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 核燃料再処理施設のある英国カンブリア地方セラフイールドの隣接村シースケールでは、小児白血病(CL)の発生率が通常の10倍にも達し、異常に高いものであることがテレビで報じられたのは1983年11月1日であった。次いでスコツトランドのドンレイ原子力研究施設近傍の町、西サーソにおいても、同様に高いCL発生率が見出された。これらの問題はこの後20年にわたって大きな社会問題として議論されてきたが、その顛末がBNFLのR.Wakefordによってまとめられているので、彼の解説論文 1)2)にしたがって、以下にこれを簡単に紹介しよう。

 シースケールでは1950年代初頭の原子力施設運開以来30年間で、(25歳以下の)7人のCL患者の発生があった。上記のテレピ報道後、英国政府は直ちFONT>は父親がセラフイールド雇用員で、かつシースケール生まれの小児がCLであるケースは6ケースに過ぎないため、表出した相関は偶然による可能性が大きいと主張している。
 WakefordとParker 11)は、PPIはある種の白血病誘起物質に対して小児を鋭敏化させる働きをするのではないかとする可能性を調べた。セラフィールドから北方8kmのエグレモントでは特にCL患者が多く、また父親がPPIである小児もシースケールよりも多い。しかし、CLであった4ケースの小児については彼らの父親は彼らの母親の妊娠以前にはなんらの職業被ばくもしていなかった。こうしたことから、PPIが他の物質に作用してCL発生率を高めたとする可能性は極めて低いとしている。COMAREは1996年の第4レポートで、PPIはCLリスクを間接的に高めるかもしれないが、PPIのみによってCLリスクが直接高まることはなく、それでシースケールを説明することはできないとしている。ラアーグ、ドンレイ、米国内のハンフオード、オークリッジ、およびアイダホフォールのいずれにおいてもPPI説は否定的であり、さらに、英国政府によるカンブリア地方以外での放射線取り扱い従事者とその子供のCLを対象とした比較調査や、英国内の原子力産業界を対象としたコホート調査のいずれについても同様に否定的であり、正しそうに見えるPPI仮説は統計的な偶然によるものであると指摘している。CL発生は放射線被ばくとは無関係であり、セラフイールドやドンレイのCL異常はほとんどのCL異常に適用できるもっと一般的な原因によるらしいことが指摘されたのは1980年代の終わりであった。1988年、Kinlen 12)は、セラフイールドとドンレイは元来、都会からは隔絶した田園地帯であったが、原子力施設の建設や稼動のために他地域から多くの人々が移住してきたという点で共通していることに注日した。もしCLが伝染性のものならば、外部から隔絶された状況にあった田園地帯では小児は伝染病に対して強い感受性を持つ温床となりうる。外部から伝染病のキャリヤーが当地域に流入すれば、これら小児は強く反応してその症状を呈することになる。これがCLの原因であるならば、人々の流出入の激しい地域ならば原子力サイトに限らず、いずこにおいてもCLの多発が見られるはずである。Kinlenはこの仮説を、スコットランドの田園地帯であるグレンローセスのニュータウンについて検証しようとした。実際、グレンローセスはスコットランドの各地から人々が集まって作られた町であるが、その直後にはCL発生率が異常に高まったことがわかった。さらに、地方での軍隊のキヤンブ、アルダーマストン地域などでの交通の便の改善、スコットランドにおける北海油国開発、第2次大戦時の田舎への学童疎開、オークニーやシェトランドなどへの軍隊の進駐、大規模地域開発などに関するここ数十年のデータによれば、人々の流出入の激しい地域ではいずれについても、その流出入の直後にはCLリスクが異常に高まったことがわかった。北海油田開発ではスコットランドの田園地帯の人々が、いわば出稼ぎで一時的にスロムボエ・キヤンプに移住した。当キヤンブでは中央スコットランドや東北イングランドなどの都会からの労働者も多く混在したため、田舎の人々はCLの伝染媒体(infectious agent )に感染した。彼らがもとの田園地帯に帰郷した後はコミュニテイー規模のCL流行領域を形成し、それが当地の小児のCLリスクを異常に高めることになった例も見出された。こうした例の一つが、西サーソである。このように、CLが伝染性であるとの説は1990年代に次第に確かなものとなってなっていった。2003年にはラアーグでのCL異常性も、こうした居住者の混合モデルでよく説明できることが判明した。
 このように現在では、CLの大部分は伝染性のものであり、1980年代初期に指摘された原子力施設周辺でのCLの多発は居住者の混合に起因するものであることが極めて確かなものとなっている。今後は伝染媒体の同定と白血病誘発の生物学的メカニズムめ解明が要請されるところとなっている。

1) R.Warkford:Nuclear Wnergy,42(2003),213.
2) R.Warkford:Internationale Zeitsuchrift fur kernenergie,48(2003),213.
3) M.J.Gardner et al.:British Medical Journal,295(1987),819.
4) G.J.Draper et al.:British Medocal Journal,306(1993),89.
5) P.Cook-Mozaffari et al. :Lancet,ii(1989),1145
6) M.J.Gardner et al.:British Medical Journal,300(1990),429.
7) J.D.Urquhart et al. :British Medical Journal,302(1991),687.
8) L.J.Kinlen et al. :British Medical Jounal,306(1993),1153
9) L.Parker et al. :British Medical Jounal,307(1993),966
10) M.P.Little et al. :Journal of Radiological Protection,16(1996),25
11) R.Wakeford and L.Parker :British Jounal of Cancer,73(1996),672.
12) L.J.Kinlen:Lancet,ii(1988),1323.




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