵デバイス、電子放出が容易な性質を利用するディスプレイや蛍光灯に替わる新光源、ポータブルX線源のほか、電子顕微鏡のプローブや電子デバイスへの応用など多岐にわたる。

 

 

 

 

 

講演ではこの研究領域でプロジェクトリーダーとして活躍されている大阪大学の尾浦先生に最近のお仕事を中心にしたCNTのいくつかの、それぞれに特異な応用技術を紹介して頂いた。

最初はハイブリッド車などで実用化されている電気二重層蓄電器(EDLC)への応用である。現在は容量を上げるのに活性炭を使っているが、そこにCNTを活用しようと言うのである。まず、タンタル板上に10nm厚のアルミニウムと5nm厚の鉄をコートしたものを熱処理して無数の微粒子状触媒を形成させ、そこに高温のアセチレンガスを使って炭素を化学蒸着させる、いわゆる、CVD法を施すと鉄の部分にCNTが成長する。触媒の微粒子制御がキーポイントと言うことだが、写真で見ると多数のCNTが密生しているのが分かる。その密度は1010本/cm程度で、細かく調べると直径16nmのCNTが9層ほども成長しているとのことである。これを電解液中に隔膜を隔てて二枚対置させ、図4のようなEDLCを組立てたところ充放電5000サイクルでは劣化しない良い特性を示した。電気容量は6.5F/gで、これは、あと5〜6倍で実用品のレベルと言うことであった。

CNTは低電界の電子エミッターとして平面型のディスプレイに利用出来る。ゲート電極を並べる技術はすでにあるので、キーポイントはエミッターの配列法である。一つはCNTをペーストにして印刷する方法が挙げられるが、講演ではもう一つの方法として上記のAl/Fe触媒法を利用し、基盤の上に直接CNTを成長させる技術が紹介された。すなわちシリコン板上にリソグラフィーとフォトレジストの技術を使ってパターニングした配置上に同触媒を形成し、CVD法でCNTを成長させるのである。電子の放出条件は図5のように、CNT柱の高さが125μm、柱間の距離250μmの時に最も良く、この時、電流量は十分なようで、紹介された写真では、蛍光を光らせるための電位が高いため、その電圧ではハレーションを起こし、パターンが分かり難いほどであった。改良点として基盤作成の温度(700℃)を下げる必要性が指摘されていた。

最後にCNT分子の細長い形を直接利用する技術の紹介があった。CNTを基盤に取り付けて、周りにレーザーアブレーション法で絶縁性の酸化珪素被膜を形成させ、先端部分を化学的にエッチングしたものは、表面に吸着するガスによって電気抵抗が変化するので、ガスセンサーに利用出来るなど、さまざまな電子デバイスへの応用が考えられる。特にタングステンのチップの先にCNTを付け、さらにその周りをタングステン膜でコートしたものは、針部分の強度が補強されるだけでなく、本来含まれるCNTの不純物によるノイズがおさえられ、所謂、passivation効果があるため、走査形トンネル顕微鏡のプローブとして低ノイズの高い性能が得られるこれを使ってSi(111)-7×7のSTM像が図6のように得られている。ちなみにこの実験室で作られた探針は多くの研究室に配布され、使われていると言うことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    (藤田記)

 

 

 

 

 

 

 

 

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