れからの放射線教育のありかた
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7 まとめ(これからの放射線・原子力教育に関する在り方に関する提案


7.1 学校教育についての提案
7.1.1 望ましい学校教育システムの確立のための基本的考え方
(1)理系では,将来の研究者・技術者の養成のために,原則的には価値観とは完全に離れて,しっかりと科学の基礎的知識を精選して教えねばならない。(数学は科学を語る言語である。)
(2)基本的に重要な事実・概念は子供の発遂に応じた適切な時期にタイムリーに教えることが有効である。また具体的教育方法としては,教科書と、デイベートと,実践(実験)を合わせて行なうことが望ましい。
(3)環境・エネルギー・原子力・放射線を含めた広い,かつ公正な「リスク・ベネフィット」教育を学校で行うことが求められている。
(4)社会系科目では,正しい科学的知識と,社会的ニーズ・経済効果と,さらに価値観・倫理観を調和・融合した「総合的教育課程」の創出を期待したい。ここでの基本は,科学技術の進歩が人類の幸福と敵対するものであってはならないこと,すなわち科学技術の人類の平和共存・福祉への積極的利用であり,同時に社会の現実を直視し,社会に必要なことを逃避せず,問題解決のために積極的に創意工夫をしようとする資質を教員にも生徒にも求めたい。
(5)とくに原子力・放射線と社会に問する教育について一つの要点は,一般の方々は原子力発電所はベネフィットの点で受け入れやすいが,現状では放射性廃棄物処理施設のほうはリスクを過大に見なされていて社会受容が困難なようであることである(10)。この現状を改善するには,放射線影響や放射性廃棄物処理・処分の技術に問する専門家の考え方をもっと一般の人々に啓蒙する必要があることを示唆している。

7.1 2 教員の養成・適切なテキストの作成・実験の有効性
(1)小・中・高校の理科の教員,および科学技術の重要性を理解する理科以外の教員をできるだけ多く養成することが必要である。(そのためには,大学や研究所と高校との連絡を密接にし,必要があれぱわれわれ専門家が学校教員の資質向上のために指導し,あるいは放射線・原子力関係の良いテキストや指導マニュアルの作成に協力することが望ましい。また,研究炉などの原子力施設や原子力展示館などを積極的に学校教育に利用することが推奨される。
(2)また,現在の教員養成の制度を見直し,優れた理科教員を育成するために,大学の教育学部のカリキュラムを考慮し直すとか,一部の海外の国で行われているように,理科教員をもう一度大学院で研修させる制度を作るなども有効であろう。
(3)現行の学習指導要領にとらわれずに,分かり易い原子力・放射線関係の著書を進んで出版することが望まれる。自著にて借越づであるが,1〜2冊(60・61)を,またフォーラム会員による近著1〜2冊(62・63)をご紹介する。
(4)自然放射線・放射能の存在を子供の時から認識させることは教育的に極めて有効であるので,これを教育課程として定着させたい。(その方法としては,例えばすべての小・中学校に放射線測定器を配布し,子供達に授業の中で自然放射線を実測させる(64)。この実例はすでにある)。そして,放射線を「電波」のような目に見えない実在物として認識させることである。さらに中学・高校になれば,この量を定量的に理解させ,実習・実験を通じて放射線の線源から「距離を取る」,「遮蔽を置く」,そして「被ぱく時間を短くする」,という放射線防護の基本的3原則で放射線から身を守ることができること,放射性物質は固有の半減期に従って減衰してゆくごとを実験を通じて理解させることが望ましい(65)

7.1.3.放射線実習の有効性
 学校での放射線実習が放射線・原子力の理解に,また放射線・放射能に対する恐怖感を改善するのに如何に有効であるかの実例として,フオーラムの会員である鹿児島県のある高校の教諭により発表されたデータがある(66)。それによると,高校の理科の授業で約3時間,天然の放射線・放射能の存在を(「はかるくん」「検電気」「霧箱」「洗剤の消息現象」などの)実験により体験させることにより,生徒の放射線・放射能に対する意識が著しく変化したのである。 76人の生徒中,これまで放射線・放射能は非常に危険である,あるいは非常に不安に思うという割合が実験前はそれぞれ50%と37%もあったものが,いずれも0%となり,一方これらを身近に感じるという割合が実験前は約10%であったものが約77%にまで上昇したのである。また,この学校の近くにある原子力発電所に対する意識が顕著に改善されたとのことである。

7.2 社会教育に関する提案
 社会教育に関しては,一般市民の放射線・放射能に対する過剰の恐怖心や不安感を除くために,電力会社などのPR活動ばかりにまかせず,われわれ専門家も協力して一段の努力をすることが必要である。そのためには,
(1)われわれ放射線・放射能の専門家が積極的に新聞・インターネットなどのマスコミ,マスメディヤを通じて分かりやすい言葉で情報発信をする(67)。また官庁などから公開された情報に対しては,積極的に意見を述べることが望ましい。
(2)そして,学校の理科のみならず文系の科目の教師の方々のほか,社会のオピニオンリーダーや政治家とも接触して正しい知識を持ってもらい,何かの社会的事件がおこったときにこれらの人々から偏らない意見を述べて貰うことが望ましい。
(3)われわれ専門家が,世間の風潮に気兼ねをしたり,ICRPの考え方にいつまでも優等生になっていないで,科学的事実や科学者としての自分の考えを,マスコミ関係者らに率直に語ることが必要である。
(4)マスコミはややもすると,原子力・放射線の危険性を強調することが,あたかも世の中の人々に警鐘を鳴らして進歩的であるかのような誤った考え方をもっている場合が往々あるので,科学的に誤った記事などを見たときは,われわれ専門家がそれを見過ごすことをせず,時には勇気を持って誤った記事を訂正する情報を与えてやらねばならない。

7.3政府・行政機関に対する注文
 日本政府は,国際機関が勧告したことを金科玉条にしないで,科学的事実に基づいて,国益を考慮し,場合によっては独自に判断した見解に従って政策を立案し法令を制定すべきである。いつまでも情報後進国になっていないで,科学的事実と確固たる価値観に基づいて日本がリーダーシップを取って貰いたいと希望する。ICRP勧告は絶対的なものではないので,わが国の法令への採り入れにあたっては,我が国の進んだ科学研究成果を取入れ,かつICRP自身が言っているように社会的な配慮(16・34)を十分に行われることを期待する(50)
 なおまた,これもすでに要望書において希望したことであるが(42),教育は国家百年の計に係る重要な問題であるから,教育方針の策定にあたっては,天然資源の乏しい我が国の国益を重視し,できるだけ各界の意見を聞き,とくに政府各省庁間の連絡を密にしていただきたい。そして,日本国民の優れた頭脳を結集させ,科学技術の成果を国民ならびに世界の人々の福祉増進に役立たせることにつき,わが国が英知をもって国際的に指導的立場で貢献できるようになることを切に希望する。

謝辞 この講演の機会を与えていただいた,電子科学研究所 辻本忠博士に感謝する。


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