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第53回放射線科学研究会 聴講記

標記研究会は平成26418日(金)午後1時半から5時半まで住友クラブにおいて阿部輝宣氏(()日本原子力研究開発機構)、切畑光統氏(大阪府立大学)、中村俊夫氏(名古屋大学)、渡邊正己氏(京都大学)の4名の講師をお招きして開催した。座長は前半2件を岩瀬彰宏教授(大阪府立大学)、後半2件を児玉靖司教授(大阪府立大学)にお願いした。なお、講演会終了後、同所にて所用で帰られた阿部先生以外の3名の講師の先生を囲んで技術交流会を行った。

 

1.「ふげん」実機材を用いた高経年化調査研究 (会員ページ )

               (独)日本原子力研究開発機構安全研究センター

高経年化評価・保全技術研究グループ 阿部輝宣

 

現在、福井県敦賀半島にある新型転換炉(ATR)「ふげん」は25年間にわたる運転を終え、その廃止措置に伴って、原子力材料の高経年化研究が実施されている。「ふげん」の炉心部は、軽水炉とは異なる構造・材料で構成されているが、炉心部以外の2次冷却系などは、軽水炉(BWR)とほぼ同等の水質・構造・材料であるため、実際に運転した経歴を持つ「ふげん」において2次冷却配管系の解体を行い、その材料を用いて高経年化の研究を行うことは極めて貴重なデータをもたらすと考えられる。そこで、「ふげん」における高経年化評価・保全技術研究の実施責任者である阿部輝宣氏に、研究の現状について講演いただいた。

まず研究実施体制について説明があり、原子力機構内での連携と外部委員からなる専門部会での技術評価を行っているとのことである。次に、今までに得られている主要な3つの成果(配管減肉、SCC(Stress Corrosion Cracking:応用腐食剤)対策技術、熱時効脆化)についての説明があった。

まず配管減肉調査の対象はタービン施設(2次配管系)全鋼管である。まず超音波や3次元寸法測定法により実機材の肉厚プロフィールを1mmピッチという、従来よりもはるかに細かく測定した(図1)。また、3次元流動解析(D-CFD)による流動解析も行った。その結果、全測定箇所で測定された配管減肉が「必要肉厚」を下回る箇所はないことがわかり、このことから、プラント供用期間中の「ふげん」の配管減肉方法の妥当性が確認された。配管減肉は、20048に美浜原発で起こった2次配管からの蒸気漏れの主原因であることがよく知られている。この事故で最終的に5名の死者が出ており、稼働中の原発においては初めての死亡事故であった。しかし、「ふげん」における減肉配管調査では、美浜原発において見られたFAC(Flow Accelerated Corrosion)より2ケタ少ないFACしか観測されておらず、美浜原発事故の原因はまだ不明なところが多いとのことである。

次に、ステンレス鋳鋼の熱時効脆化に関する研究成果が示された。熱時効脆化とは、材料が高温状態に長く曝されると脆くなる現象である。そこで、運転温度が275と比較的高温で使われた「ふげん」実機再循環ポンプケーシングステンレス鋳鋼(SCS13)における熱時効脆化を評価した(図2)。比較材として、40以下で使用された下部ヘッダー注水弁・ステンレス鋳鋼を用いた。実機採取材における熱時効脆化をH3Tモデルによる脆化予測値と比較した結果、測定値は予測値よりも保守側(安全側)であった。さらに熱時効脆化の要因であるCr濃度のスピノーダル分解による空間的揺らぎを、3次元アトムプローブ法による観察や、Phase-Field法によるスピノーダル分解シミュレーションなどを行い、脆化メカニズムの検討を行った(図3。以上の研究の結果、軽水炉(BWR)相当の使用温度(275)で約13万時間の長期にわたり実際に使用された「ふげん」実機材の熱時効脆化に関する極めて貴重なデータが得られ、このデータを用いて高精度化した予測式を用いた脆化予測では、60年を超える長期運転後でも熱時効脆化は微小であると推定された。

最後に、SCC対策技術の有効性確認の結果について示された。SCCとは、溶接熱影響などで材質変化を受けた個所において発生する応力下において高温高圧水が材料の腐食を起こし、割れを生ずる現象である。そこで、再循環系溶接部におけるSCC調査を浸透探傷試験、超音波検査、光学顕微鏡、走査型電顕による観察、結晶方位測定(EBSDElectron Back Scatter Diffraction pattern)、歪ゲージ法による残留応力測定により実施した。その結果、SCC等の微小亀裂は認められなかった。また、材料の化学成分、金属組織、硬さなどに異常は見られなかった。

以上のような貴重な調査結果が示された後、最後に、「「ふげん」実機材を用いた調査研究を推進し、高経年化事象の正確な把握や国内外の新たな知見の積極的な導入や紹介、リスク評価のための確率論的脆化予測等を行い、規制以上の安全レベルを目指す自主的安全性向上に貢献する」ことが高経年化調査研究のゴールであることが説明された。

本講演により、実際に長期間運転された原子炉実機における材料評価の重要性を改めて認識すること

3 スピノーダル分解反応のシミュレーションができた。           (岩瀬彰宏 記)

1 配管減肉のデータ

2 熱時効脆化の結果(再循環ポンプケーシング)

 

3 スピノーダル分解反応のシミュレーション

 

 

2.ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いるホウ素薬剤の開発動向(会員ページ )

大阪府立大学21世紀科学研究機構BNCT研究センター

 特認教授 切畑 光統

 

熱中性子と10Bとの核反応で生ずる高エネルギー放射線を利用したガン治療法が提唱されたのは、チャドウィックによる中性子発見後わずか4年後のことであったそうである。その後、原子炉を用いた施設での治療が試みられてきたが、近年は、中性子発生源として小型加速器が利用されるようになり、またがん細胞選択性に優れたホウ素薬剤の開発も発展し、BNCT法は、がん治療法として開花期を迎えようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

4 BNCTの基本概念          

講演では、BNCTに用いるホウ素薬剤の最近の進歩について、ホウ素化学の初歩的な話も交えてわかりやすく語っていただいた。

BNCTの基本概念を図に示す(図4BNCTの薬剤として求められるのは、まず、熱中性子に対する反応断面積が大きいことである。10Bは核反応断面積が3600と非常に大きいため、専ら10Bが用いられる。10Bは安定同位体であるが、存在比が11Bに対して小さいため、濃縮技術が重要となる。10Bと熱中性子の反応は10B(n,)7Liで表され、MeVの巨大エネルギーを持つHeLi粒子が発生する。しかもこれらの粒子の飛程(range)は10μ以下であるため、10Bの存在する非常に狭い領域にのみ高エネルギーを付与し、がん細胞を破壊するというのがBNCTである。従って、この治療法を安全かつ効果的に行うためには、以下の性質を持つ10B化合物を薬剤として使用することが不可欠である。@高い腫瘍選択性、Aがん組織への高い集積性、B低毒で化学的に安定、Cそれ自体で薬効を持たない、Dがん組織に一定時間滞留して代謝を受けない、そしてE血液H領域での水溶性が高く細胞膜透過性が良い。これらの要件を満たすためのホウ素化合物の開発が長年続けられてきた。BNCT臨床に実用化された第一世代のホウ素化合物はドデカボランチオール(BSH(図5)、第二世代のホウ素化合物はパラボロノフェニルアラニン(BPA)である(図 6

 

 

 

 

 

 

 

 

5  BNCT臨床に実用化された第一世代のホウ素化合物はドデカボランチオール(BSH

 

BSHは、ホウ素元素占有率は高く脳関門を通過することから脳腫瘍のBNCTに用いられたが、残念ながらがん細胞選択制は低い。一方、BPA は、がん細胞選択制は優れているものの、ホウ素元素占有率はBSHに比べて低いなどの欠点を持つ。これら初期のホウ素化合物の欠点を克服すべく、先に挙げた要請を満たすべき次世代ホウ素化合物の開発が最近行われている。まず、ホウ素元素占有率を向上させるために、ホウ素クラスターを活用している。また、がん細胞選択性を向上させるために、がん細胞組織の構造上の特性や高発現するレセプターを標的としてホウ素化合物の分子設計を行う。

 

 

 

  6 BPAの構造          

 

 

さらに、最近、腫瘍組織のEPR 効果を標的としたホウ素化合物の開発が盛んにおこなわれている(図7)。これは、血管透過性が亢進したがん組織では、毛細血管の間隔が荒くなっており、巨大分子が正常組織に比べて血管より流失しやすくなっていることなどを利用するものである。講演の最後に、ホウ素化合物はがん組織の破壊を行うためでなく、がん診断にも有効であることが示された。陽電子を用いるガン診断法PETは、最近普及が目覚ましいが、ホウ素化合物BPAに陽電子エミッタ―である18Fを入れた18FBPAは、専ら使われている18FDGに比べて、がん選択性の高いPETプローブとして有用であることも明らかになってきている。

 

 

 

 

7 ガン組織とEPR効果

 

以上の講演から、BNCTにおける最近のホウ素薬剤の進歩は目覚ましいものがあり、小型加速器による中性子発生装置の発展と相まって、BNCTは、今後の有効なガン治療法になることがおおいに期待できることがわかった。ただし、現状では、実際にBNCT治療を受けるためにはいろいろなハードルがあるようである。それらが一刻も早く克服されて、一般のがん治療法としてBNCTがさらに普及することが望まれる。    (岩瀬彰宏 記)

 

 

3.加速器質量分析による古文化財の放射性炭素年代測定(会員ページ )

名古屋大学年代測定総合研究センター 教授 中村俊夫

 

IMG_0889名古屋大学のタンデトロン加速器質量分析(AMS)装置は、198182年に名古屋大学に導入され、それ以来、中村俊夫先生はこの測定装置を用いた研究に携わってこられた。現在の装置は、199697年に導入された2号機である。このタンデトロンAMS装置による14C年代測定は、以下にあげる特徴を持っている。@少量の試料で測定可能であり、分析に必要な炭素量は0.22 mgである。A測定誤差は、定常的な年代測定では、±20 〜±40年程度である。Bほぼ5万年前まで遡って年代測定ができる。C測定に要する時間は0.51.5時間と短い(図89)。 講演では、中村先生より、この装置を用いた年代測定の興味深い実際例が以下に紹介された。天然の炭素は放射性炭素原子(14C)と安定な炭素原子(12C13C)からなる。安定炭素原子の個数が不変であるのに対して、放射性炭素は時間経過とともに崩壊して別の元素(窒素)に変わっていく。

 

8 中村講師講演       

 

 14Cの放射性崩壊の速さは、14Cの個数が1年当たり0.0121%減少する分に相当する。したがって、この放射性炭素の減少割合を測ることによって、試料が形成されてからの経過時間を知ることができる。これが放射性炭素年代測定の原理である。様々な物質に含まれている放射性炭素が測定対象になる。14Cは、宇宙から降ってくる宇宙線の作用によって大気中で生成される。できた14Cは酸化されて二酸化炭素(14CO2)となり、安定な炭素からできる二酸化炭素と混合して14C濃度が一定になった後、光合成、食物連鎖により生物体内に移行する。生物が死ぬと新しい14Cが供給されないためにその割合は減少していくので、14C濃度を測定することで炭素固定の年代が測定できる。

 加速器質量分析は、この放射性炭素年代測定の分野に革新的な進歩をもたらした。12C13C14Cを互いに分離してそれぞれの個数を測定する方法であり、高精度な年代測定を可能にした。これまでの14Cの放射能の強さを測定する測定法との一番大きな違いは、この測定量が少なくて済む点である。この点は、貴重な試料を測定する際の大きな利点である。

 

 

9 名古屋大学タンデトロン年代測定装置 

 

 最初に紹介するのは、琉球沖縄古衣装として、琉球列島の旧家で伝えられてきた4種の絹織物の14C年代測定である。この方法で測定されるのは、桑の葉が光合成によって14Cを取り込んだ年代であって、絹織物が作られた年代ではないが、この2つはほぼ同年代と想定される。測定に用いた試料の重量はおよそ7 mgであり、炭素重量としては3 mgであった。測定の結果、4点の絹織物が作られた年代は、いずれもほぼ15世紀半ば(14261500年)であることが分かった。この結果は、史実とよく一致するものであった。2つめに紹介するのは、バーミヤンの仏教遺跡の年代測定の例である(図10)。 

バーミヤンの仏教遺跡は、内乱によって2001年に破壊されたが、その後土壁の補強に使われたスサ(麦ワラ、アシ)試料を採取して14C年代測定を行い、最も古いスサで5世紀中頃と推定された。バーミヤンの仏教遺跡では、崖の岩に掘られた東西2つの巨大な仏立像が知られているが、これらも破壊された。

この建造に用いられたスサなどの試料について年代測定したところ、東大仏の建造年は430560年、また、西大仏の建造年は600650年と推定された。すなわち、初めに東大仏が建造され、その後に西大仏が建造されたと考えられる。これらは、歴史的資料に残された記述と矛盾しないものであった。

 

10 バーミヤン遺跡の東西2大仏の年代測定 

 次に、核実験起源14Cによる大気中二酸化炭素の14C濃度の特異的な経年変動に関する研究が紹介された。大気圏内での核実験は1963年以降禁止され、大気中二酸化炭素の14C濃度は、1964年をピークにして年々減少している。これは、海水と大気の14Cで交換が行われるために、大気中14C濃度が薄められた結果である。このうち、19702000年にかけての減少は、全地球的なものであり、西暦年と14C濃度がほぼ11の対応を示す。したがって、試料の14C濃度から西暦年を推定することができる。この方法を用いて、象牙の成長過程を調べ、以下のことが分かった。@象牙は、先端から根元にかけて時間をおいて形成される。A象牙は根元付近では中空になっている。14C濃度の測定結果から、象牙は半径方向に外側ほど古く、内側に向かうほど新しいことが分かった。すなわち、象牙はまず外側が形成され、次第に内側に成長していくことが明らかとなった。

 また、樹木の年輪を詳しく調べることで、大気中の14C濃度が、急激に高くなる現象があることを発見した。これは宇宙線の強度が増加したことによって、14C生成量が増えた結果であることが分かった。この現象は、巨大な太陽フレアー、すなわち、エネルギーの高い陽子線によって14Cが生成されたことが原因ではないかと推定される。

 最後に、14C年代測定は、加速器質量分析の開発により格段に発展し、微量試料で高精度な測定が可能な時代になった。今後、考古学分野の研究への応用がさらに発展するものと期待される。

(児玉靖司 記)

 

4.福島原発事故から学んだリスクコミュニケーションのあり方と専門家の役割(会員ページ )

京都大学放射線生物研究センター 特任教授 渡邉正己

講師の渡邉正己先生は、2011年の東京電力福島第一原発事故発生の直後から、放射線の健康影響に関するQ&A活動を始められ、その後、被災地での地道な講演活動をずっと実践されて今日に至っている。そこで、講演では、その実践経験から得られたリスクコミュニケーションのあり方と放射線の専門家の役割について、以下にお話いただいた。 最初に、最近開催した「市民公開講座」での話題から始めたい。そこで話題になったことは、ヒトは他の動物と違っ2つの特徴を持っているということである。

 

 

 

 

 111 福島県伊達市の講演会風景         

一つは、「未知に対する探求心があり、未知に対して予測をして対応できる」ことである。二つめは、「他人を思いやる心を持っている」ことである。なぜこのような特性をヒトが持つに至ったかを考えると、ヒトは自然界で強い存在ではなかったので、仲間同士協力することが生存力を高めたからだろうと推定される。その仲間内、または家族を結びつける元になったものは、食料を分かち合うことであったろうと考えられる。これらの特徴は、いずれもヒトが生来持って生まれたものではなく、後から学ぶものであり、その意味でヒトがヒトとして生きていくためには、教育が大切なポイントとなる。さらに、「考えないこと」と極端な「自己愛」が社会悪を生むと、M・スコット・スペックは述べている。これは、いわば先に述べたヒトの2つの特徴を捨て去った状態であり、仲間同士が協力することで社会を形成してきた人類の根本を放棄することを意味する。今回の福島第一原発事故後の対応の中で、論理的に考えて行動し、他人を思いやるということが忘れ去られていると感じる場面があったことは残念である。福島第一原発事故直後に、放射線の健康影響に関するQ&A活動を開始したが、それだけでは不安の解消にはほど遠いと感じて、被災地で講演会を行うようになり、これまでに96回の勉強会を開催している。しかし、まだ住民の不安は薄れて

IMG_0892いないと感じている。講演会の後にアンケートに協力いただいて集計してみると、住民の90%は、原子力や放射線についての教育を受けていないことが分かった。また、情報源について尋ねると、地方自治体、科学者及びマスコミが多く、政府や医師、教師からの情報提供は極端に少ないことが分かった。さらに、情報源が信頼できるかと尋ねたところ、政府や地方自治体の情報は信頼できないと感じていることが明らかになった。

 

 

 

 

 

 

12 原子力・放射線についての知識アンケート結果

 

 

IMG_0894 この点は、今後のリスクコミュニケーションを考えるうえでの大きなポイントであると言えよう。今回の事故のような緊急事態に、リーダーとなるべき存在の人たちが、十分に役目を果たせなかったという実態が見えてきた。情報は、「流し手の知識と価値観」と「受け手の知識と価値観」が異なると上手く伝わらない。これを避けるためには、知識を高め、異なる価値観を受け入れる心を醸成することによって、相互理解を深めることが求められるが、現状はきていない。したがっ、リスクコミュニケーションは、なかなか難しい局面にある。

 

 

 

 

 

 

 

         13まとめのスライド           

 

 低線量放射線の健康影響に関しては、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告があり、福島の事故対応についても、基本的な考え方はICRP勧告の方針に沿ったものである。しかしながら、その基本的方針の内容が十分に説明されていないために、情報が錯綜し、混乱を招いてしまった。危機に際して、責任ある立場にあるリーダーが十分にその責任を果たさなかったという一面も指摘したい。

 今後の原発事故対応について重要なことは、@各自が果たすべき役割は何かを考えてそれを果たす

こと、A他人を思いやる心を持つこと、すなわち、最初に申し上げた2つのことに戻ることになる。

(児玉靖司 記)

 

 

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