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第27回放射線科学研究会聴講記

開催:平成17年7月15日 於:住友クラブ

 

 表記研究会は、エキゾチックビームシリーズの第3回として平成17715日(金)13:30から17:30まで住友クラブ(大阪市西区)において、 鄭淳讃氏(高エネルギー加速器研究機構・助教授)、川面澄氏(京都工芸繊維大学・教授)、森林健吾氏(原研・関西研究所・副主任研究員)、高橋亮人氏(大阪大学・特任教授)の4名の講師の方をお招きして開催した。

 

1. 高速短寿命RIビームを用いた固体内リチウム拡散現象の研究(会員ページ )

高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所 助教授 鄭 淳讃

 RIビームを用いた物性研究については、エキゾチックビームシリーズの第2回で京都大学原子炉実験所の川瀬教授にご講演をお願いしたが、今回のご講演はそれと関係の深いものであった。川瀬教授の講演は短寿命RIを京都大学原子炉で製造した場合であったが、今回は加速器を利用した短寿命RIビームの製造とその応用について最近の現状をご紹介いただいた。高エネルギー研究機構・素粒子原子核研究所と原研(現:日本原子力研究開発機構)・東海研究所とは共同で原研・東海研究所に設置されているタンデム加速器施設に短寿命核ビーム加速実験装置(TRIAC: Tokai Radioactive Ion Accelerator Complex)を建設中で、現在その一期工事が終了して、最終的な調整段階にある。核子あたり100keVから1MeVの短寿命核ビームが数%のエネルギー分解能で得られ、Uを標的とした場合にはFeからTbまでの原子を105/s程度の割合で高品質のビームとして取り出せる。この装置の共同利用がまもなく開始されるとのことであった。近い将来の2期計画では超伝導リニアックと組み合わせて核子あたり5MeV以上まで加速可能でしかも高品質のビーム提供を目指している。

この装置の応用の一例として短寿命核8Liをトレーサとする固体内拡散の実験を行った。従来のトレーサ拡散実験では長寿命RIを試料表面にコーティング後、熱処理した試料を切り出してその放射能を測定する手法が一般的であった。したがって長寿命の適当なRIが存在しないLiのような場合には適用できないのに対して、本方式では非破壊で拡散測定が可能である。この研究では原研タンデム加速器から7Liビームを9Be標的に入射して得られる8Li(半減期0.84s)のエネルギーを調整して試料への打込み深さを制御する。8Liはβ崩壊して8Beの第一励起状態となり直ちに2個のα粒子に崩壊するので、α粒子の強度の時間変化を測定することにより、8Liの時間密度変化を求めて拡散係数を決定する。β-LiAlは常温でのLiイオン拡散が速いことからLiイオン電池の電極材料として注目されてきた合金である。この系の金属間化合物(LiAl,LiGa,LiIn)は何れもNaTl構造を示し、化学量論組成を中心にして、Li原子空孔を持つ安定なβ相を形成している。LiAl合金ではLi原子空孔VLiAl位置をLi原子が占めた置換型格子欠陥LiAlおよびこれらの2種類の欠陥が結合した複合欠陥VLi-LiAl3種類の格子欠陥が存在しており、これらの欠陥がLiの拡散と関係していることが報告されている。今回鄭博士らのβ-LiGaの実験では単一空孔によるLi拡散に比べて複合欠陥を多く含む合金成分の場合にLi拡散の速いことが明らかとなった。

この手法は従来法では不可能であった系での拡散実験をしかも低温域まで可能とする点で画期的であるが、大型装置を必要とするのでさらなる研究対象を広げていく必要があるとの強い印象を受けた。

 

2. 多価イオンビーム、放射光を用いた原子分子研究の世界(会員ページ )

京都工芸繊維大学・工芸学部・物質工学科 教授 川面 澄

 単独の原子は陽子数と電子数が等しく電気的に中性である。この原子から電子を剥ぎ取ることにより、イオンが生成するが、複数の電子を剥ぎ取れば価数が2価以上の多価イオンとなる。多価イオンは1920年代に真空放電で形成されたプラズマ中に中性Sn原子から20個以上の電子が剥ぎ取られた多価のイオンが存在することが判明したことが最初である。当時は多価イオンというのは特殊な場にのみ存在すると考えられていたが、多価イオンの分光学的データが蓄積されていくにつれ、太陽コロナで観察されるスペクトルにCaFeNiの多価イオンの遷移が含まれることが発見されて、自然界にも存在していることが明らかとなった。その後ロケットや宇宙衛星を利用した宇宙空間での短波長スペクトル線の観測により多価イオンの研究が急速に発展した。多価イオンは核融合プラズマ中でも重要な役割を果たしていることが知られ、それらの衝突過程、再結合、励起・電離、電荷移動などの研究が広く行われてきた。現在では実験室系において様々な多価イオン源が開発され、HイオンからU92+イオンに至る多くのイオン種が生成出来るようになり、基礎から応用にわたる科学・技術の道具として研究・開発に利用されるようになっている。

宇宙空間における多価イオンの生成には光(紫外線、X線)の吸収によるものと、電子、イオン、原子などの衝突によるものとの2種類があるが、多くの場合は光吸収によるものである。それに対して地上でのプラズマ生成には放電による電場で加速された電子の衝突が利用されている。中性原子の光電離の研究は以前から多数なされているが、原子イオンを実験できる程度に集めようとするとクーロン斥力で飛び散ってしまうため、光電離の実験は格段に困難となる。そのため多価イオンビームを作り、そこに光を照射するという手法が考えられたが、この場合でもイオンの標的密度は中性原子に比して67桁も低い密度しか得られない。それを改善するために光のビームとイオンビームの向きを揃えて重ね合わせて走らせ、衝突機会を増加させる「合流ビーム法」が開発された。

川面講師らはSPring-8に図に示すような光−イオン合流ビーム実験装置を設置して、多価イオンの光吸収過程を系統的に調べ、多価イオンの基底状態、励起状態の電子構造や高励起多価イオンの脱励起過程などの知見を得ようとした。この装置はECRイオン源、標的イオンの価数を決めるための90度セクター電磁石、光と標的イオンを合流させる相互作用領域、そこで光電離過程により生成した多価イオンを分析する2重収束型静電アナライザーから構成されている。相互作用領域にネオンや酸素ガスを導入して分光器のエネルギー校正を行った結果、540eVにおいて±0.5eVであった。O+イオンの実験ではO+の基底状態(122223)は光の共鳴吸収により励起状態O+1s2s22p4)となり、この励起状態からAuger過程緩和によりO2+の基底状態(122222)となると考えられた。さらに等核系列Ne+Ne2+Ne3+イオンの内核励起光電離過程や等電子系列Ne3+O+イオンの内核励起光電離過程についても明らかとした。また、多価イオンの物質との相互作用の研究としては高速多価イオンが炭素薄膜を透過する際の、イオンの電子状態について調査し、出射荷電分布の膜圧依存性、入射イオンのエネルギー、荷電依存性などについても明らかにしてきた。

 

3. 高強度レーザー駆動放射線源の現状と展望(会員ページ )

日本原子力研究所関西研究所・光量子科学研究センター

光量子シミュレーション研究グループ 森林 健悟

近年、高強度のフェムト秒レーザーを固体表面などに照射することにより、X線、高速電子、高速イオンなどの量子ビームが得られるようになった。原研・関西研究所光量子科学研究センターではフェムト秒パルスでPW1015W)級のピークを有する短パルス高強度レーザーの開発を行い、さらにそれを固体表面などに照射して得られるX線、高速電子、高速イオンの放射線の開発及び利用研究を進めている。

森林博士はまず光量子科学センターの全体像について紹介された。原研・関西研究所は平成710月に設置され、光量子科学センターのある木津地区の施設は平成116月に竣工した。それに伴い関西地区の大学の研究者の照射実験に長年に亘って供されてきた原研・寝屋川研究所は平成13年度でその幕をおろした。原子力研究所は平成1710月に核燃料サイクル開発機構と統合して日本原子力研究開発機構として出発する予定になっているが、この研究所は光量子・放射光、中性子、荷電粒子・RIの放射線利用技術の高度化を目指した研究開発を通じて原子力利用の新たな領域を開拓し、科学技術分野の発展と産業活動の促進により国民生活の質の向上を目指すことを目標に掲げている。現在行っている研究は(1)光量子源の開発と(2)光量子利用研究に大別される。(1)の成果としては小型で世界最高出力850TW(パルス幅33fs)の極短パルス高強度レーザの開発に成功し、X線レーザとして8.8nmまでの短波長化を実現した。また利用研究として最近大きな注目を浴びている重粒子線ガン治療用装置の小型化、低コスト化を目指して小型の陽子・重イオンシンクロトロンのためのレーザイオン源の開発を担当してきた。ナノテク分野では強誘電体BaTiO3の相転移点122°C近傍での表面微細構造の変化をピコ秒で捉え、さらにCs原子の近接準位への2光子励起と蛍光測定によって各準位への励起確率の測定に成功した。この手法は貴重物質や危険物質の選択抽出や創薬などの新技術につながると思われる。

続いてご自身がやっておられる高強度短パルスX線を物質に照射した際に生じる多重内殻励起のシミュレーションについて講演された。パルス幅はフェムト秒からアト秒パルスの時代に入ってきた。アト秒パルスの生成法は以前より提唱されていたが、測定が可能になったのは21世紀に入ってからのこととのことである。古典的な水素原子を例にとると電子が原子核のまわりを周回する時間が150アト秒であり、現在実現されているパルスは250アト秒である。短パルスレーザの高強度化(>1020W/cm2)の発展に伴って、高強度短パルスX線の短波長化が可能となり、(1)生体における超高速過程の観測、(2)放射線によるDNA損傷・修復過程の時間分解測定、(3)内殻フォトルミネッセンスの時間分解測定、(4)高密度正孔状態の形成による半導体などの原子分子操作、(5)光電離プラズマの模擬実験などの研究へ大きな寄与をすることが期待されている。講演では特にSiの場合について、内殻励起状態、多重内殻励起状態生成とそれに関係するX線発生過程を取り上げられた。

短パルスX線源の発展により生体・固体の原子・分子レベルの様々な反応過程から、宇宙におけるプラズマの反応過程にいたる広範囲の領域での素過程が明らかになっていく大きな期待が持たれている。

 

 

4. 重水素・水素を含む凝集系の核反応−常温核融合騒ぎから16年が経過して−(会員ページ )

大阪大学特任教授 高橋 亮人

 1989年から1990年代にかけて世界中の研究者の注目をあびた研究に「常温核融合」がある。多くの研究者によって追試が行われ、大勢として「常温核融合」は否定されたが、その後も依然として研究を続けているグループがある。それは最初の報告から16年が経過した現在でも、実験の過程において否定しがたい異常反応を示す結果が偶々得られる場合があり、それらの多くが異なる研究者の結果において定性的に一致するからである。高橋博士も長年にわたってこの分野の第一人者として研究を継続してこられた。高橋博士によれば、近年の実験結果は常温の重水素・軽水素を含む凝集系で、常温核融合とは異なる(1)クリーンな核融合、(2)クリーンな核変換が明らかに生じていることを示しており、凝集体物理(固体物理)の立場から新規の核反応過程を考察する必要性を示唆している。

常温核融合の発端は1989年のFleischmann-PonsによるPd電極を使用した重水電気分解実験で過剰熱を観察したというものであったが、その後、ガス、プラズマ、ビーム、レーザ、超音波などの反応補助手段とナノ構造の金属・水素(重水素)試料を用いた様々な実験が試みられてきた。これらの結果で重要なものはd-d反応の結果、4Heの生成と過剰熱の発生するというものであり、多くの研究者によって報告されている。2002年になって三菱重工鰍フ岩村らはナノ加工したPd多層膜の表面にCsSrをつけて、D2H2ガスを透過させる実験を行ったところ、D2ガスの場合にのみ、CsPrSrMoの核変換が生じたことを報告した。この結果は阪大などの追試によっても確認され、原子力発電における長半減期廃棄物を消滅させる技術につながると注目されている。しかしながら、固体物理系において知られている反応過程では4Heを主生成物とする核融合や原子番号の大きな金属原子核の核変換などは到底説明できない。

高橋講師はそのモデルとして正四面体凝縮(TSCTetrahedral Symmetry Condensation)モデルを提唱した。このモデルでは重水素4個と電子4個が四面体対称を保ちながら、一点にボーズ凝縮するとしている。その結果としてまず励起状態にある8Be*が形成され、それが2個の4Heに崩壊するというものである。このモデルではTSCは電荷が中性の10fmの最小半径の擬似粒子として取り扱えてあたかも中性子のようにホスト金属原子の電子雲中をつきぬけて、原子核と直接反応が可能になるとしている。このアイディアでは岩村らの核変換も説明可能とのことである。

しかしながら、高橋講師ご自身もコメントされたように、高橋理論と実験結果はかなり首尾一貫した一致が得られるものの理論はまだ初等的であり、更なる厳密な取り扱いとより精緻な実験的手法による解明・検討が必要と感じた。

 

エキゾチックビームシリーズも第3回となり、今回は内容的にかなり高度で、しかも密度の濃いものであった。多くの参加者から難解であったとのご意見を頂いたので、事務局としては各講師の先生方により平易にお話していただくようお願いをすべきであったと反省している。しかしながら講師の方には研究会の後、懇親会にもお残りいただき、会場では質問出来なかった細かい部分まで参加者と親しく議論をしていただいた。参加していただいた方には有意義な日になったのではないかと感じている。

 

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