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第22回放射線科学研究会聴講記

開催日時:平成15年12月5日(金)13:30−17:30

場所:住友クラブ

 

今回は医療、環境、原子力、生物科学・物質科学という4つの多岐にわたるテーマに関して、4人の講師の方に下記のような最新の話題を紹介していただいた。何れも50分程度では時間が足らない位の内容の濃いご講演を頂いた。年度末の多忙な時期であったが、30名をこえる出席者があり、参加者の方のご意見も大変好評で有意義な研究会であった。

 

. 今どきの画像診断PET(会員ページ )

(財)先端医療振興財団 神戸先端医療センター

映像医療研究部 蓑田 英里

 

日本人の死亡原因の第1位は「がん」となっており、「がん」の予防と治療は国民の大きな関心事である。最近、新しい「がん」の診断法として、陽電子消滅法を応用した”PET”(Positron Emission Tomography)が注目を浴びるようになり、すでに国内では60カ所近い施設で受診が可能になっている。特に平成14年4月から、一部が健康保険適用の対象となったことから、一般の人にとっても一層身近なものとなりつつある。この講演ではPETの原理をわかりやすく解説したあと、多くの症例について実際の多数の画像を例示して紹介していただいた。特にPETは万能ではなく、診断の得意な「がん」と不得意な「がん」があり、他の手法(MRI)などと組み合わせることによって、より正確な診断が可能となることが強調された。また、「PET」は糖が活性な臓器に集まりやすい性質を利用しているので、「がん」以外のアルツハイマー症などの診断にも適用できるとのことで、今後益々病気診断の重要な手法の地位を確立しそうである。最も大きな課題は、線源である短寿命RIを製造するための高価なサイクロトロンを要し、設置コストが高いことである。しかし、製薬会社などの製造ラインが漸次整備されることによって、そこからの配送時間が2時間以内の施設であれば、自前のRI製造装置を必要とせずに診断装置の設置が可能となり、最大の問題が解消されて、この手法の普及に拍車がかかると思われる。

 

. 放射線照射による生分解性樹脂の改質の試み(会員ページ )

住友電工ファインポリマー(株)商品開発部 金澤 進一

現代社会においては、石油資源に依存する多種多様な合成樹脂が使用され、それらの使用後の加熱廃棄に伴うグローバルな観点からのリサイクルがうまく機能していないため、様々な環境問題を抱えている。そのため、近年では生分解性樹脂が注目されている。特にデンプンやそれから合成されるポリ乳酸などの天然系生分解性樹脂は排出される炭素の分解・再合成のサイクルが自然環境内に保たれるということで、環境負荷の少ない材料という長所を持つ。この講演では天然系生分解性樹脂の実用化を目指して、電子線照射技術を応用して特性改質を検討した結果が紹介された。

一般にデンプン、セルロースなどの多糖類は、放射線分解型のポリマーであるので、電子線照射による架橋反応を誘起できる条件を探索した。その結果、ポリマーの水酸基の一部に官能基を導入した誘導体のペースト状高濃度水溶液を電子線照射することにより、架橋出来ることを見出した.デンプンでは加熱して一旦α化したペースト状に処理した後、電子線照射すると架橋出来ることが明らかとなった。多糖類の水酸基の一部をエーテル化、あるいはエステル化した場合には放射線分解性ポリマーでしかも疎水性となるため、放射線架橋が出来なかった。しかしながら、一部のものについてはアリル系多官能基モノマーを混連したのちに放射線照射すると架橋出来ることが分かった。このような方法で放射線照射処理によって様々な生分解性樹脂の高分子機能材料化出来ることが示されたが、難点はまだコストが高いことにある。

 

. 京都大学原子炉実験所の将来計画について(会員ページ )

京都大学原子炉実験所 教授 三島嘉一郎

img 40年の長期にわたって我が国の原子炉・放射線の基礎研究を支えてきた京都大学原子炉実験所は米国からの燃料供給が停止されるために、2006年度には原子炉の運転を停止せざるを得ない状況となっている。そのため、FFAG(Fixed Field Alternating Gradient)加速器を用いた加速器未臨界炉に関する技術開発研究を開始して、新しい展開を図ろうとしている。この方法では高エネルギーの陽子を原子核に打ち込み、核破砕により、多量の中性子を生産して核分裂を誘発させる。この手法の特長は運転が未臨界条件下で行われるため、陽子打ち込みを停止すれば、連鎖反応の停止により、臨界状態から外れるため安全なことと、燃料以外の放射性廃棄物なども同時に燃焼させて高レベル廃棄物処理も可能となることである。現在の研究プロジェクトは平成18年度に終了し、その後加速器のアップグレードを図り、将来にわたっても研究所は粒子線・放射線の利用による中性子科学、物質科学、生命科学、医学などの中性子利用研究を推進する研究拠点となることを目指している。そのためには核エネルギー研究と中性子利用研究を車の両輪とする新たな研究所として、民間企業、地域社会との連携も図りながら、革新的な研究を推進する研究拠点(クマトリサイエンスパーク)を立ち上げることを考えている。

 

. X線顕微鏡による生物科学・物質科学の発展をめざして(会員ページ )

関西医科大学 教授 木原 裕

X線顕微鏡は電子顕微鏡に比してウエットな条件下でしかも光学顕微鏡よりもはるかに高い10nmオーダの分解能で観察出来るという大きな利点を有するが、適当なレンズがないという大きな制約があった。しかしながら、近年の放射光利用による光源の高強度化とナノテクノロジーの進歩に伴う光学素子(ゾーンプレート)の開発により、急速な進展があった。この講演ではまず、X線顕微鏡の種類、原理の紹介と最近のX線顕微鏡の展開状況を中心に説明された後、講演者の長年にわたる立命館大学SRセンターのビームライン及びベルリン(ドイツ)の放射光施設(BESSY)に常設してある結像型X線顕微鏡、さらにグルノーブル(フランス)の放射光施設(ESRF)の走査型X線顕微鏡による研究成果が紹介された。結像型X線顕微鏡は透過型電子顕微鏡(TEM)と同様に全視野の情報を一度に取り込めるという利点があり、時間分解測定の場合には有利である。生体試料では放射線損傷が問題となるが、フラッシュX線を線源に利用すれば、この問題は改善される。走査型X線顕微鏡では検鏡試料のX線吸収曲線の差を利用してエネルギー分解能の高い結像が出来る。これは最近のTEMにおけるエネルギーフィルタリング法と類似している。特に炭素の吸収端の微細構造をうまく利用することにより生体材料や高分子材料への応用の幅が大きく拡大することが期待される。最近ではさらに波長の短い数keVのエネルギーのX線源を用いることにより、より厚い試料の観察が可能となるとともに重金属の吸収端を利用した観察が可能となりつつあり、応用の範囲は格段に拡大している。                  (大嶋)

 

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