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55回放射線科学研究会 聴講記

平成27417日(金)サンエイビル

標記研究会は宮丸 広幸氏(大阪府立大学)鵜野 浩行氏(住重試験検査株式会社)、坂井 一郎氏(日立造船株式会社)、森田 貴己氏(()水産総合研究センター)の4名の講師をお招きして開催した。座長は前半2件を、岩瀬彰宏教授(大阪府立大学)、後半2件を大嶋隆一郎(大阪ニュークリアサイエンス協会)が担当した。なお、講演会終了後、4名の講師の先生を囲んで技術交流会を行った。

 

1.加速器中性子源と位置敏感型比例計数管による熱外中性子検出器の開発 (会員ページ )

大阪府立大学大学院工学研究科 量子放射線専攻 宮丸 広幸

 

放射線のがん治療への応用は、特に近年目覚ましいものがある。なかでも最近注目されている方法が、中性子線を用いるホウ素中性子捕捉治療法(BNCTBoron Neutron Capture Therapy)である。BNCTはホウ素を含んだ薬剤を患部に集積させ、中性子とホウ素との核反応によるエネルギーを利用する治療法である。今までは、原子炉からの中性子源を利用していた。図1に原子炉によるBNCTの模式図を示す最近は、より使いやすい施設として小型加速器を用いた中性子源の開発が盛んにおこなわれている。本講演では、加速器中性子源の候補となりうる核反応と、それに関連して行った中性子検出器の開発に関する話をしていただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  図1 原子炉利用によるBNCTの原理

 

加速器中性子源となりうる核反応は、pLi p-Be、核破砕反応などがあり、それぞれ以下のような特徴を持つ。p−Li反応は7Li(p,n)7Beで表され、比較的エネルギーの低い中性子が取り出せる。これはBNCTで用いる中性子がエネルギーの低い熱外中性子であることを考えると有利である。しかし、BNCTによる治療時間は短時間であることが望ましく、そのためには強い中性子フラックスが必要であるが、融点の低いLiターゲットが中性子による熱負荷に耐えるような工夫が必要となる。

 

これに対して、pBe反応は、9Be(p,n)9Bと書けるが、p-Li反応に比べると核反応断面積が小さいため高エネルギー陽子ビームが必要となり、それによる周辺材料の放射化の問題が深刻となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 ガンマ線発生量の陽子ビームエネルギー依存性

 

ただし、ターゲット材料としてのBeは高い融点と優れた熱伝導性を持つことから、一般的な中性子源のターゲット材としては有望である。その他の核反応として、熱核融合炉で用いるD-T反応や、大型中性子源J-PARCで採用されている核破砕反応などもあるが、施設が大型化することや遮蔽の問題などにより、BNCTで用いるのには困難である。以上の議論から、p−Li反応を用いた中性子源は、加速器性能の確保とLiターゲットの困難さを克服できれば、BNCTに中性子源として有望である、とのことであった。

さて、中性子が発生する放射線場では、同時に多様な原因によりガンマ線が発生する。中性子を治療に用いる場合、患者に無用な被ばくを与えることにもなるため、ガンマ線の評価は重要となる。講演者は、p−Li 反応におけるガンマ線発生を調べるために、陽子ビームを酸化リシウムに照射する実験を行い、ガンマ線発生量の陽子ビームエネルギー依存性を調べた。その結果を図2に示す。陽子ビームのエネルギーの増加とともにガンマ線発生量も増えており、p−Li反応をBNCT中性子源として用いる場合、ガンマ線に対する効果的な遮蔽を行う必要のあることがわかる。

現在進められている加速器中性子源からの中性子エネルギー分布は、その原理や設計に大きく依存するため、熱外中性子だけでなく、広いエネルギー領域での中性子束も評価することが、被ばく防護の観点から重要である。そこで、講演者は、位置敏感型比例計数管による中性子スペクトル測定法を現在開発している。ここで用いる検出器は、図3に示すように、比例計数管と呼ばれる細長い筒状の検出器内部にたくさんのホウ素入りディスクを等間隔に配置したものである。中性子束を管の軸に平行に入射させると、エネルギーの低い中性子は、入り口に近いディスクで核反応を起こしα線を放出する。中性子のエネルギーが上昇するにつれて、検出器の奥まで届くようになる。中性子に起因したα線の検出量と発生位置の関係を解析することにより、中性子スペクトルを推定できる。今後、検出効率の調整を行うことなどにより、実際の中性子場での計測を行う予定ということである。

加速器中性子源の開発は基礎的段階を過ぎて実機の開発が大規模プロジェクトとして進められようとしており、BNCTによる治療のためにも、加速器中性子源の早期の実現が望まれる、というまとめをもって講演を終えられた。東日本大震災に伴う原発事故により、発電用原子炉だけでなく、研究用原子炉までも稼働停止を余儀なくされている現状にあって、原子炉に代わる中性子源の開発は、

BNCTのみならず、中性子を利用する多くの学問分野においても極めて重要であることを感じた講演であった。

(岩瀬彰宏 記)

 

 

 

 

 

 

 

 

     図3 製作した比例計数管

 

 

2.サイクロトロンの工業利用サービス (会員ページ )

住重試験検査()開発部 鵜野 浩行

 

住重試験検査鰍ヘ、サイクロトロン加速器やバンデグラフ加速器を利用した半導体改質や中性子ラジオグラフィ放射化分析などの放射線利用サービスを行っている会社である。今回の講演では、その多彩な放射線利用サービスの全体像を語っていただいた。

住重試験検査鰍ヘ放射線利用サービスのため、サイクロトロン加速器(図13台とバンデグラフ1台、それにライナック1台を所有している。そのうち、放射線利用サービスで用いているのは、サイクロトロンとバンデグラフである。これらの加速器を利用した技術紹介は以下のとおりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  図1 サイクロトロン    

 

 

まず、パワー半導体ウエハにサイクロトロンでイオン照射を行い、素子の特性改善を行う技術(IIS)が紹介された。イオン照射により任意の深さに欠陥を生成し、この欠陥がキャリアの再結合を促すことを利用して、電流オフ時の応答時間を短縮させることができる。要求される深さや範囲によりイオン種やエネルギーを決める。加速エネルギーは固定されているため、アルミフォイルを減速材として用いてエネルギーの調整を行う。IISはデバイス製作工程の1部をなすものであり、処理時間がコストに直接反映する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  図2 ウエハプレート搬送装置

 

そこで、処理時間の短縮のために、ウエハプレート搬送装置(2)を加速器に設置して、大量のウエハ処理を行う。6インチウエハで照射量が1×1011/cm2の場合、処理速度は8時間で約500枚である。加速器による半導体処理といって思い浮かぶのは、低エネルギーイオンをSiなどに注入して改質を行う技術(イオンインプランテーション)だが、高エネルギー軽イオン照射による局所欠陥導入を用いた半導体改質の本技術は、非常にユニークなものであるといえる。

次に紹介した技術は、中性子ラジオグラフィ(NRT)である。中性子はX線と異なり、通常の金属はよく透過するが、水素など特定の元素との相互作用が非常に大きいという特徴を持つ。この性質を利用して、金属材料中の含水素材、機械部品中の内部樹脂材観察などに有効に用いることができる。住重試験検査鰍フNRT設備を図3に示す。サイクロトロンにより加速された陽子ビームがBeターゲットに当たり、Be(p,n)9B核反応により中性子が発生する。発生した中性子はエネルギーが高すぎるため、モデレータにより減速し熱化する。熱中性子はコリメータを通過し試験品に照射される。陽子電流25μAに対しコリメータ出口での中性子束は5×105/cm2/sである。中性子実験によく用いられる研究炉と比較すると、中性子束は劣るが、申請等の手続きが必要なくマシンタイムを調整できるため、使い勝手は優れている。宮丸氏の講演の聴講記でも述べたが、研究用原子炉が停止している現状で、このような加速器ベースの中性子源が稼働している実績を有するのは、大変すばらしいことであるといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   図3 NRT設備概要図

 

薄層放射化摩耗測定(RTM)技術が次に紹介された。まず、高エネルギーイオン照射して機械部品の1部を放射化する。その機械部品を組み立てて動作し、放射線量の変化から摩耗量を評価する技術である。RTMは、実際の条件で運転をしながら非接触で連続的に摩耗量を計測することが可能であるという利点を持つ。また測定感度が高く、1µm、1µgの摩耗量を数分で計測可能である。さらに、放射化面を制御することにより、0.1〜数10cm2の領域のみの摩耗測定が可能であるなど、多くの特徴を有する。また最近では、理化学研究所(和光)のRIビームファクトリー(RIBF)を用いて放射性同位元素を機械部品に注入して摩耗測定する技術も開発中であるということである。

最後に、荷電粒子放射化分析技術(CPAA)の紹介があった。水素イオンや3Heイオンを照射して試料中の対象元素を放射化し、その放射能から微量の元素を測定する技術であり、分析可能元素は炭素、酸素、窒素、ホウ素である。

この他、バンデグラフ加速器には分析用ビームラインも設置されていて、PIXE,RBS,ERDAなどの手法で材料の表面分析を行うことも可能である。 

講演のまとめで述べられていたが、住重試験検査鰍ヘ、高エネルギー加速器を工業利用している国内でもまれな会社である。筆者も、大型加速器を用いて材料改質の研究をやっている一人であるが、昨今、出口(応用先、実用先)を求められるようになってきている。住重試験検査鰍フ取り組みを紹介された今回の講演は、大いに刺激になった講演であった。

(岩瀬彰宏 記)

 

 

3.Hitzにおける電子線滅菌プロジェクト(会員ページ )

 

日立造船株式会社精密機械本部システム機械ビジネスユニット

電子線滅菌プロジェクト室 坂井 一郎

 

当日は、放射線関連事業を主とした日立造船株式会社(Hitz)の概要、食品医薬機械事業としての電子線滅菌装置の開発経緯、Hitz製電子線の発生装置、最後にHitz製電子線滅菌装置の概要、特徴について講演がなされた。

まず、高エネルギー加速器研究機構のビームダクト、SPring-8の制御機器、福島での魚介用、米袋用、あんぽ柿用及び焼却灰用等の放射線計測装置など、幅広い機器を開発していることが紹介された。

食品医薬機械事業では醤油などの無菌充填ラインを製造しており、多用なサイズのハンドリングが1台で可能である。図1に概略図を示す。処理速度は600ボトル/分で容器の洗浄から液体の注入、キャップ取り付けまで行われる。特に電子線殺菌はクリーンで安全、薬品を使用しないため、薬液の残留リスク、薬液や洗浄水の排水、滅菌されているかどうかの確認等が容易であるとのことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1  ITBエミッタを搭載したHitzの電子線滅菌装置の概略図

 

電子線による滅菌原理には2つがある。直接作用では電子線が菌のDNAを破壊することによる。間接作用では電子線照射により発生するラジカル酸素が、菌の細胞染色体へダメージを与えることによる。電子線による滅菌のデメリットとしては、ボトルの着色、くさいにおいの発生の恐れ、オゾン排気装置が必要なため装置の密封が必要性なことが挙げられた。以前は高出力でボトルを電子線が通過するようにして(スルーザボトル)滅菌したが、最近では低出力にすることによりこれらの問題点が軽減化した。

 Hitzでは2種類の電子線の発生装置(電子エミッタ)を製作していることが紹介された。

ボトルの外面滅菌用のOTBOutside The Bottle)、80-150V3-40Aと内面滅菌用のITBIn The Bottle80-125keV0.22.5Aである。ITBでは内面一往復で滅菌が可能である。電子線の最適条件を決めるために各種のシミュレーションや実験がなされている。図2ITBエミッタから空気中に出射された電子線のシミュレーションである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2 ITBエミッタの場合に空気中に出射された電子線の広がりのシミュレーション例

 

 また図3ITBエミッタによるボトルへの電子線出射の様子である。

両者の対応が非常に良いとのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

図3  ITBエミッタによる空気中への電子線出射の様子 

 

質疑応答ではまず実機の構造、法的な規制、冷却方式についての質問があった。装置は労働基準局に登録だけで使用できるものであること、水冷であるとの回答がなされた。電子エミッタの寿命は5000時間、1年を目指しており、ほぼ良いところまできているとのことである。また電子線発生装置のプラズマ源としての可能性を問う質問があり、前向きに検討したいとの回答であった。

 ペットボトルのような身近なものの品質管理に、高度な電子線ビーム技術が使われていることが理解できた。本講演は、日立造船株式会社が社会に役立つ価値を創造していることが良く分かる内容であった。

(義家敏正 記)

 

4.福島第一原発事故による水産物汚染の現状(会員ページ )

(独)水産総合研究センター 森田 貴己

 

放射線科学研究会で魚類の放射線影響を取り上げようとの提案が企画会議でなされていたが、今回の研究会でようやく実現した。森田講師は大学卒業後、水産庁で海洋放射能研究室に所属され、201410月から(独)水産総合研究センター中央水産研究所海洋・生態系研究センターで放射能調査グループ長を務めている。

今回の講演では福島原発事故以降の福島県を中心とした水産物の汚染がどのように推移したかを多くの調査結果をもとに詳しく紹介した。水産庁では1950年代の米ソの大気圏内核実験の増加を受けて海洋の放射能調査を行ってきた。特に1954年の南太平洋での核実験に伴う第5福竜丸の被ばく調査に俊鶻丸を派遣して行って以来、旧ソ連の日本海への放射性廃棄物の海洋投棄、チェルノブイリ事故に関する調査や、米軍の原子力艦船の定期的な寄港地である横須賀などの港湾における調査を継続的に続けている。

今回の講演ではこれまでの水産物における放射能データの蓄積を踏まえて福島原発事故後の水産物の放射能濃度がどのように推移しているかを整理して紹介した。福島原発事故直後に相次いで報告された飲料水、農作物、乳製品に対する放射能汚染は国民に多大な心配を与えた。海産物に関しては三陸から千葉県までの沿岸域が津波で蒙った水産施設の壊滅的被害のため、完全に操業中止に至った関係から農産物に比して魚介類が市場に出回ることがなく、当時は大規模な問題とはならなかった。しかしながら、筆者の近隣のスーパーなどの鮮魚売場には、放射能ゼロをうたったポスターが一時期貼られていたこともある。

福島原発事故で環境に放出された放射性Csの放射能は17PBqと見積もられ、総量としては大気圏核実験での948PBq,チェルノブイリでの70 PBqに比してかなり少なかった。17 PBqのうち、海域には11 PBqとなっており、量的には5kg程度である。大部分は海水にイオンとして溶けているが、0.2 PBq程度は海底堆積物に吸着しており、その大部分は沖合200m程度の沿岸域にある。魚に関しては食物連鎖で大型魚に放射能が蓄積するのではないかと心配する人も多いが、Csは水銀などの重金属類やPCB、DDT等とは異なり生物的濃縮度は桁違いに小さくそのような事態にはならない根拠を説明した。福島沖は北からの親潮と南からの黒潮がぶつかる海域になっており、福島原発からの汚染水は滞留することなく、太平洋に向かって押し出され急速に希釈される。一時期東京湾の海産物から放射能が検出されたとの報道があったが、その放射能は陸域から河川を通じて東京湾に流れたもので、海流によるものではない。現在では福島原発の港湾施設はほぼ封じ込まれており、港外の海水のCs濃度は事故以前のレベルに戻っている。

海水魚は浸透圧の関係で常時海水を飲み込み、その際に体内の筋肉中に塩類が過剰に蓄積されないように常に調節を行っている。そのため、海中を遊泳するいわゆる浮魚の放射能濃度は海水の放射能濃度に依存する(図1)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       図1 海水魚中の塩類の移動

 

一方、タコ、イカ、貝類などの無脊椎動物の場合は海水と体内の浸透圧が等しいため、海水の放射能濃度が下がれば直ちにそれに連動して減少するので、浮魚に比べてより速く放射能濃度は下がり、福島産のタコ、イカ、貝類の汚染は、事故直後を除いて急速に減少したことで裏付けられる。魚類だけでなくワカメのような海藻類でも陸上の植物とは異なり、海中の岩などに付着しているだけで、養分は葉を通して海水から吸収しているので、海水の放射能濃度と関係している。しかしながら、比較的浅場の海底に生息するカレイなどの底魚は海底の

有機物を餌と共に体内に取り込みやすく、浮魚より放射能が高くなり、現在でも稀に高い数値の出る場合がある。福島沖で事故後に生まれた年齢の若いヒラメでは、それ以前の成魚に比べて汚染は大幅に改善していた。淡水魚では海水魚と浸透圧の関係が逆転するため、摂餌による放射性物質の濃度が高まり、実際に福島近辺の天然イワナなどのCs濃度は極めて高い。ただし、現在市場に出回る淡水魚は養殖物であり、水産庁の指導もあって、養殖餌の管理を行っているので、放射能汚染の恐れはないと断言できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2 福島県沖の底魚における調査結果   

 

水産庁では201410月現在52種を試験操業の対象として放射能検査を行っている。試験操業のデータでは、図2のように底魚からは100Bqkgの規制値を僅かながらでも超えるものが最近でも0.7%程度見つかる場合があることから、全体としての放射能レベルは事故前の数値に戻っているにも関わらず風評被害をおそれて未だ操業開始に至っていない。

森田講師はこれまでに一般の人々や水産関係者に対して多くの講演をしてきた経験から、講演の最後に水産物の汚染が軽減した科学的根拠を人々に分かりやすく伝えることが重要であるとまとめられた。

(大嶋隆一郎 記)

 

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