24UV/EB研究会聴講記

開催 平成15年7月18日 於住友クラブ

今回は「水を反応場とする系におけるUV/EBの応用・利用」を中心テーマに、3人の講師に話していただいた。

 

1.水系感染症と水道における対策

()大阪府水道サービス公社 中西正治

本講演は水道システムにおける感染症の問題で、序論として、われわれがコレラ、赤痢、チフスなどの恐怖から開放されたのは水道施設が普及してからの、高々、ここ100年ほどのことに過ぎないとの思いを新たにさせられた後、最近、20年ほどの間にはまた、エボラ、O-157、レジオネラなど、いわゆる、新興感染症が問題になって来たこと。なかでも、1980年代半ば頃より感染が報告され始めたクリプトスポリジウム原虫は塩素処理の方法が無効なために対策が難しいことなどが述べられた。

今回の主題はとくにこのクリプトスポリジウム感染症で、その内外における被害の実態と対策の苦労話が話された。なにしろ良い測定法が無い上に、沈殿法の限界を超える程小さく、感染すると免疫力で治るまで待つしかないので、各施設ではとにかく30トンあたり原虫1個を目標にしているそうである。現在、UVや超音波の有効性について研究が進められているが、技術はOKでもコストの問題が残るとのことである。大阪府立大学先端科学研究所で行われた、超音波による研究の過程で撮影されたと言う、見事に壊れた原虫の顕微鏡写真が印象に残った。

 

2.水処理へのUV利用 

岩崎電気株式会社 光応用事業部 木下 忍

本講演は工業廃水を含む水系のUV処理についての話で、UV利用が残留性なく取扱が容易な環境に優しい技術として、殺菌、殺虫、有機物処理などあらゆる分野に適用されている実体が述べられた。とくに有機物処理では、UVの直接作用でなく、水中の酸素や過酸化水素を利用して発生させた反応性の強いOHラジカルを間接的に作用させれば、有機物をCOと水にまで分解できるため、半導体の洗浄に用いられる超純水も作れるし、ダイオキシンや畜産廃水の脱色などにもエネルギー効率の高い処理が出来ると言うことである。生物処理が苦手な界面活性剤などは、あらかじめこの方法で前処理しておくと、効率が高くなると言う。面白い使い方である。なお、必要な向きには、設計はいつでもお任せ下さいとのこと。

 

3.放射線による蛋白質等の架橋」

大阪府立大学 先端科学研究所 原正之

本講演はタンパク質に放射線をあてて架橋・ゲル化を促進させると言う魅力的な研究の話である。これは大阪府立大学のCOEプロジェクトの一環として行われているものだが、具体的には動物の骨や皮など、食材を取った後の廃棄物から取り出した繊維性タンパク質のコラーゲンやゼラチンの性質を変えて、薬の徐放性基材など付加価値の高い医療用品などに利用しようと言うのである。昔からある程度利用されて来たとは言え、その利用率は低く、資源は無限と言える。実際、色素を利用して物質の放出挙動を調べた限り、照射によって架橋度は増加し、ゲル化が進んで膨潤率が低下していることが分かった。研究は始まったばかりだが、楽しみな話である。

 

4.光酸発生剤および光塩基発生剤の最近の動向と光機能性高分子の開発における活用

大阪府立大学名誉教授 角岡正弘

本講演の内容は資料が膨大で具体的には冊子を見て貰うしかないが、角岡先生は研究の初期、高分子重合の分野に力を注いで来られたが、その後、フォトレジスト材料として重要な役割を果たす、分子内に光酸発生剤を持った光感受性高分子の開発に従事し、さらには、時代とともに変遷する光源に対応して、より短波長における透明な材料を模索して来られたということだ。その過程は、まさに時代が求めて来た、トップダウン、ボトムアップの両面から迫る、より高密度な電子材料の発展と言う技術の歴史と常に密着しつゝ研究を進めて来られたことを実感させる。最近は新しい光塩基発生型や環境にやさしい熱分解型材料の分野にも成果を出して来られていると言うことだが、講演ではそれぞれの研究の過程で使われてきた材料について、分子構造の面から詳しく説明された。