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第31回放射線科学研究会聴講記

表記研究会は平成181020日(金)13:30から17:30まで住友クラブ(大阪市西区)において開催した。今回の講師は奥田修一氏(大阪府立大学)、中澄博行氏(大阪府立大学)、多田幹郎氏(中国学園大学)および会員サロンとして宮下拓氏(ナノグレイ(株))、西原善明氏(住重試験検査())の5氏であった。

 

1.電子ビームからの強力なコヒーレントテラヘルツ放射の研究と今後の展開(会員ページ )

大阪府立大学産学官連携機構

・放射線研究センター・教授  奥田修一

近年テラヘルツテクノロジーという言葉が頻繁に聞かれるようになってきた。20051月に示された我国が今後重点的に開発に取り組むべき10大基幹技術の中にも「THz電磁波による計測・分光技術」があげられている。今回の研究会では10年以上も前から、この分野の研究に携わってきた奥田講師にこれまでの推移と今後の動向についての講演をお願いした。

THz領域の電磁波は光と電波との境界付近の遠赤外領域付近にあり、エネルギーにしてmeVのオーダーに対応する。これまで研究が遅れていた波長領域であるが、近年光源や計測技術の進歩により、利用の範囲が飛躍的に拡がろうとしている。その発生方式にはフェムト秒パルスレーザで半導体の電流をスイッチングするなどの方式による小規模なデスクトップ型装置と、加速器からの電子ビームを利用する極めて高強度の自由電子レーザ、コヒーレント放射光光源を利用する大型装置に大別される。

THz光が関与する現象はその光の1周期である1psの間に物質との間でmeV程度のエネルギー遷移が生じる相互作用の結果として理解できる。観測対象として考えられるものには多種多様のものがあり、以下のような例が挙げられる。

1)小さい分子の回転、(2)常温気体分子の衝突、(3)気体、固体のプラズマ振動、(4)高励起状態の電子の遷移、(5)固体中の光学フォノン散乱、(6)半導体とナノ構造での電子の振動や分子間相互作用、(7THzトランジスターでの電子の動き、(8)超伝導体のエネルギーギャップ、(9)極性分子の集団的運動、配向分極、イオン分極、(10)たんぱく質などの巨大分子における集団的な動き、振動、(11)強磁場中の電子サイクロトロン共鳴、(12)低温での黒体輻射など。

これらの項目からも分かるように利用可能な分野は基礎科学、医学・医療、生物科学、工学・産業まで非常に多岐にわたっている。

今回の講演では時間の制約から個々の内容についての詳しいお話はしていただけなかったが、気体分子、生体分子、ビタミン、糖、医薬品、農薬、禁止薬物、爆発物などの構成物質が、偶々THz領域において、その物質の固有スペクトル(指紋スペクトル)を示すことから、今後これら指紋スペクトルに着目した分析、物質同定法が重要な利用分野となりそうであることが良く分かった。近い将来に小型で安定性に優れた汎用型THz光源が開発されれば、空港などの荷物検査においてX線透視装置とならんで薬物、爆発物などのセキュリティチェックの切り札になるかもしれない。

大阪府立大学では20062月にバーチャル型21世紀研究所の一つとして、量子ビーム誘起反応科学研究所が発足し、奥田講師はその所長として、量子ビームによって誘起される物質の種々の反応を調査する研究を開始したとのことである。図1はその紹介スライドの一つである。関心をお持ちの方はぜひ奥田講師にコンタクトをしていただきたい。

 

 

2.放射線照射で発色する機能性有機色素(会員ページ )

大阪府立大学大学院工学研究科・教授 中澄博行

放射線の検知法には様々な方法があるが、放射線照射によって着色する色素を利用する検知法は直感的で判定容易な検知法である。現在我国において実施が検討中の香辛料への放射線照射が認められると、照射、非照射の区別のみならず線量の情報も得られる簡便な検知法の開発が一層要求されるだろう。本来放射線照射によって化学変化をおこす放射線感応物質は、フィルム線量計や色素線量計として利用が可能であるが、現在実用化されているものはガンマ線感度にして数kGyから数百kGyという大きな線量である。これらの数値に比して食品の滅菌、殺菌や輸血用血液に対して用いられているガンマ線照射量は数十Gy〜数百Gyという低レベルであり、この数値で発色する色素線量計の開発には従来タイプとは異なる色素系の設計が必要である。図2にカラー線量計の目標レベルを示している。

これまでに良く知られている線量計用機能性色素には(1)トリフェニルメタンロイコシアニド、(2アゾ色素がある前者は数kGyから数百kGyのガンマ線照射により発色種のカチオン色素とシアン化合物が生成するが、室温でカチオン色素は直ちに熱的に安定なロイコ体に変化するので、発色種の安定化が課題となっている。一方、アゾ色素系の場合は塩化ビニル(PVC)をアゾ色素で橙色に着色したもので、照射に伴ってPVCの一部が分解する過程で生成する塩酸によってアゾ色素が赤色のキノンジイミンに変化することを利用している。この線量計ではPVCの放射線分解の感受性にその感度が大きく依存する。

さらに高感度の色素線量計を開発すべく、紫外光照射で化学変化を示す化合物とロイコ色素の組み合わせ、あるいは紫外光照射で発色するロイコ色素の中からγ線に高感度感受性を示す物質の探索しようとした。紫外光照射で化学変化を示す化合物として良く知られているものはフォトレジスト用光酸発生剤である。その酸発生機構は必ずしも明らかになっていないが、酸発生量をpH指示薬の色変化を用いて線量計とすることも可能であるが、むしろ機能性色素と組み合わせて無色からの発色により放射線量が推定可能な色素線量計が作製できる。この目的に適う色素として感熱、感圧色素であるラクトン環を分子内に持つカラーホーマーと呼ばれる色素があげられる。この色素線量計では照射に伴って光酸発生剤から酸が発生し、この酸によってカラーホーマーのラクトン環が開裂してカチオン性色素となり発色するので、溶液がアルカリ性にならない限り、消色はしない。実験に用いた系ではそのガンマ線感受性は1-30Gyの間にあり、照射線量と発色による吸光度の間には一次相関があった。光酸発生剤としてジフェニールヨードニウム塩(DPI)を用いた系では、CVLに対するDPI濃度を2倍にすることにより、感度を2倍に上げられた。アクリル系樹脂にロイコ色素、ヨードニウム塩、増感剤を混合することにより、可視光安定性、熱安定性にすぐれ1kGy以下で十分に発色するフィルム状カラー線量計が試作できた。また、ロイコ系色素を用いた線量計ではおよそ3μm径の高分子マイクロカプセル内にロイコ色素とハロゲン溶媒を取り込み、このマイクロカプセルをフィルムに塗布することによりカラー線量計とした。表面を紫外線カットフィルムで被覆し、ガンマ線量0.52kGyで発色する線量計が得られている。


3.原子力委員会・食品照射専門部会の活動(会員ページ )

中国学園大学現代生活部・教授 多田幹郎

多田講師は内閣府原子力委員会・食品照射専門委員会の座長として、食品照射の問題に取り組んでこられた。平成1710月に内閣府原子力委員会は、今後の我国の原子力の研究、開発、利用に関する施策の基本的考え方を定めるものとして、「原子力政策大綱」を策定・公表し、直ちに閣議決定がなされた。従来の「長計」に代わるものである。「原子力政策大綱」の中で「食品照射」について、「食品照射のように放射線利用技術が活用できる分野において、社会への技術情報の提供や理解活動の不足等のため、なお活用が十分に進められていないことが課題として指摘されている」、「食品照射については、生産者、消費者等が科学的な根拠に基づき、具体的な取り組みの便益とリスクについて相互理解を深めていくことが必要である」、「多くの国で食品照射の実績のある食品については、関係者が科学的データ等により科学的合理性を評価し、それに基づく措置が講じられることが重要である」と課題を指摘している。このような背景をもとに原子力委員会は、「食品照射専門部会」を設置した。その目的は食品照射についての生産者、消費者等による相互理解および関係者(行政機関)による検討・措置に資するために、「食品照射に関する国内外における食品照射技術採用にかかわる動向、有用性・安全性の評価の現状などについて調査・検討を行うことである。その構成は研究者のみならず、消費者、食品産業関係者、流通業者、マスコミ関係者などの10名から成り、調査・審議は公開で行われた。審議は「食品照射とは」に始まり、「その技術利用の可能性」、「世界と日本の現状」、「便益とリスク」等について、科学的データの収集・調査・検討を行い、専門家による技術や安全性に関する講義も受けた。また、厚生労働省、農林水産省や消費者に対するヒアリングおよび東京において「ご意見を聴く会」を開催した(510日)。その後、7月の第9回目の部会で報告書案をとりまとめ、その報告書案についてパブリックコメントを求めるとともに8月に東京、大阪において「ご意見を聴く会」を開催した。これらの広報・公聴活動では延べ198名の人々から493件に及ぶ賛成、反対あるいは中立の立場からの多様な意見が得られた。その最終案は103日に原子力委員会に提出され、その後関係省庁において何らかの対応がなされるはずである。

もともと我国は世界に先駆けてじゃがいもの発芽防止処理のための放射線照射をスタートしたにもかかわらず、30年あまり経過した現在、それ以降の食品照射は認められておらず、世界的には完全に後進国となっている。食品の貯蔵、殺菌など食材の健全性を保持する手法として、放射線照射は優れた手法であることを示す膨大な科学的データが蓄積されており、多くの国々ではすでに認知されている。

このような状況のもとで、国の食品照射の規制が緩和されることを望むとともに、食品照射の社会需要性の向上に、研究会の参加者の協力をお願いするという言葉で講演を締めくくった。なお、多田講師は追加の資料として、表1に示したような世界における照射食品の許可・実用化の現状及び雑誌「婦人乃友」の最新号(200610月号)に掲載された里見宏氏(照射食品反対連絡会)の「カレーが危ない」の記事のコピーを出席者に配布された。記事は「進歩」というコラムに掲載されているが、その中で問題としている事項は過去にすでに膨大な実験により否定された問題点をむしかえしているだけで、一向に「進歩」がないと感じたのは筆者だけであろうか?

 

 

【会員サロン】

○弊社新製品について(ナノグレイHPへ )

ナノグレイ株式会社・

                                代表取締役  宮下拓

ナノグレイ(株)では、小線源を利用する様々な用途の検知器を製造している。今回紹介したのはその中の新製品についてである。多田講師の講演にあったように、我国でも香辛料への放射線照射が認可の方向に動き始めているが、そのためには検知の公定法の確立がなされねばならず、遠からず検知法が定められると考えられる。すでに多種の食品照射が認可されているEUにおいて採用されているヨーロッパ標準分析法の一つにTLThermoluminescence:熱蛍光)法があり、新製品はそのスペックのEN1788に対応したものである。図3に示すこの装置(TL-2000)は大容量ヒータの採用により、安定・均一な加熱が可能であり、材料研究にも応用できる優れものである。また、20056月に施行された放射線障害防止法において従来の密封線源の規制が大幅に見直され、新たに設計認証機器制度が設けられた。この認証をうけた機器の使用に際しては管理区域の設定や放射線取扱主任者の選任も不要となり、簡単な届出のみで使用が可能となる。ナノグレイ社ではこの新たな法令に合致した微弱小線源を使用する密度計(PM-1000)、レベル計(TH-1000)を市場に出した。従来の機器とは異なり、線源には点光源を使用し、検知器には棒状のものを採用して機器のコンパクト化を図っている。また厚さ計としてX線を用いるSX-1000を新発売した。

 

 

 

 

 

○小型サイクロトロンの工業利用(会員ページ )

住重試験検査株式会社

放射線利用技術部・部長  西原善明

住重試験検査()では、自社製の小型サイクロトロンを利用して様々な照射受託事業を行っている。今回はその一部を紹介していただいた。

現在同社が保有しているサイクロトロンの仕様は表2に示したとおりで、これらの装置で受託している事業は@放射性同位元素の製造、A核反応により生成する中性子および陽電子等の二次放射線の利用、B核反応により生成した放射性同位元素より放出する放射線測定により元素分析、C弾性散乱により生成した欠陥の利用、D励起した元素から発光した特性放射線の測定による元素分析などに大別できる。

今回のご講演ではこのうち特に半導体へのイオン打ち込みおよび中性子ラジオグラフィについて説明された。半導体特にシリコンウエファに特定のエネルギーのイオン種を打ち込み半導体特性を得る手法は従来から行われてきたが、近年大電力用のパワーデバイス・モジュールの需要が世界的に大幅に伸びており、この分野での要求が拡大している。もともとサイクロトロンビームはスポットであるので、ビームをスキャンして面内均一度を保証する必要がある。同社では自社特許による技術で打ち込み深さおよび面内均一度をモニターしながら、自動的に大量のシリコンウエファを処理できる装置を開発して需要に応えているとのことである。

同社ではまた17.7MeVプロトンビームをBeターゲットに照射して9Be(p,n)9Be反応で得られる中性子線を利用した中性子透過試験を行っている。中性子透過試験には原子炉か大型加速器が必要に思えるが、同社ではこの手法で要求に対応しているそうである。近年の課題として、撮像用のコダック製の銀塩フィルムが製造中止となり、対策を迫られているとのことであった。一般カメラが続々とディジタル化されるに伴い、各フィルム・印画紙メーカーが銀塩感光材料の製造から撤退しつつあるが、筆者の個人的見解では分解能という点からディジタルメディアはまだまだ銀塩に及ばないように感じているので残念なことである。

最近の大型カメラ店を覗いても従来の銀塩フィルムの売り場は数年前に比べて1/3以下にまで縮小されているが、産業用フィルムまでが製造中止の方向に進んでいることを知らされて産業構造の急速な変化を改めて認識させられた。

今回の研究会では最近の食品照射の動きに関係して照射の検定法に関係する内容の講演が互いに関係しあって大変有意義であった。懇親会では多田講師は別の集まりがあるとのことで、ご参加いただけなかったが、偶々奥田講師と西原講師が大学での同級生であることが分かり、中締め後も多くの方が残られて大変盛り上がった会であった。

                (大嶋記)

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