HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト

 

第26回放射線科学研究会報告聴講記

表記研究会は平成17年4月22日(金)13:30から17:30まで非破壊検査株式会社8階会議室(大阪市西区)において、 藪下延樹氏(非破壊検査(株)・技監)、馬場末喜氏((株)ビームセンス・代表取締役)、吉田亮氏(鳥取県園芸試験場果樹研究室・室長)、西原英晃氏(京都大学名誉教授、理学博士)の4名の講師の方をお招きして開催した。

1.構造物の非破壊検査(会員ページ )

非破壊検査(株)  藪下延樹

藪下講師は昨年夏の関西電力美浜原子力発電所3号炉二次系配管破断事故以来注目を浴びている非破壊検査の最近の動向に関して特に金属材料に的を絞った講演を行った。

まずこれまでのいくつかの大型プラントの事故や災害により破壊された構造物の写真を紹介して、このような大事故の発生は社会資本に対する損害が甚大であることを指摘し、それらを未然に防ぐ非破壊検査の重要性を強調された。ついで、非破壊検査が現在実施されている大型プラントから民生用までの様々な例を示された後、大型構造材の余寿命の評価に関する基本的考えを日本機械学会規格と米国機械学会規格を例に取り上げて説明をされた。

 

 
続いて、様々な非破壊検査法の原理と概要について説明された。すでにCMでも流されている「みえないもの」を使って構造物の内部の「みえないもの」を見ることが出来る代表的な手法である放射線や超音波を用いた技術をはじめ、渦流探傷検査、磁粉探傷検査、浸透探傷検査、赤外線サーモグラフィ法、アコースティックエミッション法など同社がこれまで培ってきた手法の概要と適用例について豊富な写真とデータを使って話された。さらに急速に変化する社会のニーズに応えるために、より早く、より効率的に、より小さな欠陥をより高精度に検知するための先進的な非破壊検査技術の紹介があった。それらは以下のようなものである。

1.装置の小型化により従来適用不可能部位の検査技術・・・装置の小型・高性能技術

2.内部欠陥寸法の表示・高精度計測技術・・・透過写真解析技術

3.CTによるX線3次元測定技術・・・X線3次元測定技術

4.広い範囲を短時間で検査する技術・・・スクリーニング技術

5.対象物の内部を超音波画像として表示する技術・・・内部画像化技術

6.検査対象物の非接触化技術・・・非接触検査技術

7.精度・操作性・記録性改善のための高度化技術・・・先端技術応用

 

これらの技術の達成により、非破壊検査は省資源化や廃棄物低減に寄与するのみならず、新しいデジタルエンジニアリングの形態創出により、試作品の試作・検証速度を早めることによる設計の有効なツールとなることを期待しているとのことである。

藪下講師のお話はスライドの枚数も多く、迫力十分であった。

 

 

2.3D立体ステレオ撮像機能を搭載した小型透視装置の開発(会員ページ )

(株)ビームセンス  馬場末喜

馬場講師はまず自らが原子力工学科を卒業、松下電器に入社以来、関わってこられた放射線検出器について話された。最初に関係された熱蛍光線量計(TLD:hermo uminescence osimeter)現在50%以上のシェアーを占めているそうである。続いてCdTe検出器の開発を手がけられた。昨年、会社を退社されてから、起業された会社行っておられる最新のパソコンの画像処理技術を応用して、短時間に三次元(3D)の物体イメージを表現出来るステレオ撮像と表示機能を内蔵した小型X線透視装置の開発について講演をされた。携帯電話やデジタルカメラなどの電子機器の小型化・高機能化が急速に進みつつある近年、それらに搭載されるプリント配線基盤に実装される部品検査用の高性能検査機の開発が要求されている。特に従来の光学式検査機では対応出来ない高密度実装部品の増加に伴い、より細部が検査出来るX線透視技術が注目、使用されるようになった。従来から非破壊検査ではX線透視画像は良く用いられてきたが、得られる画像は厚さ方向の画像情報が積算値であるため、その読影には特別の経験・訓練を要した。そのため専門家でなくても現場でのX線透視が容易に行える装置の開発が必要となった。これまでも3次元立体形状を認識できる手法としてマルチスライス断層撮影法やコーンビーム断層撮影法などがあったが、撮影から画像表示までに数分から数十分の時間を要し、現場での使用には難点があった。

人は左右の眼で見た情報をもとに脳が空間的位置関係を認識するとされているので、眼の代わりをする2台のカメラで撮影した画像から3D立体画像を得る方法が従来よりしばしば用いられてきた。この手法をX線透過画像に導入することにより被検体を3Dで立体的に認識可能な小型の装置を開発した。X線撮像センサには様々なものがあるが、この装置には小型化が可能で周辺部歪みも小さく、しかも高解像度を有するCCD式フラットパネル方式を採用した。被検体を回転して撮影した画像を合成することにより3D画像を得た。

 

図2 小型コネクタとその右目・左目画像

 

150万画素、3メガバイト程度の容量の小型部品の場合、0.3秒程度の露出での撮影が可能である。ご講演ではこの装置で撮影した実例を示された。講演では従来法による右目用、左目用にそれぞれ赤色、青色のフィルタ付き眼鏡をかけて、スクリーンを見るアナグリフ法によったが、近年は3D画像を見るための様々な表示技術が発表され、液晶表示器自体で立体表示できる機能のものもあり、価格も次第に下がってきたので、将来はそのような液晶モニターを使用することになりそうである。

最後にこのような装置が様々な場所で身近に使用するようになれば、放射線・X線技術の新たな普及・発展を図れると確信していると力強く締めくくられた。

 

 

3.放射線育種で生まれた二十世紀梨後継品種の特性と栽培技術(会員ページ )

鳥取県園芸試験場  吉田亮

鳥取と言えばすぐ「二十世紀梨」を想うほど、鳥取県の顔とも言える梨であるが、近年は梨生産トップの座を千葉県や茨城県にゆずっているそうである。昭和40〜50年代の鳥取の梨産業を担った「二十世紀」、「おさ二十世紀」、「新水」は、糸状菌によって葉や果実に黒色斑点を生じ、早期落葉や落果を引き起こすナシ黒斑病に弱いという弱点のために、長い間梨生産農家を悩ませていた。生産農家では袋掛けと殺菌剤散布を組み合わせた防除にって対応してきたが、袋内での感染、耐性菌の出現などたちごっこの状況が続いていた。同じニホンナシでも「幸水」「豊水」「長十郎」は黒斑病に対して抵抗を示し、発症しない。

このような状況のなかで、黒斑病に対して画期的な耐病性を持つ新品種「ゴールド二十世紀」が登場した。この梨は農林水産省農業生物資源研究所(現在は独立法人)の放射線照射施設ガンマーフィールドに1962年に植えられた「二十世紀梨」から生まれた。19年後の1981年に至って黒斑病に冒された「二十世紀梨」の中に健全な一枝が見つかり、この突然変異の一枝から試験を重ねて実用化されたものが「ゴールド二十世紀」(品種登録:1991年)であった。「ゴールド二十世紀」は黒斑病に対して「抵抗性」ではなく、表皮組織には“り病性”が残されていて、葉や果実の表面に微小な病斑を生ずるが、それらは進展することはなく、栽培上は全く問題にならないとのことである。黒斑病の耐病性はすでに一対の遺伝子によって支配されていることが明らかにされており、抵抗性は全て劣性ホモ(a,a)、り病性はヘテロ(A,a)であり、優性ホモ(A,A)は存在しないので、優性ホモは幼苗の段階で枯死していると考えられている。鳥取県にはその他に黒斑病耐病性を付与したい品種として早生の赤梨「新水」と自家和合性を有する「おさ二十世紀」があり、これらについても放射線照射育種の実験が行われた。その結果、1989年に「新水」、1991年に「おさ二十世紀」に耐病性の変異体が見つかり、「寿新水」「おさゴールド」として登録された。ガンマーフィールドの中心における線源は60Co(88TBq)で、ゴールド二十世紀は 6.5 mGy/おさゴールドは13.9mGy/の線量率で、それぞれ一日20時間照射で19年、5年という長期間の緩照射の結果によるものであった。それに対して「寿新水」は2.5Gy/の線量率で80Gy照射の急照射の結果得られたものである。

ご講演をうかがうと、一つの品種の改良には10年という非常に長期にわたる歳月が必要であり、大変な根気のいる研究に対して、敬意を表すると同時に、我々が日常何気なく食している果実の改良にも放射線は大きな寄与をしていることを実感した。

 

4.原子力利用とその倫理(会員ページ )

京都大学名誉教授  西原英晃

「倫理」を広辞苑でひくと、@人倫のみち。実際道徳の規範となる原理。道徳。 A倫理学の略 と出てくるが、その中身はあまり明解ではない。西原講師はご自分が関わっておられる原子力利用の際の倫理について日頃から主張しておられる内容を講演された。日本技術士会には専門毎に様々な部門があるが、最近原子力関係として新たに「原子力・放射線」部門が誕生したように、原子力と放射線は互いに兄弟関係にあり、大学の学科目には両者が一体となっているものが少なくない。古くよりヨーロッパにはprofessionals”と呼ばれる宗教、法律、医学など仕事の独占権が認められた専門家集団があり、彼らは高度な専門性と同時に倫理性が求められ、自ら律する自律性と、独立して仕事をする自立性が要求された。我が国の技術士会会員も自ら律し、その行動を規定する「技術士倫理要綱」があり、原子力学会や機械学会などにおいても会員の倫理規定のような規範を定めるようになってきた。また、大学の理工系学部においては「工学倫理」という講義が必修として開講されるようになり、技術士の試験にもそれが反映されるようになった。「工学倫理」とは技術に従事する者にとって同意されるべき、一般的な、また特に工学の技術に当てはまる義務、権利、理想についての正当化された道徳的原理の集合と定義されよう。それを学ぶ理由として、各個人が道徳的問題についてより明瞭に、より注意深く、理性的に考える力をつけることにあって、特定の信条を教え込むことではないことを強調された。人間は手の延長としての道具を作ることから、人工物を創りだした。その当時は使用感覚については直ちにフィードバックがかかっていたが、機械文明の高度化と共に人工物が複雑系になるにつれて、人間もその中の一つの要素に過ぎなくなり、使用者としての人工物に対する感覚は希薄となってきた。したがって、道具の時代の倫理感と「原子力」のような複雑なシステムの場合には人間の感覚に本質的な違いがある。特に日本では原子力は「禁じられた技術」であったが、エネルギー利用と関係して、その禁じられた技術を解き放つために「規制」が先行し、その規制が原子力利用を保護してきた経緯がある。つまり通常、規制(法令)は後から遅れて出てくるものであるが、原子力の場合は順序が逆になり、それは米国でも同様で、強い規制と政府主導の庇護のもとで原子力利用が進んだという経緯があった。我が国では規制の一つとして、原子力事業者は「技術的能力」を有することが条件となるが、その判断指針策定の過程で原子力安全委員会では嘗て「倫理」や「安全文化」をどう組み込むかについて活発な議論がなされたものの、結果的には議論がつくされていないとの理由で採用されなかった。その後、東京電力での使用済み核燃料輸送容器データ改竄などの問題に対して、原子力学会・倫理委員会では調査結果をもとに再発防止策として単に責任追及に終わるのではなく、「企業倫理遵守活動」を実効的なものとするような提言を行った。昨年8月には関西電力美浜原子力発電所において二次配管破断事故があり、この場合には事故自体には「倫理違反」と呼ぶような失敗はなかったものの、その他の点で「倫理違反」は多発していたことが明かとなっている。いくら理想的なルールを作ってもそれが形骸化しては意味をなさず、原子力学会ではルール遵守の精神を維持し、各種ルールの規定内容と勤務実態との乖離によって起こるルールの形骸化を防止することを行動の手引きに加えることにした。制度が有機的に機能しているかを常に検証して初めてルールの意義があり、「インテグリティ」(モラルや倫理に関係する「道徳統合性」)が求められる。全体を通して色々と考えさせられる内容であったが、最後はもし“倫理のロープ”が切れたら・・・我々は皆失墜する”という漫画で締めくくられた。

西原講師のお話に対しては様々な質問や感想が飛び出した。倫理とはルール化されたものを守ろうとする認識ではないのかと言う意見に対しては、その認識自体が今や世代間でも異なっていて絶対的なものではない、最近規制緩和とよく言われるが、それは自律が確立されている必要がある、あるいは東京人と関西人のルールに対する捉え方の違いなど話しがつきなかったが、「倫理」は我々の日常における善悪の基準となる道徳観のようなイメージがあるものの、人によってその受け取り方は微妙に異なることが分かっておひらきとなった。

なお、当日予定していた会場が直前になって手違いで使用できないことが分かり、急遽、非破壊検査(株)本社ビル8階の会議室を拝借することとなり、講師の先生方、ご参加の皆様方に多大のご迷惑をおかけする結果となりました。主催者としてこのような不手際がありましたことを深くお詫び申し上げるとともに、会場変更に迅速に対応していただいた非破壊検査株式会社様とそのような事態にも関わらずご参集下さった皆様に感謝の意を表します。      (大嶋記)

 

HPトップ頁

UV_EB研究会リスト

放射線研究会リスト

放射線シンポリスト