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第46回放射線科学研究会より(聴講記)

 46回放射線科学研究会は、平成231021日に住友クラブにて開催し、4人の講師の方にご講演をお願いした。

 


1. 前立腺小線源療法のこれから

多根総合病院放射線治療科 部長

 石井健太郎

石井講師は大阪市立大学で前立腺の小線源療法の立ち上げに携わった方であり、現在多根総合病院において、それを更に進化させたIMRT (Intensity Modulated Radiation Therapy強度変調放射線治療)にあたっておられる。

前立腺癌は欧米では最も罹患率の高い癌であり、我が国では現在は男性の患者数の4位であるものの、急速に患者数が増えることが予想されている。前立腺癌は典型的な高齢者癌であり、現在、年間25千人から3万人が新たに罹患していると推定されている。前立腺癌の治療法は全摘出術、外部照射および小線源療法による放射線療法、高密度焦点式超音波療法、凍結療法、ホルモン療法と多岐にわたるが、今回は特に小線源療法とIMRTに関して詳細に紹介した。

近年、人間ドックなどのPSA検診により前立腺内に癌がとどまっている限局性癌の段階で早期に診断される割合が高くなった。前立腺癌の重篤度の割合を表す指標として幾つかの分類法があり、TNM分類(病期分類)、血清PSA値、Gleason grade(組織像を悪性度により点数化)を用いて、低・中間・高リスク群に分類して治療方針が決定される。前立腺の周囲には直腸、膀胱などの重要臓器があるため、放射線療法の目標として標的である前立腺腫瘍部には高線量照射を行い、周囲の臓器の照射線量を低減化することが要求される。密封小線源療法は前立腺内に留置した線源から前立腺形状に即した照射を行う術法であり、空間的線量分布という観点からは非常に優れた治療法といえる。

線源としては125I(半減期:60日)と192Irが用いられるが、125Iが一般的であり、192Irはまだ一部の施設での臨床研究にとどまっている。この手法は米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のネルソン・ストーン教授らのグループによって開発されたもので、我が国には同教授のもとで指導を受けた東京医療センター医師によって紹介された。

我が国における密封小線源療法は20033月に認可され、同年9月から治療が開始され、20113月現在109施設で施行されている。今日までに17,000件以上の治療が行われていると推定されているが、前立腺癌の場合、術後5年から10年という長期に亘る経過観察が必要であり、欧米に比べてまだ治療成績結果の集積が少なく、過去のデータは殆ど海外のものである。線源には4.5mm×0.8mm程度のチタン針中に収められた銀線ワイヤに取り付けた125I化合物が使用され、患部の状況により50から100本程度が留置される(図1)。標準的な処方線量は144Gyである。

1 前立腺内に留置された125I密封小線源のX線画像

密封小線源療法ではゆっくりと癌細胞に照射を行うので、この線量は外照射とは等価ではない。外照射の場合には一回の照射時間は短く複数回に分けて癌細胞への照射が行われ、等価の線量は80Gyである。密封小線源による治療での副作用は主として尿路障害であるが、重篤なものは少なく、この治療は身体への負担も小さく、施術後3日程度で通常の生活に戻ることが出来る。

生化学的非再発率(PSA数値の再上昇の生じない割合)から見た治療長期成績は低リスク群に対しては88-98%と好成績であるが、中間リスク群においては61%から96%と幅がある。その成績を上げるには更に高い照射線量が必要との結果が報告されている。

そのために、最近では@144Gyよりも高線量照射の有効性、A高リスク群への適応拡大が試みられるようになっている。米国でのストーン教授らの主要6施設における密封小線源療法を受けた3928名の患者についての10年間の生物学的非再発率の解析結果をもとに、中間リスク群、高リスク群においては密封小線源療法単独では189Gy以上の照射が有効であることが示されている。従来は高線量照射では周辺の臓器への有害性の恐れがあったが、最近の治療手技の進歩に伴い、その有害性を低減出来るようになってきた。小線源療法の特徴は図2のようにまとめられる。

2 前立腺小線源法のまとめ

外部照射での臨床結果からは低リスク群では86.5Gy,中間リスク群では90.4Gy,高リスク群では95.5Gyの線量が必要とされている。しかしながら、通常の外部照射では70Gy以上の高線量では膀胱や直腸への有害事象の頻度が増加するため、我が国では高線量を要する場合にはIMRTを用いるケースが増えている。IMRTは従来の3次元照射法をさらに発展させたものであり、まず治療計画により腫瘍部への線量分布を決定し、その結果に基づき照射ビームの計画的な強度変調照射を行うものである。その結果、危険臓器への線量を効率的に低減するとともに、臨床的には腫瘍部への高線量照射による治療成績向上を図ることが可能となる。我が国では現時点では生存率の向上が示されていないために、IMRTによる線量増加は74-78Gyにとどまっているとのことである。

最近になってIMRTをさらに発展させた回転型IMRTともいうべきVMAT (Volumetric modulated arc therapy)が実践されるようになっている。VMATの最大の利点は照射時間が短いことで、通常のIMRTでは5-10分程度の照射時間がVMATでは70から2分程度であり、患者にとっては治療時間が短くすみ、医療者にとっては一定の時間により多くの患者の治療が可能というメリットがある。

前立腺癌が非常に増加しているという認識がこれまでなかったが、石井講師の講演を聞くと、今や人間ドックの際のPSA数値で早期発見が可能であり、治療法も随分進んでいるとのことで少しは安堵の気分となった。

2. 放射線加工による金属捕集材の開発と金属資源回収への応用

 (独)日本原子力研究開発機構 

量子ビーム応用研究部門    玉田正男

周囲を海で囲まれている我が国にとって、海水は貴重な金属資源の宝庫である。海水には地球上に存在する元素の約8割が溶け込んでいる。一方、温泉水は長期間かけて地中から湧出するため、地殻中の希少金属を含むものが多い。玉田講師は主に海水からのウランと温泉水からのスカンジウムの捕集法について講演した。

特定の金属を選択的に捕集するためには、目的に応じた高性能の捕集材が必要となる。それを達成するためには基材に金属イオンと選択的に結合する化学構造(配位子)を有する材料が開発された。当初のものは粒状であり、粒子を形成するモノマーと配位子を導入するモノマーとを反応させて合成するため、温度や相溶性により、作成出来る捕集材の選択肢が限られた。その欠点を改良したのが放射線グラフト重合である

今回の講演ではまず放射線グラフト重合の仕組みやその応用例について詳細に紹介してから、本題のウラン及びスカンジウムの捕集について紹介した。

海水中のウラン濃度は3.3ppbと極めて低濃度であるが、地球上の海水量はおよそ45億トンあるので、ウランの総量は鉱石中に含まれる量の約1000倍と見積もられている。この量は世界の原子力発電所で年間に消費されるウランの6万倍に相当するそうである。海水中には高濃度のナトリウムやマグネシウムイオンが存在するので、それらと共存する環境で、ウランを効率的に採取するにはウランを選択的に吸着する捕集材が要求される。

20世紀後半に世界各国で海水ウランの吸着性能に関する研究の結果、含水酸化チタンが有望視され、我が国では1973年に香川県仁尾町で、含水酸化チタンによる海水ウラン回収システムの実験が行われた。しかしながら含水酸化チタンは海水よりも比重が大きく、捕集過程では海水と共に攪拌を要することや、含水酸化チタンの機械的強度が小さく攪拌による経時的損傷などの課題があった。そのため、更なる海水ウランの捕集に適した200種類以上の化合物の吸着特性に関する検証の結果、アミドキシム基が選ばれた。(-C(-NH2)=N-OH

1.5m幅、200m巻ポリエチレン不織布を基材ポリマーとして、アクリロニトリルを放射線グラフト重合の後、ヒドロキシルアミンで化学処理を行い、アミドキシム基を導入した。合成したウラン捕集材から30cm×15cmに切り出したシートを2枚一組として間にスペーサーネットを挟み込んだものを120から140枚積層して、捕集材カセットを作成し、青森県むつ関根浜沖合7kmの海域に設置し、3年間で9回の海水ウランの捕集実験を行った結果、イエローケーキ換算で1kgのウランが捕集出来た。

さらに、捕集コスト低減化のために基材を糸状のポリエチレンからグラフト重合によってウラン捕集糸を作成し、それをモール状に編み上げたものを海底に係留する手法での捕集を試みた。沖縄県恩納村沖での100mから200m程度の海底での係留実験では陸奥湾での結果に比して、3倍の捕集効率の改善が認められた。この深度では日光が届かないので、海藻類が付着するおそれもなく海面の影響も受けないので、効率良く採取できるそうである。回収の際は海上より固定部の切り離し信号を送り、海面に浮上したも

3 モール法によるウラン回収の説明図

のを小舟に取り込む。海底での模式図(図3)からは深度は全く異なるものの嘗て国際会議で訪れた米国モントレー湾のケルプの森の風景を思い出した。

 ついで温泉水から希土類元素の一つであるScを捕集する手法を紹介した。群馬県草津温泉の万代源泉は17ppbScを含有している。Scを吸着するにはリン酸基(-PO3H2)が適しているので、2-ヒドロキシルメタクリル酸リン酸をポリエチレン基材にグラフト重合することで作成した。

温度の高い温泉水の場合は吸着効率が良く、実験室で捕集材15mg40ppbScを含むpH 2100ml溶液で試験したところ、92℃では10分で97%の吸着結果が得られた。良好な結果が得られたので、草津温泉の酸性温泉排水の流れる湯川に一分間に40リットルの温泉水を処理できる捕集装置を設置し、Scの捕集試験を行った(図4)。

4 草津温泉に設置したSc回収装置

一本のカラムに450gSc捕集材を充填して温泉水を16時間流した場合に100mgScが捕集出来た。この結果はこの装置の1000倍の大きさのカラムを使用すると我が国の年間使用推定量である200kgの捕集が可能であることを示唆している。

 まとめとして放射線グラフト重合技術により作成できる金属捕集材は、未利用の資源の採取を可能としており、我が国の国際競争力の維持や環境保持のための有用資源回収技術に貢献できることを強調された。

ただ、福島原子力発電所の事故を受けて、今後の我が国のエネルギー資源調達の道筋には不透明なところがあり、ウラン回収技術が日の目を浴びるかどうかは今後注視していく必要があろう。

(大嶋 記)

 

3. イメージングプレートにおける消えない潜像〜ゴースト像の原因と解決

東北大学大学院薬学研究科 吉田浩子

本講演の主題は、イメージングプレートにおけるゴースト像の原因と消去法であるが、講演者が東北大学所属ということで、まずは、3.11東日本大震災の体験談から講演が始まった。地震直後、コートも着ずに雪の中を避難したこと、携帯電話も通じず余震が続く中、津波情報はカーラジオから得たということである。非密封RI施設は天井が崩落し、その後も「これでもか」というような余震が続き、「神様の悪意」さえ感じたということであった。講演時現在(平成231021日)でも、仙台市から車で10分走ると津波の影響が生々しく残っているとのことであった。

さて、講演は本題のイメージングプレート(IP)の説明から始まった。Eu2+をドープしたBaFBrを素材としたIPは、広いダイナミックレンジを有し高感度であることから、2Dイメージャーとして医療、バイオ、物理分野などで多く利用されている。その1つの利用法として、TFTR(トカマク型核融合実験炉)のDT放電後の黒鉛タイルやその周辺部の3重水素分布をIPでベータ線を検出してみる方法が紹介された。そして、315,16日に福島第一原発から発生したCs-134137IPによるモニタリングに関する説明がなされた。当時は、国や県は津波対応で精いっぱいであり放射能モニタリングの余裕はなかったようである。

事故直後に丸森町で採取したフキのIPラジオグラフィーの結果や44日に福島市で採取した小松菜葉のIPによる放射性物質分布が示された。この小松菜は洗っても線量は3分の1程度にしか落ちず、内部に吸収されている可能性がある。このことは、葉の形状で大きく異なり、ヒバのようなギザギザの形状ではなかなか取れず、椿の葉のような表面がつるつるのものではよくとれる。根葉中に本来存在するK-40分布をIPで測定したところ根葉全体に一様に分布するが、原発由来のCsはスポット的に存在することが分かった。

ここまででも、臨場感あふれた、しかもIPの有用性が十分に伝わる講演内容であったが、「それでは本題に戻る」ということで、IP(BaFBr:Eu)の残像の説明が行われた。IPの利点は可視光により残像を消去して繰り返し使用が可能なことであるが、可視光を長時間照射しても潜像が消えない現象(消去不全現象)や消えたように見えても時間経過とともに潜像が出てくる現象(浮き出し現象)が起こる。これらの現象は、IPを用いたイメージングの定量性を悪化させる原因になり、またIPの寿命を短命化させる。そこで、これらの現象のメカニズムを探り、潜像を消去する方法を開発することが重要となる。そこで、まずメカニズムを探るため、ゴースト像の経過日数依存性、光線量・線量率、波長依存性、熱の効果などについて調べた。

その結果、ゴースト像発生は、従来考えられていた600nm近傍の光で励起される準位の電子のほかに、より短波長側(290nm付近)の光によって励起される深い準位に局在する電子が原因ではないかと考えられた。そこで、消去不全のゴースト像を完全に消去するためには紫外光と白色蛍光灯との同時照射により、深い電子中心から電子を励起・再結合すればいいと考え、消去不全光の新消去手法の開発を行った。

この同時照射を8時間、6.75時間、6.75時間と3回繰り返した。その結果、2回目の処置で浮き出し光は2割にまで減少し、3回目の処置後は、浮き出し光は図5に詳細を示すように、ほとんど観測されなくなった。このように、紫外・白色光同時照射法により、消去不全光を完全に消去できた、さらに、放置後も浮き出し光の発生は認められなかった。以上のことから、開発した同時照射法は、IPによる放射線検出法の定量性を保証し、その寿命を延ばすことにきわめて有効であることがわかった、というまとめで講演を終えられた。IPにおけるゴースト像は、特に医療診断の際に大きな障害となる恐れがある。本講演で紹介された方法は、たとえば放射線治療位置決めの定量性を大きく向上させる、ということだけから考えても、大変すばらしい研究結果であると思う。

5 紫外−白色光同時照射法の効果

 

4. 高活性な光触媒の開発と放射光利用による局所構造解析

大阪府立大学 理事・副学長   安保正一

講師の安保先生は、大阪府立大学の副学長ということもあり、大学の紹介から講演は始まった。2005年に当時の3つの府立の大学(大阪府立大学、大阪女子大学、大阪府立看護大学)が統合し、17研究科、7学部からなる公立大学法人になった。さらに。2012年には、「選択と集中」を掲げて、理工系を中心とした大学に生まれ変わる。また、法人化後に獲得した科研費をはじめとする外部資金や特許申請数も確実に伸びていることなどが示された。そのあと、本講演の本題である「放射光を利用した光触媒研究」の話の導入として兵庫県にある放射光施設・SPring-8の紹介が行われた。

SPring-8の蓄積リングの電子エネルギーは8GeVであり世界最大である。放射光を利用した材料研究の手法として、イメージング、X線回折、X線吸収分光などがあるが、そのうち触媒の局所構造を調べる手段としては、X線吸収端近傍での吸収スペクトル(XANES)、吸収端からある程度広いエネルギー範囲での吸収スペクトル(EXAFS)が有用である。前者は、選択した原子の電子状態や化学結合状態に関して、また後者は、同じく選択した原子の周辺の局所原子構造(配位数や原子間距離、原子の種類)に対する詳細な情報を与える。例として、Rh触媒上へCOが吸着したときのEXAFSスペクトルの変化が示された。次に、実際に応用されている触媒の1つとして自動車触媒が紹介された。

自動車触媒では、PtPdRhといった3種の金属がZr酸化物とCe酸化物の固溶体(担体)上に分散担持されているが、図6に示すように、ZrCe酸化物の混合状態に、その触媒機能は大きく依存する。図が示すように、ZrCeが均一に混合した状態では、CeO2単独の時に比べ触媒機能は20倍以上にも向上する。このようなCeZrの混合状態の詳細は、元素選択的に原子配列を見ることのできるEXAFS法による構造解析の結果わかったものである。

6 自動車三元触媒の助触媒としてのCeO2ZrO2の固溶状態

次に、酸化チタン光触媒に関する研究成果の報告があった。酸化チタン光触媒は、有害物質で汚染された水や大気の浄化、水の分解による水素・酸素の生成、セルフクリーニング、さらには、バイオマスを含む水溶液からの水素などの効率的発生などに応用される。この2酸化チタン光触媒の粒子径を100Å以下にまで小さくすると、バルク体では見られないような大きな光触媒反応性を有することがわかった。

この微粒子をTi吸収端におけるXANES,およびEXAFS測定で解析した結果、Ti原子の第一近接位置に酸素原子が4配位で配置する、いわゆるシングルサイト構造が、高い触媒反応性をもたらすことがわかった。すなわち、シングルサイト酸化物における電荷移動型励起3重項状態が高い特異な反応性をもたらすのである。さて、2酸化チタンを光触媒として利用するには紫外光の照射が必要である。しかし、地上に降り注ぐ太陽光を十分に利用するためには、紫外光だけでなく可視光までの波長領域に対して機能する光触媒の開発が、実用に向けて重要である。

そこで、異種元素をイオン注入法で試料中に打ち込み、可視光応答する第2世代の2酸化チタン光触媒の開発に成功したことが示された。たとえば、2酸化チタン単独の場合と比較して、太陽光下での光触媒機能は、Crイオンを注入することにより3倍近く向上し、またVイオンを注入することにより3.5倍近くにまで向上する。これら注入した異種原子の2酸化チタン内での局所構造をEXAFS測定によって調べたところ、それらの原子を化学的な方法で添加した場合と比べて、まったく異なる局所構造をとることがわかった。

このことは、化学的手法と物理的手法(イオン注入法)では、まったく異なる構造、そして機能を有する光触媒の調整が可能であることを示すものである。そして、講演の最後にあたって、触媒機能を決定づけるのは、ある特定の原子の周辺の局所構造であり、この局所構造と触媒機能の関連性を明らかにするのに、放射光を用いたXAFS (XANES, EXAFS)測定がきわめて有効である、ということを再度力説された。聴講記の筆者(岩瀬)も、最近、放射線照射による結晶構造変化や磁気機能変化をSPring-8KEK-PFにおけるX線分光・散乱測定(XAFS,MCDMCP)を用いて研究しているため、大変関心を持って本講演を楽しむことができた。

(岩瀬 記)


 

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