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26UV/EB研究会報告

 平成16514日開催、於 住友クラブ

今回は微細描画作成の次世代技術と新しい発光材料としてのポリシランについて話して貰った。

日進月歩の半導体技術はメモリーの集積度が一年半で二倍になると言う、いわゆる「ムーアの法則」で表現されるように目覚ましいものがある。メモリーは小さな半導体チップの上に微細な像を描くことで実現され、そこに写真印刷類似の光学リソグラフィー技術が使われるが、集積度が上がるにつれて必要な解像度を得るために、使われる光の波長がどんどん短くなっている。実際、最近の光源はArF(193nm)のエキシマレーザーが主流となっているそうだが、半導体デザインの今後の必然的な進化に対応するためには、光源以外にもさまざまな工夫が考えられる。最初の三題はそれぞれ異なった立場からの技術を紹介して貰った。特に、後のお二人はいずれもベンチャービジネスを立ち上げ、未来技術の先導者として活躍されているとのことである。

 

1.次世代リソグラフィーとEBについて

JSR株式会社精密電子研究所 甲斐敏之

光を使うリソグラフィーでは、解像度はλ/NA(λ:光源の波長、NA:レンズ開口数=sinθθ:レンズへの開口角)に比例するので、λ を小さくするか、見かけのθを大きくすれば向上する。後者の技術として液浸法(Liquid Immersion Lithography)がある。前者では光源にF2(157nm)EUV(Extreme Ultraviolet13.4nm)を使う方向もあるが、それぞれにクリアされるべき問題がある。

一方、解像度が極めて高い電子線(EB0.1nm以下)の利用がある。EB法は生産性(スループット)が低いとされるが、ある程度、創意と工夫でカバー出来る点がある一方、レジストにパターンを焼き付ける時に必要なマスクの価格が微細化と共に飛躍的に高騰して行くため、マスクレスも可能なEB65nmノード以降の有力な候補と言える。JSRではこれを今後の一つの方向と見て、EBで加工出来るレジストの材料について研究開発をしている。

レジストの材料は高分子の化学から見て増幅型と非増幅型がある。非増幅型は高分子への直接の放射線化学反応を利用するもので、主鎖崩壊型がポジレジスト、架橋型がネガレジストの材料として使用される。分解によって分子量が小さくなると溶剤に溶け易くなり、架橋によって分子量が大きくなると溶け難くなる性質を利用するものである。一方、化学増幅型では、混在させた酸発生剤から放射線によってH+が生じる現象を利用するものである。主鎖分子にエステル部分を持たせておけば、発生したH+によって加水分解が起こり、有機酸が生じる。有機酸はアルカリ現像液に可溶なのでポジ型として利用できる。また、アルカリ可溶型の樹脂に酸発生剤と、H+によって分解してアルカリ可溶型の樹脂と結合するタイプの架橋剤とを混ぜてEB照射すると、照射された部分がアルカリ不溶となるのでネガ型の材料として利用できる。

これまでもPMMAなど、EBポジレジストとして使用されてきた材料はあるが、LSIへの適用を考えた、より微細な構造に対応するには感度、エッチング耐性等に優れる化学増幅タイプが有力な材料系と考えられる。

講演ではこれらの観点に立ってポジレジストのためのベース樹脂、酸発生剤、クェンチャーの組成と感度、解像度、LER(ラインエッジの乱れ)、DOF(焦点深度)などの関連を実証的に検討し、得られた新しい材料の基本設計のモードが、多くの画像と共に解説された。

素人目には少なくとも90nm程度まではクリアしているのかなと見えたが、まだ、光リソグラフィーのレベルには達していないとのまとめであった。

 

2.Low Energy Electron-beam Projection

Lithography LEEPL ─ の紹介

(株)リープル開発部門 野末 寛

1.で述べられたように、次世代リソグラフィーの光源として、主役を演じるとされるF2EUVに競合して電子線が有望視されているが、その主要な問題点は生産性(スループット)だと言われている。しかし、解像度が高い上に、焦点深度が深いことや、電場、磁場で収束、偏向が可能なため合成石英、CaF2などの高価なレンズを必要としない利点もある。このようなバックグラウンドに立ち、世代が替わる毎に露光装置の価格が極端に高騰する、いわゆる半導体リソグラフィーの危機を打破するために、中小メーカーでも購入可能な装置を目指してLEEPLを開発した。

その基本コンセプトは、まず、国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に適合し得る装置とするために、解像度の高いEBを選択したことと、大きなスループットと低価格を確保するためにマスク使用方式を採用したこと。また、低価格帯の装置を実現するために近接転写法を採用したこと、などである。

実際に開発した装置は図2のような構造を持っている。基本的には電子銃と平行機の構成からなる照明光の下に、マスクとウエハーを3090μmのギャップで配置してマスク像をウエハー上に転写するものだが、その特長は

@縮小投影レンズが不要な平行ビームによる近接転写によって構造を簡易にし、低コスト化を図った。

A低エネルギー(2keV)を採用することにより、高いレジスト感度を得ると共に、マスク、ウェハ共に熱発生が少ないためダメージが少なく、また、近接効果 (基盤からの後方散乱)や空間電荷効果の影響が無いので補正が不要など、劣化のない高い解像度が得られる(高いスループット)。

B等倍かつステンシルによるマスク作成の不利は副偏光器を用いた精細な制御による性能の向上(マスクやウエハ歪みの補正など)と、高い重ね合わせ精度および、光学補正の不要性などが相まって埋め合わせられ、低価格化にも寄与した。この辺りの関連技術は現在32社のコンソーシアムを作り、共同開発してもらっている。

生産のロードマップとしてはすでに2002年のβ版を出しており、6590nmノード対応の1号機をEBPrinter LEEPL-3000の名前で6月末に出す予定である。大きさはArFスキャナーと同程度である。スループットは8インチで50枚/時と、光の現最速機の1/4程度だが、EB機としては最速である。

LEEPLの場合、装置もさることながら、その活用度はマスクの完成度に大きく依存している。目下、開発項目が多くコンソーシアムの開発状況に依存しているが、それぞれのロードマップにしたがって進行しつつある状況で、2004年中には65nmノードデバイスの生産を可能にするLEEPL関連技術が整う予定である。

 

 

 

3.ナノインプリント技術の開発動向と応用展開

有限会社ナノエフコンサルタント 玉村敏昭

ナノテクノロジーは単に既存デバイスの高密度化をはかると言うより、10100nmスケールで発現する新しい物理・化学・生物学的な性質に技術革新の可能性を期待している。ナノ構造を作成するにはいわゆるトップダウン技術でなく、自然な自己組織化で形成されるボトムアップ技術が望ましいが、純粋な自然現象に依存するのでは構造的な不完全性が問題になるため、あらかじめトップダウン的に構造を作成し、それを利用して自己組織化をアシストする融合技術が現実的である。

この際のトップダウン的な加工技術にはコストやスループットが問題となるが、表1に示した各種ナノ加工技術の中にあって、ナノインプリントはその解決に糸口を与える。

原理は非常にシンプル(図3)で、これを半導体技術に応用する場合、まずナノ構造を持つモールド(金型)をつくり、通常の基盤にレジスト樹脂を塗布した上に重ね合わせてプレスし、樹脂上にナノ構造の凹凸をつくる。その後、金型を離型し、RIE法と言われる方法でエッチングを施し、さらに現像処理をすることで基盤上に目的とするナノパターンを刻印するのである。金型は最先端のリソグラフィー技術を使って作成するので、解像度はそのマスクに依存するが、それ以外の技術はほとんど不要なため、装置のコストが極めて安い。

 

このようにナノインプリントは原理が単純で安価であること。スループットが大きく大面積化が容易。高真空や除震、遮光など高度な付帯設備が不要などの特長がある。問題点としては解像度、再現性、金型の材料や作成方法をどうするかなどがある。

最初は1996年に米国のS. ChouSiO2をモールドにしてPMMAのレジスト上に10nmの穴を穿ち、Tiなどの金属に同じ大きさのパターンを転写したのが始まりで、その後、急速に広まった。モールドの材料にはNi、シリコン、石英、SiCなど、目的に応じて必要な性質を持った材料がケースバイケースに使われている。非転写材には熱可塑性、熱硬化性などの樹脂が使われるが、感光性を問題としないところが普通のレジストと異なるところで、転写しやすく、整形しやすく、離型しやすく、ドライエッチングに正確に対応すれば良い。

他に直接ナノインプリントと光ナノインプリント技術もある。前者はレジストを介さず、基盤に直接ナノ構造を形成するものでエッチングなども不要なため、より効率的な技術となる。一方、後者は基盤の上にフォトポリマーの前駆体を塗布しモールドを押し当てながら光を当てて硬化させる方法である。

 

応用面ではナノ構造の金型入手が難しいなどのほか、@均一性、再現性、Aモールドの繰り返し使用、B段差構造への対応など、解決すべき技術的課題は多いが、層数が少なく、アラインメントが単純な高密度記録媒体、光学・表示デバイスやナノバイオエレクトロニクス・ナノ構造新素材などへの適用は今後の拡大が期待出来る。しかし、まだ全体的に未成熟な面もあって、次世代半導体量産用のリソグラフィ技術としては、アラインメント精度向上、金型の欠陥検査と修復技術などが大きな課題である。

 

 

4.有機ポリシランの光電物性と応用

大阪府立大学名誉教授 堂丸隆祥

次は少し趣を変えて、未来材料としてのポリシランの話をして頂いた。地球上の生物はすべて炭素が連なった有機物で構成されているが、炭素と同族の珪素が連なるとどんな物質が出来るのか。火星の生物はそんな物質で出来ているのでは、などと想像をたくましくした向きもあると思われるが、講演では正にそんな物質に科学の光をあて、次世代の材料として考察して頂いた。

炭素骨格の有機物質は電子がそれぞれの結合部位に局在しているのに対して、珪素骨格のポリシランはSi-Si間の結合に与る電子がSi主鎖に沿ってドメインと呼ばれる1520個の範囲に広がっている点が大きな特長である。そのためポリシランを電場の中に置くと、電荷がドメイン間をホッピングによって移動する現象が見られる。この事実は吸光度にも反映され、同種のピークが遠紫外域にある炭素化合物に対し、ポリシランでは結合数の増加と共に近紫外の340nm付近に収斂する。

講演ではまず基礎研究の話題として次の二つの実験結果が紹介された。

@分子構造上の空間である自由体積の半径(FVR)を陽電子消滅寿命法によって見積もった。

これは、電荷の移動速度を決める要因はドメイン間の距離、言い換えれば主鎖と主鎖の距離に依存するはずで、FVRはその目安となる、との考えに基づく実験である。その結果、FVR3.03.7Åの間でSiに結合する側鎖分子の長さや大きさとほぼ正の相関関係が見られた。また、正孔移動度の温度特性からホッピングサイトの位置的揺らぎを示す値(Σ)についても同様の結果が得られている。

Aポリシランを強い磁場中において主鎖の向きを揃えた場合の物性的影響を吸光度変化を指標にして調べた。

主鎖の向きを揃えるとホッピングサイトの間隔が均一になるはずで、実際、実験の結果は、主鎖が磁界に対して垂直に並ぶ、つまり垂直な方向のドメインが増えることを示した。また、磁界の強さと共に揺らぎのファクターが減少するなど、物理化学的に合理的な結果が得られた。ただ、電荷の移動度は応用面の期待に反して減少した。

応用面では電子写真感光体と有機ELの二つの話題が話された。

前者は、原理的には汎用のCarlsonプロセスにのっとり、感光体に電荷移動度の早いポリシラスチレンを使用したもので、新しい改良型として提案された背面露光方式による試作機を使用して得られたいくつかのテストパターンが披露された。ちなみに、この方式は小型化が可能と言うことである。

一方、電荷移動速度の速いポリシランは図6で見られるように360nmに強い蛍光発光が見られるので、これを有機ELに応用することが考えられる。そこで材料にPolymethylphenylsilanePMPS)を使用し、陽極に透明なITO(Indium Tin Oxide)、陰極にMgAgを使った素子が試作された。最初、電極装着による原因で可視光が混入する問題があったが、陰極側を酸素プラズマ処理して表面にSiO2の極薄い絶縁膜を形成させることで改善された。この絶縁膜形成は電荷の注入効率を高める効果があって、発光効率が約1桁上がる収穫もあった。この素子に色素をコートしてR,G,Bカラーの発光にも成功している。

一方、絶縁膜の効果をさらに調べるため、より薄くて均一なLB膜を使って見たところ、逆に可視部の光が大きく増える結果となった。原因はまだ不明だが、その発光強度が十分あるので、現在、これは白色光源として使えると考えている。

さて、今後のポリシランの有機ELへの実用的な応用展開だが、それは有機置換基の工夫などによる材料のさらなる改善と発光効率の向上が決め手になるとのまとめであった。

               (藤田記)

 

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