HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト

 

 

 


第17回放射線利用総合シンポジウムより

1. 先端的核燃料リサイクルをめざした重い元素の化学     

京都大学原子炉実験所 教授 山名 元

2005年に閣議決定された原子力政策大綱では当分は既設の軽水炉を使って、使用済燃料は六ヶ所再処理工場で残っているウラン(U)U10%生成しているプルトニウム(Pu)を回収し、プルサーマルの方法で軽水炉に供給する。処理しきれない使用済燃料は発電所あるいは中間貯蔵施設に貯蔵すると決められた。その間に、発電効率の良い軽水炉の開発と高速増殖炉の開発及び第二再処理工場の建設を行おうとしているが、詳細は決まっていない。六ヶ所再処理工場ではPuUだけが回収されるが、残りの部分に放射線毒性があり、当面はガラス固化体にして地層処分するが、10万年以上も放射線毒性が消えないという問題がある。使用済燃料における高放射能元素はネプツニウム(Np)Pu、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などの超ウラン元素(TRU)とセシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)、ヨー素(I)、希土類元素などの核分裂生成物(FP)に大別される。核分裂生成物は千年もすれば放射線毒性は低減するので、Puの約10%生成しているマイナーアクチニド元素(NpAmCm)を分離回収して新しい燃料として原子炉で核変換し、地層処分させないことが重要である。この際、アクチニド元素の回収率は99.9%(スリーナイン)以上が要求される。

100kW級の沸騰水型軽水炉(BWR)で年間19トン、加圧水型軽水炉(PWR)17トンの使用済燃料が発生する。わが国一年の使用済燃料発生量は約9001000トンもあり、Puの発生量は約910トンである。Pu5.5トンを国内に保管し、35.2トンを海外に保管しているし、未処理使用済燃料中に120トン含まれている。したがって、マイナーアクチニド元素も12トンくらいある計算になる。

先進的な核燃料サイクルを構成するため、アクチニド核種を分離・回収して高速中性子体系にリサイクルさせ核変換サイクル概念(図1)を実現しなければならない。アクチニド核種を効率的に回収・分離する研究に要求される事項を次にまとめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1アクチニド核種を分離・回収して高速中性子体系にリサイクルさせ核変換サイクル概念

 
 

 


@全アクチニド元素の定量的な回収(FP元素からの完全な分離)

A回収されるアクチニドよりランタニド元素を出来る限り分離すること

B二次廃棄物や放出放射能を増加させないこと

Cアクチニドの燃料としてのリサイクルに整合する回収法であること

Dこのために多大なコストをかけないこと

図1

 
六ヶ所再処理工場ではUPuを回収する方法として湿式法を用いている。アクチニド元素は5f電子軌道を持っていて外殻電子軌道である6s6p軌道の外側に広がることができ、隣接する元素の電子軌道と相互作用し、共有結合が可能になる。硝酸溶液中で6価のウラン(U(VI))及び4価のプルトニウム(Pu(IV))TBP(トリ-n-ブチルホスフェート)と錯体を形成し、直鎖型石油系溶媒で抽出するPUREX法によって分離回収している。この方法は古くから知られ、もっとも信頼できる分離法として世界各国で利用されている。マイナーアクチニド元素を抽出できるキレート化材の開発研究が行われ、旧原研ではN,N,N',N’−テトラオクチルジグリコール酸アミド(TODGA)という三座配位の抽出材を開発した。アクチニド原子を2分子のTODGAが包み込むように配位し、1M濃度の硝酸溶液からTh(IV)Cm(III)Am(III)を抽出できる。

長寿命生成物である核分裂核種やアクチニドの核種変換をする場合、核分裂を起こさせる中性子がどれくらいあるかを示す核データ(核反応断面積)が重要になる。京大炉とJAEAの共同研究により、137Cs99Tc90Sr166Ho237Np238Np241Am243Amの核反応断面積を正確に測定した。

方法はターゲットに中性子をぶつけて即発ガンマ線を自作の4π-Geガンマ線検出器で測定した。中性子は京大炉から、あるいはリニアックで電子を加速しターゲットに当てて出てくるブレムス(制動放射線) (γ,n)反応によって中性子に変換する方法を用いた。

成果の一例として238Np(n,γ)239Np反応の実効断面積は479±24バーン(b)と求まったが、核データライブラリーには100(b)とか202.8(b)という値が掲載されており、アクチニド核種の中性子反応断面積のデータについては、まだまだ、精度及び確度が不足しているため、核反応断面積を正確に測定することは重要な研究テーマであるといえる。

@燃料(Pu)を自給でき、かつ増殖できる(ウランに依存しない原子炉体系)、ATRU元素を作り難い(発電単位当りのTRU生成量が少ない)、BTRU核種を燃焼して(核分裂させて)減少させる(燃焼炉)、C高い温度を供給でき、多様性が高いという理由から高速増殖炉は、第3期・科学技術基本計画の「国家基幹技術」に指定された。「もんじゅ」に続く実証試験用の高速増殖炉は経産省、文科省、電力事業者、メーカー、日本原子力研究開発機構の5者で協議されているが、ナトリウム冷却管は熱交換の効率を上げて短くする予定である。いずれにしても廃棄物の少ない原子炉の開発には超ウラン元素である重い元素の化学が解決の鍵を握っていることは確かです。

 

 

2.X線自由電子レーザー

理化学研究所播磨研究所

 XFEL プロジェクト・リーダー 石川 哲也

これまで、質の高い光(=レーザー)、波長の短い光(=放射光)は存在していたが、その両方を兼ね備える光は存在していなかった。X線自由電子レーザー(XFEL)は、これまで未踏領域であった波長が短く質が高い光を実現するものです。新しい光は常に新しい「文化」を創ってきた歴史があるのでX線自由電子レーザー装置の完成が待たれます。XFELの発生原理は電子銃で高密度な電子線を発生させ、直線加速器でエネルギーを与え、アンジュレーターで電子の位相を揃え、最後に電子を磁石で曲げてX線を発生させる。建設中のXFELSPring-8放射光の109倍の輝度を持ち、パルス幅は103倍のフェムト秒の時間分解能で100%コヒーレントです。このような特性は従来技術では出来なかった非結晶物体の原子レベル構造解析や超高精度・超高速イメージングを可能にし、生物学・医学分野、ナノサイエンス・ナノテクノロジー分野、天文学・強光子場の分野での利用が期待されます。例えば、膜タンパク質は分子量が大きく結晶化が困難なためX線結晶解析が出来なかったのが構造決定可能になるなど、ナノの世界での超高速変化を観察したり、溶液中でも構造決定できるので構造と機能の関連を直接観察できます。

図2 XFEL施設完成時のSPring-8サイト予想図

XFELSPring-8のすぐそばに建設中で、2010年に運転開始を予定しています。完成予想図を図2に示します。プロトタイプのXFELはすでに稼働中で、利用研究を公募しています。詳しくはXFEL計画プロジェクトのホームページをご覧ください。URL

http://www.riken.jp/XFEL/jpn/ です。建設現場にライブカメラが設置されていて1時間ごとに更新されています。またスライドショーで2007913日正午から毎日正午の画像を連続してみることが出来ます。

 XFELは米国とEUでも建設中で、米国ではカリフォルニア州にスタンフォード大学が中心となって20092010年の運転開始を予定しています。欧州ではハンブルグにドイツ電子シンクロトロン研究所が中心になり、EU等13ヶ国共同プロジェクトとして2013年運転開始予定です。日本のものは全長0.7kmと最もコンパクトで8GeVの低エネルギーで発振させます。発振波長は0.06nmと最も短く、建設費は369億円と欧州の1500億円、米国の756億円と比べ、コストパフォーマンスが最高です。日本の特徴は世界最高性能を世界に先駆けて実現させ、第3世代大型放射光施設とX線レーザー施設が共存する世界唯一の放射光研究拠点になることです。日本の装置の特徴は真空封止型アンジュレーターの開発と高加速勾配線型加速器を採用することによって小型化されています。さらにSPring-8と同一サイトに建設することにより、XFELと放射光X線を同時に使った測定法が可能になる。また、一つの試料をXFELと放射光の様々な計測手法を組み合わせて、多角的に理解する新しい方法論の開発が可能となります。

1 癌にならないための12カ条

 
 顕微鏡の空間分解能の理論限界は使用する光の波長程度となるため、短波長のX線を使う顕微鏡では原理的にサブナノメートルの分解能を達成することが可能である。しかし、レンズに相当する光学素子がないため数十ナノメートルの分解能に留まっている。XFEDを使ってこの分解能限界を打破する試みとして、コヒーレントX線を試料に入射して得られる散乱パターンから、計算によって実空間像を再構成するコヒーレント散乱顕微法の開発が進められている。これが実現すればmicroscopeではなくnanoscopeと呼ばれることになりますね。

 

3.放射線が効くがんのタイプ

           −QOLの向上を目指して−

奈良県立医科大学 教授 大西 武雄

癌を退治する前に、癌にならなければいいのですよということで、国立がんセンターの名誉センター長である杉村隆先生が提唱された「癌にならないための12カ条」(表 1)を示しながら解説された。昔は、武士は刀で命を守りましたが、今は知恵で命を守らなければなりません。ここに書いてあることが癌にならない方法ですと、ユーモアを交えながらの講演が始まった。

この表の中で守っていない項目が多いほど癌になる確率が高くなります。多くの項目は因果関係が推測されるのですが、深酒をやめよの説明のときに、毎日晩酌せず、三日に一回は休肝日を設けてくださいと言われてしまいました。喫煙に関しては社会問題化して、タクシーまで禁煙になる時代になっています。煙草を吸っている本人だけではなく、副流煙を吸い込む受動喫煙が発癌の原因になっているそうです。この表を実行すればがんを60%防げると保証していただきました。

癌のできかたも徐々に分かってきました。タバコは煙の中のベンツピレン、紫外線はピリミジンダイマーができて発がん物質となります。ベンツピレンはDNAのグアニン塩基と結合して、突然変異を起こし、ピリミジンダイマーはシトシン残基の相手方にグアニンが入るべきところへアデニンが入るという分子レベルまで分かっています。すなわち遺伝子を調べると病気の原因が分かるようになってきました。癌になりやすい遺伝子(癌にさせない遺伝子が欠落している)を持っている人は他人より一層気をつけなければなりません。

放射線を使って診断や治療をする場合、放射線が怖いという考え方と早期発見、治療で便利だという考えがあります。いまやPETCTは癌の診断に欠かすことが出来ませんし、治療にはIMRT(強度変調放射線治療)やHZE(高エネルギー重荷電粒子線治療)がすばらしい成果をあげています。手術すれば癌が治る場合でも摘出した組織は再生されません。放射線治療の場合はコンピューター制御をつかって、癌組織だけに放射線を当てることができるようになりました。食道がんも管を入れ替えることなくきれいに放射線治療で治りますし、放射能を持った針を刺すことで舌癌もきれいにもとの舌に治るわけです。舌を取り去るよりも食べることが出来て社会に復帰できるQOLが大事です。

放射線治療には通常50グレイを照射します。照射線量が少ないと回復しません。ハイパーサーミアでは42.5℃まで加温しないと効果はありません。しかし、線量の少ない放射線治療と温熱療法(ハイパーサーミア)を同時に行うと、不思議なことに相乗効果によって癌組織が消滅する場合があります。

放射線医科学総合研究所にあるHIMACHeavy Ion Medical Accelarator in Chiba)と播磨の兵庫県立粒子線治療センターにある重粒子線がん治療装置は重荷電粒子線を用いているため、皮膚には何の影響も与えず患部にエネルギーを集中できるすばらしい装置で、通常の放射線治療で効果が出ない人にも、また悪性癌にも効果が出ることが分かっています。すでに2000人以上の人が治療を受け回復しています。保険は利きませんので約280万から300万円の費用がかかるということでした。今や癌治療は命を永らえるだけでは駄目で、回復後如何に社会復帰できるかが問われています。放射線治療とハイパーサーミア治療を覚えておき、手術を勧めるお医者さんがいても、別のお医者さんの意見を聞いてみることが大事です。大西先生は今年9月から10月にかけてスペースシャトルを使った宇宙放射線の研究をされる予定ですので、新聞、テレビでお名前を拝見する機会が多いことでしょう

 

 

4.PETで分かる脳の危険信号−

 浜松医科大学分子イメージング研究センター 

教授 尾内 康臣

従来、癌の診断はエックス線CTMRIの画像から形態の変化を見ることで行われていた。これらの方法は病変の場所を正確に示してくれる。しかし腫瘍と診断されたとき、それが良性か悪性かということは組織検査をしなければ分からなかった。PET(Positoron Emission Tomography)は癌診断の最新技術として急速に台数が増えて、肺癌など種々の癌診断に利用されています。癌細胞はエネルギー代謝が盛んなので大量のブドウ糖を取り込む。ブドウ糖の2位の水素原子をフッ素原子に置き換えたFDG2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース)もまたブドウ糖と間違われて癌細胞に取り込まれます。このフッ素原子を18Fで置き換えた18F-FDGPETに用いられるとポジトロン核種(陽電子放出核種)である18Fが癌細胞に取り込まれ、陽電子が放出されると、その周りに存在する陰電子と結合し、511keVの強いガンマ線を180度方向に2本放出します。これをリング状に設置した光電子増倍管を使ったガンマ線検出器で計測すれば、同時計測した2個の検出器を結ぶ直線上にポジトロンがあったことになります。ポジトロンは18F-FDGから何回も放出されるので、コンピューター処理によって癌の場所や大きさが分かる仕組みになっています。ポジトロン核種として用いられるのは18F(半減期:109.8m)以外には、11C(半減期:20.39m)13N(半減期:9.965m)15O(半減期:2.037m)のように生体構成原子を用いるのが一般的です。

今回は脳の異変を診断するための手段としてPETがどのように使われているかを話していただきました。CTMRIは脳の形の情報、たとえば脳腫瘍がある、脳出血がある、あるいは脳の萎縮があることを伝えます。PETを用いると細胞の機能や活動を捉えることが出来るので、脳が活動するときに必要な化学物質を調べ、その成分をポジトロン核種で標識したものを合成して用いなければなりません。

最近パーキンソン病の有病率は千人に一人ですが、専門医でもパーキンソン病は分かりにくいものです。気のせいかも知れませんから、しばらく様子を見ましょうかといっている間にドーパミン細胞はどんどんと失われます。11Cで標識したドーパミンがトランスポーターという部位にくっつくのをPETで測定すると、パーキンソン病の進行度が分かります。脳は神経が交叉していますので左脳の障害により右手が震えます。パーキンソン病はいろんな治療法が開発されていて、いろんなところに治療のターゲットがあります。PETをとることで、どこが患部かが分かり、どの治療薬を使ったらいいかが分かるようになってきました。

脳腫瘍は組織型の違いや組織の低酸素状態の程度によって、FDGの取り込みが変化することが知られており、FDGを用いた病態評価は困難なことが多いので、脳腫瘍の検査にはアミノ酸の一種のメチオニンを使ってPETで診断します。

癲癇の診断にもPETが有効です。MRIでは形態的には全く異常がありませんが、PETをとると海馬の場所が活動していないことを示します。全く機能していないところがあると、正常な働きをしていないので、異常信号が出ます。異常信号が脳全体に伝わって覚醒状態を保てなくなり、痙攣発作をおこして意識がなくなるのです。治療としては機能していない側頭葉を摘出する側頭葉切除術を行います。記憶と健忘は海馬で行っているので、記憶力の低下は犠牲にせざるを得ません。日常生活で数十分とか数分ごとに痙攣発作を起こす患者さんであれば、QOLを考えると記憶が少し犠牲になるけれど発作を起こさない方を選択するようです。

アルツハイマー病はMRIで正常であってもPETをとると頭頂葉が機能低下を起こしているのが見つかります。従来、アルツハイマー病を診断する唯一の方法はアミロイド蛋白が蓄積した老人斑があるかないかを病理解剖した死亡脳で目視して調べていました。死んでからアルツハイマー病でしたと言われても困りますので、生存している患者の脳内アミロイド蛋白分布を確認する方法が開発されました。11C-PIB(ピッツバーグ化合物B)はアミロイド蛋白に付着するのでPET画像からアルツハイマー病の進行度が分かります。アミロイド蛋白の形成が始まる時期の特定は、この病気に効果的な薬剤の開発に寄与していますし、長期にわたって薬剤がアミロイド蛋白形成を防止し、もしくは停止するかどうかを直接観察できるようになりました。

以上のようにPETは発病前のチェック、発病後は重症度をチェック、治療効果の検証が正確に出来る診断法です。うつ病などの心の問題にも応用が利くことが分かってきました。酒やタバコを続けていると、知らず知らずのうちに脳に変化を与えているのも分かってきたそうです。

パソコンとPCプロジェクターの接続にトラブルがあり、講演時間が短くなってしまったので、予定されていた内容を一部省略されたそうです。誠に申し訳ございませんでした。

 

 

5.核融合研究の現状と未来− ITERを巡る世界の現状 −

日本原子力研究開発機構

 ITER協力調整グループ・リーダー  森 雅博

最初に重水素とトリチウムを用いる核融合発電について資源の問題、二酸化炭素排出量、安全上の特徴、などをお話いただいた。ウランを使う原子炉との比較では連鎖反応の制御ではないこと、炉内に大量の燃料を保有しないため大きい事故が原理的に起こらないことを強調された。

ITERInternational Thermonuclear Experimental Reactorの頭文字)計画では、発電実証を行う原型炉段階の一つ前のステップとして、平和利用のための核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現性を実証する世界初のトカマク型の装置であり、これを国際共同(日本、EU、ロシア、米国、中国、韓国、インド)でフランスのカダラッシュに建設し、実験・運転を行う。核融合性能に関しては、

・エネルギー増倍率(核融合出力/外部加熱入力)Q≧10の核融合燃焼を300500秒間達成すること(あわせてQ=3050の可能性を見込める設計とする)

・プラズマ中の電流を電磁誘導によらない方法のみで駆動し、Q≧5の定常運転実証を目指すこと、また、核融合工学技術に関しては、

ITERによって核融合基盤技術を統合し、その有効性を実証すること、

・トリチウム増殖ブランケットのモジュールを一部のポートに装着してその機能試験を実施する等、将来の核融合プラントのための工学機器を試験すること、

等が主要な技術目標である。ITERは、本格的なトリチウムの増殖を行うブランケットと発電設備を除いて、将来の核融合プラントの主要な構成要素を全て備えた装置である。建設段階10年間、利用運転段階20年、除染解体5年を国際機関「ITER国際核融合エネルギー機構」によって実施し、その後ITER施設はEUに移管され、EUが保管・処理処分を行う計画である。

200710月にITER計画実施のための国際協定が発効し、ITER機構が正式に発足した。日本での実施国内機関として日本原子力研究開発機構が日本政府から指名されている。わが国はITER機器の調達の約9割に及ぶ物納調達の2/11を行うことになる。具体的な分担機器を図3に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 日本の調達分担機器

 
 

 

 


6.パネル討論「科学を観る眼を如何に育てるか

− 放射線教育の現状」

 

日本に原子爆弾が投下されたことと第5福竜丸の被ばく事故により放射線を怖いものとする固定観念を植え付けられ、日本人は放射線アレルギーを持ったまま現在に至っています。現実には原子力発電が総発電量の3割を占め、放射線を利用した技術や製品が身の回りにあふれているのに気づかないでいます。最近、放射線ルネッサンスということが言われ放射線利用をどんどん進めようということになりました。一般の方に放射線を理解してもらうためにはどうしたらよいかを4人の先生に異なる切り口から講演していただきました。

 

・子供たちに放射線をどう教えるか −「みんなのくらしと放射線展」25年の活動から−

大阪府立大学産学官連携機構 教授 八木 孝司

まず子供たち及びその家族に対して放射線の知識を普及させる活動として25年前から開催されている「みんなのくらしと放射線展」について説明があり、大阪府立大学イノベーションセンターの前身である大阪府立放射線中央研究所が中心となって活動してきたことが紹介された。3年前からは「宇宙・地球・そして私たち」をメインテーマにし、昨2007年は私たち(生き物)が中心テーマで、イベント会社に概要を伝えて業務委託し、お盆のころ814日から19日まで扇町キッズパークで開催された。フロアをいくつかのゾーンに分け、パネルや実物を展示し、説明要員として大阪府立大学の理系学生及び大阪府立三国ヶ丘高校の生徒を採用して配置した。これらの展示を説明して回るガイドツアーを毎日一回府立大学の教員が行っていました。放射線には直接関係ないですが骨密度測定コーナーは人気があり、客寄せの効果があります。イベントステージでは毎日3回、放射線を盛り込んだ劇をしてもらうサイエンスショーがプロの劇団員により演じられ、子供たちに人気がありました。他には面白実験室と親子工作室、小中学校の先生を対象とした放射線教育セミナー、放射線ミニセミナーが大阪府立大学の教員あるいは依頼した先生方によって行われました。ONSAからも北川顧問が「びっくりアインシュタイン」というタイトルで核分裂によって発生するエネルギーが大きいことを説明しました。くらしの放射線コーナーでは、放射線で品種改良したゴールド二十世紀梨の展示や、放射能の残留がないことを説明した上で芽止めジャガイモを希望者へ無料配布しました。実験コーナーでは、子供たちがベータちゃんと呼ばれる簡易GMサーベイメーターを使って、身の回りのものから出る放射能測定を行っています。毎年2万人以上の入場者がいて、25年間やっていますから、子供のときにこられた人が親になって子供をつれてこられる方もおられます。子供は生き物が好きですから、生き物と放射線のコーナーに興味を示し、サイエンスショーや面白実験室のように体験できるものに興味を持っている。

アンケートの結果、放射線という言葉に対しどのように感じていましたかという問いには、子供は少し嫌な感じ、嫌な感じ、とても嫌な感じを合計しても18%ぐらいなのが、大人になると過半数が嫌な感じで、悪いイメージとして捉えている。放射線に対してよい感じや悪い感じになった原因はテレビ、ラジオや両親の話、先生の話であった。子供だけでなく、親にも放射線の正しい知識を普及させなければいけないので、説明担当者がやさしく楽しく正しく伝えることで親が拒否感を低減してお母さんが子供に教えると子供に伝わるようにしたい。学校では放射線を教える機会があまりなく、霧箱で放射線が空気中で飛んでいることを見せるとすごく驚いたり、回りのいろんなものから放射線が出ていることをベータちゃんで測定して驚いている。

大学生と高校生スタッフを採用することで、その方たちへの知識普及とともに、若者のサイエンスコミュニケーションの育成に役立っている。重要なポイントは子供と親の目線でやさしく正しく伝えて、継続して毎年やるということが大事です。スタッフも参加者もともに楽しいイベントでないと長続きしない。大学が主催して教育委員会が支援していることも結構重大なことで、これは公平なイベントであるという証明になっている。

 

・放射線アンケート調査結果から感じること

WEN副代表・日本原子力発電株式会社 神谷 真美

 WENWomens Energy Networkの頭文字を取ったもので、1993年に設立された。会員はエネルギー関連企業、研究所、各種団体で働く女性や主婦などで現在125名の会員で構成されている。活動の目的は消費者と専門家のパイプ役を目指しておられ、2001年にスタートした「くらしと放射線」のプロジェクトは放射線に関するアンケートを2回、フォーラムの開催を10回やっておられ、講演の翌日も川口市でフォーラムを開催するということでした。他に、士幌農協のジャガイモ照射装置や沖縄のウリミバエ根絶作戦施設など全国各地の放射線施設見学会を主催しておられる。

 今回のお話は2005年の9月から10月にかけて都市部在住で20歳以上の女性を対象にしたアンケートの集約でした。調査の目的は生活のいろんな場面で利用されている放射線について女性たちがどれぐらい知っているか、関心あるのか、抵抗感はあるのか、情報は届いているのかということを把握するために行われた。配布数が983件のうち833件で回収率は非常に高く、有効回答数は808通であった。放射線という言葉を聴いたとき怖いものというイメージはありますかという質問に対しそう思うとやや思うという方が8割で、怖いものとして挙げた17項目の順位は図Aに示すように、テロ、地震、ダイオキシン、アスベスト、銃・刃物、BSE(狂牛病)、農薬、食中毒、食品添加物、たばこ、放射線、アレルギー、遺伝子組換技術、電磁波、飛行機、最先端医療、自動車の順になっている。怖いと感じる理由は、自分で防ぐことが出来ない(テロ、地震)、健康への悪影響(アスベストとダイオキシン)、被害が大規模になるというものでした。飛行機、最先端医療、自動車は下位にあり、放射線は17項目中11位であった。放射線に関する用語の認知度は、レントゲン検査やエックス線検査はほとんどの人が知っていたが、キログレイ(kGy)とかミリシーベルト(mSv)といった放射線の単位は知らないという人が多い。次に放射線の利用や性質に関する知識ということで、たくさんの項目を挙げたところ、ジャガイモの発芽抑制はかなり認識されていたが、ゴールド二十世紀梨についてほとんどの方がご存じない。生活用品の放射線照射についても知らないという結果が出ています。提供した情報が役に立つと答えたのは7割以上であった。医療・健康に関するアンケートも行いました。医療に関わる放射線について疑問に思ったり、知りたいと思ったことがありますかという質問に8割の方があるとし、胎児も含めて健康への影響と答えています。医療と放射線について具体的な疑問は、レントゲン検査は短い期間に続けて受けると健康に影響があるのか、治療や検査で受けた放射線は体内に残って蓄積されるのか、妊娠中に受けたレントゲン検査は胎児に影響がないか、といったことが高めに出ています。皆さん疑問に思うという結果が出ていたのですが、そういうことに関して他の人に聞いたり調べたりしましたかを問うと、聞きましたという人は2割で、聞いたり調べたりしなかったのは5割強、調べたりしたかったのだが方法が分からなかったのが2割弱であった。依然として放射線に対して怖いイメージを持っている人が成人女性の8割もいることが分かった。放射線用語についてなかなか分かりにくいと感じている人が多い反面、医療現場での放射線の利用に非常に関心が高いということが分かった。継続的な情報提供が大事なのだということを実家し、身の回りの生活と放射線が深く関わっていることをもう少し分かりやすく説明することが大事なのではないかということで、放射線利用と放射線の基礎知識について詳しく書いた、「わたしたちのくらしと放射線」という小冊子を作成され、フォーラム参加者に配布しておられるとの事で、シンポ会場でも配布されました。フォーラムに参加された方への記念品として、放射線照射された消臭剤であるとかマスクとかを配り、放射線をなるべく身近に感じるような工夫もしておられます。

 

・放射線教育をめぐるいくつかの論点

放射線教育フォーラム 理事 田中 隆一

 放射線教育と関係の深い領域を図5に示す。下に書いてあるのが学校教育でやるべきもので、上のほうは社会コミュニケーションとして必要なものである。放射線教育の基本は、科学技術の正しい基礎的知識・技能の普及であるが、人々は放射線に対して多くの誤解や偏見を持っているため、科学技術には収まりきれないものがあり、容易でない。ここでは学校教育の要素の強いものについてお話していただいた。

文部科学省は2008215日に幼稚園、小学校及び中学校における新学習指導要領案を発表した。パブリックコメントを踏まえたうえで、3月末に告示される。指導要領で今まで扱われたことのなかった放射線が指導要領で扱われることは大きな変化である。放射線教育フォーラムでは具体的な指摘も含めて、文科省に要求していたものが実りつつあるようです。義務教育、特に中学校の理科において、エネルギー教育が重視され、実生活だけでなく実社会との関連を重視するということで、理科教育の範囲が広がり、原子力・放射線が正しく認識されると期待できる。

今までの教科書記述の問題点は原子力・放射線を他のものより劣るという偏った記述であった。例を挙げると、社会科教科書のエネルギー問題の記述量は環境問題に比べて極端に少なく、その記述内容は環境への適合性の視点に偏りすぎており、エネルギー安定供給・確保の視点が極度に見過ごされていた。積極的な原子力政策を進めている欧米諸国における近年の動きは平成19年新版の記述でさえ全く反映されず、脱原子力の流れが依然続いていることを前提とした記述が目立つ。

新指導要領の方向性を見ると、中学校理科で放射線の性質や利用が初めて扱われるようである。「持続可能な社会」という視点を重視するため、理科では限られた資源の有効利用と総合的な判断力が扱われる。社会科では公的な事柄に主体的に参画する資質・能力を扱う。技術・家庭科では技術と社会・環境の関わりに関する内容の改善・充実が図られる。

図5 放射線教育と関係の深い領域

 

教育理念として、創造的思考力を育成するため、知識の構造化を目指している。一つの正解がない課題に取り組ませることによって、創造性や課題発見能力を養う。多様な視点に立って討論させることによって、批判的思考力、表現力やコミュニケーション力を養う。自分なりの判断や結論を下し、論述することによって、意思決定力、論理的思考力や表現力を磨くことが出来る。先進国の中で、日本はPISA型の学力が劣っているのでこれを何とかしようということでしょう。PISA型学力調査というのは日常生活の文脈で知識を活用する力や情報を分析、考察し、適切に判断する力のことで、義務教育修了段階(15歳)の生徒の知識や技能を、実社会の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうかを評価するためのOECD国際学習到達度調査である。

PISA型学力は総合的な学習の時間でやっていけばよいという考え方もある。現在総合的学習時間は環境、福祉、人権、国際理解等の例示テーマを取り上げている。しかし、形骸化した理想論に陥り易く、安易な考えになり「生きる力」を生むリアリティにかける傾向があるし、持続可能な社会として環境だけを考えるのは多角的な視点から向き合っていない。化学物質や放射線に付き物のリスクがテーマとしてふさわしいのではないかという提案がありました。

放射線利用は原子力エネルギー利用と原子力平和利用におけるクルマの両輪とされ、世間では似たもの同士と思われていますが、相反している場合もあり、原子力エネルギー利用は集中性求心力、放射線利用の場合は分散性発散力と解釈でき、エネルギー利用の場合は生むのが目的ですが放射線の場合は手段にすぎない。エネルギー利用の場合は世の中の不信感、放射線に対する不安、恐怖感があって社会的に高い関心という求心力が働く。放射線の場合は、放射線の存在感が非常に乏しく、社会的に低い関心・認知度といえる。広報をもっと活発にすればよくなるかというと、そうでもなく、放射線の利用原理を知らないための無関心だと感じました。利用原理を理解できるように学校教育で放射線について教える日が近いことを期待しています。

 

・原子力研究を支える人材に要求される資質

京都大学原子炉実験所 教授 渡邊 正巳

 わが国は原子力の利用という点では安全に且つ有効に使っているのですが、どうしても正確に普通の人に伝わっていない。それは普通の人だけではなくて某大学の医歯薬学系の教授でも低線量の放射線生物の研究を理解できない人がいるというのは驚きでした。平和利用に使われているのに、一般の人から知識人の中でも原子力行政とか技術に対する不安が増強しています。しかし不安を取り払う努力をせず、管理とか規制を強化する悪循環を起こしています。このような状況では、おそらく一般の人は放射線についてあまり知りたくないし、学生もそういう分野に行きたくない。工学系では学生が来ないから原子力の名前を取った講座にするというのが、今から10年ほど前にはやりました。社会では市場原理に基盤を置いた価値観、競争の価値観、お金に元をおいた価値観がはびこっていますので、今の大学教育、研究の中にも台頭しています。競争して勝たなければなりません。競争して勝つためには先端性とか即席成果というのが絶対に要ります。

パソコンにつなげばWEBで非常にたくさんの情報が入ってきます。しかし今の大学生を見ると、それを組み合わせて知恵にすることが全くない。当然、独創性とか専門性、創造性こういったものが低下してきます。そういう競争を続けている間に大学教授でも一番重要なモラルがかなり衰退している可能性がある。おそらく放射線だけに限らず、日本中で本当にリーダーになるべき人材育成システムがほぼ破綻している。私たち専門家が原子力研究というのがダーティなイメージがあるなんて言っては駄目で、原子力研究は依然として最先端科学であって非常に夢のあるものだと伝えなければいけません。原子力はおそらく人類が作り上げた科学の中で、最も人類の存亡にかかわる可能性がある。非常に高いモラルが必要であるということです。原子力は今我々が直面している環境問題、エネルギー問題、人口問題を解決するため、人類が持つ一番現実的な技術です。これをなぜ知識人は共有できないのかが非常に大きな問題です。原子力分野を活性化するために、今やらなければいけないのは、原子力の魅力を知り、独創性、専門性を備える問題解決力、行動力を併せ持って人間性豊かなリーダーを育てることです。百人が百人とも原子力の専門知識を持たなくても良いわけで、それをリードする人たちを、少ない数だけでも作るということが必要です。こういうことは市場原理を基盤とした世界では絶対に出来ません。大学というところは勝ち負けをするところではなくて、非常に多様な価値観を大事にしなければなりません。そういうものをないがしろにするわが国ではこういった基礎研究を充実出来ません。最近、文部科学省と経済産業省では原子力人材育成プログラムを始めました。視点は基盤技術を支えるであって、原子力開発の云々とか、技術的論理(事故になったとき)を教えるもので、技術分野の人材育成にとどまってしまっていて、モラルとか人への影響というものが考えられていません。いくら原子炉を作るといってもどういうレベルの安全性を確保した原子炉を作ったら良いかというときに、一番問題になるのは、それを作ったことによって人への放射線影響があるだろう、それを最小限にしよう、これが元になるべきです。ですからいろんな原子力プラントでも放射線レベルが自然の値と比べどのくらいなら許容できるか国際的に導き出して、防護基準を作っています。

今解決しなければならない問題として、放射線発ガンと自然発ガンを低い線量で区別できるかとか、低い線量のところで特殊な生体応答反応がおこることが分かってきましたので、こういうことが起こったときに発ガンに影響するかという研究を粛々と積み重ねていかなければなりません。しかし、分子生物学講座で次の人事をやったときに、放射線の研究者が教授になれません。そうすると絶対に人は育たなくなる。大学はこういったところに教育と研究の拠点を再構築しなければいけない。放射線生物影響学に限ったことではなく、原子力の分野はみんなそうだし、人材がどんどん投入されなくなって、医学の中で日本では万能細胞の研究しかやってないということになるかもしれない。わが国は原子力分野でのいろんな経験と学術的な知識と技術力が蓄積されているので、これを使って人材を育てて、世界的なエネルギー活用とか環境破壊、人口爆発の問題解決に世界の牽引役を勤められるのではないかと思います。技術者養成のコースは平成16年に東京大学と原研が中心になって、一応出来ていますので、人に対する影響という点で、専門的なところは協力して、なんとか国際貢献でき、教育でき研究連携が出来るようなシステムを作って、国内外から受け入れた学生を育成して、リーダーを年間10人ぐらい育て、10年やれば100人育成できます。原子力あるいは放射線関係の教育研究をしている関西の大阪大学、近畿大学、大阪府立大学、京都大学がその旗頭になって幾人でもいいから専門家を育てていきたいと、熱い思いを語っていただきました。                                                       (阿部記)

HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト