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第38回放射線科学研究会聴講記

 平成21年度第1回(通算:第38回)の放射線科学研究会は平成21417日(金)13:30から17:15まで大阪大学中之島センター(大阪市北区)で開催した。今回の研究会では春山洋一氏(京都府立大学大学院)、柴田徳思氏(日本原子力研究開発機構)、三島嘉一郎氏((株)原子力安全システム研究所)の3氏に加えて、会員サロンのコーナーでは奥田修一氏(大阪府立大学産学官連携機構)による計4名の方の講演を行った。

 

1. アジサイ中のアルミニウム濃度分布(会員ページ )

京都府立大学大学院生命環境科学研究科 

教授  春山 洋一

 アジサイは日本人にはなじみのある植物である。アジサイは青からピンクまで様々な色を示すが、その色は土壌のpHで変化すると言われている。しかしながら、花の色は通常遺伝的に決まっていて、生育環境でその色を変える例は殆どない。青色を示す花は珍しく、アジサイ以外にはヒマラヤ青ケシだけと文献にあるそうである。春山講師はまず様々なアジサイについて紹介を行った。古くは万葉集にアジサイが詠まれている歌が二首あり、また、現在アジサイは漢字としては紫陽花があてられているが、これは白楽天に出ている。しかしながら、それらが現在のアジサイをさしているかどうかは明確ではないとのことである。シーボルトはヨーロッパにアジサイを紹介した人物として有名である。

シーボルトは日本での妻であったお滝の名前を冠して「オタクサ」として、アジサイをヨーロッパに紹介した。当時は現在の通信販売のような形で、アジサイをヨーロッパにひろめたそうで、そのカタログに相当する文書にアジサイが出ているとのことである。続いてアジサイの発色とアルミニウムとの関係について話をした。アジサイの発色がアントシアニンであることはすでに分っている。アントシアニンはアルカリ性では青色、酸性では赤色に発色するが、植物の細胞液はやや酸性であることから、青色はアントシアニン直接の発色ではなく、アルミニウムとアントシアニンとの錯体が関係していることが確定しているが、その構造は未解明である。アジサイは一般の植物にとっては毒になるアルミニウムを取り込んで花色を変化させていると言われており、アルミニウムのアキュムレータとしても知られている。植物学者にとってアルミニウムは植物の生育には毒になる元素として知られており、なぜアジサイがアルミニウムを取り込んで生育できるかは興味ある課題である。

現在ヨーロッパの人々にとってアジサイの地として有名なアゾレス諸島のアジサイには10,000ppmのアルミニウムが含まれているという報告が過去になされている。視点を変えて世界の食糧事情に注目したとき、地球上にはすでに良質の農地は殆ど残っておらず、酸性の土壌の改質には石灰を撒くなどの方法がとられているが、開発途上国にとっては石灰の購入資金も負担になっている現状がある。アルミニウムは土壌を構成する主要な元素の一つであり、クラーク数としても3番目に位置しており、存在比も7.56%もある。酸性土壌においてはpH4.5以下になるとアルミニウムがAl3+イオンとして溶出し、土壌中のPイオンと反応して、植物の成育にとって必須のP成分が減少するために植物の成長が阻害されると考えられていた。

最近の放射性Pのラジオグラフィーによる研究の結果、Alイオンは細胞中のDNAPイオンと反応して、代謝異常を生じ、根の成長阻害をひきおこすことが明らかとなったそうである。近年、麦などに耐酸性を有する品種改良が行われているが、アルミウムを含む土壌でも生育可能なアジサイのような植物の生育機構が解明されると食料問題にも多大の寄与が出来ると考えられる。講師らは粒子励起X線法(PIXE:ピクシー)を用いて、紫陽花中のアルミニウム濃度を測定した。図1に種々の色のアジサイの花のPIXEスペクトルを示す。同様の測定はX線蛍光分析でも可能であるが、アルミニウムの特性X線はエネルギーが低いので、正確に測定するには、真空での測定が望ましい。真空での測定を容易に行うにはPIXEの方が好都合であったので、この手法を用いたそうである。実験上の制約からビームには2.5MeVのヘリウムを用いた。そのため、重い原子からのX線は捉えられない。

紫陽花は多くの品種について測定の結果、概して、アルミニウム濃度は青花は赤花より高いこと、葉では花より高いことなどが分かった。最大の値を示したのはブルースカイの葉で、2,100ppmだった。花の場合は城ケ崎で810ppmだった。それに比べて一般に茎は低い値を示し、青い花の茎でも300ppm程度であった。さらに、葉の中にどのように分布しているのかをマイクロビームPIXEを用いて測定したところ、ほぼ均一に分布しているが、根からの養分の吸い上げ経路に近い維管束近傍での富化の傾向が見られた。アルミニウムのハイパーアキュムレータとしては茶もよく知られている。茶葉について同様の測定を行ったところ、茶葉ではむしろ表皮部分での局在が観測され、アジサイと茶葉ではアルミニウムの蓄積機構が異なることが示された。また、周期律表でAlの下に位置するGaについても調べてみたが、変化は見られなかった。

今後は装置を工夫して細胞レベルやまだうまく測定できていない根の測定にチャレンジするつもりだとのことである。

 

fig2

テキスト ボックス: 図1 種々の色のアジサイの花のPIXEスペクトル

 

 

 

2. 放射線・放射能の利用と課題

-放射能供給の危機が核医学診断の危機を招く(会員ページ )-

日本原子力研究開発機構 客員研究員 柴田 徳思

我が国では放射線や放射性同位元素が研究開発、産業、医療など広い分野で用いられている。放射性同位元素の多くは輸入されていて、半減期の短い核種では、製造所や輸送のトラブルが、利用上大きな支障となる。診断で多用されているテクネチウムは典型的な例で、全てが輸入されていて、製造は老朽化した原子炉で行われているために、近い将来大きな問題となる可能性がある。このような現状は一般にあまり知られておらず、柴田講師らは最近日本学術会議の基礎医学・総合工学合同の放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会で、我が国の放射性同位元素の安定供給体制について審議し、それを提言として公表した。今回の講演ではその骨子と特に憂慮されている99Moの供給に関する課題を紹介した。

最初に我が国のRIの利用と供給の現状について触れ、続いてそれらの課題を提示した。RIの利用について見れば、我が国では密封RIのほうが非密封RIに比して圧倒的に多い。供給に関しては密封RIでは国産のものは日本原子力研究開発機構(以下原子力機構)が製造している60Co192Ir198Auのみであり、その他は輸入に依存している。非密封RIでは精製RIと標識化合物の99%以上が海外からの輸入になっている。このように密封・非密封RIともその殆どを輸入に依存している現状を考えると様々な問題点が浮かび上がってくる。柴田講師はそれら問題点を(1)輸入RI(密封、非密封)、(2)国産RI製造、(3)医療分野のそれぞれについて具体的な例を挙げて詳細な説明を行った。その上で提言を(1RIの安定供給の安全保障、(2)放射性医薬品利用の合理的推進、(3)RI製造の新展開に分けて紹介を行った。

1)現在、国内でRIを製造している原子炉は原子力機構のJRR−3及びJRR−4のみであり、JMTRは改修計画が進められている。新たな照射設備の増設などの計画はない。以前に特殊法人の整理合理化の際に「海外からの輸入可能な中長寿命RIは製造中止、安定・大量需要の工業用RI線源は民間移転」という閣議決定があり、設備・組織の縮小がなされたために、技術やノウハウの継承にも問題が出てきており、研究者からの特殊な要望にも対応が困難な状況になった。

2)現在放射性医薬品の薬事承認は一般の薬品と同様の基準でなされているが、多くの医療用RIが短半減期であること、量的にもトレーサ量であることから、一般医薬品とは異なる基準を導入されるべきである。このことにより新規放射性医薬品の安全審査が合理的になされ、より迅速に利用が出来るようになれば医療の質的向上にも資することとなる。同様にPET薬剤製造装置についても合理的な承認がなされるべきである。

3RI製造は原子炉内での中性子反応により行われているが、点検保守期間での製造中断が避けられない。加速器による中性子源を利用出来れば、原子炉での製造のバックアップのみならず、荷電粒子反応によるRIの製造が可能となるので、今後の開発が望まれる。我が国では理化学研究所のRIビームファクトリーやJ-PARCによるRI製造が出来れば、新たなRI利用が可能となり、利用価値は一層高まることになる。

最近、関係者の間で憂慮されているのが99mTcの問題である。このRIは核医学診断でもっとも大量に使用されているが、全量が輸入されているため、製造所や輸送中のトラブルの影響を受けやすい。我が国での核医学診断件数は年に100万件もあり、深刻な問題となる可能性がある。99mTcは原子炉の核分裂反応で出来る99Moを原料としており、カナダ、オランダ、ベルギー、フランス、南アフリカの研究用原子炉で製造され、世界中で4つの供給業者によって世界の95%をカバーしている。近年では原子炉の老朽化と核テロの脅威が99Moも安定供給のための不安定要因となっている。最近では我が国が依存している原子炉のトラブルにより、供給が逼迫した状況が生じたが、急遽別ルートからの供給で急場をしのいだとのことである。このような問題の顕在化により各国では様々な対策に取り組んでおり、我が国では原子力機構が関連団体で構成した「99Mo国産化検討分科会」を設置して、国産化にむけた技術的検討を開始したとのことである。図299mTc供給に関する世界的課題を示す。

最後にまとめとして○原子力機構におけるJMTRやJRR−3でのRI製造の整備を確実に実行する、○RIビームファクトリー、J-PARCにおけるRI製造の実現、○小型加速器によるRI製造の推進、特に小型加速器による中性子発生、○放射性医薬品の合理的な薬事承認システムの確立、○PET合成装置の合理的な薬事承認システムの確立などが問題解決に必要であると締めくくられた。

テキスト ボックス: 図2 99mTc供給に関する世界的課題

 

 

3. 放射線が誘起する表面活性効果について(会員ページ )

()原子力安全システム研究所

技術システム研究所 所長  三島 嘉一郎

紫外線による金属酸化被膜の表面活性は光触媒として知られており、酸化チタンによる殺菌・清浄作用・濡れ性向上などがすでに広く利用されている。一方ガンマ線照射の場合にはその効果は表面よりも深い箇所に生じるため、表面活性は生じないと考えられていた。しかしながら東京海洋大学のグループは放射線照射によっても表面活性効果が発現する兆候に気づき、KURでの共同利用実験によるγ線照射によって確認された。最初のγ線照射では結果は明瞭ではなかったが、参画した学生が次回まで一部の試料を継続して照射したところ、明白な濡れ性の変化が得られたとのことである。この表面活性効果を放射線誘起表面活性(RISA: Radiation Induced Surface Activation )と呼んだ。しかしそのメカニズムは完全には解明されていない。この講演では,現在考えられているRISAのメカニズムについて説明し,RISAによる伝熱促進効果や防食効果,RISAを利用した放射線計測などの研究の現状が紹介された。

RISA効果は光触媒と類似の作用であり、γ線照射によって酸化被膜中に励起された正孔と電子が、それぞれ酸化被膜表面と酸化被膜・金属界面に拡散して、アノード反応とカソード反応が生じることにより、酸化膜表面が親水化する。これまでの研究結果では親水化現象は、電気化学的変化によるものであり、表面に存在するナノメートルスケールの水クラスターが高濃度となり、マクロな親水化を誘引したものであって、放射線照射による表面の物理的変化ではないことが明らかとなっている。

様々な金属基板上に酸化チタンをプラズマ溶射によって形成させ、γ線照射を線量を変えて照射を行った後、マイクロシリンジで水滴をのせて、表面との接触角をCCDカメラで撮影した。積算線量の増加に伴い、接触角は次第に小さくなり、終には超親水性を示すようになった。ステンレスの場合には、積算線量が300Gyを超えたところで超親水性を示したが、この性質は空気中に放置することにより次第に失われ、24時間後には接触角は当初の半分程度にまで戻った。高温の基板上に液滴を滴下した場合にはライデンフロスト現象が生じ、液滴が表面に付着し始める最高温度(濡れ限界温度)は接触角が小さいほど高くなるので、γ線照射積算線量が増すほど高くなる。この性質は原子炉内での燃料棒の挙動を考える上で重要となる。しかしながらγ線照射下でのプール沸騰曲線を見ると、積算線量の増加に伴って、核沸騰領域の沸騰曲線が高温度側に移行して熱伝達率はむしろ悪化の傾向があり、これは伝熱面での濡れ性の向上により、発泡点密度が減少して、核沸騰熱伝達が劣化したためと考えられるが、一方ではCHFはγ線積算線量の増加により上昇している。

このことは核沸騰熱伝達効果よりも伝熱面の濡れ特性向上によりCHFが向上したためと考えられる。原子炉内で強いγ線照射下にあるので、RISA効果による強制流動沸騰CHFが向上する。したがって燃料棒表面ではCHFが上昇することが期待される。実験としては650℃に加熱したステンレス鋼製ロッド(24mmφ×300mm)に50℃の水を1.25/minで冠水させたときの温度履歴を測定した。γ線照射を行ったロッドについて照射前、照射後2時間、照射後10時間での再冠水実験を行い、温度履歴を測定した。10時間経過後のデータは照射前とほぼ一致しており、この効果はロッドの濡れ特性の変化と良く対応した。RISAは防食対策としても有効であることが分った。

原子炉構造材の応力腐食割れは原子炉運転上の大きな課題であるが、放射線照射下でRISAにより表面酸化膜が、母材腐食電位を卑化すれば腐食を抑制できる。実験室で鉄板に酸化チタンを厚さ220nm溶射した試験片を3wt%塩化ナトリウム水溶液中に浸漬し、γ線および紫外線を照射して腐食の状態を調べた。その結果、γ線照射では腐食の進行が遅いことが分り、溶液中の鉄イオンの価数を調べたところ3価鉄イオンの割合が増していた。これは照射により生成した酸素ラジカルが2価鉄イオンを酸化したためと考えられ防食効果の発現と考えられる。RISAを応用して放射線計測も可能となる。その原理はRISAにより酸化金属膜の表面に生ずるキャリアによるコンダクタンスの変化を測定するものである。この検出器の特徴は通常の方法では測定不可能な数kGy/hr以上のγ線の過渡測定が可能であり、応答範囲が6桁以上と大きく、物理・化学的に安定という計測に適した性質を持つそうである。高温下での測定も可能であり、現在産学官の連携のもとで実用化に向けた基礎研究が展開中とのことである。

 

テキスト ボックス: 図3 提案されているRISAメカニズム

 

 

会員サロン

大阪府立大学:みんなのくらしと放射線展25回の歩み(会員ページ )

大阪府立大学産学官連携機構 教授 奥田 修

 

元大阪府立放射線中央研究所の有志によって始められた放射線展は、現在「みんなのくらしと放射線」知識普及実行委員会(構成9団体、事務局:大阪府立大学)が主催し、日本における有数の放射線知識普及活動の場として、開催されてきた。

これまでに親子を中心として、のべ40万人を超える来場者があり、また昨年は、25回の節目となり、記念式典を行った他、日本原子力学会関西支部の功績賞を受賞した。奥田講師はまず現在の大阪府立大学の放射線施設の現況を説明した後、今年度の日本原子力学会発足50周年を記念して設けられた「歴史構築賞」を旧大阪府立放射線実験所、元大阪府立大学先端科学研究所、現在の大阪府立大学産学官連携機構放射線研究センターが受賞することになったことを報告した。

もともと大阪府により、日本有数の放射線施設として発足し、公立研究機関として、活発に活動を行ってきたが、その後、大阪府立大学に統合された。大阪府立大学の法人化に伴い、機構の改変により、現在の姿となった。かっては100名近い研究員を擁していたが、長年の間に組織が縮小され、設備も老朽化が進み運営は大変となっているが、放射線展は府民にアッピールする絶好の機会と捉えている。講演では放射線展がスタートした当時の写真などを数枚示した後、最近の活動状況を多くの写真を使って紹介した。

会場をデパートにしていた当時は不特定多数を対象として、それなりに来場者数もあったが、会場をキッズプラザ・アトリウムに移してからはモチベーションの高い来場者が増え、来場者数も心配したほどは減少せず、実質的に運営にあたる専門部会の委員の努力もあって内容的には一層充実してきた。会場のメインステージで行っているサイエンスショーは時宜を得た内容に加えて近年は大学スタッフのコメントも取り入れて放射線に関係した内容が濃くなっているのみならず、主催者団体関係者も飛び入り出演するなど大変好評で大きな集客効果をあげている。

その他、ミニセミナー、親子工作教室、実験ショーなど内容は多彩である。運営も府立大学の学生に加えて三国丘高校の生徒たちの応援を得て、出来るだけ来場の子供たちの目線で対応できるよう工夫をこらしている。以前は大学スタッフが担当していた会場内の各テーマのブースを中心に巡るガイドツアーも昨年からは大阪府立大学大学院生がガイドを務めるように変わってきた。さらに学校の先生方を対象としたセミナーも開催し、近隣の学校の先生方の参加も呼びかけているが、時期的な問題もあるのか参加者数は伸び悩んでいる。

okuda03jpg(大嶋記)

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