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第37回放射線科学研究会報告

平成20年度第3回放射線科学研究会となる表記研究会は平成201017日(金)13:30から17:30まで住友クラブ(大阪市西区)で開催した。今回の研究会では辻幸一氏(大阪市立大学大学院)、山澤弘実氏(名古屋大学大学院)、酒井一夫氏(放射線医学総合研究所)の3氏に加えて、会員サロンのコーナーでは阪田陽二氏( ()オー・シー・エル)、隅谷尚一氏(関西電力(株))による計5名の方の講演を行った。

 

1.実験室における微小部・微量蛍光X線分析法(会員ページ )

大阪市立大学大学院工学研究科

 教授 辻 幸一

理系の実験室でX線装置の世話にならない研究室はないであろう。我国には世界最大の放射光施設SPring-8があり、様々な分野において多大の成果があげられているが、一方では個々の研究室で常時利用可能な小規模のX線機器も有用である。辻講師の講演では最初に(1)蛍光X線分析法の原理と特徴について紹介した後、(2)全反射蛍光X線分析法による微量分析、(3)微小部蛍光X線分析法について主にエネルギーが20kV以下の装置による最先端の話題が紹介された。 

1)に引き続いて、全反射法による応用を例示した。この方法はX線ビームを試料表面にすれすれに入射させ、試料領域からの蛍光X線を試料直上に置かれた検出器で測定・分析する。最初に血液中の微量金属元素分析法について紹介した。従来は原子吸光法が用いられてきたが、全反射蛍光X線分析法によれば、わずか数10μℓの試料を数100秒の測定時間で多元素同時分析が可能となる。血液中の微量元素分析は疾病診断から治療に至る医療分野で極めて重要である。ただ測定に際しては工夫が必要である。基盤には石英板が平滑性などから最適であるが、高価なので本研究ではパイレックスガラスを使用している。血液だけを滴下した場合の乾燥痕では盛り上がるため、純水で希釈して滴下、乾燥すると良いことが明らかとなった。ただし、希釈の割合が高すぎると測定精度が悪くなるので、調査の結果、8倍が最適であることが分った。また様々な元素に関してその検出精度をICP-AES (Inductivity Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)法と比較を行い、元素によっては両者の検出精度に差があることが明らかとなったので、予めその点を確認しておく必要がある。一つの実例として医学部との共同研究で行っている、As中毒を起こさせたラットの例を示した。この場合には全血を試料としたが、明瞭に高濃度のAsの存在が示された。一方、ICP-AES法を用いた場合には主に血清成分を測定する関係で、Asは低濃度しか測定出来なかった。

次に紹介したのは微小領域の分析で、まず示したのは界面での結果である。固-液界面や液-液界面は多用な反応場となることから化学の分野では非常に重要であるので、その領域での分析を可能とする装置を開発した。線源および検出器にX線導管をとりつけ、端面にポリイミドフィルムをはり、金属イオンを含む水溶液中に固定したNi板近傍の予備実験では好結果が得られた。次いで、テスト試料に不純物を含むゼラチンを用いて導管を挿入する箇所を変えながら測定を行い、満足できる成果を得た。導管のサイズ・材質を選ぶことにより、様々な界面近傍での分析が簡便に行えることが分った。

これらの技術を用いて可搬型でかつ微小部測定可能な装置の開発を行っている。それを可能としたのが、近年のX線光学素子の進展である。細いガラス製のキャピラリーを用いてX線を通すと内部を全反射しながら通過して反対側で集光させることが出来る(図1上)。このようなキャピラリーを数万本束ねたポリキャピラリX線レンズを使用することにより、高強度でかつ10μm程度のビームが得られるようになった(図1下)。これを利用して大気中で100s程度の測定時間でのX線蛍光分析が可能となった。出射側焦点距離は数mmないし20mm程度に設置可能で多少凸凹のある面でも分析可能とのことであり、例として半導体デバイス上での様々の領域での結果を示した。これを発展させて講師らが現在行っている共焦点レンズを用いた三次元的X線蛍光分析装置の開発と実例として種子中の金属元素の分布の測定結果の紹介をして講演を締めくくった。

今回の講演では研究室レベルで小型でかつ簡便に分析できるX線装置を紹介していただいたが、辻講師のご希望として何か測定したい試料があれば、ぜひ相談していただきたいとのことである。

辻図1上

 

 

 

 

辻図1下 のコピー

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図1 シングルキャピラリーX線集光素子の構造(上)とポリキャピラリーX線レンズにより得られた最小ビーム径のビーム径評価に使用した蛍光X線エネルギー依存性

 

 

 

2.放射能の環境研究利用(会員ページ )

名古屋大学大学院工学研究科 

准教授 山澤 弘実

 環境中に広く存在する放射性核種の動態の研究は自然界からの被ばく線量評価の観点からなされてきた。一方でそれらは環境中での物質移行の有力なトレーサとなる。山澤講師の講演は地球上の大気・地表面環境中に偏在するラドン222及び炭素14を使って、大気中の物質移行や地球温暖化に関連する炭素循環の解明研究を行っている研究の一端を紹介した。

講師らはラドンをトレーサとして東アジア域における大気輸送現象を明らかにし、地球上の長距離大気輸送数値モデルの検証・改良を行おうとしている。ラドンの利点は@気体であり水への溶解度が低く大気と同じ挙動をする、A発生源が地上であり、他の大気汚染物質と類似する、B半減期がほぼ4日で数千kmの規模の輸送現象の調査に好都合、Cα線検出器による高感度濃度測定が可能であることである。特に多くの大気汚染物質では大気中での化学・物理反応による除去過程が伴うのに対して、ラドンでは大気輸送部分についての議論が可能であることが最大の利点である。ただし、地上における発生源を考えた場合には発生量は土壌中のラジウム含有量、土壌含水率、土壌の空隙率などへの依存性があるため、地球の全球推定値は20mBq/m2sであるが、地形の影響を考えた場合にファクター1.5倍程度となる可能性があり、発生強度の不確実さが弱点となっている。

東アジア域での観測網整備を2001年頃から開始し、現在は中国、韓国なども含めて国内外の大学・研究機関と協力して地上レベルでの大気中ラドン濃度の測定を継続して行っている(2)。その地点は大陸からの汚染物質が太平洋上に流出する経路に沿うように設置され、内陸部の観測地点ではその周辺から発生するラドンの影響を受ける可能性が高いため、八丈島、波照間島、舳倉島などの離島は長距離輸送ラドンの測定点として都合がよい。八丈島では島からの影響を受けないように島の北西端に観測地点が設けられている。検出器は講師らのグループが開発したものでは測定下限が約0.3Bq/m3、濃度分解能約 0.1Bq/m3であるが、共同研究者の田坂教授(岐阜大学)が新たに開発した測定器では検出下限が一桁低くなり、それを一部の観測地点では使用している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス:   図2 東アジア域大気中ラドン濃度観測網

 

ラドン濃度の地域や季節、あるいは一日の間の変化などのデータの蓄積により大気環境の知見が色々と得られている。例えばラドン濃度変化は大気中の原子状炭素()やオゾン濃度との相関があり、急激な濃度上昇が寒冷前線通過後に観測されることから、前線後面に大陸からの汚染物質を含む大気が存在することが分る。ラドンのトレーサ利用は、さらなる解析手法の改良により、大気輸送モデルの検証や地球温暖化と関係する炭酸ガスの海洋での吸収の指標としても使えると考えている。

大気中炭酸ガス濃度に関しては炭素同位体を用いて@土壌呼吸CO2の炭素同位体比を用いた土壌呼吸の成分別評価法及びA森林大気中CO2の炭素同位体比を用いた光合成吸収量評価法の開発を行っている。

森林土壌は炭素インベントリ及び大気との交換量から地球温暖化の主要因とされている大気中のCO2の増加に対して極めて重要な役割を果している。大気中にはCO2762Gt存在しており、毎年3.2Gtずつ増加している。森林には2261Gt、海表には918Gt存在しているとされている。大気との収支を見た場合、化石燃料による排出量は年3.2Gtであるのに対して、森林では大気より122.6Gt吸って、121.2Gt吐き出しており、海表層では92.2Gt吸って90.6Gt吐き出している。このことから森林土壌における炭素循環の観測が重要であることが分かる。森林からは樹木の炭酸同化作用以外に土壌での有機物分解に起因するCO2の発生がある。炭素同位体のうち、宇宙線起源の14C1.5PBq生成され、他には核実験起源のものも僅かに含まれているが、長期にわたって観測した場合にはその生成量は一定として良い。化石燃料からのCO2には14Cは含まれないので、森林土壌における炭素同位体分析を行うとCO2の主起源に関する情報が得られるはずである。山澤講師らの一連の研究では同位体分析に多くの労力を必要とし、また同位体比の測定値に敏感であることに加えて、時間・空間代表性の担保に多くのデータが必要であるなどの難点を解決しなければならないとのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.ICRP新勧告に関する話題(会員ページ )

放射線医学総合研究所

放射線防護研究センター長 酒井 一夫

 放射線作業の関係者にとって放射線障害防止法はもっとも身近でかつ重要な法令であろう。その基本となるのが国際放射線防護委員会(ICRP: International Commission on Radiological Protection)から適宜発表される放射線防護のための勧告である。1990年の勧告を受けて我国では平成17年に大きな法改正が行われたばかりであるが、新たな勧告が平成1912月にICRP Publication 103として公表された。

 ICRPには主委員会と5つの専門委員会があり、それぞれに日本からも委員が入っている。酒井講師はその中の第5専門委員会(環境)の委員であり、今回の勧告は前回と如何なる点で変わったかについて講演をしていただいた。最初にICRP勧告の歴史的背景について述べた後、今回の勧告の内容を丁寧に説明した。ICRPの勧告に関しては従来より用語などが分りにくく、放射線利用に関して不当に制限しているなどとの意見がある。酒井講師の講演では、そのような意見があることも重々承知したうえで、今回の改訂のねらいは@最新の科学的知見を考慮し、防護基準と設定の傾向を考慮すること、A表現の仕方を改良し、合理化すること、B新しい科学的知見との整合性と同様に安定性を維持することを目指すとした結果、新勧告の内容は現行の1990年勧告との整合性を重視したものとなったとのことである。

要点としては@放射線のリスクは大きく変化していない、 A生物学上、物理学上のリスク推定は更新した、B用語が不必要に複雑となり混乱を招いていたので単純化した、Cヒトだけに焦点をあてるのでは十分ではなく、ヒト以外の生物も防護する「環境防護」の観点を導入したが、1990年勧告をすでに法律に取り込んでいる国においては更なる法律の改正は必要ないかもしれないそうである。放射線防護体系の3原則として、@正当化(新たな計画が被ばくによる損害と個人ならびに社会全体の利益を比較して、正味でプラスになる場合のみ採用可能とする)、A最適化(正当化がクリアされた場合には個人の被ばく線量、人数等を合理的に達成できる限り低くする、ALARAAs Low As Reasonably Achievable)、B個人の線量限度、を採用した。線量限度が個人に関わるものに対して、事業者が設定するものとして線量拘束値・参考レベルを設定した。

今回、変更された点は生物学的側面ではデータの蓄積を受けて遺伝影響のリスク推定値が大きく下げられ、リスク係数は前回の1/8となった。また、放射線の線質毎に与えられている放射線荷重係数については陽子が前回の5から2に下がった。組織荷重係数に関しても若干の変更がなされている。現在、これらの勧告の内容について放射線審議会、原子力安全委員会等において取り入れが必要かどうかの検討が行われている。講演の最後には近年放射線生物学の立場から話題となっている放射線適応応答(低線量を予め照射しておくことによってその後の高線量照射に対して抵抗性を示す現象)及びバイスタンダー効果(照射の影響を受けるのは照射を受けた細胞とは限らない現象)について言及された。これらの効果に関しては放射線生物学の研究対象とはなっても、放射線リスク評価の基礎となる科学的知見の上からは一般化され難く放射線防護体系には取り入れ難い要因があると述べられた。

今回の勧告の全容については、現在酒井講師が日本語に翻訳中であり、日本語版が出版される予定になっているので、関係者はそれを見ていただきたいと思う。今回の講演では新勧告の要点を簡潔に聞くことが出来て大変良かった。また、以前よりマスコミなどで安易に利用され、一般の人々を過度に惑わす数値としてとりあげられている集団実効線量は放射線技術や防護手段を比較することにより最適化を行う手段であって、疫学的研究やリスク予測に用いるべきではないことを明言された。参考にしていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図3 ICRP2007年勧告の構成

 

 

会員サロン

株式会社オー・シー・エルにおける研究開発の最近の話題(会員ページ )

設計部 基本設計・解析グループ 阪田 陽二

同社は原子力発電所で使用する核燃料や使用済み燃料を輸送する容器(キャスク)を保有し、関連会社にリースする業務を事業の一部として行っている。近年、原子燃料サイクルの中でキャスクの用途が広がりつつある。青森県六ヶ所村での再処理施設においては年間800tの処理能力があるが、全国の原発からの使用済み燃料はそれを上回っており、2010年にはその量は1400tと見込まれている。これを越える600tを発電所内保管だけでは無理なので、保管中間貯蔵施設が必要とされ、むつ市には3000t規模のものが予定されている。中間貯蔵施設においては使用済み燃料がキャスクに貯蔵・保管される。

 

 
同社ではそのためのキャスクの開発を行っている。キャスクが具備すべき条件は機械的構造強度を保持しつつ@除熱性の維持、A密封性の保持、B放射線遮蔽性の維持に加えてC未臨界機能を保持することである。機械的強度としては輸送時には国際規格で9m落下試験に耐えることが要求されている。その対策にはキャスク両端に大型の緩衝材及び三次蓋が装着出来る設計とした。保管時には三次蓋、緩衝材は取り外して施設内に縦置きに静置する。使用済み燃料は長期保管となり、発熱しているため、内部はドライ雰囲気とし、熱伝導性にすぐれたアルミ合金(B添加)製バスケット中に格納できる構造としてある。また、密封には金属シール材を使用し、中性子を遮蔽するため上下にはレジン、側部の遮蔽体には遮蔽性能、伝熱性、コストにも優れたプロピレングリコール水溶液を使用することとした。プロピレングリコールの採用に関しては大阪府立大学のアドバイスも受け、伝熱試験ならびに容器壁材との間の腐食試験も施し、さらに国の審査においても問題の無いことが確認されたとのことである。機械的強度試験には実機の1/4スケールモデルを製作し、9mの位置からの頭部垂直落下試験、水平落下試験を行い、計算による結果と対応させ、強度的にも十分余裕のあることが確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図4 むつ市に計画中の中間貯蔵施設のイメージ

 

○関西電力グループ「関西電子ビーム株式会社」のご紹介

  〜電子ビームテクノロジー利用について〜(会員ページ )

 原子燃料サイクル室サイクル事業グループ 

マネジャー 隅谷 尚一

関西電力()は、原子燃料工業()と共同出資し、グループ会社として「関西電子ビーム株式会社」を20083月に設立した。現在、福井県美浜町を候補地に2010年秋の事業所竣工を目指して準備を進めている。隅谷講師には、この事業の内容について紹介をしていただいた。福井県では、地域と原子力の自立的連携を目指して20053月に「エネルギー研究開発拠点化計画」を策定し、@安全・安心の確保、A研究開発機能の強化、B人材の育成・交流、C産業の創出・育成の4つの観点から様々な施策を展開している。今回ご紹介いただいた計画はAの取組みの一つとして関西電力()が主体となり進めてきたものとのことである。その推進方針は関西・中京圏を含めた県内外の大学や研究機関との連携の促進を目指し、電力事業者が「電子線照射により、耐熱性に優れた繊維やプラスティックなどの素材の改質や滅菌等を行う施設である電子線照射施設の整備」を行い、その機能として1.研究開発機能:大学や県内外企業の研究への活用ならびに2.事業展開機能:素材の改質や滅菌等の事業化を考えている。

 予定の照射装置としては、現在原子燃料工業()熊取事業所に設置されている10MeV電子線照射装置であるとのことである。今回のご講演ではまだ青写真の段階で全体的な事業内容の紹介にとどまり、あまり踏み込んだ内容ではなかったが、会場の参加者からは電子線照射装置の性能や予定の事業に関して色々と質問があった。特に折角関西電力()が立ち上げようとしている装置なので、原子力材料の開発にも貢献出来るような施設にして欲しいとの強い希望があったことを記しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 図5 関西電子ビーム株式会社の概要

 

2部の交流会では辻講師が直後に外国出張を控えておられる関係でご参加していただけなかったが、4名の講師を交えて活発な意見交換が行われた。(大嶋記) 

 

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